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Dive into Inclusion & Diversity Vol.1 『LGBTQ当事者と語る“誰もが自分らしく輝ける”社会へ』
イベントレポート開催日時:2021年6月18日11:55-13:15
開催方式:オンライン開催
インクルージョン&ダイバーシティ(以下I&D)に関する知見をアップデートすることを目的に、数か月に1度のペースで開催している社内オンラインセミナー「Dive into Inclusion & Diversity」。
今回は、6月のプライド月間にちなみ、LGBTQ当事者のお2人をお招きし、「LGBTQ当事者と語る“誰もが自分らしく輝ける”社会へ」をテーマにお届けました。
本記事では、セミナーの内容をダイジェストでお届けします。
今回の登壇者は、「松中 権さん」(特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ / プライドハウス東京 代表)、NEC社会起業塾の卒塾生でもある「藥師 実芳さん」(認定非営利活動法人ReBit 代表理事)。トークセッションは、2人の自己紹介から始まりました。
「高校生の頃、1人でもアライ(=理解者)がいれば、自分らしくいられると気づきました」
藥師さん:私自身は、トランスジェンダーです。女の子として生まれましたが、小さい頃から「自分は男の子なのでは?」と、性別に違和感を持っていました。小学生の時に、ドラマでトランスジェンダーという言葉を知りましたが、当時はパソコンで調べても嘘の情報が多かった。「大人になれない」「好きな仕事ができない」「日本じゃ暮らせない」という情報を見て、誰にもばれないように女の子らしく生活しなければならないと、ずっと思っていました。
女の子らしくしていたら、いつか心の性別も女の子になれるのでは?と願っていたのですが、医学的にも認められている通り、性自認は無理に変えることはできません。学校では“明るく楽しい女の子らしい子”を演じながら、毎晩布団の中で「このままじゃ大人になれない」と思って泣いていました。高校の時には、電車に飛び込もうとしたことも。それを機に、周りにカミングアウトすることを決めました。
長くて、フワッフワだった髪を短く切り、校庭のハナミズキの木の下にクラスの友達を一人ずつ呼び出して、はじめてカミングアウトしました。涙が止まらなくて「うち、トランストランスジェンダーだと思う」と言うだけで30分くらいかかりました。でも、それを聞いた友達が、間髪入れずに「藥師は藥師なんだから、それでいいじゃん」と言ってくれたんです。
「そうか、1人でもアライ(=理解者)がいれば、自分って、自分らしくいられるんだ」と気づいた瞬間でした。大学に入ってからは、トランスジェンダー男性であることをカミングアウトして生活するようになりました。「なんだ、自分らしく大人になれるんだ」とわかり、嬉しかったですね。
でも同時に、「もっと早く知りたかった」と思いました。自分のことがわからなかった小学生時代、無理をした中学生時代、限界まで思いつめた高校時代に「あなたは、あなたのままで大丈夫」と言ってほしかった。そんな原体験から、大学在学中の20歳の時にReBitを大学公認の学生団体として立ち上げ、学校現場でLGBTQについてお話する活動を始めました。
就職活動は、50社くらい受けて、2社内定をいただくような一般的な就活でした。周りの人と違うところがあるとすれば、すべての企業でカミングアウトしたこと。したかったからではなく、今でも戸籍上は女性なので、書類を提出する時に「あれ?女性なの!?」となってしまうからでした。「性別は関係ないから、大丈夫ですよ」とおっしゃってくださる企業もあれば、面接開始後3分で帰された企業もありました。自分らしく働くためには、企業の皆様の理解がすごく大事なのだということを、この時、身をもって体験しました。
入社した会社では、さまざまな配慮をしていただき、同僚にも恵まれて、自分らしく働いていました。そうした中で、こんな風に自分らしく働ける企業がどんどん増えたらいいなという思いが強くなり、その会社を退職し、今は認定NPO法人 ReBitの代表理事として、企業の皆様に、さまざまなお話をさせていただく活動を行っています。
「伝える先に色んな方がいるのなら、伝える側にも、色んな人がいた方がいい」―そう言われて。
松中さん:僕が「男の子が好きかも」と気づいたのは小学校高学年の時です。当時は全く情報がなく、ずっとモヤモヤしていましたね。中学生の頃、テレビのバラエティ番組に同性愛者に扮したキャラクターが登場しました。最初に見たとき「あっ、自分と同じように男性が好きな人がいる」と知って嬉しかったのですが、このキャラクターが、どんどん、学校でいじられるようになっていきました。
なぜ?と思って、当時、このキャラクターの名前に使われた単語の意味を辞書で調べてみました。すると、国語辞典にもイミダスにも「同性愛者、異常性愛、性倒錯」と書いてありました。今はもちろん、そうした記述は削除されていますが、中学生の僕は「異常」という文字を見つけた瞬間に、ものすごくショックを受けました。カラーだった世界が、バッとモノクロに変わっていくーそんな瞬間でした。
高校・大学でも自分のことは明かせず、大学4年生の時に、留学先のオーストラリアで初めてカミングアウトを経験しました。当時、ゲイという言葉を自分の口から発するのも心臓が飛び出そうなくらい緊張しましたが、戻ってきた言葉は「そうなんだ」でした。「あぁ、ここでは、こんな風に自然に自分のことを話すことができるのか・・・」と、初めて自分の人生を歩み始めたような気がしました。
そのまま海外で働こうと思っていた時に、現地でたまたま電通の社員の方と知り合いました。 「日本人なのに、ゲイだとカミングアウトしているのは、すごく珍しいね。それ、もしかしたら、うちの会社で生かせるかも」と言われたんです。どういうことですか?と質問したら、「うちの会社はコミュニケーションの会社で、誰かに何かを伝える仕事をしている。伝える先に色んな方がいるのなら、伝える側の人も、色んな人がいた方がいいんじゃないか」と話してくれたんです。自分がずっとネガティブに思っていたことを、「それは将来生かせる」って言ってもらえるなんて凄いことだな、と希望を持ちました。
ただ、「会社も日本社会もコンサバティブだから、絶対にカミングアウトはしちゃいけない。カミングアウトせずに受けてみたら?」とアドバイスをいただきました。2001年の4月に無事内定をいただき、2017年に退社するまで16年ちょっと。途中、自身がゲイであることをカミングアウトし、それ以降は、グッド・エイジング・エールズというNPO法人と電通社員の2足のわらじを履いて働いてきました。
パーソナルな話としては、今現在、子育てをしています。ゲイが子育て?と思われるかもしれません。実は、僕の大親友がトランスジェンダー男性です。もともと女性として生を受けていますが、自認は男性としてずっと暮らしている方です。その大親友である杉山文野さんは、パートナーの女性と10年近く一緒に暮らしているのですが、お2人は戸籍上は女性同士のため、結婚、子供を持つことができません。ですので、僕が精子を文野さんのパートナーの方に提供し、今、2歳半と0歳の2人の子供がいます。週に3日ほど、保育園の送迎をしたり、土日には公園に連れていったりーそんな“3人目の親”として、子育てに関わっている最中です。
企業の取り組みは、ここ数年で大きく変化
その後、話題は企業の取り組みへ。松中さんは、LGBTQに関する企業の取り組みを評価する「Pride指標」の説明をしながら「企業の姿勢は、ここ数年で大きく変わってきている」と教えてくれました。
松中さん:Pride指標は、“職場でできるLGBTQに関する取り組み”をチェックできる指標です。2020年度には、233の企業(グループ会社を含めると400を超える企業)にエントリーいただきました。NECさんは、その最高位の「Gold」を取得されています。
松中さん:10年ほど前までは「LGBTQって何?」という反応がまだまだ多かったのですが、5年ほど前から、LGBTQを人権の1つと捉え、さまざまな取り組みを推進する企業が増えてきました。冒頭、御社の松倉さんからも話がありましたが、ここ数年は、「インクルーシブな職場環境づくりが、新たな価値創造や社員のパフォーマンス最大化につながる」という考えのもと、LGBTQを含むインクルージョン&ダイバーシティ推進を経営課題の1つととらえ、精力的に取り組む企業が増えてきています。
特に、採用活動と、職場における心理的安全性の確保に力を入れて取り組まれている企業が多い印象です。例えば、東京都内の大学だと、ほぼすべての大学にLGBTQに関するサークルが立ち上がっていますし、カミングアウトしている学生さんも以前に比べて少しずつ増えているかもしれません。そうした背景を踏まえ、新卒の学生向けの情報発信を丁寧に行ったり、入社後に「事実と違う」ということがないように、安心できる職場環境づくりに注力されているケースが多いように感じています。社内の心理的安全性を高めることは、LGBTQ関係なく、すべての働く人のバフォーマンス向上のためにも、すごく大切なことだと思っています。
アライでありたいと思った時に、一人ひとりができること
ここからは、LGBTQの理解・支援者であるAlly(アライ)の話題へ。
「アライでありたいと思った時に、一人ひとりができること」を、松中さんがわかりやすく説明してくれました。
松中さん:まずは、アライであることの可視化でしょうか。心の中で思っているだけではわからないので、レインボーのバッチを付ける、PCにステッカーを貼るなど、さまざまな方法で、自身がアライであることを表現していただけると嬉しいですね。その上で、できれば何らかのアクションを起こしていただけると、ありがたいです。 例えば、お酒などが入ったりすると、LGBTQのことをネタにしたり、笑ったりする人が出てくることがあります。
そうした時にできる「4つのアクション」があるんです。
- 「もうやめようよ」と止める「ストッパー」
- 「ところで・・」と別の話題に変える「スイッチャー」
- 「さっきの発言、嫌だったね」と、発言者がいなくなった時などに気持ちを伝え、悩んでいたのは1人だけじゃないと知らせる「シェルター」
- ハラスメントの現場を見たことを報告する「レポーター」
企業によっては、アライにレポーター役を義務付けているところもあります。「もしかしたら、この場にいる人の中で、心が苦しい人がいるんじゃないか?」と感じたら、想像力を働かせ、自分にできるやり方で、何らかのアクションを起こしていただけると嬉しいですね。
QAセッション開始:「卵がかえる準備が整うまで、温め続けてほしい」とは?
ここからは、いよいよQ&Aセッションへ。 社員の皆さんから寄せられた沢山の質問に、登壇者のお2人とモデレータの中島さんが答えてくれました。
Q: カミングアウトを受けたら、どのように反応したら良いでしょう?
藥師さん:これは、非常に多くいただく質問です。4つのポイントをお話します。
1つ目は、「言ってくれてありがとう」と、まずは受け止めていただくこと。カミングアウト前と変わらず、いい人間関係を続けていただきたいです。
2つ目は、「何か困っていることは無い?」と聞いていただくこと。特に、職場の部下や同僚の場合は、困っていることがあるようだったら、一緒に対処いただけると嬉しく思います。
3つ目は、本人の同意なく、第3者に決して話をしないこと。これは「アウティング」と呼ばれる行為でパワハラにあたります。 良かれと思って善意で話をしてしまうケースもあるので、注意が必要です。
4つ目は、分からないことがあったら聞いていただくこと。アライであればあるほど、「聞かなくても分かってあげなきゃ」という気持ちが強く、対応を決め付けてしまうケースがあるんです。でも、困っているポイントや求めている対応は、人それぞれ。ぜひ本人の意向を聞いていただけると嬉しいです。
Q: 周りにLGBTQかもしれない、と思う方がいます。どう接したらいいですか。何も言わないのが一番いいのでしょうか?
中島さん(モデレータ):この質問は、私からお答えしてもいいですか?実は、私自身もトランスジェンダーの当事者です。この質問に対して、いつも例えに出すのが「鶏の卵」なのですが、鶏の卵って、雛が孵化できる状況になったら、内側からコンコンって合図をしてくれて、それを聞いた親鶏が卵の殻を破る手助けをするんですね。カミングアウトもこれに似ていて、準備が整ったら、コンコンと合図をくれるはず。そうしたら、ぜひ対話をしていただきたいです。 逆に、合図が聞こえないうちに卵を割ってしまうと、生卵のままつぶれてしまって、雛がかえらないかもしれない。つまり、周りの人ができることは、ひたすらこの卵を「温め続ける」ことだと思っています。 温めるために具体的にできる行動は、いろいろあります。「自分はアライだよ」と表明することも、そうですし、卵がまだ情報を必要としているなと思ったら、手に取れる場所にLGBTQ関連の本を置いてみたり、一緒にテレビや映画を見てみるなんていうことも、有効だと思います。ぜひ、卵がかえる準備が整うまで、温め続けていただけると嬉しく思います。
Q: 子供を育てています。「女の子らしさ」「男の子らしさ」を押し付けないようにするためには、何ができるでしょうか?
松中さん:性別に関する質問は、「本当に必要な質問かな?」、「この情報は、この子にとって大切な情報かな?」ということを、1回立ち止まって考えるようにしています。その上で、聞いた方がいいと思ったら、質問する。あとは、女の子/男の子関係なく、この子は何をしたいのか、を常に考えるようにしています。主体を自分ではなく、子供に置くということです。親はどうしても、「こうあって欲しい」とか「こういうのが幸せなんじゃないか」と子供に押し付けてしまいがち。でも、それって「親から見た幸せ像」なんですよね。子供自身の幸せは、その子にしかわからないーそれを忘れないようにしたいと思っています。
Q: 多様性を尊重するために、普段から意識していることや、リーダーとして心掛けていることは?
藥師さん:自分自身のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)については、かなり気をつけるようにしています。「あっ、今の発言、アンコンシャスバイアスがあったのでは?」と感じたら、「今、よくない発言でしたね、すみません」と、正直に話すようにしています。また、周りから指摘をいただいたら「ありがとう」と、気づかせてもらったことへの感謝の気持ちを伝えるようにしています。
あと、心理的安全性の高い職場は、日々の積み重ねで出来ていくと思っています。「目を見て挨拶する」「ちょっといいですか?と言われた時に、手を止めて話を聞く」など、本当に小さいコミュニケーションの積み重ねなんです。何かあった時に正直に話をしてもらえる関係を、職場のみんなと築きたい-そう考え、まだ道半ばですが、日々努力をしています。
「誰もが、誰かのAlly(アライ)になれる!」
QAセッションの後は、視聴者の皆さんに「私のアライ宣言&今日からできるアライアクション」をオンラインで書き込んでいただきました。
参加者からの声
視聴した社員からは、「今後は、職場のメンバーの一人ひとりの在り方、多様性に配慮して行動したい」「自分自身の中の自覚していない偏見に注意することの大切さに改めて考えさせられた」などの声があがり、LGBTQについて理解を深めると同時に、「誰もが自分らしく輝ける社会」に向けて、自分自身は何ができるか考える貴重な機会となりました。
登壇者プロフィール
スピーカー
2010年、NPO法人を設立。2013年、米国国務省主催の「International Visitor Leadership Program」研修生に選出され、LGBT関連の活動団体や政府系機関のリサーチを実施。一般社団法人Marriage for All Japan理事。2016年、第7回若者力大賞「ユースリーダー賞」受賞。2017年、電通を退社。LGBTと社会をつなぐ場づくりを中心としたこれまでの活動に加え、「プライドハウス東京」等に取り組む。
在学中にReBitの前身「早稲田大学公認学生団体Re:Bit」設立。LGBTを含めたすべての子どもがありのままで大人になれる社会を目指し、行政/学校/企業等でLGBTに関する研修を提供し、各委員会の委員を担当。社会福祉士/国家資格キャリアコンサルタントとしてLGBTへのキャリア支援も実施。 青年版国民栄誉賞と言われる「人間力大賞」受賞。世界経済フォーラム(ダボス会議)が選ぶ世界の若手リーダー、グローバル・シェーパーズ・コミュニティ(GSC)選出。
モデレータ
団体設立時よりReBitに関わり、研修やイベント企画等、多様な性に関する発信活動を実施。大学卒業後、民間企業にて、営業職と販売企画部門課長職を経験。その後、より深く「多様な性」をめぐる課題を研究すべく、大学院にて社会学を専攻。修士(社会学)。現在は、団体内の人事や組織づくり、事業推進を担当しながら、「LGBTも含めた誰もが自分らしく働くことを実現する」という目標のもと、企業・行政等への研修やコンサルテーション提供、就活生・求職者への支援、キャリア支援者の育成を担当。