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NECが目指すFinTechの全体像
近年、Finance(金融)とTechnology(技術)の融合により革新的な金融サービスを表す言葉としてFinTechは生まれました。FinTechは、技術進化が加速し、革新の度合いも飛躍的に向上、その結果、金融にとどまらず業界の枠を超えた、これまでにない革新的なサービスとして、社会のイノベーションを加速する可能性を秘めていることから注目されています。
本稿では、NECが考えるFinTechのコアとなる先進技術への取り組みと、この技術により提供される社会価値について概説します。
1. はじめに
FinTechという言葉が当たり前になった昨今、金融サービスは、技術の進化とともに、革新を急速に進め、これまでにない金融サービスが次々と生まれています。
FinTechのコアとなる先進技術や、この技術を使ったソリューション開発には、実証検証のフェーズにあるものも多々あり、どの企業も、One To ManyのOneを目指して、激しい競争を日々繰り広げています。
また、競争相手も従来の競合相手だけでなく、金融機関以外の異業種企業やスタートアップ企業、国内だけでなくグローバル、など多種多様です。
このような環境下において、革新のスピードに対応するには、自前主義を捨て、自身のストロングポイントを把握したうえで、社会に提供する価値面積が最大となるように、ウィークポイントを補完し、プラスアルファをもたらす協業や提携など、Win-Winの関係を、競争と共創の世界の中で柔軟に対応し、イノベーションを起こしていく必要があります。
2. FinTechのコアとなる先進技術と社会価値
NECでは、FinTechへの取り組みとして、『AI』『ブロックチェーン』『サイバーセキュリティ』『IoT』の4領域に注力しています。また、4領域に関連し、『ロボティクス』『モバイル高速開発』『生体認証』も併せたこれらの技術要素により創出するソリューションにて、新たな社会価値創造の実現を目指しています。
FinTechを構成する技術要素のサマリは次の通りです。なお、詳細は本特集の各論文で説明します。
2.1 人工知能(AI)適用による金融サービス高度化
最初は人工知能(AI)です。金融業界では、デジタル化されたサービスの出現とともに、大量のデータが蓄積されています。また、顧客接点が人対人から人対システムへとシフトしたことで、対面で実施していた顧客理解を人間の五感からAIによる高速データ分析へシフトし、更に今まで気が付かなかった新たな規則性を発見する技術として、AIが利用できるようになってきています。
金融機関において、AIはデータ分析の分野で広く適用されています。
- (1)ディープラーニング技術である『RAPID機械学習』は、融資やローンの審査に利用することで、高精度なリスク軽減された業務実現が可能です
- (2)予測の根拠も併せて示す『異種混合学習技術』は、カードの不正利用、保険金の不正請求、不正送金などの不正検知での利用が検討されています
- (3)文章の意味でマッチングする『テキスト含意認識』は、お客様の声を分析、高速にfeedbackしサービス品質向上に利用されています
また、データ分析前のデータ準備作業を自動化し、圧倒的な省力化を実現するAI技術も実用化に向けて動き出しています。
2.2 ロボットとAIの組み合わせによる顧客コミュニケーション高度化
このようにAIが金融業務に利用されるなか、サービスロボットの分野においても、AI、特に認証技術とのサービス連携により、ロボットが接客・警備・福祉などで活用され、顧客コミュニケーションの高度化を実現しています。
- (1)ロボットと顔認証技術との連携により、個人を特定しパーソナライズされたリコメンデーションの実現が可能です
- (2)ロボットと画像認識技術との連携により、物体を特定し、物体に関連する世のなかの動的な情報と組み合わせにより、顧客へ多様な情報を与えることが可能です
- (3)ロボットと話者照合技術との連携により、カメラの感度が悪い環境においても、利用者に意識させずに声で個人を特定でき、パーソナライズされた対応が可能です
ロボットには、人間相手ではないことから、相対する自分が感じる心理的なハードルを下げ、円滑なコミュニケーション効果も期待されています。また、認証時間の短縮化に向け、認証技術が具備する機能とエッジ機能により、ロボットとのコミュニケーションが、人間と同等レベルの実現に向けて動き出しています。
2.3 スケールと秘匿化機能を補完したブロックチェーンによる企業間連携
昨今、金融機関で注目されているブロックチェーンは、中央管理者を持たずに、安価なサーバに分散してデータを保持し、データの消失や改ざんを発生させることなくデータを管理する技術です。
金融機関は、システム投資や、運用のコスト削減、改ざんを発生させないことから不正を検知する機能もブロックチェーンに期待しています。
プラットフォームとしてはHyperledgerFabricとEthereumに代表されますが、商用化に向け不足する機能は多い状況です。
NEC独自のブロックチェーン技術であるサテライトチェーンにより、スケーラビリティ制限とプライバシー保護不備の課題をクリアしています。
複数のステークホルダーが存在する業務のブロックチェーン化の実現が、金融業界だけでなく、さまざまな企業間連携を革新的なステージへ押し上げていきます。
NECは、実証実験を通じて、洗い出された課題や制約事項を整理し、課題解決に向け順次研究開発を継続しています。
2.4 APIドリブンな高速開発によるモバイルファースト実現
最先端のテクノロジーを駆使する金融システムでは、技術革新により生み出される新たな金融サービスと、サービス間連携によるサービスの高度化に向けた取り組みが加速し、そのためのアプリ開発はAPI連携を活用し、サービス提供端末はモバイルへシフトしています。
NECはモバイルアプリ高速開発基盤の整備に取り組んでおり、
- (1)開発基盤として、『APIドリブン開発』により、ライフサイクルを意識し、進化の早いUIとビジネスロジックを分離
- (2)『モバイルアプリ開発プラットフォーム』により、ウェブアプリとネイティブアプリのブリッジ機能の提供
- (3)『高速モバイルアプリ開発ツール』であるリアルタイム開発デザイナーにより、APIを活用し、UIを実アプリにて動作させ確認しつつ、付加価値の高いモバイルアプリの早期実現
を図ります。
また、API部品として、スマートデバイスに特有の機能を最大限に活用するSDEスマートデバイスAPIにて、
- (1)セキュリティ強化
- (2)OS・デバイス連携
- (3)クラウド連携
- (4)UI強化
を準備し、サービスとして
- (1)FIDO生体認証
- (2)APIゲートウェイ
- (3)各種バックサービス
の提供を予定しています。
NECはこれらの基盤、API、サービスを集約したSoE領域の新プラットフォームを提供していきます。
2.5 サイバーセキュリティ対策推進による金融機関全体の安全・安心の底上げ
サイバー攻撃・犯罪は世界的に増加傾向にあり、被害は拡大しています。重要インフラ事業者である金融機関はサイバーセキュリティ施策を計画的に進めていますが、今後日本で開催される国際的なビッグイベントに向けサイバー攻撃のリスクが更に高まりつつあります。
最新の金融機関向けのサイバーセキュリティの脅威として特出すべきものは、
- (1)IoT機器によるDDoS攻撃
- (2)ランサムウェアによる身代金請求
- (3)マルウェアによる不正送金
であり金融庁は、金融行政方針においてFinTechへの対応と併せ、サイバーセキュリティの一層の強化を金融機関に求めています。
NECは、金融機関への取り組み施策として
- (1)経営層への働きかけと人材育成支援
- (2)サイバーセキュリティリスク管理支援と技術対応策の検討
- (3)関連団体との情報公悪寒と情報提供サービスの実施
- (4)サイバーセキュリティ総合運用支援
を展開し、金融機関に対して、安全・安心なソリューションを提供していきます。
2.6 生体認証を利用したモバイルマルチモーダル認証の実現に向けて
金融機関での利用が推進されるFinTechサービスは、複数のステークホルダーによる連携が増えるため、安全・安心な利用には、従来の金融システムに要求される以上の、高度な、強固なセキュリティを確保することが必須となっています。
金融機関では、従来のID・パスワード認証方法に潜むセキュリティリスクを解決する技術として、生体認証に注目しています。また、サービスを提供するデバイスは、カメラや、指紋センサーが標準搭載されているモバイル端末へシフトしており、生体認証の活用が容易な環境にあります。そして、NECは、40年以上にわたり生体認証の研究開発及びビジネスを実施し、世界一の技術を保有しています。
NECは、生体認証技術をモバイル端末に活用した新しいオンライン認証技術であるFIDOと、NECの独自セキュリティ技術、NEC誇るAI技術を活用した生体認証エンジンの組み合わせにより、マルチモーダル認証の実現に取り組んでいます。マルチモーダル認証は世界の金融機関における本人確認技術として利用拡大が見込まれるソリューションです。
2.7 ウェアラブルデバイスを用いた安全・安心・便利な見守りソリューション
近年、IoTを活用したソリューションは製造エネルギー分野を対象にしたものや、ホームセキュリティなどの家庭を対象にしたものが先行しています。
金融分野においては、ライフケア・ヘルスケアや自動運転システムへの適用検討とともに、保険とテクノロジーの融合としてインシュアテックという言葉が注目されはじめ、保険商品の開発が積極的に行われています。
この流れを背景にNECでは、ウェアラブルデバイスを用いたIoT見守りソリューションとして、デバイスに必要な機能やIoT基盤に必要とされる機能まで含め開発に取り組んでいます。
また、IoT基盤は、本稿で紹介する『AI』『ブロックチェーン』『サイバーセキュリティ』『ロボティクス』『モバイル高速開発』『生体認証』の技術要素をすべて取り込みます。
NECは、見守りソリューションをNECのIoT基盤上に、
- (1)『リアルタイム性』:リスク予兆をタイミングよく検知・通知する
- (2)『利便性』:日常生活上の不快・負担とならない
- (3)『秘匿性』:慎重な取り扱いが必要な生体データの保護
を具備した、人間の安全・安心な暮らしに貢献する最適なソリューションとなるよう開発を加速させます。
2.8 FinTech事業推進組織
これらのFinTech関連事業を推進するために、NECは2016年4月に『FinTech事業開発室』を設置し、社会課題の解決を目指した新たな金融サービスの開発を推進してきました。さまざまな産業のデジタル化や消費者ニーズの多様化により、金融機能のデジタルイノベーションの推進が期待されており、こうした期待に応える新規サービスの創出に取り組んでいます。
一方で、FinTechを構成するコア技術への取り組みを強化するため、2017年4月に『金融デジタルイノベーション技術開発室(FDIT)』を新設します。先進技術の調査・検証に特化した専任組織として、技術動向・業界動向調査、技術検証・課題抽出、システムモデル開発、顧客企業との実証検証、情報発信などの活動を担い、優れた技術を有するパートナーとも積極的に連携し、多様化するお客様のニーズに迅速に応えていきます。
これら2つの組織が、事業創造と技術力強化の両輪として機能することにより、金融業界における成長領域での事業拡大を加速します。
3. FinTechの今後に向け
FinTechに代表される金融サービスの革新の中で、NECは、FinTechの進化に追随するのではなく、先んじて技術情報を提供していきます。
NECが保有する技術とソリューションだけでなく、グローバルな動向を意識し、研究機関やスタートアップ企業など外部との幅広い連携をもとに、社会価値創造企業として、金融機関のお客様との共創を通じて、『安全』『安心』『効率』『公平』な社会作りに貢献し、金融業界にとどまらず、社会全体のイノベーションの加速に貢献します。
- *FIDOは、FIDO Allianceの商標です。
- *その他、記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。