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「ローコード開発」で価値を生み出す!
官公庁向けシステム開発コラム 第3回
ローコード開発コンテストチャンピオンが導入効果や内製化のポイントを詳しく解説
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ローコード開発コンテストチャンピオンが
導入効果や内製化のポイントを詳しく解説!
──藤森さんは担当するサービスの開発にローコード開発を活用しているそうですが、採用したポイントや期待はどこにあったのか教えていただけますでしょうか?
藤森私は現在、官公庁のお客様向けに働き方改革を後押しするサービスの開発を行っています。昨今、日本を取り巻く社会環境の変化は加速しており、対応すべき課題もより複雑で多様化しています。そのような中で我々のチームでは官公庁のお客様が働く環境をDXの力で効率化して、日々の業務負担を軽減するサービスの提供を検討しています。
サービスを開発するにあたっては、お客様がどのように働いて、どのような課題を持ち、どのように変わることを望んでいるのか知ることが重要です。そのためには、利用者となるお客様へのインタビューが欠かせませんが、実際のサービス提案の場面では、「具体的なものを持ってきてくれないとちょっとわからないですね」とおっしゃられることが多くあります。
そのような経験から、プロトタイプとして動く完成イメージを素早く作って見せることができるローコード開発プラットフォームのMendixを利用し始めました。短期間で開発と改修を繰り返せるローコード開発の強みが、我々のサービス開発に役立つと考えたためです。また、私自身が元々インフラエンジニアでアプリケーション開発経験が少なかったのですが、非技術者でも比較的簡単に開発が行える点に期待をしました。
──ありがとうございます。実際にローコード開発を活用されて、その期待通りの効果は得られましたか?
藤森はい、効果は得られていると感じています。特に価値として大きく実感できているのは、開発の迅速性と柔軟性です。前述の通り私はアプリケーション開発の初心者でしたが、二週間程度でプロトタイプを作ることができました。アカウントを作成するだけですぐに使える開発環境とそこに含まれるアプリケーション開発用の基本的な部品やテンプレートが、開発のクイックスタートと期間短縮を可能にしてくれました。
さらに、変更対応も簡単に行えました。例えば、プロトタイプをお客様の所に持ち寄って、小さい変更であればその場で直し、大きな変更も持ち帰ってすぐに改修し、次回の打合せでお見せするという対応ができています。Mendixの開発環境には開発中の画面のプレビュー機能を搭載していますので、お客様から「レイアウトの配置を変更できないか?」といった相談があれば、その場で反映してすぐに動作確認していただくことが可能です。
また、Mendixはプロトタイプを動作させるだけであれば無償環境でほぼすべての機能の動作確認が可能です。そのため、プロトタイプや開発中のアプリケーションの試用環境をお客様に提供して、実際に使い勝手を試してもらいながら導入を検討することが可能です。その際、お客様から我々開発者へのフィードバック機能もあり、お客様とコミュニケーションを密にとりながらシステム開発で新たな価値を生み出す“共創”に役立てています。
変化の激しい時代において、システム開発で新しい価値を作り出すためには、技術者と非技術者が共同で開発したり、時には非技術者である利用者自身が内製化したりすることが求められています。そのような中、アジャイルにシステム開発することができるローコード開発の手軽さに大いなる可能性を感じています。
プロトタイプのような実際に動く完成イメージを見ながら開発を行うことは、サービス開発だけでなく、請負のシステム開発の現場でも大きな変化を生むと考えています。これまでは設計→開発→テストの工程を得て、開発プロセスの下流になって初めてお客様は動作確認できる実物を見ることができました。しかしながら、総合試験や受け入れ試験の段階で「これは違う」となった場合、そこから変更することは容易ではありません。
ローコード開発では開発環境に設計情報を設定することで、その設計情報からその場で自動的にアプリケーションが構築されます。そのため、設計の段階から利用者に見た目や動作を確認してもらい、共に開発する事が可能になります。UI/UXを特に重要視されるような機能であれば、要件定義の段階でプロトタイプを作ってしまう事もできます。このように、利用者がより上流で実物による動作確認できることが、これからの時代では大きな付加価値になると実感しています。
──ありがとうございます。サービス開発を行う上で、お客様の声を素早く反映できることにローコード開発の強みを活かされているのがよくわかりました。それでは反対に、ローコード開発を行ってみて難しかったことがあれば教えていただけますでしょうか?
藤森
ローコード開発は用意されている部品やテンプレートを組み合わせてシステムを開発しますので、細部までこだわったデザインや詳細な処理などををあらかじめ指定されてしまうと、それら標準部品が使えずにローコード開発の強みが充分に発揮できなくなります。そのため、単純な「モノづくり」から価値を実現する「コトづくり」に開発者である我々自身が考え方を変えていく事が必要でした。
例えば、イラストに示すようなスマートフォン用アプリの中で(下図 ローコード開発環境で製作中のスマートフォン用アプリ 参照)、この「?」に当たるボタン(※1)をどのようなデザインにすれば良いのか検討しているとします。
これまでのような「モノづくり」に焦点を当てていた考え方の場合(下図 モノづくり思考 参照)、我々開発者はお客様に「このボタンの色や形、大きさはどうしますか?」(※1)とヒアリングをします。
これに対し、お客様は自分の用途に沿った形で詳細なデザイン案(※2)を指定してくれます。しかしながら、詳細なデザインを指定されてしまうと、ローコード開発プラットフォームで用意している標準部品に同じものが無い可能性が高く、指定されたデザインのボタンを手作りしなくてはなりません(※3)。このような「モノづくり」思考では、あらかじめ用意された部品を組合せるローコード開発では要望の実現に制約があるという考えに至ってしまいます。
そのため、ローコード開発では、このような小さな部品単位でお客様の要望に応えることでは無く、「コトに焦点を当てて」真のお客様の要望を理解することが大切です。(下図 コトづくり思考 参照)
先ほどと同じ例ですが、コトに焦点を当て、「どんなコンセプトのデザインをご希望ですか?」(※1)とヒアリングすることで「お年寄りにも優しいデザイン」であることが重要だとわかります。(※2)。それを受けて、標準の部品で用意されている中から「優しい印象を与えるこちらの部品はいかがでしょうか?」(※3)というような提案ができるようになり、よりお客様の本質的な課題解決に寄り添えるようになります。その結果、「コトづくり」思考に変わっていき、要望を効率的にすばやく実現することが可能になります。
共創や内製化が求められる中、お客様自身がシステム開発の領域に一歩踏み込んできています。それに応えられるようにわれわれ技術者自身もお客様の目線で価値の実現を考える事がこれからの時代に必要不可欠です。ただ作るだけでは無く、お客様が必要なものを正しく捉えて提案して行く。この大きなマインド変化への対応が難しかった所です。
──内製化や共創 に期待が集まる中で、官公庁においても「ノーコード開発」や「ローコード開発」が幅広く活用される事が予想されます。それに伴い、開発手法やプロセス、お客様とベンダーの役割なども大きな変化を迎えていると思います。
「ノーコード開発」「ローコード開発」を活用する際に、ぶつかる課題はどのようなものがあるのでしょうか?また、内製化や共創が広がる中でITベンダーの役割はどのように変わるのでしょうか?
官公庁領域では、ここ1~2年でPowerAppsやkintoneなどのノーコード開発ツールを利用した内製化が広がりを見せています。これまでExcelやメール、人手で行っていたような作業をシステム化して、試行錯誤を繰り返しながら内製化で効果を出すお客様も現れてきています。
一方でノーコード開発ツールによる内製化に対して、新たな課題にぶつかるお客様も出てきています。よくお聞きするのは以下の3つの声です。
(1)ノーコード開発ツールのライセンスを購入はしたが、充分な内製体制を維持できずにライセンスが放置されている
(2)ノーコード開発ツールでは実現可能なことに限度があり、ある程度大きなシステム開発には利用ができない
(3)品質やセキュリティに一定の水準を求められる官公庁案件のシステム開発において、内製化するのは困難である
自分自身の手で価値を生み出すシステムの内製化に期待が集まっていますが、ある程度の規模の開発になると、プロフェッショナルな技術領域まで踏み込む必要が出てきます。本業の傍らでシステムの内製化を行う場合、開発に使える時間や体制は限られますので、お客様はより利用者視点で付加価値につながる機能要件部分に集中することが大切です。それを実現するためには、非機能要件などの専門性の高い領域はベンダーが担当し、共創の形を取ることが現実的であると考えます。
共創の世界におけるベンダーの提供価値とお客様の姿はどのようなものになるのかを整理しました。(図 共創におけるベンダーの提供価値 参照)これからは、お客様に言われた通りに作って納品するという形だけではなく、お客様とワンチームを作りながらお互いの得意な分野を補い合うことによって、共に価値の高いシステムの導入を効率的に実現していくという考え方が大切です。ベンダーは”開発を行う”という役割を広げ、これまで培った技術や経験を活用し様々方法でお客様に価値提供をしていくことが望まれます。
──ローコード開発も魔法の杖ではないこと、またベンダーの提供価値も変化して行くことがよくわかりました。このような変化に対して、NECはどのようなサービス提供を準備しているのでしょうか?
藤森NECは官公庁向けの事業領域で、ローコード開発を活用するための幅広い支援メニューを整えています。ここではローコード開発プラットフォーム「Mendix」をベースとした取り組みを三つご紹介します。
(1)行政システムの基準に準拠するための標準化整備
ローコード開発プラットフォームは、独自にコーディングをする領域を極力減らし、既存のテンプレートや部品を組み合わせて開発を行うことで、コーディングミスのような人為的なバグを最小化して、素早く高品質なシステムを開発することが可能です。
しかし、部品を正しく使わないと意図しない動作となり、障害やセキュリティ問題が発生するリスクがあります。特に行政システムの開発において、セキュリティやデザインなど、準拠すべき標準がしっかりと定められており、ローコード開発プラットフォームをただ利用して開発をするだけでは不十分です。
それに対応するために、NECでは、官公庁向けのローコード開発推進の組織が中心となり、セキュリティやデザインといったその領域の専門組織と連携しながら、標準化整備をしてきました。
それらのおかげで、例えば、「政府の策定するサイバーセキュリティ対策の統一基準に準拠するために、Mendixはどのように使えばよいか?」という点や、「デジタル庁が定義するデザインシステムに掲載されているデザインレベルを実現するためには、Mendixをどのように設定すればいいか?」などの課題が発生しても、プロジェクトチームは最適な解決策を提示することができるようになっています。
(2)ローコード開発やアジャイル開発の適応支援と教育プログラムの提供
共創の現場ではお客様もローコード開発やアジャイル開発の知識が必要となる場面が出てきます。NECでは、お客様が安心してシステム開発の世界に一歩踏み出すための支援を幅広く準備しています。
例えば、Mendix開発の価値を簡単に体験できる数時間のハンズオンプログラムの提供や、開発全般を網羅的に学べるブートアップ研修、UI/UXやビジネスロジック策定などテーマを絞った専門的な研修などを幅広く提供をしています。
また、アジャイル開発に対しては、ゲーム形式でアジャイルのマインドを学べるプログラムやチームビルディングを加速する支援プログラム、アジャイル開発に伴走するコーチの提供、スクラムマスターやMendixを習得したチームリード技術者の提供など、お客様のスキルや体制に合わせた柔軟な支援メニューを揃えています。
(3)ローコード開発を軸とした新しい開発スタイルと開発から運用までの一貫した環境を提供
Mendixをはじめ、グローバルでリーダーポジションにあるローコード開発プラットフォームは外国製のものが中心となります。そういった製品はグローバルで幅広く使われるために、汎用的な機能は多く用意されていますが、日本文化特有の要件に対応しきれないことがあります。
例えば、細部にわたる権限制御や帳票、外字などは対応が難しく、ミッションクリティカルな案件も多い行政システム開発では、製品内では対応しきれない詳細なログ出力や運用監視が必要となる場合もあります。
そこで、NECではMendixの標準機能に加えて統一性や性能を考慮した独自の部品やデザインテンプレートを搭載し、運用基盤、CI/CD基盤、パフォーマンス検証基盤との連携を備えた開発基盤を提供しています。ローコードの開発に最適化した開発プロセスと合わせて採用することで、品質を確保しつつ生産性を向上することが可能です。
アプリケーションを迅速に対応させるための基盤群・ケイパビリティについて:アプリケーションライフサイクルマネジメント
また、行政システムにおいては、単独のシステムに閉じず複数のシステムが連携して構成されるため、オンプレ・クラウド・コンテナなどプラットフォームの多様化・複雑化により運用管理がますます難しくなっています。
このような課題に対し、NECではこれまでのノウハウと新技術を活用した「スマートオーケストレーション」構想のもと、ICT管理の自動化、自律化を推進することで、人手に依存しないシステムの標準化を目指しています。これにより、IT人材不足を補いつつ、より本質的な価値を生み出す部分に人手をかけていくことを実現します。
スマートオーケストレーションとは:スマートオーケストレーション | NEC
──ありがとうございます。さまざまな観点でお客様との共創を可能にする価値提供サービスを準備されているのですね。中でも、これからローコード開発導入検討をするお客様におすすめの支援はどのようなものでしょうか?
藤森まずは”部品を組合せてモノづくりを行うこと”による価値を実感していただくために、Mendixを使ったノーコード開発体験ハンズオンをおすすめします。
Mendixはローコード開発プラットフォームですが、非技術者との共創をコンセプトとしており、技術者ではなくても開発に参加できるノーコード環境を提供しています。ハンズオンではこのノーコード開発環境を使って実際に動くシステムを構築していただき、ノーコードやローコード開発の価値を理解していただくことでどのように活用できそうかをイメージしてもらうプログラムです。
この研修はもともと社内の勉強会として作ったものがベースとなっています。二年前にNECがローコード活用を本格的に推進し始めた時に、まずは現場で活躍する社内の営業、SEに価値を認知してもらう必要がありました。そこで、ローコード開発の持つ簡単にものづくりができるという強みを利用して、一緒にハンズオン形式で開発体験してもらおうと作ったのが、このハンズオンプログラムになります。今ではNECグループ内から開発パートナーにまで広がり、500名以上が体験をしています。受講者には役員や総務人事、営業職、新入社員など、普段の業務で開発を担当していない社員も多く含まれています。資料ベースやデモ形式の勉強会では、なかなか活用イメージがつきにくいこともありましたが、受講後はわかりやすく価値を体感できたと好評を得ています。
2022年度の下期から、官公庁のお客様向けにもハンズオンの提供を開始しています。まずは価値を知ることから始めていただき、どのような活用方法があるかを一緒に試行錯誤をして行きたいと考えています。「ノーコード開発」「ローコード開発」の活用を検討しているが、活用イメージがわかない場合など、お困りの際はぜひご相談ください。
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解説者紹介
藤森 偉恭
ふじもり よりたかNEC
クラウド・プラットフォームソリューション統括部
サービス開発グループ プロフェッショナル
東京都大田区出身。1999年4月にNEC入社。入社後は金融、通信、自治体領域のインフラエンジニアとしてキャリアを築く。
2019年のラグビーワールドカップを機として、外国人の日本観光を支援する多言語音声翻訳技術を活用した観光ビッグデータ分析ソリューションの企画開発を推進。
新事業の企画開発に面白みを感じ、2021年度より行政職員の働き方改革を後押しするサービスの企画開発チームに参画し、自らMendixを活用してサービス開発を行っている。。
2022年に開催されたシーメンス社主催のMendix Programming Contest 2022にて初代チャンピオンに輝く