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企業価値向上に資するサステナビリティ戦略とは

※本ダイアログは2024年6月に実施しました。

2022年からスタートした「NECサステナビリティ・アドバイザリ・コミッティ」は、社外有識者との定期的な対話をとおし、自社のサステナビリティ経営の方向性の確認と取り組み改善につなげることを目的に開催しています。今年度からは、サステナビリティ経営の実践に向け、より具体的なイメージの醸成を企図し、社外有識者として新たに、当社事業にも精通されている三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社専務執行役員の堀井 浩之氏に参画いただくことになりました。
通算6回目となる今回は、「企業価値向上に資するサステナビリティ戦略とは」をテーマに、CFOでサステナビリティ推進担当役員である藤川のほか、CSCO(チーフサプライチェーンオフィサー)かつ全社リスク統括担当役員の田熊、CRO(チーフリスクオフィサー)の為房らが参加し、サステナビリティと成長戦略およびリスク管理とを統合した経営をどのように行っていくかについて、有識者の皆さまと対話しました。

サステナビリティ推進体制のあり方について

NEC 取締役 代表執行役
Corporate EVP 兼 CFO
藤川 修

藤川 本日は次の2つを諮問したい。
1つは、これまでの経営企画部門を、サステナビリティと経営戦略との一体的な推進に向け、経営企画・サステナビリティ推進部門と改称し、顧客のサステナビリティ課題を踏まえた成長戦略を実行するためにも、事業部門やグループ会社を巻き込んだ取り組みに深化させていくということ。
2つには、2023年度のサステナビリティ推進の取り組み実績をふまえ、人権関連テーマでの取り組みに課題があるということ。
1点めについては、次のような体制に整理し、本日参加している部門長の菅原が取り組みをリードすることを明確にした。

図:体制
NPO法人NELIS 代表理事
ピーター D. ピーダーセン氏

議長:ピーダーセン氏 まずはサステナビリティ経営推進体制のあり方をテーマに討議したい。

三井住友トラスト・アセット
マネジメント(株)
専務執行役員
堀井 浩之氏

堀井氏 サステナビリティと経営企画の部門一体化はとても良いことだと思う。私自身、CSSO(チーフ・サステナビリティ&ストラテジー・オフィサー)という形で経営に携わっている中で重要性を身に染みて感じている。また、サステナビリティ実現のために、人的資本戦略と経営戦略を密接に運営していくことも大切だと考えている。人事や経営企画の仕事の中には、なくてはならない、ミスが許されない業務と、トライアルやチャレンジで5年後10年後に芽が出るような業務がある。人事であれば労務管理と人的資本戦略がこの区分に該当すると考えるが、人的資本戦略をサステナビリティ経営企画にマージしながら動かせると、本当の意味での一体経営ができるのではないかと思っている。

藤川 これまで2回連続でESG Dayのトピックとして人事のテーマを取り扱ってきた。データドリブンでの人的資本分析にも取り組んでいるが、さらなる連携を進めていきたい。

堀井氏 コーポレート部門はサステナビリティに対する理解度が相応に高いと思うが、事業部門やグループ会社、取引会社に対して、NECのサステナビリティの考えがどこまで浸透しているのか気になるところ。この考え方がしっかり浸透していないと、せっかくの活動が違う方向に向かってしまうリスクがある。また、投資家としては、サステナビリティに関する外部の変化をどのように情報収集し、どのような形で経営の中に取り込み、グループ内や取引会社にどう浸透させているのかという流れも大事だと思っている。

NEC 執行役 Corporate EVP
兼 CSCO
田熊 範孝

田熊 お取引先とのコミュニケーションについて、NECでは「NECグループ調達基本方針」に基づく「サプライチェーンにおける責任ある企業行動ガイドライン」に沿った取り組みを推進いただけるよう、働きかけを行っている。アンケート調査(SAQ)にもご協力いただいており、潜在リスクがありそうなお取引先に対しては、実態を把握したうえで取り組みの改善をお願いしている。また、グループ経営という点では、リスク観点で、CROを責任者に、グループ会社まで含めたガバナンス状況をリスク・コンプライアンス委員会でモニタリングしているほか、グローバルのリスク情報も共有している。

藤川 過去に新事業を担当していた経験からも、機会とリスクの双方で外部の声を拾うことの重要性を認識している。その一環で、今年4月に経営企画と外部情報のリサーチ機能を持つマーケットインテリジェンスの部署を統合した。現場の声を拾い上げ、戦略を練るところに外部の知見を取り入れ、外部変化にも柔軟に対応できる経営戦略を実行していきたい。

人権尊重の取り組みは、次のフェーズへ

ピーダーセン氏 続いて、人権課題について議論していきたい。労働安全やハラスメントが、NECの重点対策リスクとなっているとのことだが、どのような実態なのか?

NEC
エンプロイーリレーション統括部
シニアディレクター
原田 郁子

原田 労働安全の領域は幅広いが、国内における長時間労働が最重要課題と認識している。これまでNEC は比較的自由な働き方、自律的な働き方を推奨してきたが、コロナ禍を経て、管理職層を中心に過重労働が散見されるようになり、コントロールが必要になってきている。また、ハラスメントの通報件数も増えている。通報件数が増えていること自体は悪いこととは思っていない。ホットラインの整備と周知徹底を進めてきたことにより、ようやく声をあげられるようになってきている証左ととらえている。通報されたものはすべて適切に対処している。また、従業員就業規則に照らして懲戒処分を行い、当事者のプライバシーに配慮した形で社内公示し、再発防止につなげている。すぐには改善につながらないかもしれないが、今後は国内外のグループ会社含め、取り組みを強化していきたい。

BSR(Business for Social Responsibility)
マネージング・ディレクター
永井 朝子氏

永井氏 2019年度からNECのコーポレートレベルでの人権影響評価を支援している。また、サプライチェーンにおける人権についても定期的にお話を伺っており、今までのお取り組みについて、高く評価している。しかし、ここからは今までと同じペースでは間に合わないフェーズになっているということを本日お伝えしたい。その理由は大きく2つある。
1つは、サプライヤーやビジネスパートナーとしてのNECに対して、お客さまが求める人権に関する要求がより厳しいレベルに上がっているということ。要求を満たさない相手と付き合うことはコンプライアンス違反になるので、取引先から外されてしまうということが起きてくる。
2つには、EUのコーポレート・サステナビリティデュー・ディリジェンス指令(CSDDD)のインパクトである。2024年4月にEUで可決し、EU各国での法制化の準備が進んでいる。適用開始は3~5年後で、準備期間はあるが、最終的にはNEC本社がグループ全体で対応する必要があるだろう。サステナビリティの規制なので、テーマとしては人権のみならず、気候変動をはじめとする環境の領域も対象となる。そして、UNGP基準に照らすと、取り組みの範囲はバリューチェーン全体、すなわち、上流のサプライチェーンから下流のお客さままでと幅広い。さらに、賠償責任も現段階ではかなり厳しく設定されている。
人権デュー・ディリジェンス(人権DD)は一般になじみが薄い。バリューチェーン全体で見たときに、人権視点でどこに潜在的な影響・リスクがあるかを特定し、どのようにそのリスクを低減できるかを考える。そしてその実行のための方針を策定し、実際に事業のプロセスでリスク低減のアクションをとり、進捗をモニタリングし、情報開示していく。この一連のPDCAを回し続けるのが人権DDであり、リスクの特定だけでは人権DDとはいえない。加えて、UNGPでは実効性ある苦情処理メカニズムとステークホルダーエンゲージメントも求められている。
これまでは、「ビジネスと人権」に前向きに取り組んでいたらプラス、という考え方だったが、これからは、取り組まないと取引関係を切られてしまう、法令違反になる、という違うフェーズに入っていく。 したがって、ここから先は、今後何をやらなければいけないのか、今一度棚卸のうえ、UNGPやILOのようなグローバル基準に確実に準拠した中期計画とアクションプランを作ることを提案したい。実際に取り組もうとすると、各国法に対応するだけでは国際基準を満たさないような社内ルールも多数あるはず。また、バウンダリー(適用範囲)の拡大も必要。たとえば労務領域でも今後は非正規の従業員に対して、どのような取り組みを行っているかも問われるようになる。そしてモニタリングについても、オンサイトでのアセスメントが必要になってくる。

田熊 お取引先の数がTier 1だけで1万社を超えるなかで、すべてのお取引先を回るのは難しい。リスクベースアプローチで潜在的なリスクのあるお取引先に対し、第三者監査も実施しているが、そのようなやり方でよいのか?

永井氏 サプライチェーンを見たときに、どこに一番大きなリスクがあるか、ロジカルにその評価基準や評価結果を説明しきれるかが重要。

原田 国際基準に準拠しようとすると自ずとコスト増につながる。また対応すべきことも多岐にわたるが、どのように優先順位付けすればよいか?

永井氏 より脆弱な立場にいて、よりネガティブな影響を受けやすい人から見ていくというのが望ましい。たとえば、直接雇用ではないため賃金が安く、残業しないと家族が養えないような状況の国の人から見ていく。その次には、低賃金での長時間労働が強いられている可能性のある業務委託先のシステムエンジニアを見ていくなど、評価基準を明確にしたうえで、順々に取り組みを進めていくことが求められる。

投資家はESGの取り組みをどのように評価しているのか?

ピーダーセン氏 ESGの取り組みは株価にプラスになることはなかなかないと言われているが、成長戦略にサステナビリティを統合させることの意義をどう考えればよいか?

堀井氏 我々投資家にとって、中長期的な投資リターンを上げることがお客さまに対する責務であり、そのために投資先企業の中長期的な企業価値向上に資する取り組みが必要である。当社では「ESGへの取り組みを促すこと」「ガバナンスのミニマムスタンダードを満たしていただくための議決権行使」「ベストプラクティスを求めるエンゲージメント」をその活動の3本柱にしている。特にESGの取り組みを促すのは、過去の結果指標である財務情報だけで将来の企業価値を予測・評価するのには限界があるから。将来の財務価値に影響を与えうるESG視点のダウンサイドリスクやアップサイドポテンシャルを、投資先企業がどのように把握し、成長に結び付けようとしているのかを分析することで、経営層のマネジメント力、会社の組織力やビジネス基盤、顧客リレーション、各種投資力等を正しく評価できると思っている。
また、ESGの取り組みが直接的に株価に現れないのは、将来のマイナスファクターを減らしても、その結果としてのメリットがどれだけ出るかが見えにくいから。ESG課題に取り組まずにマイナスファクターが顕在化した結果として株価が下がることは理解されるが、未然に防いだので現状が維持されているという場合の価値の説明はしにくい。それがESGと株価の連関性の低さや分かりにくさに繋がっている。

ピーダーセン氏 ダウンサイドリスクは評価しやすいと思うが、アップサイドポテンシャルとサステナビリティとの関係をどうとらえればよいか。

堀井氏 サステナビリティに繋がるアップサイドポテンシャルを評価する軸の一つはテクノロジーである。この役割を担うのがアナリストだと思っており、したがって、アナリストには成長につながるテクノロジーをしっかりと理解できるところまで業種・業界に精通していることが求められている。もう一つはガバナンスで、経営の考え方がアップサイドポテンシャルの評価軸として重要だと思っている。

ピーダーセン氏 サステナビリティがエントリーチケットに近いということ。昔は、サステナビリティをダウンサイドリスクで見てきたが、アップサイドが少し増えてきているイメージ。アップサイドポテンシャルが増えてきているという見られ方になってきているのか? 新たな市場が出てきて、サステナビリティ×技術でアップサイドが伸長するという見方をされているか?

堀井氏 その見方で良いと思うが、一方でESGやサステナビリティを起点にしたビジネスは世界中で皆が狙っている領域であり、レッドオーシャンの可能性がある。投資家は、その領域で投資先企業がどこまで戦えるかを知りたいが、企業側は戦う前から手の内を明かさないのが普通。その間を取り持つのも産業や企業に精通しているアナリストだと思っている。企業と投資家の間の結節点として、企業が言いたいけど言えない部分、投資家が理解したいけど分からない部分、そこを繋げていくのがアナリストの役目ではないだろうか。

変化にも柔軟に対応し、成長につなげていく

NEC
経営企画・サステナビリティ推進部門
マネージング・ディレクター
菅原 弘人

菅原 サステナビリティの領域は色々なことが進行しているが、その取り組みのあり方は企業によって異なる。NECとして取り組む芯になること、ポリシーを持たないといけない。リスク対応にしても、優先順位付けにしても、芯となる考え方がないと取り組めないということを再認識した。自分たちのポリシーを持って魅力的なストーリーを語っていきたい。

NEC CRO
爲房 孝二

為房 守りのストーリーにも価値がある。リスクマネジメントは起こらなかった未来への価値だと認識している。安定的な経営基盤を支える物語があるか、どのような仕組みがあるかを外部にも分かるように発信できるかがポイント。

ピーダーセン氏 独自のストーリーを、時代に合った体系的なストーリーで示すこと。そのストーリーを投資家は見ている。市場の要請を逆手にとって先進的に取り組むことが、企業価値向上に資するサステナビリティ戦略なのではないか。

藤川 大変示唆に富むよい議論になった。
労働慣行や人権といった取り組み期限が決まっているリスクテーマに対しては、計画をたてて実行していく。加えて、リスク低減だけでなく、機会に変えるという発想で取り組みを高度化していきたい。
また、我々が成長し続けられるか、それがどうできるかといった成長テーマについても、サステナビリティや非財務の領域でまだまだ取り組める余地があると考えている。同じことをやっていてもどういう発信をするかで評価が変わる。
サステナビリティの取り組みを機会に変えていく道のりは険しいが、活動を進めるなかで見えてくることもあると思う。我々自身が変化してもよい。ポリシーをもって、変化にも柔軟に対応して、リスクを低減し、成長につなげていきたい。

全体写真
(後列左から)CFO藤川、CSCO田熊、CRO爲房、原田、菅原
(前列左から)永井氏、ピーダーセン氏、堀井氏