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Fast Travel ~顔認証を活用した空港サービスの改善と地域全体への拡張~

昨今、世界的な潮流として、IATA(国際航空運送協会)が顔認証技術を活用したセルフ搭乗手続きプログラム「Fast Travel」を推進し、各国の主要空港が実験的に導入を始めています。また、空港だけでなく街中でのシームレスかつチケットレスで、さまざまなサービスを提供・享受できる新しい概念の検討も進んでいます。本稿では、2019年に発表した、複数の場所やサービスにおいて顧客への一貫した体験の提供を目指す「NEC I:Delight」というコンセプトのもと、Fast Travelの取り組み概要と国内外の事例を紹介します。

1. はじめに

2020年に向けて、日本の観光産業のインフラ整備が急速に進んでいました。特に、訪日外国人(インバウンド)の増加は急激で、2000年では500万人に満たなかったものが、2018年にはついに3,000万人を突破しました。

一方で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下、COVID-19)の世界的影響は観光業界に壊滅的ダメージを与えるとともに、3密防止など感染症対策に向けた取り組みが加速しています。

本稿では、新しい秩序への対応を含めた、観光基盤の整備の1つとして、顔認証技術を活用したFast Travelの取り組み概要と、将来の展望について紹介します。

1.1 日本の空港を取り巻く状況

訪日外国人の急増は、空港のキャパシティ問題を引き起こし、混雑や長い待ち時間を旅客に強います。また、同時に空港営業時間の長時間化、それに伴う要員の不足、セキュリティの更なる強化の要請といった問題が顕在化しています。

最近ではCOVID-19の影響から、更にお客様の混雑を抑止し、お客様と職員の接触も最小限にしたいという要求が高まっています。

1.2 Fast Travelの潮流

この問題は世界的な潮流であり、IATA(国際航空運送協会)は解決策の1つとして、Fast Travelという空港における旅客手続きの自動化プロジェクトを推進しています。

これは、基本的に旅客がセルフで必要な手続きを実施し、できる限り自動化することで待ち時間を短縮し、混雑を緩和させるというものです。

日本の国内線はスマートフォンやICカードの活用が進み、これがほぼ達成されている状況ですが、国際線はパスポートによる本人確認というプロセスがネックとなり完全自動化に至っていません。現在、顔認証技術を使うことで完全自動化を実現しようという大きな潮流があり、各国の主要空港が実験的に導入を始めています。

一方で、この技術の活用を更に一歩推し進めて、空港だけでなく、あらゆる旅行シーンで顔認証技術を活用し、シームレスにさまざまなサービスを提供・享受できる新しい概念についても検討が進んでいます。

次章からは、空港での顔認証技術の導入事例と併せて、デジタル化された将来の空港像について紹介します。

2. NECの空港での取り組み

NECは世界中の空港で、世界No.1の顔認証技術1)を活用した、Fast Travelの実現に向け取り組んでいます。

2.1 海外の空港での取り組み

2016年、米国を代表する大規模空港であるジョン・F・ケネディ国際空港(所在地:ニューヨーク)に、入国審査用のシステムでパスポートと旅行者が同一人物であるかのチェックを行う、NECの顔認証技術が納入されました2)

米国では、セキュリティの向上とスムーズな入国審査の実現を目的として、国土安全保障省 税関・国境取締局(以下、CBP)が全米の国際空港における出入国管理を強化しています。米国からの出国者の身元を確認するために連邦政府による生体認証を活用した出国プログラムを行っており、本プロジェクトはその活動の一環です。

2017年には、CBPと、ワシントン・ダレス国際空港でエミレーツ航空が運営する搭乗ゲートにおいて、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ行の航空便を対象に、同様に顔認証システムの実証実験を開始しました3)

2.2 日本の空港での取り組み

2019年、成田空港第3ターミナルで、国内初となる新しい税関検査の仕組み「電子申告ゲート」が稼働しました(図1)。

図1 税関電子申告ゲート

入国者による携帯品・別送品申告書の作成の簡易化やスピーディな申告・通関手続きを目的として、入国審査後の税関検査に利用されています。

具体的には、スマートフォン向けに開発された税関申告アプリケーションを用いた携帯品の電子申告を機内などで事前に行い、到着空港についたら、電子申告端末と呼ばれる専用のキオスク端末でアプリケーションに表示されるQRコードとパスポートで顔認証を使って本人確認を行います。この本人確認はシームレスに行われるため、非常にスピーディで簡単です。

更に、旅行者はウォークスルー顔認証を活用したゲートを通過するだけで、そのまま入国できます。

これらにより、税関検査場の混雑緩和と旅客の待ち時間短縮を実現します。

同じ2019年、成田国際空港株式会社(以下、成田空港)は、新しい搭乗手続き「One ID」にNECの顔認証システムの採用を決定しました。

この新しい手続きが実現すると、成田空港のお客様は、空港におけるチェックインなどの最初の手続き時に顔写真を登録すると、その後の手続き(手荷物預け、保安検査、搭乗ゲート)において、従来必要であった搭乗券やパスポートを提示することなく、顔認証で通過できるようになります。

旅行者は搭乗までの煩わしい手続きが軽減され、スムーズに搭乗できるとともに、手続きにおける待ち時間の短縮が期待されます(図2)。

図2 成田国際空港「One ID」システム

本取り組みが評価され、これらのシステムについて「顔認証システム『Fast Travel』」として、2019年日経優秀製品・サービス賞(最優秀賞 日本経済新聞賞)を受賞しました(図3)。

図3 2019年日経優秀製品・サービス賞
(最優秀賞 日本経済新聞賞)

2019年7月、航空連合スターアライアンスとNECは、生体認証を活用した本人確認プラットフォームStar Biometrics Hub(スターバイオメトリクスハブ)の開発において協業を発表しました4)

NECの顔認証技術が活用された本プラットフォームにより、スターアライアンスは、旅客のシームレスな搭乗手続きや新たなサービスを実現する予定です。

アライアンス加盟社のフライトを利用する旅客であれば、特定の空港に限定されることなく、世界中の空港での体験価値向上が期待されます。

これら旅客の体験価値向上は空港にとどまるものではありません。空港の外への価値体験拡大も新しい取り組みとして注目されています。

2.3 空港から街中へ

株式会社南紀白浜エアポートなどとともに、2019年1月から南紀白浜で行っている「IoTおもてなしサービス実証」では、空港、ホテル、観光施設、商業施設などで、スマートフォンから登録した顔画像やクレジットなどの情報を基に、顔認証を活用してさまざまなサービスを利用することができます(図45)

図4 南紀白浜IoTおもてなし実証

手ぶらでの新たな観光サービスの実現に向けて取り組みを進めています。

3. Fast Travelから「NEC I:Delight」へ

このように顔認証をはじめとする生体認証技術による共通のID(Digital ID)を活用して、複数の場所やサービスにおいて顧客への一貫した体験の提供を目指す「NEC I:Delight」というコンセプトを2019年11月に発表しました。

南紀白浜の事例のように、顔認証で観光に関するさまざまなサービスを享受できるようすることはもちろん、通勤からはじまる会社生活や日常のお買い物、社会公共サービスまで、さまざまなシーンでの活用を考えています。

ここで、実現すべきポイントは、安全・安心・快適です。

生体認証の活用により、なりすましなどの不正を抑止する「安全・安心」と、IDカードや乗車券といった媒体を保持する必要がなく、提示・確認する手間も不要となる「快適」を実現します(図5)。

図5 Digital IDが生み出す新たな価値

3.1 New Normal時代のDigital ID

一方、COVID-19による社会環境の急速な変化のなかで、安全・安心への概念も大きく変化しています。

リアルの場であっても、3密回避による感染抑止対応などによって、人々の不安を抑止し、さまざまなサービスを継続的に提供し続ける、社会活動を停滞させない仕掛けや工夫はますます重要になってきています。

生体認証を活用したDigital IDは、媒体をかざす、通すなどの接触が不要であり(タッチレス化)、写真と本人を見比べる対面による本人確認作業なども必要ないことからセルフサービス化も加速できると考えられます。

これにより、接触や対面による感染のリスクが低減できるといった、新たな価値が創出できます。

3.2 NEC本社ビル実証実験での取り組み

NECは、2020年7月より本社ビル(東京都港区)で、DXを活用したNew Normalの働き方についての実証実験を開始しました。

この実証実験では、単純に顔認証によるタッチレスな入退場などの仕組みを実現する、といった取り組みにとどまらず、より積極的なCOVID-19対応、例えば体表面温度検知やマスク対応といった新しい技術の融合にも、挑戦しています(図6)。

図6 NEC本社ビルでのシステム実証

この実証実験を通して、品質面やサービス面での改善とノウハウの蓄積を重ね、新たなDigital IDサービスを創出、展開していくとともに、Fast Travelなどにもフィードバックし、改善をはかっていく予定です。


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参考文献

執筆者プロフィール

太田 知秀
クロスインダストリー事業開発本部
部長
石原 一雄
第二都市インフラソリューション事業部
シニアマネージャー
岩田 淳
セーファーシティソリューション事業統括本部
上席事業主幹
鳥居 聡
第一官公ソリューション事業部
マネージャー
平本 憲由
クロスインダストリ―事業開発本部
マネージャー
田川 理沙
クロスインダストリ―事業開発本部

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