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車の運転をする方であれば、旅行帰りに「この先事故渋滞13km 100分」のような高速道路の表示を見て旅の疲れがどっと増した、という経験を持つ方もいるかと思います。一方、こうした事故や落下物などの発生を、高速道路の運営会社がどう検知するかはあまり知られていません。実はこれまで、異常の検知はドライバーや警察からの連絡という「人手」による通報が中心でした。今、こうした道路上の異常事態をリアルタイムに検知するために、NECの最新技術の導入が進んでいます。それが、「交通工学において革命的」ともいわれる高速道路の「光ファイバセンシング」。道路の安全・安心にどのように貢献するのかをお伝えします。
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人による通報頼みからAIを活用した緻密なセンシングへ
「1日に約10件の事故と60件の落下物。東京支社管内約600kmの高速道路で日々これだけの発生があり、利用者の安全のため、一刻も早く対応する必要があります」と語るのは中日本高速道路(NEXCO中日本)東京支社 保全・サービス事業部施設課の課長代理 大谷 学さん。
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保全・サービス事業部施設課
課長代理 大谷 学さん
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もともと2km間隔でセンサーが埋め込まれているものの、センサーのある「点」でしか道路状況は検知できません。およそ1000台のモニターカメラも設置されていますが「これだけのカメラの映像を24時間、人が全て監視し続けることは現実的ではありません」と大谷さんは道路全体をリアルタイムで監視することの難しさを語っています。
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今回、NECが開発した「光ファイバセンシング」では、「点」ではなく、ほぼ「線」でリアルタイムにモニタリングすることができます。どのような仕組みなのでしょうか。
光ファイバセンシングは、「光ファイバに対して、外から振動や温度変化などが加わる」ことで現れた応答の変化を読み取り、道路状況の変化を観測する技術です。大きな特長は、道路全体を連続的ともいえるほどに、緻密にデータ化できることです。例えば、1km間隔で従来型のセンサーを敷設した場合と比較すると、光ファイバは10m単位でセンシングすることが可能なため、その分解能は100倍になります。
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樋野智之
NECがこの技術を実用化できたことには、AIによる「ノイズ」除去の実現が大きく貢献しました。実際の道路では車の振動の他にも自然現象など様々な「ノイズ」が加わります。これをNECのAIの力によって取り除くことで、実用可能なデータとなり、高速道路全体の車の状況を観測できるようになります。「NEC の光通信とAIの技術が融合して、社会に役立つソリューションになった」とNECデジタルテクノロジー開発研究所の樋野智之は手ごたえを語ります。
世界初の商用利用 既存の通信インフラをセンサーに活用できるコスパもポイント
光ファイバセンシングが公道で商用利用されたのは、世界で初めてのことです。NECではNEXCO中日本の協力のもと、実際の車の走行振動のデータを活用した研究も行い、その成果はロサンゼルスで行われたITS(高度道路交通システム)世界会議2022で「Best TECHNICAL Paper」に選ばれるなど、海外からも高い評価を受けました。
「交通工学において革命的」な技術を世界で初めて商用利用できた理由の一つには、「既存の通信用の光ファイバをそのままセンサーに利用できる」という本技術の画期的な特長があります。光ファイバは携帯電話やインターネットの通信など様々なところで用いられており、高速道路にも既に通信用の光ファイバが敷設されていました。この光ファイバを、道路状況をモニタリングするセンサーに使う、というのがNECのアイデアです。既存の光ファイバを使うため、交通を止めて新たに道路工事を行う必要が無く、利用者に負担をかけずに、またコストを抑えて導入することができます。
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さらに、通常のセンサーでは、将来的に機能を追加したり精度を向上させたりする場合には、道路に設置したセンサーの交換などが必要になりますが、光ファイバセンシングではソフトェアの更新で機能の追加や精度向上が実現できるのも大きな特長です。
研究開発から実用化、そして来る自動運転時代の社会貢献を目指す
「世界初」が実現したもう一つの理由は、NEXCO中日本の技術に対する前向きな姿勢です。「顧客の安全を第一にセンシング技術を調べる中で、光ファイバセンシングなら有効かつ低コストに実現できるのでは、と考えました」(NEXCO中日本・大谷さん)。
この光ファイバセンシングは、2022年春にNEXCO中日本への納入が始まり、翌2023年春には東京支社管内全域への導入が決まりました。大谷さんは「自動運転車両がどんどん増える時代に備え、NECの光ファイバセンシングなどを用いて、よりきめ細やかな安全な情報を提供できるようさらなる安全対策を実施していきたい」と展望を語ります。
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また、NECは長年にわたって道路に関わる交通管制のソリューションを提供しており、今回、NEXCO中日本への導入を技術・営業の両面から担った櫻井均(スマートシティ事業部門 トランスポート営業統括部)は「NEXCO中日本が抱える課題をしっかり理解していたことも、的確な提案とスムーズな導入につながった」と話します。NEXCO中日本と共に実際の高速道路を使ったフィールド実証を通して、AIアルゴリズムの開発・検証が出来たからこそ「交通工学において革命的」な技術が実用化に結びつきました。
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トランスポート営業統括部
櫻井均
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世界からは研究成果が高い評価を受けると共に、商用利用においても熱い視線を注がれています。「お客様の道路の課題といった点では日本も世界も同じ」と、櫻井たちは日本だけでなく世界の道路の「安全・安心」も視野に入れ海外展開も見据えています。
Purpose(存在意義)に掲げる「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現」をめざすNECの挑戦は、世界へと広がっています。