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4人からスタートして40人規模の集団に
「野生」の社内人材を活かしたJR西日本のデータ活用

様々な企業がデータ活用に取り組んでいる中、大きな注目を集めているのがJR西日本である。リーダーは「異端児」と呼ばれる、元新幹線関連のエンジニア。たった4人のメンバーでスタートしたチームは、現在、40人規模のチームへと成長している。多くの企業が課題に挙げる人材不足などをどのように克服したのか──。様々な企業のデジタル活用や人材育成を支援しつつ、現在は信州大学特任教授、宇都宮市CDXO補佐官も務めているNECのコンサルタントが話を訊いた。

西日本旅客鉄道株式会社
マーケティング本部 担当部長、デジタルソリューション本部 データアナリティクス担当部長
(株)TRAILBLAZER 取締役
宮崎 祐丞氏
NEC
コンサルティングサービス事業部門 マネージングディレクター
信州大学特任教授、宇都宮市CDXO補佐官
井出 昌浩

コンテストを通じて社内に眠る人材の存在に気付く

井出 様々なメディアがJR西日本や宮崎さんの挑戦を紹介しています。宮崎さんを「異端児」と表現するものも多いですね。どのような経緯でデータ活用をリードするようになったのでしょうか。

宮崎 JR西日本に入社したのは2001年です。主に新幹線の軌道保守分野の技術者として、子供たちにも人気の黄色い点検車両ドクターイエローを走らせたりしながら、新幹線の安全性・競争力向上施策に従事してきました。その後、社費留学制度を利用して英国サウサンプトン大学大学院に留学し、軌道工学分野の修士号を取得したのですが、2017年に「システムチェンジⅢ」というプロジェクトの担当課長を務めることになりました。プロジェクトのテーマは「データを活用し、線路や電気施設、車両などのメンテナンスを効率化する」というもの。これがデータ活用に携わることになった経緯です。

井出 総務省の「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究」によると大企業の約90%が「いずれかのシーンでデータを利用している」と回答しています。しかし、同時にデータ活用推進上の課題として、真っ先に「データ利活用に関わる人材の不足」を挙げています。宮崎さんも人材について、様々な苦労と工夫があったそうですね。

宮崎 2017年にシステムチェンジⅢのために立ち上げられた部署は、データ活用を掲げているにもかかわらず、データサイエンスには、ほとんど縁のない4人でスタートしました。そのような経緯もあってIT企業の提案書を評価するのも難しい状況でした。提案書を見てもわからないから、競い合ってもらおう。そう考えてオープンなコンテストを開催したのですが、それが人材育成においてもターニングポイントになりました。

井出 私が宮崎さんと初めてお会いしたのも、4人でチームを立ち上げた頃でしたね。開催したコンテストで、どのような気付きを得たのでしょうか。

宮崎 「北陸新幹線の車両に付着する雪の量を予測する」というテーマのコンテストを開催し、予測の精度を競い合ってもらったのですが、上位入賞者のうち3位と8位は、なんとJR西日本の社員だったのです。社内にデータ活用スキルをくすぶらせている人材、いわば「野生の即戦力社員データサイエンティスト」がいる! 活かさない手はない。そう気付いた瞬間です。

応募の条件を明確に示し努力を促す

井出 気付きを得た後、どのように人材育成に取り組んでいるのでしょうか。

宮崎 私はデータ活用人材を大きく3つのグループで考えています。よくJリーグのチーム構成に例えるのですが

  • (1)
    部活出身。全国選手権で活躍してJリーグ入りした選手
  • (2)
    クラブの下部組織で育成されトップチームに昇格した選手
  • (3)
    外国人助っ人

の3グループです。

まず(1)は、前述した野生の即戦力社員データサイエンティストのこと。主管部で採用された後、データ分析コンペなどで能力を証明した人材です。

(2)は、IT人材としてJR西日本に採用された後、データ活用のポテンシャルを見込んで育成に取り組んでいる人材。爆発的な成長を期待し、データ分析を専門とする企業に出向している者もいます。

そして(3)は、当社に足りないケイパビリティを補完する中途採用人材です。Jリーグにも強豪国の代表選手がいたりしますが、当社の助っ人にも驚くような経歴を持つ人材がいます。

この考え方で育成に取り組み、データサイエンティスト20名を含む、約40名体制で活動しています。データサイエンティストのほとんどは(1)と(2)の人材です。

井出 即戦力を欲するあまり、外部に目を向けがちですが、そもそもデータサイエンティストの数が少ないわけですから、スカウトは簡単ではありません。一方、社員は、すでにビジネスや業務を知っているという強みを持っています。そこにデータスキルが加われば、活躍を大いに期待できます。

宮崎 事業部門でくすぶっている人材を狙い、社内公募を使っています。平たく言えば求人募集をかけるのですが、その際「コンテストでの上位10%の入賞実績があること」など、具体的な条件を示すと努力を促しやすいと感じています。

井出 意欲のある人材を発掘し、チャンスを提供するのは非常に重要ですね。NECも、自身がデータ活用に取り組んだ経験から、データ活用に欠かせない5つの要素を「基盤」「分析」「文化」「組織/統制」、そして「人材育成」と整理しており、これらに総合的かつ計画的に取り組んでいくことが重要だと考えています。

さらに、その考え方のもと、お客様の人材育成も支援しています。

例えば、DX戦略コンサルティングサービスの一環として「データ活用成熟度診断」を提供し、それぞれの企業の状況に合った目標設定、ロードマップ策定を支援しています。また「DX人材育成サービス」として、現場で活躍しているNECのデータサイエンティストが講師を務めるプログラムも提供しています。プログラムは、NEC自身の実践経験をベースに設計されており、育成計画の策定からDX文化の浸透・定着までをカバーしています。データサイエンティストと呼べるような専門人材の育成を目指すのか、現場の社員を中心とするデータ活用を目指すのか、お客様の成熟度や目指す姿に応じたカスタムにも対応します。

事業部のキーパーソンを窓口に据えて障壁をクリア

井出 人材育成だけでなく、育成した人材を活躍させるための組織・体制作り、文化の醸成も重要ですね。それらの面では、どのような工夫を行っていますか。

宮崎 事業部の上長の承認が得られない。複数の事業部が関与しており、承認プロセスが複雑。データがすぐに手に入らない。データが活用できるフォーマットになっていない。事業部の事情が変わり、予算が下りなくなる。プロジェクトでは、必ず何か障壁にぶつかります。これらの障壁をできるだけクリアしやすい環境にし、プロジェクトを実装まで完走させるために部門間の連携を意識した体制にしています。

具体的には「バディ編成」と呼んでいますが、事業部門のキーパーソンに私たちのデジタルソリューション本部に転部してもらい、「ビジネスデザイナー」としてデータサイエンティストとバディを組んでもらいます。事業部の事情に精通したビジネスデザイナーが事業部との窓口を務めることで障壁を未然に回避したり、解決策を提示したりできる可能性が高まります。ですから、ビジネスデザイナーは、人脈や発言力などを持つ、その事業部のエース級を引っ張れるかがカギです。

(図2)
JR西日本の「バディ編成」イメージ

データマーケティングハブという仕組みもあります。事業部の人に対して、データを活用した業務課題解決のOJTを提供するのですが、トレーニング結果を、そのまま業務改善に役立てることもできるし、学んだ経験を事業部に還元してもらうことでデータ活用や変革の気運を高めることにもつながると考えています。また、異なる事業部やグループ会社の課題やデータが集まることで、1つの組織では解決できなかった課題も複数の組織で協力すれば解決する道筋が見えてくるなど、様々な成果に期待しています。

井出 座学ではなく、OJTを通じて実際にデータを分析し、解決策を模索する経験を積むのは非常に有効ですね。先ほど紹介したNECのDX人材育成サービスもOJTを重視してプログラムを構成しています。

宮崎 実際の取り組みでは、なんとなく取り組むのではなく、課題設定にとことんこだわり、どのように課題解決するか、必要なデータは何か、いつの時点でどのような分析結果を出すべきか、分析結果を受けて何をする必要があるか、どんなメリットを享受できるかなどを、すべて言語化して整理するようにし、データ活用における考え方の定着を図っています。

井出 業務を省力化する、意思決定に役立てる、新しいサービスを立ち上げる、企業単体ではなく産業全体でデータを持ち寄って業界の課題を解決するなど、一言でデータ活用と言っても様々な目的があります。何のためにデータを使うのか、それを明確にし、共有することは、データ活用を迷走させないポイントでもあります。

業務課題の解決だけでなく外部での収益化も目指す

井出 代表的なデータ活用事例をご紹介ください。

宮崎 駅に設置したスタンプを集めて回るスタンプラリーは、鉄道会社がよくやるイベントですが、最近はデジタルスタンプラリーを頻繁に開催しており、ここにデータサイエンスを取り入れました。

具体的には、私たちが提供している「WESTER」「モバイルICOCA」というスマホアプリのデータを活用してお客様の行動を分析。「この駅で食事をする」など、よりお客様の視点に立ったスタンプ獲得条件を設定しています。

そのためにデータとしては、電車を降りてから、次に乗るまでに注目しています。鉄道会社としては、どこからどこまで電車に乗ったかに目を向けがちなのですが、お客様の行動を予測する上で重要なのは、降りてから、次に乗るまで。「意外な駅で、私たちが思っている以上に多くのお客様が道草を食っている」など、様々な発見があります。

井出 仮説を立て、可視化したデータを見る。それを繰り返していけば、様々なことが検証できそうです。

宮崎 映像データを使った事例もあります。匿名化した映像を分析して、エリア侵入、人物間距離測定、待機列、携帯通話、携帯通話、ナイフ所持、置き忘れ、横たわり、しゃがみ込み、入出場カウント、白杖・車いす・盲導犬などをリアルタイムに検知して、危険・不正行為や手助を求めているお客様を捕捉。駅員の業務に役立てる仕組みです。防犯対策ソリューションを提供する企業との協業で、この技術を応用した防犯カメラシステムの開発も進めており、外部収益化も進んでいます。

井出 自社の取り組みが他の企業の課題解決にもつながり、マネタイズに発展する。データ活用における好事例の1つですね。

宮崎 外部との連携では、JAXAさんとの取り組みもあります。改札機の点検に利用している技術を応用し、人工衛星の故障をAIで予測しようとチャレンジしています。

井出 課題を設定して、データを使って解決に取り組み、業務に実装する。様々な工夫をこらして、それを実践していることがよく分かりました。もちろん実践方法は1つではありませんが、根底にある本質は多くの企業に共通することも多いはず。宮崎さんが話してくれた苦労話やアイデアは、貴重な財産です。

教育だけでなく、業務部門や経営層も巻き込んで実践の「場」を作ることは、人材育成をイノベーションにつなげていく上でも非常に重要です。NECも人材育成を支援する中で、NECに出向してもらう、あるいはNECの社員が出向するなどして、データ活用を学び、実践する場をお客様と共有したりしています。これからも、みなさんと連携して社会課題の解決に取り組んでいきます。

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