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物流を制する者は、市場を制す―物流コストインフレ時代の企業戦略―

NEC ものづくり共創プログラム【2022.05.18】

カテゴリ:DX・業務改革推進品質・環境・物流

物流リソース不足や物流コストが高騰している中、製造業の経営戦略において、物流領域を含めたサプライチェーンマネジメントの確立がますます重要となっています。
そこで、2022年3月4日(金)、経済産業省 商務・サービスグループ 消費・流通政策課長 兼 物流企画室長 中野 剛志氏を講師としてお招きしてWebセミナーを開催し、「物流コストインフレ時代の企業戦略」をテーマにご講演いただきました。
今回の講演では、2021年10月に経済産業省と国土交通省で立ち上げた「フィジカルインターネット実現会議」についてご説明いただきました。
また、NECから、物流・SCM領域における最近のトレンドと事例紹介、ならびに物流改革をご支援するためのコンサルティングサービスメニューについてもご紹介しました。

フィジカルインターネット・ロードマップについて

経済産業省 商務・サービスグループ 消費・流通政策課長 兼 物流企画室長 中野 剛志氏

1.我が国に迫る物流クライシス

「物流コストインフレ」の発生

第2次世界大戦でアメリカ陸軍を率いた司令官のオマール・N・ブラッドレーは「素人は“戦略”を語り、プロは“ロジスティクス”を語る」とう言葉を残していますが、日本軍は先の大戦で兵站を軽視して失敗したと言われています。そのロジスティクス軽視の傾向が今日にも残っているのではないかと感じます。
現在、「物流コストインフレ」が発生しています。道路貨物輸送サービス価格は2010年代後半にバブル期の水準を超え、過去最高を記録。特に宅配便の価格は、2015年を100とすると2019年には125以上まで急騰しています。

売上高物流コスト比率とトラックドライバーの年収を見てみると、荷主企業の売上高物流コスト比率は1990年代以降低下し、2012を境に反転上昇し現在は5%を超えています。日本企業の平均営業利益率は5%弱と言われており、仮に売上高物流コスト比率が10%になると経常利益が吹き飛ぶことになります。一方、トラックドライバーの年収は、物流コストインフレにも関わらず全産業平均以下の水準です。

物流コストインフレの要因

物流コストインフレの要因は、需要サイドとしては、ECの拡大による非効率なラストワンマイル輸送を担う宅配便の急増と、多品種・小ロット輸送の増加によりトラックの積載効率が40%を切る、つまり60%は空気を運んでいるという非効率さが挙げられます。製造業においても、調達物流に対するマスカスタマイゼーションとジャストインタイムによる多品種・小ロット輸送の負荷が非常に増大していると言えます。
供給サイドの要因としては、どの産業にも共通する少子高齢化による人手不足に加え、規制緩和による競争激化でドライバーの労働環境が悪化してなり手が不足し、2000年代後半以降にドライバー数が急減していることが挙げられます。大型トラックのドライバーの平均年齢は50歳に近づいているのです。これによって、2027年には24万人が不足し、2030年には物流需要の約36%が運べなくなるとの試算もあります。
したがって、トラックドライバーの労働環境の改善が急務で、2024年度から時間外労働の上限規制が適用されます。その結果、2024年頃から物流コストがさらに高騰する「物流の2024年問題」が指摘されています。この危機意識は物流担当者の間でしか共有されていない状況が懸念されます。
加えて、物流の供給を締めることに繋がるカーボンニュートラルの要請も挙げられます。
物流の需給の推移で見ると、90年代後半以降供給が上回るようになって物流コストはデフレとなります。2003年に供給がピークとなって以降供給量は減少の一途をたどり、2012年頃からまた需要が上回るようになって物流コストはインフレ状態となりました。このままでは供給量が増える見込みは立ちません。すると、物流コストの急騰や運ぶことができなくなる「物流危機」が発生します。2030年には最大10.2兆円の経済損失が生じるとの試算があります。

製造や販売側から物流側が優位に

インフレとデフレは真逆の関係にあるので、2000年代の物流デフレ時代の経営戦略が、今後の物流コストインフレ時代には通用しなくなります。デフレ時代は誰でも安く運んでもらえたので物流のことは気にしなくても済み、企業の経営戦略はいいものをつくり提供することにありました。つまり、製造や販売側が優位でした。
ところが、インフレ時代となると、物流コストが急騰する、運んでもらえるか否かがわからなくなるという、物流が死活問題となります。つまり、物流側が優位になるのです。業界No.1のいい製品をつくっている企業とNo.2の企業があるとして、No.1が物流に弱くNo.2が強ければ、製品がどれだけ強くても市場に届けることができず、あるいは届けるまでにコストがかさみ過ぎて、結果的にNo.2が勝つことになりかねません。
さらに、次のような事態も考えられます。ある企業が画期的な真球状の製品開発に成功し物流業者に配送を依頼したところ、真球状では積載効率が悪いので立方体でなければ運べないと言われてしまった。そこで、ありきたりで競争力がない立方体の製品をつくらざるを得なくなった、といったケースです。つまり、製造や販売が物流に振り回されるという事態です。
こうした事態を見越して物流を販売同様に重視している企業の代表が、Amazonと言えます。先に自前の物流機能をつくり上げ、そこに様々な領域を乗せていくというやり方です。日本企業でも、元気なところは物流にエッジを利かせているところが非常に多いと言えます。逆に、いつまでも物流デフレ時代の戦略のままでいる企業の存在を恐れています。

“物流クライシス”対策の基本的な考え方

“物流クライシス”対策の基本的な考え方としては、今後は物流の効率化を徹底し物流コストを圧縮しつつ、労働環境の改善や賃上げによってドライバーの供給を増やすことがあります。物流コストは運賃と非効率性のそれぞれに起因する部分があります。80~90年代に物流コストが上昇し、これを下げるために規制緩和を行いました。これによって競争を激化させ運賃を圧縮。結果的に労働環境が悪化してドライバーの減少を招き、物流供給力を低下させてしまいました。したがって、人手不足解消のためには運賃を上げて労働環境を改善させる必要があります。すると物流コストインフレを増大させる力が働くので、生産性を向上させて非効率性に起因するコストを大幅に圧縮する必要があります。

こうなると、物流を経営戦略の一環として取り組む必要があります。多品種少量戦略の見直しや計画的発注の導入が必要になるなど、商品戦略や販売戦略を揺さぶる問題だからです。サプライチェーンマネジメント(SCM)やロジスティクスを経営戦略の真ん中に据えなければ、物流コストの抑制は不可能です。ところが、日本企業はSCMやロジスティクスを軽視し物流を単なるコストセンターと見なしている傾向があります。ガートナー社の調査では、世界のサプライチェーンを牽引する上位企業群に日本企業は1社も入っていません。物流コストインフレ時代に、どの企業が勝つのかは自明です。

目指すべきSCM

では、目指すべきSCMとはどういうものか。部品サプライヤー⇒調達物流⇒生産⇒販売物流⇒販売というサプライチェーンと、企画⇒設計⇒生産というエンジニアリングチェーンにおいて、それぞれをデータ連携させ、販売における需要の変動データをリアルタイムに上流に届かせて適正な生産を行うようにしたり、データを設計にフィードバックして企画・設計段階から物流コストも計算するフロント・ローディングに繋げることを可能とするものです。
しかし、データ連携がされていないために調達物流はサプライヤー任せで物流コストも把握できていない、販売物流も外注任せでコントロールできない、販売データが製造に共有されずロスが多いという企業が非常に多い現状があります。

企業間の協調・連携による物流改革も重要です。物流を“協調領域”として、パレットや外装、コード体系などの標準化、データ連携、納品リードタイムの延長などの商慣行改革や共同配送を実現させるものです。例えば、食品メーカー6社による「F-LINEプロジェクト」や、メーカー5社出資の全国規模の物流会社による「加工食品物流改革プロジェクト」があります。

2.フィジカルインターネット

究極的な物流効率化

さらに一歩進めた「フィジカルインターネット」という究極的な物流効率化の方法論があり、国土交通省と経済産業省で検討を進めています。

フィジカルインターネットとは、インターネット通信の考え方を物流(フィジカル)に適用した新たな物流の仕組みで、ヨーロッパの学者が2010年頃に提案して以降、国際的な研究が続けられています。デジタル技術を駆使し、物資や倉庫、車両の空き情報などを見える化して、規格化された容器に詰められた貨物を複数企業の倉庫やトラックなどの物流資産をシェアしたネットワークで共同配送するというものです。つまり、インターネットのルーターに該当するのが輸送のハブ拠点で、そこで目的地ごとに荷物を積み替えて共同配送するという仕組み。2020年にはALICE(欧州物流革新協力連盟)が2040年までの「フィジカルインターネット・ロードマップ」を発表しています。
フィジカルインターネットにより、オープンなハブ拠点での結節、ユニットロードでの積替効率化、物流拠点DXによる積替自動化、需要情報共有による産業全体のロス削除、帰り荷のリアルタイムでのマッチング、リアルタイムでルート・積降拠点最適化、オペレーション標準化・商慣行適正化、事業者や業種分野を超えたネットワークが実現できます。
こうした世界は、すでに海上コンテナ輸送や航空会社の業務プロセスで実現しており、陸上配送でも実現させようというものです。

イノベーティブな社会を実現

国内においては、長時間のトラック運転ができなくなる「2024年問題」に備え、拠点間でのリレー輸送が検討されているなど、フィジカルインターネットが実現しかかっている部分があります。
フィジカルインターネットによってリアルタイムに情報が連携されることで、例えば災害が発生した際に通行可能なルートや積替先車両の空き状況などから最適な代替ルートを導出するといったことができ、物流を止めないレジリエンスにも繋がります。災害の多い日本こそ、導入すべきと考えます。
フィジカルインターネットは、リソースの最大限の活用による効率性やカーボンニュートラル、前述の強靭性に加え、適正な労働環境の実現による良質な雇用の確保や中小事業者が「規模の経済」を享受することによるビジネスチャンス、開放的・中立的なデータプラットフォームや買い物弱者・地位間格差の解消にも繋がるユニバーサル・サービスももたらします。つまり、“時間”“距離”“費用”“環境”の制約から個人・企業・地域の活力と創造性を開放し、価値を創出するイノベーティブな社会を実現させるのです。2040年には11.9~17.8兆円の経済効果をもたらすと試算されています。

なお、フィジカルインターネットは、SDGsの「保健」「エネルギー」「成長・雇用」「イノベーション」「不平等」「都市」「生産・消費」「気候変動」の8つの目標にも貢献します。

3.フィジカルインターネット・ロードマップ

経済産業省と国土交通省が連携し、2040年までにフィジカルインターネットを実現させるべく、2030年までのアクションプランを業界ごとに策定してもらうための「フィジカルインターネット実現会議」を設け、2022年3月に政府レベルとしては世界初の「フィジカルインターネット・ロードマップ」を策定・公表しました。
このロードマップは、輸送機器、物流拠点、垂直統合、水平連携、物流・商流データプラットフォーム、ガバナンスという項目に分け、それぞれ2025年までの準備期、2030年までの離陸期、2035年までの加速期、2040年までの完成期に向けて行うべきことを明確にしています。これを各産業界で共有し、すべてが連携している各項目に同時並行的に取り組み、論点を一つ一つ潰していきます。

4.スーパーマーケット等WGアクションプラン(2030)

業界ごとのアクションプランの例として、スーパーマーケット等ワーキンググループ(WG)をご紹介します。本WGのメンバーは、加工食品や日用雑貨の主要メーカー、卸や小売の主要事業者の実務担当責任者です。
まず、フィジカルインターネット実現に向けた重要項目を抽出し、最優先検討事項を決定するなどの調整を行って詳細かつ多岐にわたるアクションプランを策定しています。そして、“総論賛成・各論反対”を避けるべく、自社だけが行って損をするといったことがないよう、全員で行うことにしています。
このアクションプランによって、トラック積載効率を2020年の40%未満から2025年には60%、2030年には70%に高めるKPIを設定しています。
今後は、最優先事項として①商流・物流におけるコード体系標準化、②物流資材の標準化および運用検討、③取引透明化に向けた商慣習検討、④データ共有による物流効率化検討、の4つのWGを設けて議論を進め、2年以内に結論を出しで実行していきます。
このほか、百貨店WG、建材・住宅設備WGが、物流クライシスへの危機意識の中で進められています。

物流・SCM領域における最近のトレンドと事例紹介

NEC コンサルティング事業部 シニアマネージャー 前畑 知巳

不確実性な事業環境で勝ち抜くためには、デジタル技術を最大限に活用して、最少コストで最大の成果を上げられる収益観点を含めたサプライチェーンマネジメント(S&OP)の確立が重要です。
実現するために3つのポイントをご紹介します。

在庫削減に向けた最適なストックポイント設計

品種増大や需要変動激化などにより、これまでの計画在庫型での供給によって在庫過多・欠品多発が発生というケースがあります。これに対して、NECでは、ストックポイントの再設計により、商品ごとに最適化された供給体制による在庫削減と納期満足の両立の実現に向けてご支援させていただきました。
昨今の半導体不足においては、グループ全体でコード統合や部品共通化を図り、購買データベースを構築するとともに、グループ間での集中管理・融通による部品在庫の効率活用への取り組みをご提案しています。

物流コスト削減・ホワイト物流を見据えた最適物流設計

NECの支援事例として、物流コスト削減・ホワイト物流を見据えた輸配送ルートを再設計し、Hub &Spokeによる輸送の多頻度化を定時・定ルート化を実現。それにより、物量や荷役作業を平準化し、トラックの待機時間や受入待ちによる滞留時間・在庫の削減に繋げています。

物流コストまで含めた最適なSCM‐KPI設計と見える化の実現(デジタル活用)

マネジメントの観点では、物流コストまで含めた最適なSCM-KPI設計と見える化の実現が肝要となるため、最適なKPI設計をご支援しています。

NECでは、製造業であるNEC自身とお客様の革新実績を基に、お客様の物流改革やSCM改革をご支援する様々なコンサルティングメニューをご用意しております。ぜひお問い合わせください。

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