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製造業におけるカーボンニュートラルの実現に向けて

ものづくりの未来

Scope3算定高度化 サプライチェーン管理による削減取組み【2022.03.16】

カテゴリ:品質・環境・物流その他

2022年1月26日、NEC ものづくり共創プログラム ものづくり研究グループ会員向けにオンラインセミナーを開催しました。

「2050年カーボンニュートラル」の実現へ向けて、気候変動対策は企業において最重要経営課題の一つになっており、目標設定やCO2削減対策への対応が求められています。
そこで、製造業が今後取り組むべき課題や方向性について、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社環境エネルギー第2部環境ビジネス戦略チーム主任コンサルタントの森史也氏をお招きし、サプライチェーン全体におけるCO2排出量削減対策をテーマにご講演いただきました。その抄録をお届けします。

みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
環境エネルギー第2部 環境ビジネス戦略チーム 主任コンサルタント 森 史也氏

<講演内容>

1.カーボンニュートラル(ネットゼロ)が求められる背景

「2050年カーボンニュートラル」は、パリ協定においてすべての国・地域が参加する温暖化対策の枠組みとして、2015年12月に採択され2016年11月に発効しました。世界共通の努力目標として、産業革命前からの平均気温の上昇による多くの気候変動の影響が回避できる1.5℃に抑えることが合意されたのです。

この1.5℃の抑止のためには、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は温室効果ガス(GHG)排出削減水準として2050年までの「ネットゼロ」が必要であると報告し、2021年のCOP26においてその内容が合意されています。

「ネットゼロ」(カーボンニュートラル)とは、GHGの人為的な「排出量」と「除去量」が釣り合い、大気中へのGHG排出が正味ゼロとなる状態を指します。
日本では、菅元首相が2020年10月、「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指すと宣言。欧米や中国など主要国もすべて、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。

アセットオーナーやアセットマネージャー、銀行、保険会社などの投資家団体や金融機関も企業へのネットゼロへの移行を促しています。これらを束ねる、45か国450機関が参加するGFANZ(Glasgow Financial Alliance for Net Zero)では、「今後30年間で1.1京円を脱炭素に投じることが可能」としています。
日本企業においても、自社の排出量が多い素材や電力、石油、運輸などを中心に、「2050年カーボンニュートラル」を200社以上が宣言しています。

ではなぜ、政府や金融界、企業は「2050年カーボンニュートラル」を目指しているのでしょうか。
それは、すでに発現している異常気象など、人類史上未曽有の急速・急激な気候変動の影響を回避するためという理由とは別にもう一つ、「2050年カーボンニュートラル」への取組みが、次の経済覇権に繋がるからと言われています。世界中の数多くの企業が向かう「脱炭素化」に巨大な市場が生まれると予想されているのです。

2.Scope3算定・報告・削減が求められる背景

企業のGHG排出量は、GHG排出量を算定・報告する国際基準の「GHGプロトコル」によって規定されたScopeという概念で算出、15のカテゴリに整理されています。
この「GHGプロトコル」は、企業の情報開示において非常に重要なTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などの国際イニシアティブにおけるスタンダードとして採用されています。TCFDは、2021年10月に附属書を初改訂し、Scope1、2のGHG排出量の開示をマテリアリティ評価に関わらず行うとともに、「気候関連指標としてScope3の開示を強く推奨」と打ち出しています。
企業におけるTCFDへの対応(Scope3の開示)は、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス(CG)コードにおけるサステナビリティ開示として、また2022年4月に再編される東京証券取引所のプライム市場におけるCGコード改訂においても求められています。
さらに、国際会計基準においても財務報告においてTCFDベースのサステナビリティ報告を求めることが検討されています。上場企業においては、有価証券報告書にも影響するものです。

このScope3について、日本のメガバンクも参画する金融機関の国際的イニシアティブであるPCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)や、投資家イニシアティブのClimate Action 100+などは、投融資先に対して開示にとどまらず削減を求めています。
さらに、MicrosoftやAppleなどのテック系大手は2030年までにサプライチェーン全体でのネットゼロを目指すとしていますし、「ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ」を掲げるトヨタ自動車や「ライフサイクルでの環境負荷ゼロ」を目指す本田技研工業も、サプライチェーンを含めた脱炭素化のためにサプライヤーにGHG削減を要求しています。つまり、投融資元だけでなく取引先からも求められていく問題なのです。

3.Scope3排出量削減方法例

Scope3は、「活動量×排出原単位」で算定できます。つまり、GHG削減のためには、活動量か排出原単位のいずれか、もしくは両方を減らさなければならないことになります。

4.Scope3算定の高度化・サプライヤー連携による削減取組み

「原単位」は、サプライヤー連携において課題があります。このことについて、カテゴリ1「購入した製品・サービス」で見ていきます。
カテゴリ1の算定方法は、「物量データ×製品製造の排出原単位」。この原単位は業界平均値であり個々のサプライヤー固有の数値ではありません。つまり、自社のサプライヤーの削減努力を反映させることはできません。そうであるならば、サプライヤーからその努力の結果である固有の原単位を入手して計算すればよいことになります。

しかしながら、そう単純な話ではありません。このサプライヤーがTier1だとすれば、Scope3はTier2、Tier3と全てのサプライチェーンを網羅するものだからです。Tier1に対応するだけでも簡単ではないのに、サプライチェーン全体で削減に向けた努力を繋いでいくことはさらに難しい課題があると言えます。
そうした認識の上で、いきなり全製品を対象とするのではなく、主要サプライヤーや主要な原材料・製品を洗い出しての主要排出源に絞ったデータ収集から始めるのが有効と言えます。
原単位による算定であれば素材転換などによる原単位切り替えによる削減が可能であり、サプライヤーデータであれば各サプライヤーの削減努力の積上げによる成果をScope3の評価に反映させることが可能となります。
これらの算定の違いについては、メリットデメリットがそれぞれあるのは言うまでもありません。

サプライヤーからのデータ収集方法としては、製品ベースと組織ベースの2つの類型が考えられます。製品ベースにおいては、「購入台数・購入重量・金額×サプライヤー固有の製品別購入台数・購入重量・金額当たりの排出係数」という算定方法となり、調達製品別に固有に配分された排出係数データが必要で、その積み上げでの算定となるため高精度の半面大きな労力がかかります。一方、組織ベースにおいては、「サプライヤーのCO2排出量×自社向け割合」という算定方法により納品額などで排出量を配分するものであり、サプライヤーのScope1~3の排出量データがあればよく、比較的簡便に算出が可能です。

以上、こうした取組みは2021年頃から本格化しつつあるもので、キャッチアップは大いに可能です。ぜひ取組みをご検討いただきたいと思います。

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