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イスラエル研究センター
プレーヤーではなくコーチをめざす2021年11月26日
インバウンド型イノベーション(技術探索)の加速
イスラエル研究センター(IRC)のミッションは、NECの事業に適した破壊的(ディスラプティブ)な外部技術を特定し、その採用を加速することです。その目標に向けて、IRCではNEC独自の研究成果やアドホックな新規研究、ラピッドプロトタイピングを活用し、日本および世界のビジネスユニットと緊密に連携しています。
21世紀の技術進歩は前世紀とは比較にならない速度であり、パブリッククラウドやゼロトラストネットワーク、在宅勤務システムなど、さまざまな破壊的技術革新がわずか数年の間に世界中に広まっています。
急速に成長しつづける巨大なグローバル企業にとって重要なのは、「科学的な大発見」ではなく、迅速な実行です。企業内部の発明だけに頼っていては、世界に影響をもたらすことはできません。
新しい技術が安定し、有名になり、ありふれたものになる前に、そのような技術を見つけ出して、チャンスをものにすることができるかどうかが重要です。有名な安定した技術では、差異化を実現することはできないからです。
すべてが理解され、説明され、テストされ、検証されるまでNECが待っているとしたら、市場に出遅れることは確実です。その一方で、未熟な製品を市場に投入することは、NECにとって許容できるものはありません。
IRCは応用研究施設であり、所属している研究者は「イノベーションコーチ」と呼ばれています。スタートアップや技術の「コーチ」となることが主要な任務であり、コア技術を自ら開発する「プレーヤー」(通常の研究者)とは一線を画すからです。
コーチングにはさまざまな形式があります。
- スタートアップが、NECビジネスユニットに共感してもらえる論理的な価値を生み出すことを支援する
- スタートアップのコア技術と主張を検証する
- NECの現在および将来の事業との潜在的かつ実用的なつながりを特定する
- ギャップを埋める(多くの場合、外部技術そのものだけでは不十分であり、お客様にとって有益な製品にするためにNEC側で補完的な機能を開発することが必要)
- 迅速かつ低コストで概念実証を実施することにより、リアルな顧客検証を行う(通常はイスラエル内で実施)。
また、IRCが選択して注力するトピックは、私たちが「サーフィンできる波」と呼ぶものでなければなりません。
- ニッチな領域ではなく、大きなグローバルトレンド(例:パブリッククラウドやAIヘルスケアなど)
- NECのコア事業ラインに関係するもの(例:コンシューマー向けのガジェット技術はあまり関連性がない場合があります)
- 1社ではなく複数の潜在的なスタートアップおよびパートナー(パートナーは「サーフボード」であり、それがなければNECは「サーフィン」することができません。私たちは、最適なサーフボードを見つけることをめざしています )
IRCでは現在、「グランドトピック」として以下の4つを探求しています。
- エッジAI
- 次世代イメージング技術をベースとするAI
- サイバーディフェンス
- ヘルスケアAI
エッジAI - 日常的に使えるAIの実用化
過去10年間にわたるディープラーニングの進歩により、画像や映像の内容理解が可能になり、さまざまな実用的アプリケーションの可能性が切りひらかれました。しかし、サーバーベースシステムのコスト、消費電力、サイズの問題により、ほとんどのアプリケーションが実用的なものになっていません。
高画質イメージセンサの価格は10ドル未満になり、サイズも小さくなりましたが、そのイメージングフィードを理解するために必要な処理ハードウェアは依然として高価であり、少なくとも2桁、場合によっては3桁の価格差があります。
この問題に対処するため、IntelやNVIDIAなどの大企業や数多くのスタートアップが、ディープラーニング向けに最適化された低電力かつ低コストのシリコンアーキテクチャを備えた専用AIプロセッサの開発に過去数年間にわたって取り組んできました。
IRCは、さまざまなソリューションを検証、利用して、さらに低コスト / 低価格で圧倒的に優れたスループットを実現しています。顔認識、物体認識、行動認識などの世界をリードするNECのコアアルゴリズムを、このようなプロセッサ上で実行できるように変換することで、価格と消費電力を10分の1以下に抑えることに成功しました。
これにより、アクセス制御や、まちの安全・防災、自動運転車、ロボティクスなどの分野で競争優位性を持った映像分析やインタラクションを可能にしています。
次世代イメージング技術をベースとするAI
スマートフォンや運転支援システムの発展、そしてマイクロエレクトロニクスの根本的な進歩により、新しい高画質イメージングセンサーが登場しました。高倍率の光学ズーム、100メガピクセルを超えるセンサー、短波赤外線(SWIR)感度に基づくイメージングにより、LIDARを低コストで実用化できるようになってきています。
これにディープラーニングの力を組み合わせることで、新しいユースケースが誕生します。高解像と光学ズームの力により、遠距離の人間活動をスキャンすることができるようになるのです。低照度とSWIRにより、長距離の夜間周辺監視やAIトラフィックカメラ、さらには「ユニバーサルバイオメトリクス」が可能になります。
しかし、学術研究やデータベースは一般的に、通常のセンサーによる高品質で明るい可視光画像を使用しているため、ユニバーサルバイオメトリクスを開発するためにはAIモデルを適応させるか、ゼロから開発する必要があります。光学ズーム、低照度、大気乱流、波長の違いなどの要素が複雑に絡み合い、この分野固有の課題となって立ちはだかります。
IRCでは、AIモデル用データセットの開発や適応化を行うため、新しいトレーニング方法と新しい画像合成方法の両方に取り組みつつ、フィールドテストと検証を進めています。
サイバーディフェンス
サイバー犯罪やサイバー戦争がは注目すべきトレンドになっています。最近のリモートワークやリモートインタラクションへの移行は、データや個人情報の盗難のリスク、重要な施設や貴重な情報に対する意図的なダメージのリスクを高めているだけとも言えます。
イスラエルは、サイバースタートアップのリーダーであり、Microsoft、Google、Intelなどの企業にとって主要なサイバー開発センターでもあります。
IRCの役割は、まず複雑なサイバーソリューション分野の「地図」を作製することです。一般的なサイバー製品は、ドキュメントから理解するのが非常に難しいものです。また、四半期ごとに進化し続けています。各製品にはそれぞれ弱点があり、異なる企業の製品間の相互作用を予測することは極めて困難です。
IRCは、CSSDやNEC内の他のユニットと緊密に連携しつつ、各製品の機能と動作についてセミライブ環境で調査、評価、テストしています。
また、IRCはイスラエル国防軍(IDF)出身のホワイトハットハッカーを活用した「テスト/トレーニング」攻撃も実施しています。これは実際のサイバー攻撃を細かく分割したものであり、SOCオペレーターやサイバーディフェンダーが攻撃を認識して対応するためのトレーニングを行えるように構成されています。
IRCは、実際の施設とのコラボレーションに基づいて、発電設備や水処理設備を含むIT/OT環境をシミュレーションし、仮想世界と現実世界に複雑なテスト用セットアップを構築しています。これにより、サイバーディフェンスの各種製品や手法を評価することが可能です。このセットアップはコピーされ、トレーニングとともに日本に提供されています。
認証および個人データ保護の分野においてIRCは、セキュアなマルチパーティ計算ベースの機械学習推論とトレーニングで世界をリードしています。NECの各種ビジネスユニットと連携して、このようなセキュアな機械学習を金融機関の機密金融データに適用しているところです。
ヘルスケアAI
COVID-19以前においても、ヘルスケア分野では専門家の人手不足とコストの上昇を背景として、AIの採用が増加していました。そしてCOVID-19によって、医療従事者に多大な負担がかかるようになり、ダブルチェックやエラー検知、業務効率化を進めるための自動化を求めるニーズが高まっています。
IRCは、以前からイメージングAIスタートアップの「波」に注目しており、支援診断がいずれ大きなトピックになることは明確であると考えてきました。資格を持つ放射線科医(画像診断医)の数は、作成される医用画像の数に対して以前から不足しており、作業負荷はすでに限界を迎えていました。事態はさらに悪化しています。
COVID-19の期間中、医療チームや放射線科医に対する負荷が増大し、診断の遅延が大きくなっていきました。この2~3年の間で、FDAがAIソリューションに対して発行した承認の数は膨大なものになっています。現在この分野では、数百人規模の従業員を抱え、数千単位の病院を顧客とし、数十種の医学的異常を診断している企業がいくつか存在しています。
最初のテストケースとして、IRCは、NEC Software Solutions UK(旧NPS)と提携しました。このNECの子会社は現在、英国人口の70%以上に糖尿病性網膜症の診断サービスを提供しており、その対象者の数は増え続けています。
そのため、NEC UKは、広範なデータベースと医療評価の専門家、ならびに学術的なつながりとサービスを改善するためにデータを使用する権限をもっています。
NEC UKとIRCは、最初の話し合いから22カ月以内に、オンプレミスまたはクラウド内で実行する包括的なAI評価ソリューションを構築しました。これにより、人間による現在の評価プロセスよりも正確な結果を得ることができるようになりました。
また、学術的な監修の下、10万人以上の患者を対象とした大規模研究でも、このソリューションの検証を実施しました。
IRCは、今後も引き続き各種事業部門と連携し、この分野におけるNECの将来的な成長に向けた主要経路として、医用画像や医療・ヘルスケアに対するAIの導入を推進していきます。
所在地
2 Maskit Street, Herzliya Pituach, Israel
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