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No.3(5月) ディペンダブルIT・ネットワーク特集/映像表示技術特集
Vol.59 No.3(2006年5月)
ディペンダブルIT・ネットワーク特集
わが国の情報通信インフラストラクチャは、ユビキタス社会に向けてオールIP化への移行という大転換期を迎えています。インターネットの急速な普及によって、世界トップレベルのブロードバンド環境が築かれ、今後はオールIPによる次世代網(Next Generation Network: NGN)の構築が進められようとしています。このようなNGN元年にある現在、NECは情報インフラとして必要不可欠な安心・安全性を、情報技術(Information Technology: IT)とIPネットワークの融合という観点から、いかにして具現化するかに注力しています。
本稿では、まずディペンダブルIT・ネットワークとはどのような考え方によるものなのかを簡単に説明した後、本特集で紹介する諸技術について概要を述べます。
ネットワークプラットフォーム技術領域
次世代ネットワークでは、トランスポート、ネットワークサーバ、ネットワークサービス、企業網ネットワークにおいてそれぞれ異なるセキュリティ対応が求められます。特に10Gbps以上のブロードバンド環境において高度なセキュリティ機能を実現するためには、ネットワークプロトコル処理、コンテンツチェック処理、大容量通信セッションの同時監視機能などにおけるブレークスルーが必要になります。これらを実現する技術として、セキュリティエンジン技術および付随するAPI/ドライバ技術を開発したので報告します。またAPI/ドライバを活用したシステムソリューションとして、10Gbpsの侵入検知システム(IDS/IPS)と高性能な迷惑メール対策システムを紹介します。
PSTNの代替として期待されるVoIPは、高い信頼性をもつ(ディペンダブルである)ことが要求されます。ディペンダブルなVoIPサービスを提供するためには、正当なVoIPトラフィックとそうでないトラフィックをきちんと識別し、帯域制御やフィルタリングといった通信制御を行う必要があります。NECでは、トラフィック制御の鍵となるトラフィック識別技術として、ポート番号やシグネチャに依存せずにパケットの送受パタンを分析するトラフィック識別技術を開発しました。本技術をトラフィック制御装置に適用することにより、VoIPトラフィックの品質を阻害するP2Pアプリケーションを的確に識別し通信制御を行うことで、ディペンダブルなVoIPサービスを実現できます。
ディペンダブルネットワークを形成するノードでは高可用性が求められ、そのため冗長化構成が用いられます。それには、どのようにノードの構成要素を切り分けてモジュール化するか、ならびに、いかにモジュールを組み合わせて高可用システムを構成するかが重要です。
本稿では、光インターコネクション技術によってもたらされる「筐体を超えた冗長構成」を紹介します。さらに、その上で、個々のモジュールごとの故障リスクや、モジュールの実装位置に依存する同一障害リスクグループという「物理リソース情報まで考慮した冗長構成自動化技術」が動くことで、リソース使用率を同じに保ちながら、2倍の可用性が実現できることを示し、これらの技術要素を集約したGeneration-Free-Platformの先進性を述べます。
サンプリング技術によるセッションごとの品質計測技術について述べます。様々なアプリケーションを収容し、ますます多様化するIPネットワークにおいて、多地点かつ詳細に品質計測を行うシステムを提供することは、ディペンダブルなネットワークを構築するための重要な要素の1つです。本提案技術は、コスト的に数多く配置できないという従来プローブの問題、および詳細な品質監視ができないというMIB監視の問題を解決し、ディペンダブルなネットワークの構築に大きく寄与するものです。
携帯電話や無線LANの普及に伴い、今後はライフラインとしてのディペンダビリティの向上が強く求められていきます。本稿では、現在標準化が進行している次世代携帯電話システムにおける高信頼化技術を紹介するとともに、オープンで安価な無線通信を提供する無線LAN/WiMAXにおけるディペンダビリティ向上への取り組みに関して紹介します。
キャリア網を取り巻く環境は変化しています。通信主体や通信内容が変化し、ネットワークや端末の能力は飛躍的に向上しました。またオープン化された技術によって構成されるとともに、様々なアプリケーションを取り込んだプラットフォームへとその役割も移り変わります。本稿では、変化する環境のなかでキャリア網としての要件を満たすために取るべき対策として攻撃防御、激甚対策、トラフィック制御、運用管理の4つのソリューションを紹介します。
ITシステム技術領域
IT機器がユビキタス社会を支えるライフラインとして社会インフラに浸透していくにつれ、ディペンダブルなシステムとしてこれまで以上に高い信頼性が求められてきています。
今年2月に発表されたftサーバはこのような高い要求に応える堅牢性・可用性を業界標準のオープンなプラットフォーム上に実現することを目標に開発されました。ここではその中核となる新開発のLSI "GeminiEngine"の特徴と重要なテクノロジについて紹介します。
ブロードバンドや携帯電話の普及により、ITシステムの利用度が高まるに伴い、その障害が引き起こす影響も大きくなっています。使いたい時に、使いたいサービスが、期待したレベルで使えるITシステム、すなわちディペンダブルなITシステムの構築には、高可用性の考え方が重要です。ハードウェアの経年劣化やOS、ミドルウェアなど複雑かつ多彩なソフトウェア群の不具合など、障害の要因は多様です。計画停止と予期せぬ停止、いずれが発生してもサービスを止めない、あるいはサービスダウンタイムを極小化するITシステムの実現には、しかるべき構築技術が必要です。本稿では、フェールセーフを前提としたITシステム構築技術を概説します。
企業の基幹業務の電子化の進展とともに、データ保管の重要性が高まっています。NECではテープの代わりにディスクへデータを保管する次世代データリポジトリシステムを開発しました。本システムはディスクの特長である高性能/取扱いやすさを備えながらも、テープ並みのコストを実現しています。そのキーとなる「重複排除技術」「耐障害技術」「スケーラブル技術/自律管理技術」について紹介します。
システムデバイス技術領域
今後のデジタル家電や携帯電話、車載システムでは、出荷後のソフトウェア追加による機能拡張が必要となると考えられています。本稿では、そのようなシステムを堅牢にする非対称型マルチコアプラットフォームFIDESについてご説明します。このFIDESプラットフォームは、マルチコアによる高性能性と省電力性だけでなく、システムの基本機能と、ダウンロードアプリケーションなどの追加機能とを、物理的に異なるプロセッサ上で実行することで、より高い信頼性を実現します。
ユビキタス時代のIT端末や装置には高い利便性と同時に安心さ・堅牢性が求められ、そこで用いられるシステムLSIにも信頼性への要求が一層高まります。一方で、高性能化が続く最先端LSIではデバイス微細化が物理的限界に近づきつつあり、経年変化や回路誤動作をいかに防ぐかが重要な課題となりつつあります。ここではスーパーコンピュータや広い温度環境で信頼性が求められる車載用途などに向けて開発してきたLSI高信頼化技術の開発成果を紹介します。
映像表示技術特集
情報量の多い映像情報は、デジタルコミュニケーション時代の主役です。その映像情報を表示する技術の開発テーマは非常に多岐にわたりますが、ディスプレイ分野とプロジェクタ分野に注目が集まっています。本特集では、NECグループにおけるディスプレイとプロジェクタの開発動向および商品を紹介します。ディスプレイ分野では、主に付加価値の高い液晶ディスプレイ(LCD)製品を実現する技術を取り上げ、プロジェクタ分野では使われるシーンに応じた使い勝手の提案や機能のインテリジェント化をめぐる技術動向と商品を紹介します。いずれも“デジタル映像コミュニケーション”の可能性を最前線で切り開くNECグループらしい内容です。
ディスプレイ
「マルチディスプレイ」は、デスクトップ領域が広がることにより一度に表示できる情報量が増え、作業性が向上します。マルチディスプレイ環境は、単体使用時には気づかなかった差を認知しやすくなり、色やムラ、画像の切れなどを精度良く補正できるディスプレイへの要求が高まりました。一人が数台を使用する環境は、基本的に筐体枠(ベゼル)の幅が狭いことが必要です。さらに台数が増えると「設置しやすい」ことも求められます。均一な表示性能と設置性の良さは、エンドユーザを始め、マルチディスプレイ環境を実際に構築する施工者や、そのシステム開発者にもメリットをもたらします。
液晶パネルの高輝度化・高コントラスト化は医用分野のディスプレイにおいて、CRTから液晶パネルへの交代に大きくはずみをつけています。しかし複数の液晶ディスプレイの白色点をそろえることや経時変化により白色点がずれることは、ディスプレイ間での相対画像評価を行う医用の世界においては、コストやサービス費用の増加をもたらします。本機は白色点を調節できる「新バックライトシステム」の開発により、安定した白色点および輝度での長期間使用を可能にしました。また、高輝度・高コントラストのSA-SFT液晶パネルの採用と11.5ビットガンマ回路、内部キャリブレーションシステムにより、的確な医用画像診断をサポートするディスプレイを提供します。
印刷業界において課題とされている色再現を、効率良く運用する手段として、カラーマネージメントがあります。これは、スキャナやデジタルカメラなどの入力デバイス、ディスプレイやプリンタなどの出力デバイス、そして最終印刷に至るまでの工程において色再現を管理するためのトータル技術になります。このカラーマネージメントにおいて、ディスプレイには色の仕上がり確認を、長時間、安定して行える表示性能が求められています。このため、従来のディスプレイよりも広い色再現域と優れた輝度・色度安定性を実現した高視野角液晶ディスプレイを開発しました。
一般的な液晶パネルの製造工程では、液晶をガラス基板の間で一様に配向させるために、バフ布で基板を擦る技術(ラビング法)が用いられています。本稿で紹介する「イオンビーム配向技術」とは、このバフ布の代わりに、高速に加速されたイオン性粒子のビームを用いる技術です。極めて微細で高密度な処理を行うことができるため、高いコントラストとなめらかな画質を実現することができます。本技術の開発において鍵となる液晶の配向規制力については、新規に確立した評価技術を用い、材料やプロセス条件への依存性を評価して最適化を行いました。試作した液晶パネルでは、1,200:1(従来比25%UP)のコントラスト比が得られています。
液晶表示機能とドライバLSI機能をガラス基板上に一体形成したSOG-LCDは、ブロードバンド時代のパーソナル/モバイル機器に最適なディスプレイとして期待されています。本稿では、高画質/高機能化とドライバ集積化という2つの大きな技術トレンドに沿って、NECおよびNEC液晶テクノロジーで開発した最先端のSOG-LCD技術を紹介します。これらSOG-LCD技術は、ユビキタス時代に求められるディスプレイを支える基盤技術として発展していくものと期待されます。
プロジェクタ
情報を拡大投写するフロントプロジェクタは、高輝度・高解像度化が進み、小型で設置性に優れたプレゼンテーションツールとして、市場拡大を遂げてきました。NECでは、さらなる性能向上をめざし、投写光学系に屈折型レンズを使用せず、反射型光学系(非球面ミラー)のみで構成したフロントプロジェクタを開発しました。本投写光学系は、4枚の非球面ミラーを搭載し、わずか0.65m という投写距離で100 インチの大画面を投写可能な超短焦点を実現しています。
近年、無線LAN環境の導入が急速に進んでいます。無線LANの実効レートは、IEEE802.11bで4-6Mbps程度ですが、当社では、独自の圧縮・伸長アルゴリズムの開発、PC画面のキャプチャ、およびデータ伝送方式の最適化により、無線LANの限られた帯域でも快適に使用できる無線LAN対応プロジェクタを実現しています。併せて、無線LAN対応プロジェクタならではの新しい使い方を提案しています。
インテリジェントプロジェクタiPシリーズ(以降iPシリーズプロジェクタと略す)は、高解像度な書画カメラ機能と、プレゼンテーションソフトウェアiP Viewer(以降iP Viewerと略す)を内蔵した日本アビオニクス独自のプロジェクタです。
書画カメラ機能を使用することで紙資料やサンプルなどをそのままプロジェクタから投写できます。また、内蔵のiP Viewerにより投写データの取込・加工が行えます。本稿ではiPシリーズプロジェクタの最大の特徴である書画カメラ機能とiP Viewer機能を中心に製品の紹介を行います。
導入事例
沖縄県で3つのシネマコンプレックスを運営する國場組様は、3つめの施設建設に際して集客力アップをめざし、県内で初めて最新のDLP Cinema○Rプロジェクタを本格的に導入しました。観客には画像のきれいさ、鮮明さが好評であり、運営側にはオペレーションの手間の削減という大きな効果が得られています。國場組様は映画作品デジタル化の動向を踏まえ、今後もデジタル化を推進し、効率的な運営と多彩なコンテンツ提供を計画しています。
横浜駅に隣接する交通至便なビルに位置する横浜シティ・エア・ターミナル様(略称:YCAT)は、新たにバス運行状況を表示するインフォメーションボードを46型の大型液晶ディスプレイにリプレースしました。その決め手となったのが、明るい場所での優れた視認性や豊富な機能、そしてコストパフォーマンスのよさでした。お客様や社員の方からも高く評価されていますが、YCAT様ではテロップによりお客様に役立つ情報を随時流す予定です。
情報の洪水の中からいかにして消費者の目に留まる広告を打ち、自社商品の購買につなげるか多くの企業が悩みを抱えています。
そこで、ITを活用した情報メディアを用いて消費者の目を引くコンテンツを作成、さらにコスト削減にも効果があるという新たな考え方、それが「Digital Signage(デジタルサイネージ)」です。「DigitalSignage」とは「従来の紙ベースの掲示物、表示物を電子データ化し、大型LCDなどの大型表示機器に文字、絵、写真として効果的に掲示、表示する」という考え方です。
NECグループが市場をリードする、この「Digital Signage」を導入するメリットには次のようなものがあります。
普通論文
次世代薄型ディスプレイとして期待されてきた有機ELの携帯機器への採用の動きが活発です。有機ELが本来持っている、薄型、高効率、低電圧駆動、自発光などの特徴が活かされた用途です。NECライティングでは、その有機ELを照明用光源として応用すべく開発を進めています。光源・照明用途では、ディスプレイへの要求特性に加えて、白色光源化が必要であり、有機EL材料、素子構造など検討を進めてきました。また、得られた白色有機ELに対して、演色性や色温度など、照明特有の要求特性について評価してきました。今後、有機ELを照明として社会に提案していくには、さらなる高輝度・高効率化が必要です。
本稿では、無線センサーネットワーク(WSN)におけるデータ収集および処理のためのセキュリティソリューションを解説します。中規模および大規模WSN向けの適切なセキュリティ機能は、これらのネットワークを市場に向けて準備するには困難を伴いますが、欠くことのできない達成目標です。そこで本稿では、WSNのセキュリティおよび信頼性に関する課題の概要、そして、このような枠組みを支えるツールボックスのコンセプトについても紹介します。