Japan
サイト内の現在位置
CFOメッセージ

2020中期経営計画の最終年度であった2021年度は、新型コロナウイルス感染症拡大による影響がありましたが、5G基地局の出荷が本格化したことや、New Normal需要の獲得などもあり、売上収益は前年度比で3.3%のマイナスに抑えることができました。営業利益につきましても、不採算案件の抑制などによる収益性改善や、急激な環境変化に対応すべく費用削減や特別対策を実行したことにより、2020中期経営計画の目標である営業利益率5.0%を達成することができました。当期利益では、営業利益の増加に加え、税金費用の減少などもあり、2期連続で過去最高益を更新し、1,496億円となりました。この結果を受けて、株主の皆様への期末配当金を当初予定の1株40円から10円増額となる50円とし、年間で1株90円の配当を実施しました。
フリー・キャッシュ・フローは前期比マイナス254億円の1,524億円となりました。これは、2020年12月末にスイスのAvaloq社買収に伴う約2,390億円のキャッシュアウトがあったことを考慮すると、キャッシュ創出力が向上している結果であると評価しています。
財務戦略
2021年5月に発表しました2025中期経営計画では、成長の原資となるキャッシュを事業活動により継続的に創出し、適切なキャピタル・アロケーションにより長期利益の最大化、短期利益の最適化を図り、その利益のサイクルを通じて企業価値の向上を実現していきます。
また、達成を計る目標指標として、EBITDAとROICを設定しました。キャッシュ創出力の観点より、EBITDAの年平均成長率を9%と設定、資本効率の観点でROICは2025年度に6.5%と設定しました。
グローバルでの競争に勝ち抜くためには、必要な投資余力を保持することのみならず、社会と企業のサステナブルな成長を支える非財務基盤の強化も重要です。NECは社会価値を創造する企業として、社会に貢献するという責任があり、事業活動の結果を出しながら社会に貢献していくことが大変重要です。ESGをはじめとした非財務の領域における投資もこのような考えに伴い実行していきます。非財務基盤の強化は、すぐに数字として表れるものではないかもしれませんが、長い目で見るとその責任を果たすことでNECの企業価値向上につながると考えています。
キャッシュの創出
営業活動によるキャッシュ・フローは、2021年度から2025年度までの累計で1.3兆円を目指しています。機会損失を避けるためにも、必要なキャッシュは確保しておき、最適な投資がいつでも実行できる状態にしておくべきだと考えています。キャッシュの創出は、成長事業、ベース事業の収益性改善、資産効率の向上、保有資産の現金化、それぞれの観点からお話ししていきますが、成長事業については投資戦略と併せて後程ご説明させていただきます。
ベース事業の収益性改善
前中期経営計画期間において、事業ポートフォリオを見直し、創出されたキャッシュをNECのコア事業へと振り向けてきましたが、残っている低収益事業についても引き続き手を打っていく必要があります。各事業を継続するためのハードルレートを営業利益率7%と設定し、ハードルレートに満たない事業については、7%以上まで営業利益率を高めるべく、まずは事業の変革を図っていきます。2025年度までにハードルレートに至らない場合、事業ポートフォリオの整理など適切な判断をしなくてはならない可能性もありますが、まずは目標と時間軸を設定し、全体的な収益性の底上げを図り、利益を生み出せるより強い体質に変えていきます。
資産効率の向上と資本効率への意識
資産効率の向上という観点では、前中期経営計画中から、全社でCCC(Cash Conversion Cycle)改善活動を実施してきました。その結果、CCC日数は2019年3月末の72日から、2021年3月末には60日となり、2年間で12日の改善を実現することができました。
また、今回の中期経営計画でROICを全社の目標指標として設定しましたが、個別の事業を測る指標としてはROICの適用が適切な事業と、そうでない事業があると考えています。例えば成長事業などでは、ROICを重視しすぎると投資ができなくなり、事業機会を逸することとなります。まずは収益の安定している事業から、ROICを適用して資本効率を重視した事業運営を実践し、徐々にこの取り組みを全社に展開していきます。
保有資産の現金化
政策保有株式については、原則ゼロとするガイドラインを2019年4月に定め、2020年度には45銘柄、963億円分を売却しました。株式を保有する場合は戦略的な位置づけを明確にし、資本コストの観点から保有することで得られるリターンを検証したうえで、取締役会においてその合理性が認められた場合のみ保有することとしています。また、政策保有株式に限らず、売却可能なノンコア資産の現金化も積極的に進めています。

キャピタル・アロケーション
財務体質の健全性確保
2025中期経営計画では企業価値向上に向けた戦略的な費用投入や投資を実行していきます。費用投入や投資を継続するにあたっては、財務的な規律が必要だと考えています。これまでの取り組みにより、財務体質はかなり健全になってきており、親会社所有者帰属持分比率(自己資本比率)やネットD/Eレシオも改善してきました。格付会社からワンノッチ格上げの評価をいただいた2021年3月末時点の財務体質を中期的に維持すべき一つの目安とし、引き続き財務健全性を確保しつつ成長領域へと投資していきます。
株主還元
配当性向は、過去5年間で30%程度を目安としており、安定した配当を方針としています。また、投資を行い、成長の実現や収益性を改善させることにより、企業価値を高め、株主の皆様への還元につなげていきたいと考えています。
成長を実現するための戦略的費用の投入
2025中期経営計画においては、営業活動により創出するキャッシュ・フローの中で成長投資を行い、企業価値を拡大していきたいと考えています。成長事業や既存事業の収益性改善に向けた投資はもちろん、それを支えるビジネスインフラ整備や人材投資も積極的に行っていきます。これらは財務健全性を保つ範囲内での投資という考え方に変わりはありません。
デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンスは、前中期経営計画期間中に買収した、英国のNEC Software Solutions UK社(旧Northgate Public Services社)、デンマークのKMD社、スイスのAvaloq社の欧州3社が持つソフトウェアやSaaSプラットフォームといったアセットと、NECの持つ生体認証やAIなどの技術やエンジニアリング力、更に顧客基盤を掛け合わせ、シナジーを追求していきます。
グローバル5Gですが、国内での基地局ハードウェア供給から、ソフトウェア領域への事業拡大を含め、2030年にOpen-RAN市場でグローバルシェア20%を獲得し、トップポジションを目指します。2025年までには、利益の軸足をハードウェアからソフトウェアライセンス領域へシフトさせ、サービス型のソリューション提供を行うなど、高水準な収益性を実現すべく取り組んでいきます。グローバル市場でのシェアを拡大するため、開発や販売体制などの増強に向けた戦略的費用を投じます。
コアDXでは、ABeamコンサルティングのリソースを活用し、より上流からお客様の需要を汲み取り、コンサルティングからデリバリまで一貫したアプローチにより提供価値を拡大していきます。また、NECの持つ技術の強みを共通基盤としてプラットフォーム化し、価値提供型のサービスとすることで収益性の向上を図ります。加えて、ハイパースケーラーとの戦略協業を強化し、高セキュアな自社保有クラウドとのハイブリッドな環境も提供していきます。こうしたビジネスモデルの転換やICT共通基盤開発にも、戦略的費用を積極的に投じていきます。
ビジネスインフラ整備については、IT整備のみならずグループ全体の業務プロセスをシンプル化し、データドリブン型経営へのシフトを加速することにより、経営の自由度の向上を図っていきます。
人材面では、イノベーションの源泉となるダイバーシティの確保と、生産性を向上するための働き方改革を継続するとともに、事業の成長を牽引する次世代リーダーの育成など必要なコストを投入することで今後の成長を促し、より大きなリターンにつなげていきます。
キャッシュをより成長性の高い領域に集中的に投入し、最適なタイミングで最適な投資をして効果を刈り取ることで、更なるキャッシュを生み出し、次の成長に向けた投資をしていく、このようなサイクルにより企業価値の最大化を図ります。
マーケットの期待に応える事業戦略と、これを支える財務健全性の維持・向上という戦略の両立を実現するために、成長投資、株主還元、財務体質の健全化のバランスを取っていくことがキャピタル・アロケーションの基本方針です。

ステークホルダーの皆様へ
私はこれまで事業の最前線で様々なITサービスの提供に携わり、また国内外においてNECの優れた技術の事業化や立ち上げを行ってきました。その経験から、CFOの役割は事業を見極め、今後の成長に向けた投資のマネジメントを行い、また財務指標上の数字のみならずその背景をも理解し、適切なタイミングでの判断や事業運営のサポートをすることだと考えています。そして企業の持つ資産を最大化し、より大きな事業成長を実現していくためには、事業と財務の両側面を理解できる人材を育てることも大切であり、CFOとして、そのような人材育成をしていきたいと考えています。
あらためてNEC全体を見渡しますと、NECの人々が持つ潜在的な能力には大きな可能性があると感じています。人としても魅力的な人が多く、そして新たにNECに加わる多くの魅力ある人々が、お互いを尊重しあいながら、日々優れたものを生み出しています。この「人」こそがNECの財産です。マネジメントとしてこの財産を活用し、より大きな価値を創出すべく取り組んでいきます。まだ多くの課題がありますが、財務基盤も健全になり、新たな投資ができるようになった今、NECで働く人が自信や誇りを持って仕事をし、そして結果を出すという好循環のサイクルを生み出し、企業価値を向上させていきます。