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Dive into Inclusion & Diversity Vol.2 『多様性の時代を勝ち抜く必須スキル「異文化適応力(Cultural Intelligence)」を身に着けよう!』
イベントレポート開催日時:2021年10月29日12:05-13:15
開催方式:オンライン開催
インクルージョン&ダイバーシティに関する知見のアップデートを目的に、数か月に1度のペースで開催している社内オンラインセミナー「Dive into Inclusion & Diversity」。
今回は、『多様性の時代を勝ち抜く必須スキル「異文化適応力(Cultural Intelligence)」を身に着けよう!』をテーマにお届けしました。
グローバル市場での競争激化、業界の再編、人材の流動化(※NECでもキャリア採用者数が大幅に増加)など、異なる国民文化や組織文化を持つメンバーとの協業は、不可避になってきています。
また、社員一人ひとりの価値観や働き方が多様化するなか、イノベーションを創出し、変化に強い組織になるためには、異なる文化的背景を持つメンバーが「同化」するのではなく、メンバーの個性や強みを発揮できる「インクルーシブな」チームづくりが不可欠です。
今回は、「経営戦略としての異文化適応力」の著者である宮林隆吉さん(事業構想大学院大学 客員准教授)※ をお招きし、「文化が経営やビジネスに与える影響」や「イノベーションを起こすチームづくりに欠かせない異文化適応力」についてお話いただきました。
本記事では、セミナーの内容をダイジェストでお届けします。
- ※登壇者の所属・役職はイベント開催時の情報です。
CIAに足りなかったもの。それは、多様性 !?
最初に「多様性」や「文化」に対する考え方について事例を交えながら紹介してくれた宮林さん。
ここからは、セミナーのエッセンスをお伝えします。
宮林さん:
- CIAは、9.11のテロを機に、多様性のある組織づくりに向けて改革をスタートさせた。9.11を予見できなかったことを受け、組織の在り方について調査した結果、見過ごせない欠陥の一つに「多様性の欠如」が指摘されたため(CIA諜報部門の元副部門長カーメン・メディナによる発言)。
- 当時のCIA職員は、白人、プロテスタント、アイビーリーグ出身といった、いわゆるわかりやすいエリート層に偏っていた。どんなに優秀な人間でも、1つの世界観でものを見る人間ばかりで組織が構成されれば盲点が多くなる。課題が大きく・複雑になればなるほどカバーできない領域が増える。
- とはいえ、多様性があれば何でも解決できるわけではない。リレー選手を5名選ぶなら、多様性より、足が早い順に5名選ぶのでは?課題がストレートで分かりやすい場合は、画一的な組織の方が有効に機能するケースもある。課題の大きさ、複雑さに合わせて多様性を取り込む視点が必要。さもなくば多様性はコストになる。
- 文化は、氷山に例えられる。儀式や慣習など、表面に見えているものの下に「価値観」という見えない部分がある。価値観は、12歳ごろまでに培われ、人は、それをベースにものごとを捉える。そのため、同じものを、相手が自分と同じように見ているとは限らない。同じ人物の評価が文化圏によって全く異なることもある。
異文化を理解するためには、自分の眼鏡を一度外し、他の人の眼鏡で俯瞰的に物事を見ることが大切
引き続き、宮林さんは、異文化を“見る”ためのツールとして「ホフステードの6次元モデル」を紹介。時間の都合上、6つのモデル中から4つに絞って説明いただきました。
モデルその①:
マネジメントスタイルに大きな影響を与える「権力格差」
- 「権力格差」は、その国の一番偉い人と、普通の人の距離感をイメージするとわかりやすい。例えば、ドイツとフランスの大統領執務室。簡素な執務室でOKと思っているドイツは、権力格差が小さい国。一方、豪華健乱な大統領執務室を受け入れているフランスは、権力格差が大きい。隣同士の国でも権力に対する考え方が大きく違う。
- 権力格差は「マネジメントのあり方」に大きな影響を与える。権力格差が小さい国では、参加型のマネジメントが好まれる。上司と部下は対等な仲間。やりたいことをサポートしてくれる上司が理想で、権限移譲もされている。権力格差が大きく組織の階層が深い国の理想の上司は、全てを指示・判断してくれる人。組織ではヒエラルキーが重要視され、権力は1点に集中しがち。
- 権力格差が大きい国のマネジメントスタイルを、権力格差が小さい国で適用するのは難しい。逆もしかり。権力格差のスコアは、ドイツが35、フランスが68、日本は54。中東はスコアが高い国が多い。世界全体では権力格差が大きい国が大半だという認識は持っておくべき。
モデルその②:
人脈と、専門スキル、どちらが優先? ~集団主義と個人主義~
- 集団主義は、自分の所属する“内集団”の利益を優先し、個人主義は、自分自身と直接の家族の利益を重視する。
- 採用活動を行う際、自身の知人 or 専門スキルを持っていること、どちらを重視するか?集団主義の組織や社会では、専門スキルより、その人の持つ人脈などが評価される。主語は”私たち”で、所属する集団の意見が優先。集団内でメンツを失うことを最も嫌う。いっぽう、個人主義が強い国では、個人の専門スキルや経験が重視される。
- 日本のスコアは46(やや集団よりの中庸)。アメリカでは「自分も周りも、個人主義」と言う人が多いが、ある調査によると、日本では「自分は個人主義だが、周囲は集団主義」と言う人が多いというユニークな指摘がある。世界的に見ると、集団主義が個人主義よりも圧倒的に多い。
モデルその③:
広告のキャッチコピーまで変えてしまう「達成志向」とは?
- 「今月のトップセールスパーソン」といったポスターを張り出すと、賞賛される国と、からかいの対象になる国がある。社会的な成功や地位が重要視される社会なのか(=達成志向のスコアが高い)、生活の質や弱者への思いやり、調和が重視される社会なのか(=達成志向のスコアが低い)の違いによるもの。
- 北欧の国は達成志向のスコアが全般的に低い傾向がある。福祉社会で生活の質が重視される。良い上司は関係構築力がある人。仕事よりも家庭が重要で、男女の果たす役割・かけられる期待は平等。一方、達成志向のスコアが高い社会は、成功者が賞賛され、家庭より仕事重視。男女が果たす役割期待の違いが社会に存在する傾向にある。
- 広告表現も明確に違う。同じバドワイザーの広告でも、アメリカでは「KING OF BEERS」と言いきっているのに対し、デンマークでは「PROBABLY THE GREATEST」という言い方。達成志向のスコアが高いアメリカと、達成志向のスコアが低いデンマークの違いが、広告表現にも表れている。
- 日本のスコアは95。実は、日本は世界で最も達成志向のスコアが高い国。日本の「職人カルチャー」は、達成志向の強さに支えられていると言われており、ネガティブ要素ばかりでもない。ただ、男なら/女なら〇〇すべき、といった意識の存在は、このスコアの高さが影響していると考えられる。経済先進国の多くは、達成志向のスコアが高い。
モデルその④:
「不確実性の回避」のスコアはプロジェクトマネジメントに大きく影響
- 「不確実性の回避」は、不確実な”未知の状況”に対し、どのくらい、不安を避けるための行動をしたがるか、という度合い。例えば、レストランガイドの作り方なども違ってくる。アメリカの「ザガットサーベイ」は、一般人が投票したランキングだが、フランスの「ミシュラン」は、専門家の覆面調査がベース。フランスは不確実性の回避のスコアが高い=その道の専門家の意見を重視する傾向にある。
- スコアが低い国では、規制は少ない方が良い。不確実な未来も楽しめる人が多い。成功のためにリスク取るのは当たり前。それを学習プロセスの1つと捉えている。スコアが高い国は、不確実なことが起きるのは嫌で仕方がない。そのため事前にルールやマニュアルを沢山作る。日本は92。日本のものづくりのオペレーションの素晴らしさは「不確実性の回避」傾向の高さと強い達成志向の組み合わせによるもの。
- 「不確実性の回避」は、プロジェクトマネジメントに影響する。スコアが高い日本やドイツは、必要なステークホルダと事前にコミュニケーションを取り、リスクを着実に取り除きながらプロジェクトを進めていく。時間はかかるが、1度決まればゴールまで一気に進む。
一方「不確実性の回避」が低いアメリカやイギリスのプロジェクトマネジメントでは、短期のゴールを設定し、トライ&エラーを繰り返しながら最終ゴールを目指す。プロジェクトの進め方に対する”常識”が全く違うため、両国が普通に仕事をしても、意思決定スピードに違いが生まれ、うまくいくはずがない。共にプロジェクトを進める上では「違いがあること」を理解し合うことが必要不可欠。
ラグビー名監督エディ・ジョーンズさんは多様性を活かす達人
ラグビー元日本代表の監督 エディ・ジョーンズさんは、多様性を大変うまくマネージされていた。ラグビー日本代表はグローバルチーム。彼は、チームメイトの性格診断から相性などもしっかり分析し、それぞれの選手が強みを活かせるのはどこで、どう組み合わせ、各自の成長を促せばよいのかを徹底的に考えてチームを率いていたといわれている。これは、われわれが企業でビジネスをしていく上でもヒントになるのでは。
最後に、エディさんの言葉を紹介したい。「まずその国の文化的背景を理解して、違いを認める。そこからどうやって強みを見出していくかを考える」(「ラグビー日本代表監督エディー・ジョーンズの言葉―世界で勝つための思想と戦略」より)
Q&Aセッション
Q:ダイバーシティに取り組む際、「なぜ一部の人たちだけを特別扱いするのか?不公平だ」という人もいる。どう対応すればいいか?
宮林さん:今は過渡期。現時点では、多様性の問題の一部分だけ(女性活用など)に焦点が当たっている状態だと考えられる。これをより前に進めるためには、多様性を取り入れることは「正しいことをするべき」「人として平等であるべき」という姿勢ー「Right Things to Do」だけではなく、会社のパフォーマンスを上げる上で絶対に必要なことー「Better Things to Do」なのだという議論に焦点を当てていくべき。多様性をレバレッジすることによる組織のパフォーマンス向上が目的だと全社員が理解すれば、平等・不平等だという議論にはならないと考える。
マッキンゼーレポート(”Diversity Matters”)によれば、多様性を取り入れている企業の方が、利益率が高いという結果が報告されている。これを「利益率が高く、調子がいい会社だから多様性にも取り組めるのでは?」と批判する人もいるかもしれないが、CIAの事例のように、問題が複雑になればなるほど多様な視点が不可欠なのは明らか。非財務情報として多様性がパフォーマンスに繋がっているかどうかをしっかりと測定し、結果を社内外に発信する企業が増えていけば状況は変わっていくはず。政府の方針は、すでに企業に対して多様性含む人材への投資に関わる19目の経営情報の開示を求めている。今後、この流れは加速するだろう。
Q:日本人が多数を占める組織で、外国人社員の長所生かしつつ、上手にインクルードする為にどんな点に気を付けるべきか?
宮林さん:まず入社する方と受け入れる組織双方が「違いをチカラに変えること」にコミットしていくことが第一段階だと思います。ここまでの議論にあるように、違いは簡単にコストとして切り捨てられがちです。同化を求めるのではなく、「違いをレバレッジしていくんだ」という意志が全ての土台となります。その上で、個人・組織が持っている文化的特性を客観的に理解し、他者・自己理解を進めていくことが重要です。私が自分を日本人だと人生の中で強く意識したのは、海外に留学し、全く異なる環境に身を置いた時でした。外国人社員の皆さんも、日本に来て初めて自身のアイデンティティをより深く意識したのではないかと推察します。そして、自身の立ち位置、日本のカルチャー、NECの業務への理解を深めた後で、自らの長所をどう伸ばしていくか?という"Next Stage”を考え始めるはず。その際に「同化するのではなく、あなたの個性を組織で生かして欲しい」と、会社のメッセージとしてしっかり伝えながら、インクルーシブな組織文化を作るためのリーダーシップを開発していくことが大切だと考えます。
Q:一人ひとりが異文化に“適応”していくこと、組織として異文化を“受容”していくこと-その両方に取り組む必要があると思うが、そのあたりの勘どころを教えてほしい。
宮林さん:おっしゃるとおり、個人が変わるだけでは限界がある。多様な人材に活躍の機会を与える、フェアな人事制度を用意するといったハード面の整備は、ソフト面の施策とセットでやらなければならない。一方、個人に必要なのは、「異文化人材との協業意欲(動機)」「異文化・自己バイアスに関する理解(知識)」「知識を活用するための設計力(戦略)」「実践とリフレクション(アクション)」の4つ。まずは、自分がこの環境でリーダーシップを発揮したいのだという強い“動機”が必要。能力や知識以前に、そういうマインドセットを持っている人の方がグローバル・リーダーへと成長できる可能性を秘めていると考えます。
この動機づけの上で、相手にとっての常識が何なのか、自分との違いは何なのかを“学び”、その学びをもとに自分のリーダーシップ・スタイルを変化させていく。失敗もあると思うが、“リフレクション”の場を設け、次の“行動”を再設計していくーこのサイクルをひたすら繰り返すことで、個々人のリーダーシップが変革していくだけでなく、組織文化そのものが変革していくものと理解しています。
Q:日本特有の言わずもがなの阿吽の呼吸、空気を読む文化に慣れてしまっている。どうしたら意識を変容できるか?
宮林さん:大前提として、「変えることありき」で考えなくて良いと思います。空気を読む文化には、円滑な人間関係を築くことができる良さがある。その良さはきちんと認めるべきです。一方、グローバルでビジネスをする上では、相手と伍するために、自分達がどこを変えるべきかを考えなければならない。空気を読むことの一番のマイナスポイントは、活発な議論が出来ないこと。それを求めるカルチャーの人間と仕事をする上では、自分達のやり方への理解を相手に求めつつも、自らを変える意志を持つ必要がある。例えば、まずは会議の仕方(時間単位、参加人数、目的に関するルール決め等)を変えていくといったことは有効ではないか。
参加者からの声
視聴した社員からは、「Diversityだけを整えるのではなく、その上で成果を出していくためのInclusionまで実現するという決意、本気度が各メンバーに問われている段階にあると感じている。今回のセミナーのような機会も活用し“個人としての/組織としての受容力”を高めるよう行動に繋げていきたい」「同じ価値観の集団からは新しい発想が生まれにくいことや、自分の眼鏡を外して他の見方をすることの大切さに改めて気づいた」などの声があがり、社員一人ひとりの『異文化への適応力』、組織の『異文化の受容力』の重要性について見つめ直す機会となりました。
登壇者プロフィール
慶應義塾大学経済学部卒業。イエセ経営大学院経営学修士。一橋大学より博士号(経営学)を取得。専門はクロスカルチャー、マーケティング、テクノロジー。
電通の営業・マーケティング部門を経て、電通イノベーション・イニシアティブにて国内外の先端テクノロジーへの投資・IPO支援に従事。
アメリカ・インド・ブラジル・サウジアラビア・イスラエル・欧州等、数々の海外プロジェクトに携わる中でCQの重要性に気づく。海外駐在員向けのリーダーシップ・プログラム「CQ」を開発する他、海外子会社の経営幹部のリーダーシップ研修に携わる。
また海外と日本という文脈だけではなく、大企業とスタートアップ、アカデミアと実務など2つの異なる文化をブリッジする仕事をミッションとして活動。
電通退社後、IoT/データ・テクノロジーに特化したVCを共同創業する。
著書「経営戦略としての異文化適応力」(2019, JMAM)「マーケティング実践テキスト」 (2020, JMAM)翻訳『グラント現代戦略分析』(共訳), 中央経済社, 2019