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学生のみなさんへ2025インタビュー:草野 元紀

2025年4月3日

難関国際学会採択に加え、事業化まで実現

草野 元紀

データサイエンスラボラトリ―
主任
草野 元紀

数学(幾何学)の研究で博士課程修了後、2019年4月にNECへ入社。機械学習を活用した新商品需要予測の研究に取り組む。その後、少データ環境でもデータを拡張して分析可能にするための「消費者属性拡張」を開発。近年では生成AI活用にも積極的に取り組んでいる。2024年にはRecSys(注1)やICDE(注2)などの難関国際学会に論文が採択されている。

  • 注1:
    RecSys 2024 (The ACM Conference on Recommender Systems)
  • 注2:
    ICDE 2024 (The annual IEEE International Conference on Data Engineering)

機械学習や生成AIを活用したデータ拡張

私はもともと大学で幾何学の研究をしていました。博士課程最終年度に、このままアカデミアに進むかどうかギリギリまで悩んだのですが、研究成果を研究でとどめず実用化したいと思い、企業研究の道に進みました。NECを選ぶ理由となったのは、アカデミアでの存在感です。トップ学会でも論文が多数採択されていることが、大きな決め手になりました。

現在の主な研究テーマは「データが少ない状況で課題解決する」ことです。お客様のデータ分析をしようとすると、法規制や企業秘密などの理由でNEC側に提供いただけるデータが少ないということはよくありますし、そもそも十分な量のデータが存在しないという状況もたくさんあります。こうした場合でも十分な分析が可能になるように、機械学習などを使ってデータを拡張することが研究の主軸です。NECではこれを一つのプラットフォームとして構築し、「NEC Data Enrichment」としてサービス化しています。私はマーケティングにより特化したデータ拡張技術として「消費者属性拡張」技術の研究開発に取り組みました。

また、最近では機械学習だけでなく生成AIも活用しています。従来であれば数週間のデータ学習の末にようやく実現できていたような推薦システム(Recommender System)も、生成AIを活用すれば学習データを使わずに高精度な推論ができるようになってきているのは、やはり面白いですね。お客様にMVP(Minimum Viable Product)を見せてすぐに反応が得られるのも良い点です。

研究-開発-営業が一体となったチーム

消費者属性拡張という技術を一つの形にすることはできましたが、この時点では、まだ「売り物」とは言えません。そこで私たちのチームでは新規事業開発を担当するメンバーに相談することにしました。NECでは、研究所が所属するグループ内に新規事業開発を専門とする部門があるのです。ここで加わってくれたメンバーが非常にパワフルな人でした。普通ならいくつかの会社に営業をかけて終わりにしてしまいそうなものですが「一つの事業として広げるぞ」と音頭を取ってくださった結果、「BestMove (ベストムーブ)」というサービスにまとめ上げて、多くのお客様にご提供できるようになったのです。

こうした事業化まで取り組むことができるのは、アカデミアにはない面白さだと思います。また、たとえ企業であっても研究所と営業が分断されているような組織では、このようなダイナミズムは味わえません。研究から開発、事業化まで一体となって進めるからこそ、研究者もお客様の声を直接聞くことができます。このような点は、非常に面白いポイントなのではないでしょうか。私もこうした動きには積極的に関わっていきたいと考えています。

「誰がどう喜ぶか」を見据えた研究

NECで働くもう一つの魅力は、さまざまな領域で仕事ができるということだと思います。私の部署はデータ分析が主ですが、音声、医療、知財、ロボット、交通等、多種多様な分析とそれを支える研究が行われています。私一人だけでも、金融や小売、官公庁等の様々な事業に関わりました。また、こうしたときにサポートしてくれる人が大勢いるということもポイントです。自分が知りたい業界に関する深い専門知識を持った人が、事業部に集まっています。長年幅広い業界で事業を進めてきたNECですから、この業界・会社にサービスを提供したいというときに、新たに人を集めなくても社内に人材が在籍していてノウハウが蓄積されているのです。非常に心強いところだと思います。

企業で研究することを考えている皆さんにアドバイスを一つするとすれば「誰がどう喜ぶか考えよう」ということです。大学では「この論文を出したら、この教授は喜ぶだろうな」と考えることがあると思いますが、企業でもそれは同じです。技術やサービスを研究開発するときも、誰がどう喜ぶかを考えることが重要です。大学と違うのは、ビジネスではお金が発生するので、お客様が買いたいと思えるほど喜べるものを作らないといけないという点でしょうか。しかし、そこは企業研究ならではの楽しい醍醐味です。

アカデミアに向けて論文を投稿するときも同じです。私は2024年に最難関国際学会と言われるRecSysやICDEに論文が採択されたのですが、査読のときに一部の人は私の技術に対して「精度が良くない」と、あまり良い評価をくれなかったということがありました。最終的に他の方からは評価をいただいて採択されたのですが、発表後には企業の研究者の方から「精度を大きく下げずにコストを最適化できている」と多くの反応をいただきました。アカデミックで重視される基準と企業研究者の重視する基準は違うこともあります。私は、従来の基準とは異なるけれど、必要としている人がいるであろう観点で「面白いね」「こういうのが欲しかったんだ」と言ってもらえるような研究を続けたいと思っています。

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私の一日ご紹介

学生時代の自分へ

休日何してる?

今の趣味は料理で、ほぼ毎日夕食もつくっています。先日の週末は子どもが食べる野菜を2時間かけてひたすら素揚げしていました。また、今年度イタリアに学会に参加した際にタコのオレキエッテを食べて、スパゲッティ以外のパスタにはまりました。年始に料理のレパートリーを数えたら73種類あったので、今年は100種類を目指します。

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