ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)と日本企業への影響及び今後の流れに対応するシステム化の準備

第一回 人事給与コラム

変化の波が訪れている

近年、各企業およびその人事を取り巻く環境には大きな変化が訪れています。2015年サミットよりSDGs[Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)]持続可能な世界を創るための社会・環境・経済という分野で互いに相関する17のゴールから構成された国際目標が定められました。

世界中が取り組みを行っており日本も積極的に行っています。その活動は日本の各企業においても広がりつつあることを感じられるのではないでしょうか。

そして今後世界を巻き込み大きな流れとなる新しいムーブメント、それが2018年12月にISO[International Organization for Standardization](国際標準化機構)により公開されたISO30414「ヒューマンリソースマネジメント:社内及び社外に対する人的資本に関する情報開示ガイドライン」です。

ISO30414とは

企業の中の人材は今後ますます貴重なものとなります。少子高齢化や人口減少による人材不足の現状は簡単には打破されない時代と言えます。またSNSの普及や急激なITテクノロジーの進化・普及による社会や文化の変化は、人の価値観や働き方の考えを大きく変え、世代間ギャップは従来よりも乖離が大きくなっていると感じます。

企業の中の人材でも同様のギャップは存在し、マネジメント不良などのミスマッチを引き起こす原因の一つともなっています。従来、企業における人材活用については不透明でブラックボックス化しやすく、また定性的な目標が多く、定量的な成果の見える化が難しいものでした。

ISO30414は社内社外に対する人的資本に関する情報開示のガイドラインであり、11の領域において人的投資に対する企業の取り組みの情報開示規格となっています。

  • 参考:
    ISO30414 2018

注目される流れ

近年から注目されていたESG投資は環境・社会・ガバナンスそれぞれへ働きかけを行う企業に対しての投資家の判断基準の一つとなっており、またSDGsは世界中の国と企業において持続可能な開発目標とされています。

これらの流れの中で企業は将来に向かって持続可能な成長を成し遂げるためには、財務だけでなく人的資本を重要なリソースと位置づけ、透明性の高いアプローチが求められつつあります。企業内の人的資本、つまり従業員への様々な働きかけや取り組みが、人材の持つ能力やポテンシャルを発揮させ、そして更にイノベーションを生むと言ったことが企業の発展に対し非常に重要な要因であることは間違いありません。

2020年8月アメリカではSEC(米国証券取引委員会)が上場企業に対して人的資本情報の開示を義務付けしています。日本においても同様の流れが押し寄せてきています。

参考:

ISO30414の人的資本の開示項目

ISO30414が定める人的資本の情報開示の11領域49項目

  • 1)
    コンプライアンス及び倫理
  • 2)
    コスト
  • 3)
    ダイバーシティ(多様性)
  • 4)
    リーダーシップ
  • 5)
    組織文化
  • 6)
    組織の健全性・安全・ウェルビーイング
  • 7)
    生産性
  • 8)
    採用・異動・離職
  • 9)
    スキル・能力
  • 10)
    サクセッションプラン
  • 11)
    労働力の利用可能性

それぞれの領域に複数の項目が含まれています。

  • 参考:
    ISO30414 2018

ISO30414の効果

大きく分けて3つの効果があります。

一つ目は人的資本への投資は企業成長に欠かせない要素として考えられ、投資家の判断基準となります。拠って、人的資本への投資の取り組みを対外にアピールできれば投資家の高い評価を得ることができます。また定量的なデータを蓄積することで、過去との比較が容易になり、その成長度合いを把握することができます。

二つ目として人的資本への投資は、企業内の人材に対しての働きかけやその結果を定量データとして測定することで、戦略的な人事マネジメントが可能となります。

三つ目は、企業内の人的資本への投資そのものが、企業価値を押し上げ、新たな人材採用にも寄与し、定着率向上や従業員エンゲージメントが高まることで、より高いパフォーマンスを発揮することが可能となります。

求められる柔軟な人事システム

ISO30414の11領域の人的資本への投資において、企業は従業員への様々な取り組みを管理していく必要があります。その取り組みによる定量データの測定や蓄積は多岐に渡りアナログではなくシステムで行うことが必須となります。

また企業内で実施される様々な取り組みは企業ごとに異なり、人の能力や経験、知識、スキル、研修履歴など様々な人事データを駆使し、容易に管理ができ、必要なデータを任意に抽出設定ができるといった柔軟性を持つ人事タレントマネジメントシステムの活用がこれからの企業に強く求められるものだと考えます。

また将来を見越した場合、国や行政が制定する制度の内容は変化する可能性も十分にあります。そうしたことに対応できる新たな拡張性や複数の企業、複数体制管理、海外も含めたグローバル対応などの機能性も求められるものだと言えます。

定量データの蓄積は戦略人事に欠かせない要素です。客観的データをいつでも柔軟に使用することができ、過去のデータと現状・目指す姿との比較により分析を行うことで、新たな施策を打ち出し、企業成長の更なる躍進を生み出すことができます。

筆者プロフィール

社会保険労務士
穂積 完聡氏

貿易商社、一部上場企業のグループ中小企業の製造メーカーで海外および国内営業に10数年間勤務。会社とは?従業員とは?を考え、多くの企業の一助になりたいと思い社会保険労務士として2013年開業。2019年に社会保険労務士法人ティムス代表就任。中小企業から上場企業まで広く対応し、労務相談、手続きや給与計算のBPO、これからの新時代に向けた人事制度構築や人材育成、ニーズ高まる組織開発を中心に人的資本投資へのコンサルティング等幅広く対応。

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