労務系制度の最前線

第四回 人事給与コラム

今回は企業を取り巻く様々な変化の波に対応するため、各企業が取り組んでいる労務系制度の大きな流れについてお話をしたいと思います。企業規模を問わず各社は、SDGs、ISO30414、人的資本への投資など世界中を巻き込むムーブメントの影響を受けながら、時代の変化、ITテクノロジーの進化、SNSの浸透、働く人々の価値観の変化などにより、企業に求められるニーズが大きく変化し、様々な課題に直面しています。

2~3年前までは、各企業から頂くご相談の内容は、法改正対応などコンプライアンス分野のご質問や人にまつわる問題のご相談が主流でした。しかし最近はご相談内容も大きく変化してきている事を感じます。

現在、実際に頂くご相談は、企業理念や新たなパーパスの構築・浸透、及び共振・共鳴施策の検討といった企業の根幹部分の見直しから始まり、単一就労モデルからの脱却や、チャレンジ要素の含む複線型等の新しい人事制度・人事体系の構築、業績達成を主軸においた管理型マネジメントから対話を主として従業員と向き合う共創型マネジメントの模索、生産効率や付加価値向上を見出すための労務系ITシステム統合など人事労務DX、企業パーパスに紐づいた人事制度とそれに連動する人材育成体系の構築、そして個々の能力を引き伸ばす次世代リーダーの育成、と多岐に渡り、単なるコンプライアンスやリスクヘッジなど労務の分野に限定されず幅広く社外戦略人事機能としての側面を強く求められることが増えてきています。

変化に対応する難しさ

現在、企業が直面する変化の波は、VUCAの言葉通り予測が困難であり、従来の経営路線の延長線上に簡単に未来創造が出来なくなっています。

各企業の経営者は必死に情報を集め、勉強し、自社の将来を何度も何度も思案し、将来の目指す目標、到達すべき道のりを見い出すため、従来よりも更にもっと多くの時間を費やしているのではないでしょうか。

そのため、各社が変化に対応すべく様々な切り口で検討を行い、新たな形を模索する動きが生まれてくる結果、我々に届くご相談の内容もとても幅広く変化してきたと言えます。

しかしここで一つ問題になることがあります。それは社内人事の担当者は、従来の社内制度に精通しているプロですが、激動の今を乗り越える為、社内だけでなく社外の様々な情報を自ら積極的に取りに行き、時には自社の既存制度のレールから外れて柔軟に未来を想像し模索する、といった新しく求められる役割に対応できていない事です。

経営者は新たな形を常に模索し続けている為、求める要求も高く、流動的で、スピーディーさを強く求めます。しかし、ここで具現化を担う社内の担当者が経営者の想いやイメージを共有できない、理解しきれないことが往々にしてあるということです。

その為、各社の改革が上手く進まない、迷走していることがよく見られます。そこで外部戦略的人事としての位置づけの私たちが幅広い知識や経験、他社事例など多くの情報を提供し、経営者と同じ位置で見える風景を理解し、また社内の担当者にも寄り添いサポートすることで、難しい変化のニーズに応えていくことが新たなロールモデルだと感じています。

新たな体系づくり

例えば最近とてもご相談の多い人事制度の構築(再構築)についてご紹介をします。

従来の人事制度の課題は、行き場のない管理職の増加の問題、未来を感じることができない、チャレンジ要素がなく、変化の感じれないマンネリ感があると従業員の声が多く、現状を変えたいというご相談が良くあります。

これは階層ごとの人口分布の渋滞が起こっている事や、上級等級へ繰り上がることでしか対価を得られないなどの構造的な問題、また業績達成重視の目標管理制度に偏重したことによる制度の形骸化、本来必要とされる対話を重視した制度設計となっていない為、企業内で伝えていくべき企業理念や大切なマインドの浸透、そして組織風土の醸成を成しえていないことが多々見られます。

今求められる人事制度は、新たなチャレンジ要素があり、未来を感じることができ、個人のキャリアパスを描くことができる柔軟な選択肢がある、といった新たな形が求められる傾向が強くなっています。

その中で注目すべきは、多くのご相談の中で、“他社はどうなっているのか?"ということを非常に気にされる企業やご担当者のお声が多いことです。

一つの参考情報として捉えることは問題ありませんが、他社を気にするあまり自社を見失うことは大きなリスクとなります。これから企業に求められる人事制度、人事体系の重要なポイントは、既存の使い古した有りものの制度フレームを当てはめる事ではなく、自社の企業理念やパーパスにもとづき、経営戦略と紐づいた人材戦略をベースに、将来の目指す目標に向かってイノベーションを可能とする新たな人材を育成することや組織文化を形成することにあります。

では、どうやったら実現できるのか?その答えは何なのか?と問われれば、私たちの回答は一つです。その答えは自社の中にしかありません。

多くの経営者や人事担当者とお話をさせて頂き、色々な施策を共に思案し、検討している中で、行きつく先の答えは、社内の従業員の声に耳を傾けることがスタートということです。未来を共に創りあげる、そんな可能性を感じられる企業にするために重要なことはシンプルに声を聞くことなんです。経営者と人事担当者が何度も対話をし、企業の中核人材が経営者の想いを如何に伝えていくか、それに応じた従業員のレスポンスや意見を紡ぎあげていくことが自社の求める新たな体系づくりのヒントになるでしょう。

筆者プロフィール

社会保険労務士
穂積 完聡氏

貿易商社、一部上場企業のグループ中小企業の製造メーカーで海外および国内営業に10数年間勤務。会社とは?従業員とは?を考え、多くの企業の一助になりたいと思い社会保険労務士として2013年開業。2019年に社会保険労務士法人ティムス代表就任。中小企業から上場企業まで広く対応し、労務相談、手続きや給与計算のBPO、これからの新時代に向けた人事制度構築や人材育成、ニーズ高まる組織開発を中心に人的資本投資へのコンサルティング等幅広く対応。

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