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データ活用によるビジネス変革への道 後編(データドリブンイノベーション)

競争優位を確立するイノベーションの実践ポイントとは

前回、データを活用して変革を実現する方法には大きく分けて「データドリブン経営(Data Driven Decision Management:DDM)」と「データドリブンイノベーション(Data Driven Innovation:DDI)」の2つがあるとお話ししました。今回は後者のDDIについて解説します。

棈木 琢己
NEC 戦略・デザインコンサルティング統括部 エグゼクティブコンサルタントリード
コンサルティング企業において、主にハイテク、消費財などの製造業、旅客・通信、Webサービスなどの企業に対して新規事業立案、CX・マーケティング変革、BPRなどのコンサルティングサービスを提供。現在はNECにて製造業・サービス業を中心にクライアントのDX推進を支援している。

DDIとはデータから事業機会を抽出し、イノベーションを達成するための取り組みを指します。なぜDDIが注目されているのでしょうか。その背景として、D&A(データ&アナリティクス)技術が発展したことで、企業が競争優位の源泉としてイノベーションを実践するために、これを駆使するようになったことがあります。

DDIが注目を集めるに至った歴史をさかのぼってみましょう。2000年代以降はIT技術が急激に発展したことから、90年代までの業務効率化や顧客対応力の強化などに重きを置く「競争戦略論」に代わり、テクノロジーを駆使したイノベーション創出により“持続可能な競争優位”を築く戦略が重視されるようになりました。技術の発展により、従来のマーケティング戦略が通用しなくなったのです。そして、GAFAMなどのデジタル企業がプラットフォームビジネスの成功により台頭するようになった2010年代以降は、さらなる競争優位を確立するため、IoTやAI(人工知能)などを用いたデータの活用に拍車がかかりました。こうした流れから、D&A技術により新たな価値を生み出し、その価値を競争優位につなげるためのDDIの方法論が一躍注目を集めることとなったのです。

AIに関する調査からも、DDIが効果を発揮する例が急速に増えていることが分かります。前回も取り上げた調査結果をあらためて見てみると、2019年の調査(Boston Consulting Groupによる)では「AIへの投資から最低限の価値しか得られなかった」と答えた企業が70%でしたが、2022年の同様の調査(NewVantage Partnersによる)では「データとAIへの投資でリターンを得ている」「データとAIへの投資を増やしている」と答える企業が92%に上っています。

データ活用技術を駆使して「持続的な競争優位」を確立

企業はさまざまな事業領域やシーンにDDIを生かすことができます。例えば自社の商品・サービスに関するデータを収集し、その分析結果を企画・開発にフィードバックすれば、新たな商品・サービスを生み出す足掛かりになります。また、業務プロセスに関するデータを収集・分析、その結果を基にプロセスを変革することで、他社に対する競争優位を築く可能性を拡げられます。市場のさまざまなデータも活用することで、既存市場を自社に有利な状況に転換したり、自社主導で新規市場を創出・育成することで持続的な競争優位を構築したりすることもできるでしょう。

ここで、DDIによって業務プロセスを変革した実例を2つ紹介しましょう。まず1つ目は、ある産業機器メーカーの例ですが、彼らは工場内に設置したカメラの映像をAIで解析するソリューションを導入しました。それによって事故につながりかねない危険なオペレーションを早期に検知し、プラント管理者に自動通知できるようになりました。その結果、工場での事故件数低減を実現したのです。

また2つ目の、ある半導体製造装置メーカーの例では、工場内で収集したさまざまなIoTデータを社外のデータと突き合わせて分析することで、製造過程における弱点を洗い出す取り組みを実践しました。それを基に継続的な改善サイクルを回すことで、品質の維持・向上を実現しています。

DDIによって新市場の創出・育成に成功した代表例はAppleです。同社は世界中の人々の音楽視聴スタイルをリードし続けていますが、進化する技術をその都度活用することで長期的な競争優位を維持してきた企業です。2001年にiPodを発表したその後も製品・サービスや市場に関するデータを子細に分析し、サブスクリプション型やパーソナライズ型の音楽視聴サービスを投入し続け、ビジネスを連続的に変革しています。

DDI実践のカギを握る「ダイナミック・ケーパビリティ」と「イノベーション実践のポイント」

DDIの実践において重要なカギを握るのが、「ダイナミック・ケーパビリティ」という経営論です。1990年代後半に提唱され、データからイノベーションにつなげる経営論でしたが、当時は実践のための技術が伴っておらず、具現化が困難な理論でした。

しかし昨今、D&A技術が発達したことから、ダイナミック・ケーパビリティが実践できる環境が整い、再び注目を集めるようになりました。経済産業省が公開した「2020年版ものづくり白書」においても、ダイナミック・ケーパビリティ強化の重要性が示されるなど、再評価の機運が高まりました。

ダイナミック・ケーパビリティは、大きく次の3つのフェーズに沿って進行していきます。

  • 1)
    「Sense(抽出)」
  • 2)
    「Seize(即応)」
  • 3)
    「Transforming Innovation」

まずSense(抽出)では、商品・サービスや事業、市場に関するデータを収集・分析することにより新たな機会や脅威などを見出します。

Senseの段階で発見した機会や脅威を新たな価値へと育てていくのが、次のSeize(即応)のフェーズです。この段階ではデータを基に施策の進行度や成熟度を可視化・評価し、社内のリソースを投入して改善を繰り返していくことで商品・サービスの具体的な姿を固めていきます。

最後のTransforming Innovationのフェーズでは、Seizeの段階で固めた商品・サービスを継続的に改善し続け、競合に安易に模倣されないよう参入障壁を高く保ち続ける必要があります。ここに至って初めて長期的に持続できるイノベーションが実現できたことになります。

AppleやGoogle、CISCOといったデジタル企業は、まさにダイナミック・ケーパビリティの3つのフェーズを実践することでイノベーションを創出し、持続的な競争優位を確立した実例です。


このようにデータ活用によってイノベーションを創出している企業には、共通して以下の5つの特徴があることも知られています。

  • 1)
    データ活用に必要なデータ定義、データアグリケーション、データ品質、データ調査能力、データ調査ツールといった要素すべてにおいて他より優れている
  • 2)
    組織のあらゆる場所でイノベーションを奨励している
  • 3)
    カオス的で突発的な行動を体系的に推進している
  • 4)
    イノベーションのスピードよりも市場に受け入れられることを重視している
  • 5)
    既存のシステムが淘汰されることを恐れず、外部ネットワークを活用してエコシステムを構築している

上記の特徴から、イノベーションの実践に必要なポイントを4つに絞ってまとめたものが下図です。①組織の多様性を重視することであらゆる場所でのイノベーションを奨励し、かつ②データ活用に必要な要素をまんべんなく備えることでSense・Seizeのフェーズを強力に推進する。そして③先進技術の動向に常に気を配って外部企業とのエコシステムを通じて外の情報を積極的に取り入れることで、④一度イノベーションを達成した後も、市場の受容性を重視しながらTransformingInnovationを繰り返し、自社の競争優位性をできるだけ長く維持する。自社においてこれらのポイントを実践しつつ、ダイナミック・ケーパビリティを推進している企業こそが、DDIを達成し得る存在であると言えます。すべてをいきなり押さえる必要はないものの、徐々に攻略することでDDIの実現により近付いていくはずです。

DDIのコンサルティングから商品・サービス構築まで一気通貫でカバー

DDIの推進における課題は企業ごとの状況や強み・弱みによって異なります。NECでは、DDIに関するさまざまな知見を生かしたコンサルティングサービスを提供しています。企業が抱える課題をイノベーションの創出で乗り越えていくために、抽象的課題の定義から具体的なプロトタイプを使った検証作業に至るまで、DDIのあらゆるフェーズを支援できるコンサルティングメニューを複数用意しています。

またイノベーションに成功した後も技術進化に追随し、繰り返し発展させることが重要です。NECは上流のコンサルティングだけでなく、実際にイノベーションを具現化するための製品・サービスの構築にも強みを持っています。D&A技術に加え、画像認識や生成AIといった先進技術を駆使し、数多くのイノベーションをお客様とともに実現しています。

これからDDIに取り組まれようという企業も、すでにDDIに取り組んでいるもののなかなか思うような成果が上がらないという企業も、ぜひご相談ください。

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