日本企業に迫る人的投資の開示の流れ

第二回 人事給与コラム

昨今の日本においても各企業における急激な時代の変化への対応が加速化しています。2020年9月に経済産業省より「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~」が公表され、今後の日本企業における「人的資本への投資」の重要性が詳細に書かれています。

経営層や人事分野に身をおく方々は是非一読されることをおすすめします。社会の変化に伴い経営戦略が大きく舵取りを迫られている中、変化の必要性を感じながらも日本の多くの企業はその対応が遅れているのではないでしょうか。

企業規模を問わず、従来の管理型マネジメント主体ではなく、新たな未来共創型のマネジメントの模索をしなければなりません。またそれを怠った企業は昨今の激動の変化の波にのまれ淘汰されていくことは容易に想像ができます。そして伊藤レポートでも触れられているように「経営戦略と人材戦略の連動性」が今後の企業の発展における重要ファクターであることは間違いありません。

更に注目すべきは2022年11月金融庁より「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の公表がありました。上場企業を対象として有価証券報告書にサステナビリティに関する企業の取組みの開示が求められ、その中に人的資本、多様性に関する開示も含まれています。またこれらについては2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用予定とされています。

企業が最初にやるべきことは

各企業の現場で様々なご相談を受ける中、人的資本への投資に関するご質問は日々増加しています。それは経営理念浸透やパーパスの策定など企業内人材に対して将来に向けた企業の変革への意識づけとベクトルの統一や、組織体制や社内制度の改革、マネージャー層の人材育成など多岐に渡っています。

また企業と個人の成長とそれぞれの相互作用による企業発展を狙った様々な取り組みが立ち上げ進められています。従来と異なる新たな人材マネジメント模索の為、各企業が自社の人材に対する取り組みを根本的な見直し、そして新たな体制構築といった組織改革等を行うことは避けては通れないのだと考えられます。しかし多くの企業が自分たちは何を行うべきか迷い悩んでいることも事実だと言えます。

では企業が最初に何をやるべきか?と問われたら、まずは自社の人材についてしっかりと知ることがスタートではないでしょうか。今企業に求められている変革は従来の経験の延長線上にはなく、新たに模索し、初めて試みることが多く、スピードを要求され、いずれも簡単ではありません。新たな取り組みの最初の一歩は、まずは自社内にどのような人材が存在し、どのような能力、スキル、適性、企業内経歴、経験、専門性、将来へのキャリアパスなどの個人の希望、どんなプロジェクトにかかわったか、どんな業績貢献をしたか、まわりの上司・同僚・部下からの評価、様々な基礎情報をしっかりと整理していくことが重要です。

そもそも従来の管理型マネジメント下では業績を上げることに重きがおかれ、上司が複数の部下をMBO等により効率よくマネジメントすることが主流となっていました。そのため個々の人材育成という観点では経営戦略の中で優先度が低く、深く追求される機会が作られることなく従来の企業内活動では取り組みが不足していました。それは日本の多くの企業が人材について検討する部署は人事部のみであり、管理部門としての側面が強く、且つ人材の育成に関与する人数や予算が少ないことが明確に物語っています。

各企業が昨今の急激な社会の変化に対応すべく新たな目標を掲げ、自社の経営戦略に紐づけられた、企業と個人が共に成長しあう新たな未来共創型のマネジメントを行うためには、前述の自社の人材基礎情報の整理から始まり、企業の新しい価値創造につながるイノベーションを生み出すための様々な取り組みをしていくことが求められます。それは縦割りではなく部門横断的なプロジェクトやアクション等による社内活性化、経営層と一般従業員層とのダイレクトな対話による経営の方向性の理解、外部からの企業成長因子となる人材交流や多様性の受容、専門性の追求、それらの環境や取り組みから生まれる個人の成長と相互コミュニケーションといった、各企業のウィークポイントとなっていることを改善していくことが求められます。

これからの人材タレントマネジメント

人的資本への投資に対し、これからは経営層が積極的に関与していくことが必要とされます。企業内の取り組み指標を見える化しスピーディーに共有し、企業の経営層がタイムリーに検討していくことで人的資本への投資アクションの優先度が上がり、企業全体で取り組む一体感を生みだし、PDCAを効率的に回し加速化させ目指す目標へのギャップを埋めることが重要です。

人的資本への投資は、企業と個人が丁寧に対話をし、人材の基礎情報を集約整理し、蓄積したデータをタイムリーに分析および活用していくことで新たな人材戦略のブラッシュアップを重ねていくことが重要です。そのためには人材タレントマネジメントを如何に見える化し共有性を上げるかが経営戦略と人材戦略を連動させるためのファーストステップではないでしょうか。

筆者プロフィール

社会保険労務士
穂積 完聡氏

貿易商社、一部上場企業のグループ中小企業の製造メーカーで海外および国内営業に10数年間勤務。会社とは?従業員とは?を考え、多くの企業の一助になりたいと思い社会保険労務士として2013年開業。2019年に社会保険労務士法人ティムス代表就任。中小企業から上場企業まで広く対応し、労務相談、手続きや給与計算のBPO、これからの新時代に向けた人事制度構築や人材育成、ニーズ高まる組織開発を中心に人的資本投資へのコンサルティング等幅広く対応。

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