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データ活用によるビジネス変革への道 前編(データドリブン経営)
データドリブン経営を根付かせる「データ民主化」に欠かせない反復実践とは
DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む上で「データ活用」は最も欠くことのできない要素であり、今日のビッグデータとデータ分析技術の進展にともない、企業の競争優位性を左右する重要テーマとなっています。データ活用によってビジネスの変革を目指すためのアプローチには、大きく「データドリブン経営(Data Driven Decision Management:DDM)」と「データドリブンイノベーション(Data Driven Innovation:DDI)」の2つがあります。前者はデータ主導型の意思決定を行うためのもの。後者はデータからイノベーション機会を抽出し、新たな価値の創出を目指すものです。
今回はDDMについて解説します。まず、DDMの定義とは何でしょうか。マッキンゼー・アンド・カンパニーによれば「これまでにない経営インパクトを創出するための全社変革であり、デジタル技術や人工知能などの技術を活用し、ビジネスのあらゆる局面においてデータ主導での意思決定をする経営」であり、IBMでは「『データ』と『アルゴリズム』に基づいた客観性の高い意思決定を経営の世界で行うことであり、その対立概念はKKD(勘と経験と度胸)経営である」としています。
これらのDDMの考え方自体、実は以前から言われているものでした。それが近年のように大きな注目を浴びる時代になった背景には、やはり冒頭で述べたようにデータをめぐる技術の発展と、企業がデータ活用で競争力を向上しようという機運の盛り上がりによるものと言えます。では、DDM実現への道筋について話を進めましょう。
「5ステップのジャーニー」における課題克服のために
DDMへ至る具体的な方法は、5ステップのジャーニーとして以下のように体系化されています。
1ステップ目:「データ活用の推進」
2ステップ目:「データ活用で他社と競う」
3ステップ目:「ビジネス資産としてデータを管理」
4ステップ目:「データ駆動型組織の構築」
5ステップ目:「データカルチャーの構築」
この一連のジャーニーは一度実行すればゴールというわけではなく、何度も反復しながらDDMの達成を目指していくことになります。ステップを踏むにつれ新たな課題が次々と表出し、それを克服しながら歩を進めていくのです。
ジャーニーをたどる中で取り組むべきポイントとして、「データへの自由なアクセス」「データ活用の常習化」「データ活用による価値創造」「組織・役割の適正化」――という4点を挙げることができます。これにより、直面しがちな課題、例えば「組織・部門にデータが閉じているためにデータにアクセスして活用できない」「データ活用人材を育成するとともに従業員のマインドシフトを進める必要がある」「データ活用によって創出される価値が小さい、または限定的で投資対効果が成り立たない」「どの組織がリードし、各組織がどのように関わっていくべきかを決めがたい」などに対処していきます。DDMを目指す企業は、自社でこうした課題が存在していないかを確認し、早期に解決策を講じていくことが重要です。
なぜジャーニーの反復的な実践が必要なのか
グローバルレベルではすでに多くの企業がDDMに取り組んでおり、それらの企業の例からは重要な示唆を得ることができます。
まず、昨今のDDMへの注目度アップを裏付ける数字です。経営コンサルティング企業のBoston Consulting Groupが2019年に「AIによって生み出される価値」について調査した結果によると、「AIへの投資から最低限の価値しか得られなかった」と答えた企業が70%を占めた一方で、2022年にNewVantage Partnersが行った調査では「データとAIへの投資でリターンを得ている」「データとAIへの投資を増やしている」と回答した企業が92%にも上っています。グローバルレベルでは、この数年の間にデータ活用やAI(人工知能)への投資が飛躍的に高まっていることがうかがえます。
NewVantage Partnersは、先ほど挙げた5ステップのジャーニーの実情についても調査しています。各ステップについて、「実現できているかどうか」を毎年調べているのです。2020年から2022年における結果を見ると、1ステップ目の「データ活用の推進」を実現できていると答えた企業は2020年に64.2%を記録したにもかかわらず、翌2021年には48.5%と急落しています。これは、5ステップ目の「データカルチャーの構築」が停滞したままであることが影響していると考えられます。一方、2022年になると「データ活用の推進」は56.5%に持ち直します。これは3ステップ目の「データ管理」、4ステップ目の「データ駆動型組織の構築」の割合が増えた影響です。
この調査結果から分かることは、5ステップの反復的な繰り返しの重要性です。ジャーニーのサイクルを回していく中で、あるステップの課題を解決すると次の段階で新たな課題が表出し、進展がいったん滞る。しかし、それらの解決に取り組むことでまた活動が推進される。グローベルレベルの企業では、こうした「反復的な繰り返しによる改革」を進め、DDMの実現を目指しているわけです。
日本企業のデータドリブン経営の進度は3段階に分けられる
さて、いよいよ日本国内の企業におけるDDMの話に入ります。日本企業の進み具合と併せ、DDM成功への鍵となるポイントについてお話しします。私たちは日本企業の経営者やキーマンにデータドリブン経営の進捗状況についてヒアリング調査を実施しました。その結果から、国内企業はDDMの進度に応じて「推進初期の企業」「標準的企業」「先行する企業」の3つに大別できると考えます。
1)推進初期の企業――小さくても成果を上げる
データドリブン経営に取り組んでまだ間もない企業では、営業やマーケティングなどの部門が主体となり現場主導でデータ活用を推進するケースと、IT部門やDX部門などが主体となって全社レベルのデータ基盤構築から進めるケースの2つの“力学”が見られます。ところが双方のどちらを先行して行うにしろ、前者から始めた場合は必要なデータがないといった課題に直面し、後者から進めた場合は有用なユースケースが見出せないといった壁にぶつかり、片方の取り組みだけではどうしても限界が生じます。「現場主導」と「基盤構築」の双方をつなげて、まずは小規模でもよいので価値創造の成果を上げることが第一歩と言えます。
2)標準的な企業――価値の増幅・最大化を図る
日本企業のおよそ6割に分類されるのが「標準的な企業」ではないでしょうか。ここに分類される企業では、すでに推進初期の課題はクリアし、小規模なユースケースで成果を上げることはできています。しかし、この段階にとどまり続けていると成果が単発で終わってしまう怖れがあります。そのため、成功を継続して価値をさらに増幅したり、経営トップが関与したりすることも重要なポイントです。また、単一のユースケースに対して投資するだけではなく、同じ課題を持つ複数の組織が共同で投資・活用することで生み出す価値を増幅したり、関連する複数のユースケースの“複合技”で価値の最大化を図ったりといった手法が有効です。
3)先行する企業
「標準的な企業」では、IT部門やDX部門などが中心となって中央集権型でデータ活用を推進している一方で、「先行する企業」では一部の組織がそうした部門の手を離れて自らデータアーキテクチャの構築やモニタリングプロセスの定義などを行い、“自走”しながらデータ活用を自主的に推し進めるようになります。ジャーニーの反復を繰り返すうちに中央集権型でガバナンスを統制しつつ、現場主導型に移り変わるのです。こうして一部の組織が先行して自走を始めることによって、他の組織もそれに刺激を受けてデータ活用への取り組みを自主的に始め、やがては全社レベルで「データ民主化」の文化が醸成されていくことが期待されます。ただし、この段階まで達している日本企業は、現時点ではまだ極めて少ないのが実情です。
ユースケース発掘や業務設計に強みを持つNECのコンサルティング
NECでは、今回紹介したデータドリブン経営のジャーニーを企業がたどりながら、データ活用の取り組みを進化させていくために不可欠な支援を提供しています。特に、その企業にとって有用なデータ活用のユースケースを見出すコンサルティングサービスに関しては数多くの実績を持っています。また、ユースケースを特定した後に、それを実業務に適用する際の業務設計やシステム連携といった分野にも強みがあります。
次回は、冒頭で紹介したデータ活用による変革のもう1つの方法「データドリブンイノベーション」について解説しましょう。
棈木 琢己
NEC
戦略・デザインコンサルティング統括部
エグゼクティブ コンサルタント リード
コンサルティング企業において、主にハイテク、消費財などの製造業、旅客・通信、Webサービスなどの企業に対して新規事業立案、CX・マーケティング変革、BPRなどのコンサルティングサービスを提供。現在はNECにて製造業・サービス業を中心にクライアントのDX推進を支援している。
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