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HPCの雄、NECの次の一手 “当たり前”の裏に込められた決意

特集①NECの取り組み

ベクトル型スパコン「SXシリーズ」をはじめとするソリューションで国内のHPC市場をけん引するNECが、2023年11月に新たなHPCの取り組みをコンセプトとして発表した。その名も「LX-neo」。ハードウェアの開発や提供にとどまらず、システムインテグレーション(SI)を含むトータルソリューションとして新しく打ち出す。

同社のSXシリーズといえば歴代の「地球シミュレータ」に採用されるなど、現在まで産学を問わず広い支持を集めている。日本のスパコン開発の黎明(れいめい)期に、世界で初めて1GFLOPS(ギガフロップス)超えの国産スパコンとして登場した経緯もあり、NECが得意とするベクトル型は同社の長年の強みとなっている。

しかし、世界の潮流は低価格かつ拡張性が高いスカラ型スパコン(CPUやGPU)に移り変わっている。そのためNECは主力のSXシリーズに加え、スカラ型のブランド「LXシリーズ」も提供する2軸の製品を展開してきた。

こう聞くと今回の発表は“至極当然”というか、「同社が今までやってきたことと何が違うのか」という疑問も浮かぶ。その狙いをNECのキーパーソンに取材すると、HPCへの向き合い方が見えてきた。

NECのHPC戦略について同社の陶理恵氏(インフラ・テクノロジーサービス事業部門 HPC統括部 シニアプロフェッショナル)に取材した
NECのHPC戦略について同社の陶理恵氏(インフラ・テクノロジーサービス事業部門 HPC統括部 シニアプロフェッショナル)に取材した

ハードもソフトも大切――あえて「当たり前」を言う理由

「今回、NECとして当たり前のことを言おうと考えました。これまではHPCのハードウェアを提供することがメインでしたが、付加価値を生むためにはソフトウェアや省エネルギーへの対応なども重要になります。筐体だけでなく運用支援などを含むソリューションとして提供していくことをコンセプトとしてお伝えしたいのです」――こう話すのは、NECのHPC事業を長年見つめてきた陶理恵氏(インフラ・テクノロジーサービス事業部門 HPC統括部 シニアプロフェッショナル)だ。

陶氏は、新卒でNECに入社してから今日までHPC事業に携わってきた。構造解析ソフトウェアをSXモデルに移植する開発畑に始まり、SX向けのサードパーティー製ソフトウェアをそろえるべく欧米のベンダーと交渉したり、国内外でのHPCの販売統括を任されたりした他、現在は一般社団法人スーパーコンピューティング・ジャパンの会長を務めるなど第一線で活躍している。

陶氏の経歴にもあるように、これまでNECはSXシリーズを主力製品に据えていた。その姿勢を転換するために打ち出したのがLX-neoだ。ベクトル型のSXとスカラ型のLXのどちらかにこだわるのではなく、顧客のニーズや計算内容に適したものの提供を最優先して学術機関の研究や企業のビジネスを後押しする。

LX-neoの概要
LX-neoの概要

根底にあるのは、HPCの用途が生成AIの開発や機械学習、シミュレーション、ビッグデータの活用など多方面に広がる中で、モノだけ売って終わるのは望ましくないという考え方だ。NECが持つHPCのハードウェアに加えて、研究開発で培った技術や運用ノウハウを一元的に提供することで「これからのビジネスをもっと高速にドライブする。研究開発をさらに極める。」というメッセージをLX-neoというコンセプトに込めている。

HPCのラインアップは、NECのベクトル型最新フラグシップ機「SX-Aurora TSUBASA」と、先端のCPUやGPUを搭載したLXシリーズだ。前者は気象や気候などの大規模な流体シミュレーションや統計分析といった特定用途で高い性能を発揮し、後者は汎用(はんよう)的な計算やディープラーニングなどの用途に優れている。

そこに性能評価や検証、システム構築、運用、保守といったサービスを加えることでHPCの導入から活用まで包括的に支援できる体制を整えた。

「ベクトル型のNEC」だけのイメージから脱却

LX-neoの詳細を聞けば聞くほど、利用者に適した製品とサービスを組み合わせるという当たり前の戦略に見えるが、NECにとっては画期的なことだった。

同社にとって、ベクトル型こそが会社のブランドであり誇りだ。しかし、競合他社はスカラ型の開発を加速し、HPC市場でもスカラ型が主流になっている。

NECもスカラ型を提案してはいたが、引き合いに対応する受け身の姿勢で、提案やサポートを行う全社的な体制があったわけではない。しかし、ベクトル型の提供だけでは他社に後れを取ってしまうという危機感と、スカラ型を含む幅広いラインアップで顧客のビジネスを支援したいという熱意を社内外に伝えるために、HPC事業のコンセプトをSXではなくLXを基にリブランドしてLX-neoにしたと陶氏は説明する。

「お客さまから『日本のHPC市場は外資系ベンダーが強いから、NECに頑張ってほしい』と言われることがあります。しかし、これまではスカラ型をご提供しにくかったのが事実です。そんな状況をLX-neoで変えていきます」(陶氏)

陶氏

そうはいっても、NECにとって「ベクトル型を提供するHPC界の雄」というアイデンティティーがあったはずだ。スカラ型にも注力することに葛藤はなかったのだろうか。

「最初は、ベクトル型を開発しているエンジニアの方々から『今から新しいことができるのか』という戸惑いの声が聞こえました。しかし、ベクトル型が合わないお客さまを支援するためにも、NECのビジネスを広げるためにも必要なことです。NECが持つ技術がいかに宝物であるか、それをどう生かせるかを伝えて、半年間の議論を終えて全員が同じ方向を向けました」(陶氏)

こうしてHPC事業は「neo」の名を冠する新たなサービスに生まれ変わった。HPC統括部がSXやLXの区分に縛られることなく、ソリューションとして顧客の課題解決を一番に考えて提案できる体制が整ったのだ。

LX-neoでは、LXシリーズとSXシリーズを適材適所で提案する
LX-neoでは、LXシリーズとSXシリーズを適材適所で提案する

競合優位は「ソフト」にあり

LX-neoの提供を始めるのに合わせて、NECのソリューション提供体制も強化した。従来はSXやLXのエンジニアと、コンパイラなどHPCで動かすソフトウェアの開発メンバーが別々に動いていたが、HPC統括部が軸になってスムーズな連携を実現。顧客に適したSIが可能になった。

「HPC領域でハードウェアとソフトウェア両方のエンジニアを抱えている企業は少ないので、NECの大きな強みになります。ベクトルとスカラのヘテロジニアスなシステムを構築する、SX向けに開発したソフトウェアやノウハウなどの資産をスカラに生かすなどは、競合他社と差別化できるカギになります」(陶氏)

NECは、HPC導入時の設計や構築から、運用サポート、計算効率を向上させるためのソフトウェアチューニングまで幅広く引き受けるなど、顧客を総合的に支援するために、これまで社内に散在していたNECの強みを一貫して提供する構えだ。既存の顧客からは「NECにはソフトウェアの開発部隊もいるから頼れる」「計算速度をもっと速くするためのアドバイスをもらえる」などの声が寄せられているという。

民間企業が苦手なSIを支援 学術機関で得たノウハウを適用

LX-neoでは、特にSIに力を入れている。HPC事業を一元化したことで、学術機関向けサービスで得たノウハウを民間企業に提供できるようになった。HPCは、大学や研究所で先に導入され、先進的な用途に使われることが多い。そこで得たノウハウを基に、民間企業のSIを支援する流れを作ることで、国内全体の研究やビジネスの加速に寄与したいと考えている。

一般的に、HPCで動かすソフトウェアのライセンス料金はCPUのコア数に左右される。どのようなシステム構成にすれば計算を高速化しつつ費用を抑えられるのかを提案して構築するのが腕の見せ所であり、NECが今後強化していきたい部分でもある。

こうしたNECの強みを、SIとして押し出すことで優位性を保てると陶氏は明かす。

ベクトル型の知見をスカラ型に生かす

LX-neoでNECが提供する価値、言い換えれば顧客にとっての一番のメリットは、SXシリーズで得た知見やノウハウをスカラ型に最大限に生かせることだ。ベクトルプロセッサとGPUはアーキテクチャが似ている部分も多いため、ソフトウェアのチューニングに応用できると陶氏は見込んでいる。

スカラ型の提供に際しては、ハードウェアの品質を重視している。NECはサーバベンダーの米Supermicroなどからハードウェアを仕入れて顧客に提供している。ベンダーはNEC独自の厳しい検査基準を満たしたものを納品するため、顧客からは「NECから買ったものは壊れない」と高く支持されている。

LX-neoの展開に合わせて海外のHPC事業を統合したことで、調達コストの削減などのスケールメリットを期待できる。NECはドイツでのスカラ型HPCの導入実績が多いため、ドイツの知見を日本に持ち込むことでLX-neoのスタート時から高品質なサービスを提供できる。

SXの実績を継承しつつ深化 「最善の提案ができる」

LX-neoを深掘りしていくと、これまでの実績を継承しながら新たな価値の提供を実現している点が最大の強みだと分かる。NECは、LXシリーズを計算科学やビッグデータ解析、超大規模AI分野で活用している筑波大学などの学術機関や、SX-Aurora TSUBASAを使って文書分析や物流最適化などで成果を挙げた民間企業の事例やノウハウを多数持っている。

研究機関のビッグデータ解析やAIの研究開発、自動車業界における構造解析や流体シミュレーション、組み合わせ最適化問題の高速処理を可能にする「量子アニーリング」技術の利用など、高度な計算能力が求められるさまざまなシーンでLX-neoの強みが発揮されるはずだ。

「ベクトル型だけしか提案できなかった過去とは違い、お客さまの『この仕様書に対してNECは何が提案できるか』というご要望に最善の提案ができるようになりました」(陶氏)

SIや遠隔での運用支援、24時間サポートなどをNECの信頼できるサービスとして提供していく決意だ。大手企業のHPCというと数十億円規模の相談がベースラインだと思われがちだが、LX-neoは小規模でも気軽に相談してほしい、そして今後のNECに期待してほしいと陶氏は結んだ。

転載元:ITmedia NEWS
ITmedia NEWS  2023年12月05日 掲載記事より転載
本記事は ITmedia NEWS より許諾を得て掲載しています
記事URL:new windowhttps://www.itmedia.co.jp/news/articles/2312/05/news008.html