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学生のみなさんへ2025インタビュー:矢島 義之
2025年4月3日
異分野からの挑戦でも世界を舞台に活躍できる

アドバンストネットワーク研究所
主任
矢島 義之
電波天文学、宇宙物理学の研究で博士課程を修了後、2022年にNECへ入社。センサフュージョンによってインフラ構造物の損傷部位の特定や損傷レベルを定量化する研究に取り組んだ後、光ファイバセンシングにより取得された高速道路の交通流データから短期交通流予測を行う研究開発に従事。入社以降、3年の間に2度最難関学会に論文が採択されるなど、学会でもめざましい活躍を続けている。

宇宙物理学で培った「現象理解」をセンシング領域に活用
私はもともとアカデミアの世界で宇宙物理学の研究者になることを志していたのですが、人生で二度震災を経験したことで、その気持ちが変わりました。震災で社会が大きく揺らぐ姿を見て、アカデミアで任期ありの職を十数年渡り歩くよりは、自分の研究が社会に価値をもたらし、スピーディに実装されるような仕事をしたいと考えるようになったのです。そこで、大学が主催する博士学生と企業とのマッチングイベント等に参加して民間企業の研究職を探し始めました。
NECを選んだのは、研究活動に力を入れているという印象を持ったからです。AIや機械学習関連の最難関学会にも論文が多数採択されていますし、特許数でも世界トップクラスの数を誇っています。世界にアピールできる強い研究成果や技術力があることに興味を持って志望しました。
宇宙物理学という異分野からの挑戦となりましたが、振り返ってみると、銀河内の星間物質を電波で観測し、星形成のメカニズムを解き明かしていくという博士課程までの研究の核は「現象・状況理解」にあることに気がつきました。観測データ使って自分で手を動かして解析し、何が起きているのか、なぜその現象が起きているのか理解していくことが、基本的な研究の流れです。このプロセスはNECの研究分野の一つであるセンシング領域にも通じるだろうと考え、この領域での研究を希望して入社しました。
とはいえ、入社当初は多少のギャップにぶつかりました。はじめは橋梁における異常検知技術の発展として、損傷部位の特定や損傷レベルを定量化する研究に従事したのですが、当時の自分には土木工学の知識はありませんし、構造力学もわかりません。そもそも、橋がどういう構造しているのか意識したことさえありませんでした。論文を読んだり、共同研究先の大学の先生にお話をおうかがいしたり、実際に計測データを触ったり、構造解析シミュレーションを動かしたりすることでキャッチアップしていきました。
しかし、一度こうしたその分野特有の専門知識をキャッチアップしてしまえば、宇宙物理学の研究でやっていたこととあまり大きな違いはなかったと感じています。観測データから状況や現象の理解をするというプロセスには共通した部分が多く、すぐになじむことができました。実際、入社1年目で本研究をまとめた論文が構造ヘルスモニタリング分野における最難関国際学会で採択されたことは嬉しい成果でした。

物理モデルに基づくデータ同化技術を機械学習に並ぶ新たな流れに
2年目からは、高速道路に敷設された光ファイバを用い、NEC独自の光ファイバセンシング技術に基づいて可視化された交通流データをモデル化し、30分後程度までの交通状況をリアルタイムに予測するという研究に取り組んでいます。ここで使用しているのは、機械学習ではなく物理モデルに基づくシミュレーションを用いたモデル化技術です。観測データと理論的な物理モデルに基づくシミュレーションデータを統合する「データ同化」技術を活用しています。データ同化のメリットは大きく2点あります。1点目は、データが少ない状況下でも機能するという点です。光ファイバセンシングはまだ新しい技術なので、実際の応用現場ではどうしても機械学習に必要な大量のデータを準備しにくいケースが非常に多いのです。2点目は、説明可能性を担保できるということです。ブラックボックスになりがちな機械学習と異なり、理論モデルと照らし合わせ、きちんと分析や予測の根拠を示すことができます。多くの利用者の安全を預かる高速道路会社様にとっては、非常に重要なポイントです。本研究成果をまとめた論文は、交通工学の分野で最難関学会である Transportation Research Board Annual Meetingで採択されました。
NECでは機械学習で多くの実績を残している一方、データ同化はまだあまり例のない新しいアプローチです。最近では高速道路の他にも応用先を広げようと、他領域のセンシング用途に活用する研究に取り組んでいます。どんどんと成果出して、データ同化をもう一つの大きな流れにしていきたいと思っています。
もちろん、ゆくゆくはこの技術を機械学習や生成AI、LLM等と組み合わせていくことも考えています。センシング-モデル化-シミュレーション-予測-最適化-フィードバックという一連のサイクルをデータ同化やLLMでオペレーションし、デジタルツインを一気通貫で回していくということには今後チャレンジしていきたいです。

NECというブランドが支える自由な研究環境
かつて私自身が天文分野で研究をしていたからこそ、同じように物理等の基礎科学の研究に取り組んでいる学生の皆さんにお伝えしたいのは、企業研究者の道に進む場合にも全く気おくれする必要はないということです。企業研究であっても、得られたデータをもとに基本原理や法則から自分の頭で考えて現象を理解し、課題解決につなげるというプロセス自体は変わりません。これまでに培った能力をそのまま活かすことができるはずです。事実、NECには私のような宇宙物理学など、理学系が専門だった方も多数活躍しています。もし興味があれば、是非チャレンジしてみていただきたいと思います。
また、NECで研究をしていて一つ特色と言えることを挙げるとすれば、実証実験などの機会に普通なら立ち入ることができないようなフィールドにも踏み込めるという点でしょうか。例えば高速道路会社様との共同研究では、港にある大きな橋の作業員専用通路に入り、高速で行き交う車両の真上でセンサの設置作業を行いました。スリリングな作業でしたが、個人的には観測や実験等、自分で手を動かしてデータを取得することが好きなため、非常に楽しい体験でした。
このようなことができるのも、NECというブランドの力があるからかもしれません。たいへんありがたいことに、日本国内ではNECという名前で多くの方が信頼を寄せてくださいますし、海外でも国際学会で名を知られているので自分が作り上げた技術を全世界に技術をアピールすることができます。研究所も目標として、将来的な事業貢献だけでなく、国際学会における論文投稿・発表を推進しています。
また、日本以外にも複数の海外研究所があり、メンバーと議論できる機会があることも魅力です。実際、このインタビューの前週まで、国際学会への参加もかねて北米研究所に2週間ほど出張していました。(関連リンク)このようにNECの研究所は世界に開かれた環境が整っているので、非常に研究がやりやすいのではないかと思います。
また、研究所内には「20%タイム(注)」というものが存在しています。これは、勤務時間内の20%程度であれば自分の好きな研究をしてよいというものです。このように自由で、自分の興味に基づいて研究を広げたり深めたりすることができるのも魅力だと思います。
- 注:部署、チームによって割合が異なります
- ※本ページに掲載されている情報は、掲載時の情報です。
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休日何してる?
昔から星が好きで、星景写真の撮影が趣味です。休暇中には車で郊外まで行ったり、時には北海道まで遠征したりすることもあります。学生時代には自分の撮った星空の写真が大学生協のカレンダーに採用されたこともありました。満点の星空を眺めていると、自然の美しさを改めて認識させられます。

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