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OSS貢献活動

10歳を迎えたOSS鳥瞰図を振り返ってみる

2022年10月4日公開

2022年9月3日(土)に開催された Open Developers Conference 2022 Online において、NECから「10歳を迎えたOSS鳥瞰図を振り返ってみる」と題した発表を行いました。

本記事では、発表者である、私 (NEC 米嶋 大志) が、内容の概要についてご紹介します。new window日本OSS推進フォーラムnew window技術部会new windowOSS鳥瞰図ワーキンググループにおいて活動リーダーを担当しています。

・講演資料: PDF - new window2022_0903_10歳を迎えたOSS鳥瞰図を振り返ってみる.pdf
・講演動画: YouTube - new windowhttps://youtu.be/p5zBuW8gYlM
・OSS鳥瞰図リポジトリ: GitHub - new windowhttps://github.com/ossforumjp/oss-choukanzu

OSS鳥瞰図と作成背景

OSS鳥瞰図は、OSS初心者を手助けするために複雑多岐にわたるOSSを、視覚的に俯瞰できるようまとめたもので、OSSを活用する人たちに情報提供することを目的としています。これは、日本OSS推進フォーラムのOSS鳥瞰WGに参加しているnew window各社・各団体のOSS有識者による貢献で作成されています。

OSS鳥瞰図は、2012年5月にインプレス社のIT専門誌「IT Leaders」で公開されたのがはじまりです。「様々な分野毎に多岐にわたるOSSを俯瞰的に把握できるように」という意図を持って作られました。

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OSSの進化は急ピッチで、新たなソフトウェアが次々に生まれているため、日本OSS推進フォーラムのクラウド技術部会 (当時の名称) では、IT Leaders編集部の許可を得て、OSS鳥瞰図をリニューアルする作業を実施し、2014年以降、毎年更新を続けています。

OSS鳥瞰図には基本方針があり、OSSの利用者に対して、

・OSS利用者が、システムにOSSを採用・導入する際の手引きとなる

・OSSの選定をより安心感をもって、かつ短時間にできるよう手助けをする

・OSSに関する先端技術情報、最新動向、国内事例等を広く集め、様々な形でOSSを利用する人たちに、プラスとなる情報を提供する

という貢献を実現しようと取り組んでいます。

「システムにOSSを採用・導入する際の手引きとなる」「安心感をもって、かつ短時間にできる」という点がポイントで、OSS鳥瞰図では、比較的、安心・安全・安定したOSSを選定することを心がけています。したがって、先進的で流行りだしたばかりのOSSというよりは、成熟が進み、企業での採用がありそうなOSSから選定しています。

また、OSS鳥瞰図が初めて公開されてから10年が経ちますが、20214月には、経済産業省が発行した「new windowOSSの利活用及びそのセキュリティ確保に向けた管理手法に関する事例集」において、OSS鳥瞰図OSSの広がりを視覚的に認識するための有効な図として掲載されました。

OSS鳥瞰図の見方

OSS鳥瞰図では、OSSをソフトウェアのカテゴリで分類しています。カテゴリの中にサブカテゴリがあり、その中にOSSが入っています。毎年更新しているため、左上に作成年を示すタイムスタンプがあります。また、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのCC BY-SA (表示—継承) で公開しているため、営利目的での二次利用も許可されます。

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OSS鳥瞰図の変遷から見るOSSの潮流

OSS鳥瞰図の改版が始まった2014年から、最新の2022年までのOSS鳥瞰図がどのように変化していったかを見ることで、OSSの潮流を確認します。

2012年~2014年版OSS鳥瞰図

IT Leadersから2012年に公開された一番最初のOSS鳥瞰図が、次のものです。当時のもので239のOSSが掲載されています。

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ここから、日本OSS推進フォーラムが改版し、2014年度に公開された鳥瞰図が次のものです。掲載されているOSSの件数が増えているのがわかると思います。

2014年度版の主な変更点は次の通りです。

① 仮想化のカテゴリを、サーバ仮想化、ストレージ仮想化、ネットワーク仮想化に詳細化し、OSSを追加

② クラウドサービスをISO/IEC 17788によるカテゴリ分類で詳細化し、OSSを追加

③ その他の変更として、構成管理やCMS・ポータル、Key Value Store等のOSSを追加・変更

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また、この版からOSS鳥瞰図に掲載されているOSSの件数と増減を示す「OSSカウント」を設定して、前年の版からの掲載件数の変化を示すようにしました。2012年には239件のOSSが掲載されていましたが、2014年には272件になり、33件増加しました。この期間を振り返ると、現在では一般的になったOSSが多数追加されています。

2015年~2017年版OSS鳥瞰図

2015年版の改版ポイントは、①ビッグデータカテゴリ新設、②クラウドサービスの整備、③開発支援の更新 です。

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2017年版の改版ポイントは、①ビッグデータカテゴリに、AI関係のサブカテゴリ(機械学習、ディープラーニング)を追加したことです。

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この期間の主な変更点は次の通りです。

① ビッグデータカテゴリが新設 (2015年)
 ・機械学習カテゴリ追加 (2017年)
  Hivemall, Jubatus追加
  MLlibはデータ分析から機械学習カテゴリに移動
 ・ディープラーニングカテゴリ追加 (2017年)
  OSS追加:Caffe, Chainer, CNTK, Deeplearning4j, DSSTNE, PredictionIO, TensorFlow, Theano, Torch 7追加

② クラウドサービスカテゴリ整備・統合
 ・OpenStack,CloudStack,CloudFoundryなどの整理
 ・2015年にDocker、2017年にはKubernetesが追加

また、2015年版からは世代交代によるOSSの削除も行っています。2015年版は4件、2017年版は15件のOSSを世代交代のため、削除しました。よくある削除理由として、次のものがあります。

・開発終了、End of Lifeが宣言されたもの
・コミュニティが機能していないもの (サイトが閉鎖、開発が停滞、なども含む)
・商用ライセンスに移行したもの
・別OSSに移行(フォークされた)、吸収されたもの

OSSカウントは、2014年の272件から2017年には290件になり、18件増加しました。この期間を振り返ると、クラウド (仮想化)、ビッグデータ (分散処理領域が注目され、さまざまなOSSが追加されました。

2018年~2019年版OSS鳥瞰図

2018年版の改版ポイントは、①開発支援、運用管理関係の更新、②ビッグデータ更新、③データベースをカテゴリとして独立 です。

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2019年版の改版ポイントは、①開発支援、運用管理関係の更新、②ビッグデータ・AI の更新、④IoT、ブロックチェーンのカテゴリ、⑤セキュリティの更新を追加 です。

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この期間の主な変更点は次の通りです。

① DevOpsの浸透・注目度向上により、”開発支援”、”運用管理” 関連の見直し、更新が多い。カテゴリ内でクラウドサービス組み合わせる用途のOSSも追加

② “ビッグデータ、AI“の活性度が高く、更新が多い
 ・2018年:データ収集、準リアルタイムクエリ、分散処理、検索、機械学習関連のOSSを追加
 ・2019年:カテゴリ整理:“ビッグデータ”から“ビッグデータ”、“AI“に分離

 ・2019年:ビッグデータ、AIのカテゴリの細分化・整理とOSSを追加

③ 2018年:データベース領域の独立と更新
 ・カテゴリを“Web/APサーバ”と“データベース”に分離
 ・NoSQL系カテゴリを細分化

 ・OSS見直し:Berkeley DB(データベース・RDBMS)追加、
        pgAdmin(データベース・DB管理)追加、
        phpPgAdmin(データベース・DB管理)削除

④ 2019年:新規領域の拡大・浸透により”IoT”、“ブロックチェーン”の新カテゴリ、OSSを追加
 ・IoT(カテゴリを追加):Espruino、KNIME、Node-RED追加

 ・ブロックチェーン(カテゴリを追加):Bitcoin、Ethereum、Hyperledgerfabric追加

⑤ 2019年:“セキュリティ“の懸念から重要度高く、見直し・更新
 ・セキュリティ関連のカテゴリの細分化(追加)とOSSを追加(追加8、削除5)

OSSカウントは、2017年の290件から2019年には360件になり、70件増加しました。この期間を振り返ると、DevOps領域の活発化と、AIの採用がエンタープライズで増加、IoT、ブロックチェーンなど先進的領域のOSSが台頭、ランサムウェアの流行を契機にセキュリティに対するワーキンググループの関心が増加した等の点が、多くのOSSの追加につながりました。

2020年~2021年版OSS鳥瞰図

2020年版の改版ポイントは、①データベースカテゴリの更新、②OS、仮想化、クラウドカテゴリの更新 です。

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2021年版の改版ポイントは、②OS、仮想化、クラウドカテゴリの更新、③AI 領域の見直し です。

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この期間の主な変更点は次の通りです。

①ビッグデータの活性度向上に伴い、対応するデータベースが充実化
 ・サブカテゴリ「時系列」「マルチモデル」を新設しOSSが追加
 ・削除:2件(活動低下、ライセンス商用化など)
  2020年:なし
  2021年:Exment(WEBデータベース)、MongoDB(ドキュメント指向)
 ・追加:9件
  2020年:Apache CouchDB(ドキュメント指向), etcd(KVS), ArangoDB(マルチモデル),
      Prometheus (時系列), InfluxDB(時系列), TimescaleDB(時系列)
  2021年:Aerospike(インメモリ), Couchbase(ドキュメント指向), Realm (ドキュメント指向)

②仮想化の分野が成熟・実用化
 ・サブカテゴリ「サービスメッシュ」、「コンテナランタイム」のサブカテゴリを追加
 ・削除:10件(活動低下、EOLなど)
  2020年:Eucalyptus (IaaS), OpenShift (PaaS), OpenVZ (サーバ仮想化),
      Scientific Linux (OS), Trema (ネットワーク仮想化)
  2021年:CoreOS (OS), FedoraOS(OS), Linux Mint (OS), OpenStack Mogan (Iaas),
      Docker Swarm (オーケストレーション)
 ・追加:19件
  2020年:Linux Mint (OS), Docker Swarm (オーケストレーション), LXD(サーバ仮想化),
      OKD: OpenShiftOrigin (PaaS), Apache Mesos (オーケストレーション),
      Docker Compose (オーケストレーション)
  2021年:ONOS (ネットワーク仮想化), QEMU(サーバ仮想化), oVirt(Iaas),
      cri-o (コンテナランタイム), runC (コンテナランタイム),
      gVisor (コンテナランタイム), podman (コンテナランタイム),
      Knative (PaaS), k3s (オーケストレーション), Microk8s (オーケストレーション),
      OpenStack Heat (オーケストレーション), Flannel (ネットワーク仮想化),
      ManageIQ (Iaas), Fedora CoreOS (OS)

③ 2021年:“AI“領域のOSSを見直し・更新(追加5、削除7)
 ・削除
  ・機械学習:Apache Hivemall、CoreML、Jubatus、WEKA
  ・ディープラーニング・フレームワーク: Neon, PaddlePaddle, Apache PredictionIO
 ・追加
  ・機械学習: Scikit-learn
  ・ディープラーニング・フレームワーク: Deeplearning4j, Theano, torch7, Keras

2022年版OSS鳥瞰図

2022年版の改版ポイントは、①セキュリティ領域の見直し、②デスクトップ・業務アプリケーション領域の見直し です。詳細は次の通りです。

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2022年版の主な変更点は次の通りです。

① セキュリティ領域:「「OSSセキュリティ技術の会」と協力し、サブカテゴリを全面的に見直し。変更点は重要度があがっている「IAM (Identity and Access Management:アイアム)」の配置など。

② デスクトップ・業務アプリケーション領域:オンライン会議、マルチメディアなどのサブカテゴリを追加

OSS鳥瞰図の変遷まとめ

こちらがOSS鳥瞰図のOSSカテゴリの変遷をまとめたものです。変遷を辿ると、注目されているIT領域が年ごとに変わっていることがわかります。当時、世の中で流行ったもの、バズワードとなったもの、メディアから発信された記事が多かったカテゴリ等が見直しのポイントになったと見ています。OSS有識者が集まって作成したものなので、ITトレンドを反映したものができたと考えています。

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次に、OSS鳥瞰図に掲載されている「OSS数」と「カテゴリ数」の推移を見ると、OSSカウントを設定して、毎年OSS鳥瞰図に掲載されたOSS数を説明してきましたが、右肩上がりで増えているのがわかります。今年は400件の大台を超えて、417件のOSSが掲載されています。カテゴリについては、大きなカテゴリは、9から13に増えました。サブカテゴリについても、年々、見直しを重ねて増えていっています。今年はサブカテゴリが80件に減っていますが、これはOpenStackプロジェクトを集約したためであり、OSSの多様化が収束したと捉えているわけではありません。

 

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OSS鳥瞰図の変遷を辿ることで、クラウド、ビッグデータ、仮想化、 AI、IoT、ブロックチェーン、・・・など先端技術がOSSとして発信されていることが確認できました。また、年々OSSの数が増えてきているとともにカテゴリも細分化されていて、多岐にわたってより多くのOSSが存在する状況がこれからも続くと考えられます。このため、採用するOSSの選択肢が増えてきていますが、OSSの選定が難しくなっていると捉えることもできます。

今後の取り組み

今後のOSS鳥瞰図WGの取り組みですが、主軸である、OSS鳥瞰図の作成について、カテゴリの更新、OSSの追加・削除を、今後も進めていきます。2023年版OSS鳥瞰図に向けて、作業を開始しています。さらにOSS鳥瞰図の作成にあたり、集めた情報を別の形で公開することを検討しています。

OSS鳥瞰図のより良い活用に向けたフィードバックを受ける仕組みを継続検討していて、OSSアンケート回収やオープン化を進めています。今年6月に2022年版OSS鳥瞰図を日本OSS推進フォーラムのWebサイトで公開しましたが、同時に、GitHubのリポジトリでの公開もスタートしました。

また、OSS鳥瞰図を各種セミナーで紹介するプロモーションを実施していきます。

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最後に

安心・安全・安定なOSSの選択だけでなく、IT技術や世の中の潮流をつかむためにも「OSS鳥瞰図」を活用ください。

講演者

米嶋 大志 (Taishi Yoneshima)
日本電気 (NEC Corporation)

OSS コンプライアンスの向上を目的とする団体「OpenChain Project」の国内コミュニティ OpenChain Japan WG のコアメンバーとして活動しています。OSS コンプライアンス意識の普及には OSS ライセンスなど OSS に関連した正しい知識と背景理解が必要であり、日本企業が取り組む必要がある課題を解決するための活動を継続しています。また、日本OSS推進フォーラム鳥瞰図WGのリーダとして、OSS鳥瞰図を作成する活動も行っています。

Taishi Yoneshima