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OSS貢献活動2022年版OSS鳥瞰図のご紹介
2022年8月5日公開
はじめに
OSS鳥瞰図とは、様々な分野毎に多岐にわたるOSSを俯瞰的に把握できるようにまとめたもので、利活用されているOSS (オープンソースソフトウェア) のトレンドが一目でわかります。このOSS鳥瞰図は、OSS利活用によるデジタルトランスフォーメーション加速とグローバルでの企業競争力向上を支援する団体「日本OSS推進フォーラム」の「鳥瞰図ワーキンググループ」に参加している各社・団体の協力により作成された成果です。2014年から毎年更新されており、2022年6月13日には「OSS 鳥瞰図 2022年版」(PDF) が公開されました。
本記事では、鳥瞰図ワーキンググループにおいて主査を担当している、私 (NECソリューションイノベータ 中村 桂一) が、OSS鳥瞰図の狙い、活用の仕方、2022年度版の主な変更点、NECの貢献について、紹介いたします。
2022年版OSS鳥瞰図
© 日本OSS推進フォーラム CC BY-SA
OSS鳥瞰図の狙い
鳥瞰図ワーキンググループでは、「OSS利用促進のための活動」を推進しており、「利用者コミュニティ」をターゲットに、価値ある各種活動を実施することを目標としています。
その中で、OSSを利用するために参考となる分かりやすい資料を作ろうと、「OSS鳥瞰図」を毎年更新しています。このOSS鳥瞰図によって、OSS の利用者コミュニティに対して、
・OSSの選定をより安心感をもって、かつ短時間にできるよう手助けをする
・OSSに関する先端技術情報、最新動向、国内事例等を広く集め、様々な形でOSSを利用する人たちの情報源となる
という貢献を実現しようと取り組んでいます。
OSS鳥瞰図ワーキンググループの活動
鳥瞰図ワーキンググループには、OSSを利用している多くのITベンダー企業が参加しており、様々なカテゴリのOSSについての有識者が集まっています。
これらのメンバによって、毎年OSSの入れ替えやカテゴリ・サブカテゴリの変更を決定していきます。具体的には、各メンバが動向調査や入替候補のOSSを持ち寄り、月1回の検討会(2020年からはオンライン)で議論しています。カテゴリごとに分析をしたり、開発コミュニティ活性度をチェックしたり、いくつかの段階を経て、OSSの入れ替えを決定させていきます。機械的な判定だけでなく、有識者が議論を重ねたうえで、入れ替えを行っている点が特徴です。
OSS鳥瞰図の活用の仕方
OSS鳥瞰図は、カテゴリ・サブカテゴリ毎に、OSSを分類しているため、利用するOSSを選定する際の参考情報となります。
対象のカテゴリを探し、さらにサブカテゴリを探し、そのカテゴリ内のOSS一覧を参照してください。よく使われている OSS を選択することで、リスクを低減し、安心、安全、安定なシステムを構築する手助けとなります。
なお、OSS鳥瞰図には、よく使われるOSSは掲載されていますが、先端的なOSSは掲載されにくい傾向にあります。そのため、他のリソースも参照して、見極める必要がある点についてはご注意ください。
OSS鳥瞰図の見方
© インプレスIT Leaders、日本OSS推進フォーラム CC BY-SA
2022年版OSS鳥瞰図の主な変更点
2022年版OSS鳥瞰図において、2021年版OSS鳥瞰図からの変更点を説明します。
1.OSSの最新化
利活用されているOSSのトレンドに合わせて、新規OSSを追加、古いOSSを削除して、各カテゴリに含まれるOSSを最新化しました。
2022年版OSS鳥瞰図で、主に追加・削除されたOSSは次の通りです。
カテゴリ | 主な変更内容 | ポイント |
---|---|---|
デスクトップ・業務アプリケーション | ■追加 Jitsi meet, BigBlueButton, Rocket.chat |
オンライン会議, チャットツールなどで新たなOSS「Jitsi meet」「BigBlueButton」「Rocket.chat」を追加しました。働き方改革やリモートワークで利用シーンが増えていることが追加したポイントです。 |
Webサイト構築 | ■追加 Concrete5 |
「Concrete5」は、「Drupal」や「WordPress」といったデファクトとなっているOSSに次ぐCMS・ポータルのOSSとして、国内で新たに活用が増えています。 |
データベース | ■削除 Apache Derby, Berkeley DB |
「Apache Derby」「Berkeley DB」は、コミュニティの活性度(リリース頻度やコミット状況)が低下しています。ある程度知名度があるOSSですが、利用が下火になっています。 |
ファイルサーバ、メールサーバなど |
■追加 |
「CoreDNS」は、コンテナオーケストレーション「Kubernetes」の クラスターDNS として活用が増えています。あまり追加削除が少ないカテゴリですが、クラウドネイティブ関連で新しいOSSが期待されます。 |
ビッグデータ |
■削除 |
ビックデータは、「Apache Hadoop」関連のOSSが中心となって, エコシステムが形成されています。しかし、その中でも、「Apache Sentry」「Apache Sqoop」のように、コミュニティの活性度が低下して, 終了するOSSが出てきました。 |
セキュリティ |
■追加 |
脆弱性管理関連のOSS「Vuls」「Trivy」「MISP」「OpenCTI 」を新たに追加しました。セキュリティは常に注目度が高く、その中でも、セキュリティ脆弱性に対する注目度が上がっています。 |
OS, 仮想化, クラウド |
■追加 |
仮想化、コンテナ、クラウドネイティブ関連のOSSとして、多くのOSSを追加しました。各サブカテゴリに満遍なく追加OSSがあり、動きが早い状況です。 |
AI |
■削除 |
「Caffe2」「Chainer」「torch7」を開発終了、コミュニティ非活性化により削除しました。AIの黎明期から存在しているOSSも淘汰され、より先進的なOSSに置き換えが進むものと考えられます。 |
開発支援 |
■追加 |
コンテナ上での動作に最適化されたJavaフレームワーク「Quarkus」を追加しました。Javaアプリ開発でもコンテナシフトが進みつつあり、活用が増えています。 |
一方、OSSの削除は、EOL (End Of Life) になった、開発が終了したというだけではなく、コミュニティから一定期間コミットされない・リリースされない、といったコミュニティ活性度が低下していないか確認を行い、活性度が低下したと判断したOSSについては、利用し続けるのはリスクが高いとして、削除しています。また、OSSライセンスからSSPL(Server Side Public License)などの独自ライセンスに変更なり、OSSではなくなったソフトウェアを削除しました。
2.カテゴリ
新たに追加されたり、廃止されたりしたカテゴリはなく、カテゴリ自体の変更はありません。ただし、カテゴリの配置場所が変わっています。下段に「OS、仮想化、クラウド」や「運用管理」などシステム基盤を、上段に「デスクトップ・業務アプリケーション」や「IoT」、「ブロックチェーン」といったアプリケーションを、その中間の段に「Web・AP サーバー」や「データベース」といったミドルウェアを配置しています。また、「セキュリティ」は、各カテゴリと関連が深いこともあり、中央に配置しています。
3.サブカテゴリ
サブカテゴリは次の変更があります。
カテゴリ別サブカテゴリ更新内容
カテゴリ | サブカテゴリ更新内容 |
---|---|
デスクトップ・業務アプリケーション | 新設:オンライン会議、オペレーション、マルチメディア 削除:オペレーション・製造管理 (新設サブカテゴリに分類を見直し) |
Web・AP サーバー | 変更なし |
Webサイト構築 | 変更なし |
データベース | 新設:ワイドカラム型 削除:インメモリDB、マルチモデル (分類の見直しのため) |
運用管理 |
新設:ワークフロー・スケジューラ |
IoT |
変更なし |
ブロックチェーン |
変更なし |
ビッグデータ |
削除:分散ストレージ・分散ファイルシステム(OS、仮想化、クラウド>ストレージ仮想化へ統合のため) |
AI |
変更なし |
OS、仮想化、クラウド |
削除:Software as a Service (SaaS)、Identity as a Service (IDaaS)、Database as a Service (DBaaS)、Data Storage as a Service(DSaaS)、Network as a Service (NaaS) |
開発支援 |
変更なし |
セキュリティ |
新設:IAM、暗号化、アクセス制御、セキュリティ・ログ監視、脆弱性管理 |
ファイルサーバ、メールサーバなど |
変更なし |
大きく見直した点は、次の2点です。
A)OS、仮想化、クラウド
以前より、サブカテゴリとして、『ISO/IEC 17788:2014 Information technology— Cloud computing — Overview and vocabulary』をベースに、X as a Service (XassS) のサブカテゴリを定義しています。前年までは、OpenStack 関連のサブコンポーネントが大半を占めており、OpenStack以外のOSSが含まれないサブカテゴリがありました。今回、OpenStack 関連のサブコンポーネントは、OpenStack として1つに集約し、個別のサブコンポーネントは、OSS鳥瞰図に掲載しない方針としました。これにともない、一部のX as a Service サブカテゴリが削除されています。
B)セキュリティ
今回は、外部団体「OSSセキュリティ技術の会」に協力いただいて、サブカテゴリを全面的に見直しました。セキュリティ関連分野では、「IAM (Identity and Access Management:アイアム)」の重要度が上がっています。総合的に認証・認可を扱うものを新設したサブカテゴリ「IAM」に配置しました。また、アクセス管理に関するものは、管理をメインとしているか、制御をメインにしているかで、細分化して、前者を「認証・アクセス管理」に、後者を「アクセス制御」に分けました。
NECの貢献
日本OSS推進フォーラムでの活動
NECおよびNECソリューションイノベータは、日本OSS推進フォーラムの活動に賛同し、正会員として参加しています。NECは副理事長として、NECソリューションイノベータは理事として、団体の運営に関わっています。
また、技術部会およびグローバル部会の部会長を担当し、各部会の活動に貢献しています。
鳥瞰図ワーキンググループでの活動
ワーキンググループのメンバは基本的にはフラットな関係で、合議性を取っていますが、時には意見が分かれることもあるため、ファシリテータとして活動リーダを年度ごとに持ち回りで決めています。NECグループは、2017年度(NECソリューションイノベータ 佐藤)、2019年度(NECソリューションイノベータ 中村)、2021年度(NEC 米嶋)に活動リーダを務めています。
鳥瞰図ワーキンググループは、日本OSS推進フォーラムに参加している各社のOSS有識者が中心となって活動しています。NECおよびNECソリューションイノベータは、メンバの入れ替わりはありますが、2014年の初期から継続して参加しています。
また、2020年度から、ワーキンググループに主査が置かれ、2020年度はNECソリューションイノベータ 佐藤、2021年度からNECソリューションイノベータ 中村が担当しています。主査は、ワーキンググループの上位に位置する技術部会や理事会、運営委員との連絡・調整を担当します。技術部会からの活動方針を展開し、ワーキンググループの活動に反映したり、ワーキングループで上がった課題や要望をエスカレーションする役割を担っています。
鳥瞰図ワーキンググループに参加してみての個人的な感想としては、業務で深くかかわっているOSSやカテゴリに対しては、有識者として自らの知見や日ごろから把握している最新情報を、ワーキンググループに提供することで貢献していると考えています。その一方で、他のメンバからの提案や議論を聞くことで、いままで知らなかった幅広いOSSの状況や知見を得ることができることに面白みを感じています。
最後に
今回は、2022年版OSS鳥瞰図をご紹介しましたが、日本OSS推進フォーラム・鳥瞰図ワーキンググループでは、今後もOSS鳥瞰図を更新していきます。最新版は例年6月頃に公開しています。安心・安全・安定なOSSの選択だけでなく、IT技術の潮流をつかむためにも『OSS鳥瞰図』を活用していただけると幸いです。また、よりよいOSS鳥瞰図にするために、掲載するOSSについての意見をいただければありがたいです。
NECおよびNECソリューションイノベータは、引き続き、OSS鳥瞰図ワーキンググループの活動に貢献していきます。
執筆者
中村 桂一 (Keiichi Nakamura)
NECソリューションイノベータ (NEC Solution Innovators, Ltd.)
NECソリューションイノベータおよびNECグループ内へOSSを推進するための各種活動を行っています。その一環として、2018年度より、日本OSS推進フォーラム・クラウド技術部会に参加しており、2019年度では、OSS鳥瞰図作成チームのチームリーダとして活動しました。2020年度からは、日本OSS推進フォーラムの体制が一部変更になり、技術部会・鳥瞰図ワーキンググループに参画し、2021年度からは主査を務めています。
米嶋 大志 (Taishi Yoneshima)
日本電気 (NEC Corporation)
OSS コンプライアンスの向上を目的とする団体「OpenChain Project」の国内コミュニティ OpenChain Japan WG のコアメンバーとして活動しています。OSS コンプライアンス意識の普及には OSS ライセンスなど OSS に関連した正しい知識と背景理解が必要であり、日本企業が取り組む必要がある課題を解決するための活動を継続しています。また、日本OSS推進フォーラム鳥瞰図WGのリーダとして、OSS鳥瞰図を作成する活動も行っています。