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「Obbligato」30周年特別企画
日本のものづくり1000社の“副旋律”を奏でて30年、日本発PLMの新たな展望
※この記事は、ITmedia社 MONOist/TechFactory Special に公開されたコンテンツを掲載しております。
ここ30年間で日本のものづくりを取り巻く環境は大きく変化をしてきた。時に厳しい変化に直面せざるを得なかった日本の製造業に寄り添い続け、2021年に30周年を迎えたのがNECのPLMソフトウェア「Obbligato」シリーズである。30周年という節目を迎え、MONOist編集長 三島一孝氏と、NEC 製造・装置業システム本部 マネージャー 山下元彦が対談を行った。
製造業のニーズに寄り添い進化を続けた30年
:三島氏 「Obbligato」30周年おめでとうございます。これまでの歩みをどのように捉えていますか。
:山下 「Obbligato」は、従来スクラッチ開発で導入していたものづくりを支えるシステムの共通部分を、1991年にパッケージとして売り出したのが始まりです。欧米の製造業は、業務区分が明確で組織やソフトウェアに人が合わせる仕組みとなっています。一方、日本の製造業は「現場力」という言葉が示すように、製造現場や設計現場で人を中心とした“すり合わせ”により新たな価値を生み出だす――という場合がよくあります。当時、こうした日本のものづくりの強みを生かせるような業務用パッケージソフトウェアは多くはありませんでした。そこで、日本製造業の強みを発揮できる柔軟性を持ちつつ、設計データの管理と製造におけるデータ活用を推進できるソフトウェアとして開発を行いました。
こうした思いを象徴しているのが「Obbligato」という名前です。「Obbligato(オブリガート)」はもともと音楽用語で「副旋律」という意味です。設計や製造などの実際のものづくりを進める業務が“主旋律(メロディ)”であるのに対して、「Obbligato」がそれを支えて引き立てる“副旋律”でありたい思いが込められています。主旋律の変化に副旋律としてずっと寄り添いながら、その価値を高めて最大化していくことを目指しています。
:三島氏 副旋律として変化に寄り添い続ける中で、「Obbligato」は製品としてもバージョンアップを重ねてきたというわけですね。
:山下 初期の「Obbligato」は部品表と設計成果物の管理などが主な機能でした。続いて1998年にリリースした「Obbligato II」では、現在にも通じる統合BOMという考えを取り入れました。当時は海外工場が増え始め、その中で「国内で設計を行い海外で製造する」という環境が広がり、現場でのリアルなやりとりだけでは生産性や品質確保が難しい状況が生まれていたためです。そこで、設計や製造での情報連携が行えるように、日本の製造業顧客企業との共同開発で形にしたのが、設計や製造など各部門のBOMを統合管理する統合BOMです。統合BOMにより設計変更による製造対応なども柔軟に行えるようになりました。また、海外拠点との分散開発が進む中で技術情報の流出を防ぐセキュリティ機能をリリース。当時規制が強まっていたRoHS指令やREACHなどの特定化学物質の管理にも対応しました。
さらに、2010年にリリースした「Obbligato III」では“PDM(Product Data Management)からPLMへの進化”をコンセプトとし、ものづくりのプロセスまでデータ化して管理するBOPなどの機能を盛り込みました。マテリアルの管理だけでなく工程にまで踏み込むことで、ものづくりプロセスを全てデータとして再現できるようになりました。また、製造業内の業種に合わせた機能が必要になることから、業務軸に特化した機能も強化しています。これにより、自動車部品や機械メーカーなどの組み立て系からプロセス系まで導入企業も拡大してきています。
そして、2019年にリリースした第4世代は原点回帰の思いを込めて数字を取り、再び名称を「Obbligato」として展開を進めています。ユーザーエクスペリエンス(使いやすさ)、エコシステム構築などによる作りやすさ、つながりやすさなどを強化し、今後の不確定な時代の変化に対応できるよう、よりフレキシブルな仕様としています。AIを活用した検索機能などを取り入れた他、開発ツールを強化し、ユーザー側で簡単にシステム連携やカスタマイズが行えるようになっています。
このように「Obbligato」はその時々で日本の製造業の業務に寄り添い、最新のテクノロジーを取り入れながら、共に成長してきました。実際に評価もいただいており、30年間で1000社以上に導入させていただき、国内では導入数ベースで26年間トップシェア(※)となっています。
(※)株式会社テクノ・システム・リサーチ「2021年 機械系CAD/PLM関連ビジネス市場分調査」(2021年8月)
「実績」「業務機能」「安心」という他社にない強み
:三島氏 あらためて「Obbligato」が国内の製造業から支持されてきた理由についてどのように考えていますか。
:山下 主に3つの成功要因があると考えています。1つ目が「実績とノウハウ」です。NECはITベンダーであると同時に製造業でもあります。そのものづくりのノウハウを組み込んだ形で、ソフトウェアをブラッシュアップしてきたことが大きな強みとなったと考えます。実際に「Obbligato」は2015年からNECグループ全社の開発基盤で採用されており、ユーザー数では約1万7000人が活用しています。海底ケーブルから宇宙まで幅広い事業を展開しているNECグループでは、事業体毎に複数運用していた10以上のPLMを「Obbligato」に統一し、量産製品から個別受注製品まで、さまざまな業態の設計プロセスの標準化に貢献しています。こうしたプロセスの標準化に向けたものづくり革新の進め方や、PLM導入のノウハウなども含めて提供できる点が強みです。また、こうして導入いただいた日本の製造業がのべ1000社以上となっており、そこで得られたノウハウなどが活用できる点も他社との違いになると考えています。
2つ目が、業務に寄り添い、現実的に活用できる「業務機能」です。CADやERPなどの領域とは異なり、PLM領域は企業ごとに業務内容に大きな違いがあり、標準化が難しいという特徴があります。その中で「Obbligato」は日本のものづくりのさまざまな業務に合わせる形で発展してきました。さらにこうした日本型ものづくりの中で、それぞれの業務において実践的に使える機能を強化してきました。今後のものづくりでは、設計や製造だけではなく、企画から設計、調達、生産、保守に至るまで、目的や用途に応じてさまざまなBOMが活用されるようになります。これらの変化するBOMの流れを自由に定義して連携させながら統合し、PLMという1つの軸でそれを管理できるのは「Obbligato」の強みです。
3つ目が、ワンストップサポートという「安心・安定」です。先述したように、われわれは、メーカーとしてものづくりもしていながらパッケージ開発を行うITベンダーである特殊な立場があります。加えて、ITベンダーとしても、開発から、営業、デリバリー、保守まで一連の導入を一括で行っています。国内でこうして一貫した関わりを持てる企業は少なく、この点が日本の製造業にマッチしたと見ています。
こうした3つの強みの底流にあるのが「仕組みに合わせる」ことを要求するのではなく「業務に合わせる」という発想です。「Obbligato」の名前の由来の通り、業務という主旋律に寄り添いながら、それを生かす副旋律を奏でられる点が特徴です。実際に顧客企業からも「寄り添ってやってくれた」という声をいただくことが多くあり、これは日本発のPLMソフトならではの価値だと考えています。
10年後の「つながる製造業」の中核に
:三島氏 日本の製造業を取り巻く環境は現在も大きな変化の最中にあります。10年後を見据えた場合、ものづくりの現場はどのように変化していると考えますか。
:山下 社内のみならずサプライヤーなど、その先の先まで全てがつながる――というような理想のものづくりの世界が、一部で実現していると考えます。製造業を取り巻く環境がより複雑化する中で、さまざまな状況に迅速に対応しながらものづくりを柔軟に持続する仕組みが求められます。そのためには社内外の全てが情報としてつながり、連携できるようにすることで、どのような状況にも迅速に対応できる「Connected Manufacturing」の世界が広がります。そのためには、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンなど、複数企業にまたがる“ものづくりチェーン”を全体としてつないでいくことが必要になります。
日本のものづくりは衰退してきたと言われていますが、不確実な環境だからこそ、すり合わせて共創する日本のものづくりが、この時代にマッチしたものづくりだと考えています。
こうした世界を実現するために、NECとしては社内外含めた「つながる」仕組みをさまざまな形で提供していくつもりです。「Obbligato」はその中で、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの結節点となり、企画から保守までをつなぐ背骨の役割を果たしていきます。用途別BOM/BOPを自由に拡張や統合ができる「Obbligato」だからこそ、いろいろなものをつなげることが可能となり、結果として「Connected Manufacturing」の実現に近づけることができると考えています。
将来に向けた「Obbligato」4つの挑戦
:三島氏 「Obbligato」のさらなる発展の方向性についてどう考えていますか。
:山下 「Obbligato」は日本の製造業に寄り添うことで、26年間トップシェアを築いてきましたが、これらの強みを生かし、さらに製造業の変化、テクノロジーの変化を見据えつつ、さらなる発展に向けた取り組みを進める方針です。製造業の変化を先取りする形でさらに機能や体制の強化を進めていきます。具体的には「コネクテッド」「グローバル」「パートナー」「カスタマーサクセス」の4点を強化します。
「コネクテッド」は「Connected Manufacturing」の実現に向けた「つながる」機能の強化です。現状では社内業務のデータ化を進めるBOMやBOPでの取り組みが多く、BOPについてもまだまだ普及途上といったところですが、自動車部品メーカーでトレーサビリティー強化や、自動化領域拡大のためにBOPの活用を広げる仕組みも広がってきています。これらの「つながる」をより容易にするために、他のソフトウェアとの連携機能の強化などを進めていきます。
また、日本やアジアでは高いシェアを持ちますが、グローバルではまだ成長の余地があるため、世界市場の開拓を視野に「パートナー」の強化を進めていきます。2020年にNECは、欧米市場に影響力のあるフランスのCapgemini社と協業を開始しました。今後は各国のローカルパートナーを増やし育てていきながら、「Obbligato」のビジネスを伸ばしていきます。そのために技術支援などの仕組み作りも進めています。
さらに、ソフトウェアの導入や運用のみで顧客を支援する「カスタマーサポート」を発展させ、顧客を成功そのものに導く「カスタマーサクセス」への取り組みを進めていきたいと考えています。「Obbligato」は導入して安定運用後も活用状況のヒアリングや定着化のためのアドバイス、新たなソリューションのご紹介など継続的にフォローをしていきます。そして今後は、さらなる定着化、活用範囲の拡大、先回りした価値の提案や、新しいビジネス環境への変革など、顧客が企業競争力をより高められるように伴走していきます。そのために、カスタマーサクセスを役割とする社内的な仕組みを整備予定です。
:三島氏 最後に、次の30年に向けた抱負をお願いします。
:山下 「Obbligato」は用途別のBOM/BOPを中心に、不確かな時代に柔軟に対応できるものづくりを支援し続けていくつもりです。今後もさらに予期しない大きな変化が生まれてくると思いますが、次の30年はもとより、50年、100年と製造業の業務に寄り添い“副旋律”としてその発展を支え続けていきます。
:三島氏 本日はありがとうございました。