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Nature Positiveに向け、NECが自社および事業で留意、注力すべきこと
※本ダイアログは2023年2月に実施しました。
事業における自然資本の重要性
ピーダーセン氏 自然資本は急速に注目されているトピックであり、いよいよこの場で意見交換ができることを嬉しく思う。2020年代に入ってから「Regeneration & Restoration(再生、修復)」の考えは、全ての事業領域に関わりがあり、現在は事業を行う大前提として認識されている。企業の価値創出にはピラミッド型ヒエラルキーがあり、その一番の土台は自然資本である。
藤川 NECとしても、2021年に発表した「NEC 2030VISION」で環境・社会・経済の3階層を示しており、その土台は、環境である。我々の事業においても、自然資本を含めた環境をベースとした設計を行っている。
足立氏 事業活動においてNature Positiveを実現するためには、保全の強化だけでは不十分である。企業は「持続可能な消費と生産」にどう取り組んでいくかが重要であり、この活動が生物多様性条約の達成に繋がる。
つまり、サプライチェーン/バリューチェーン上でも土地の利用開発や外来種の管理を行い、負荷を減らす取り組みが必要である。
自然資本と人権
永井氏 自然資本は、人間の共存と良質な暮らしにとっても不可欠であり、これらの課題と人権課題は縦割りではなく統合的にみる必要がある。COP15で決まったGBF*では、23の目標のうち6つにおいて先住民や地域コミュニティ、女性、女児などへの尊重・保護などが記されている。このような社会的にマイノリティに属する立場の人々の声を傾聴し、自然資本の減少がそれらの人々にどのような影響を与えるのか、考えることが重要である。
清水 サプライチェーン全体で考えるべき内容であり、事業継続にあたり取引先やパートナーと一緒に取り組む必要がある。自然資本は、カーボンニュートラル、人権という点でも相互に共有すべき内容であることを認識した。
永井氏 NECはデジタル技術を通して課題を解決していくポジティブなインパクトが大きいと思う。お客様との直接の議論で悩みを知ることで、ビジネスの視野が広がるのではないか。ぜひ従業員への啓発やサプライヤー巻き込んだ議論をしていただきたい。
自然資本の情報開示
荒井氏 ESG投資残高は493兆円(2022年)で今後も拡大中であり、企業にとって今後も強力なプレッシャーとなる。
自然資本の情報開示であるTNFDの根幹には、投資家のリスクを低くするだけでなく、ビジネスの流れを変える必要がある。経営層が何を考えているのか、積極的に発信し情報開示することは、投資家にとっても投資判断に繋がるので、双方にとって都合良い。
足立氏 EUタクソノミーには、生物多様性の項目が入っている。デュー・ディリジェンスもあり、EUで物を売る場合、原材料を作る過程で森林破壊につながっていないか、考慮する必要がある。
荒井氏 年々サステナビリティに関する開示規制も厳しくなっている。企業としてどういう目標を持ち、それに向かいどんなアクションをするか、KPIをより明確にする必要がある。海外の先進企業の事例を参考にしてほしい。
気候と変動自然資本の融合
清水 カーボンニュートラルではオフセットという考えがある。自然資本は地域性が重要であると認識しているが、オフセットのような考え方はあるのか?
足立氏 自然資本は地域性が非常に重要であるが、その中でもかなり狭い範囲でオフセットの考え方はある。例えば、米国やオーストラリアでは、30年以上前から新たな工場を建設する際、そのすぐ近くで同じような生態系の場を作り保全することで、生態系をオフセットするという考え方を示しており、大きな市場となっている。
清水 NECは、2023年2月に防災や減災への価値を潜在カーボンクレジットとして研究することを発表した。気候変動にフォーカスしているものだが、防災によって森林などの自然資本を守る上でも価値があると感じている。
足立氏 損害保険会社でも、新しい保険の形を検討している。従来、山火事が起きたときの火災保険は、直接的な損害部分のカバーであったが、それが山火事後の再植林することまで保険の範囲を広げて、どうすれば自然を回復できるか考えている。 気候変動も自然資本も、もはや単独では解決できず、お互いに影響し合っており、両方同時に考える必要がある。
ピーダーセン氏 カーボンニュートラルと自然資本を絡めたClimate-Nature Nexusという考えが浸透し始めており、この「Climate-Nature Nexus」で考えていくことを社内外で宣言することも良い。
パートナーシップ
荒井氏 社外パートナーとの連携も必要であり、ノウハウや情報の専門性を持ったところと共創することで、両社のビジネスで成長を図れる。
ピーダーセン氏 Nature Positive×デジタル分野では、農業・漁業や培養肉の分野も進んでいる。従来汚くて古くて若者が行かないイメージがあった領域にデジタルが活用できれば、世界は広がる。
藤川 現在他社との共創を行っているが、これら新事業のパートナーがいたからこそ、気付いた価値がある。両社の良いところを掛け合わすことで、新たな価値・事業に繋がる。新ビジネスを多く見つけるための仕組みづくりも必要。引き続き、研究所等の社内部門と連携し、新しい領域に取り組んでいきたい。
- *GBF:Post 2020 Global Biodiversity Framework(ポスト2020生物多様性枠組)
ゲストメンバー(社外有識者)
足立 直樹氏
株式会社レスポンスアビリティ代表取締役
企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長
東京大学理学部、同大学院修了で生態学を専攻、博士(理学)。国立環境研究所で熱帯の研究に従事した後独立し、サステナブルな経営のコンサルティングを行う。特に企業と生物多様性や持続可能な調達の専門家として知られる。環境省をはじめ、農水省、消費者庁等の委員を数多く歴任する。