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クラウド化の最前線に立つNECのスペシャリストが語る
クラウドが活用できる組織・できない組織(前編)

デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に向け、業種や分野を問わずICT環境のデジタルシフトが加速しています。ここに必要不可欠な技術がクラウドです。しかし、クラウド導入の障壁は少なくありません。技術やセキュリティ面などの懸念、あるいは従来の考え方からの脱却が必要なケースもしばしばあります。現場の最前線に立つNECのスペシャリストたちの言葉を通して、クラウドの導入からその先のステップアップで必要となる新しい考え方についてお伝えします。

1.クラウド導入のハードルにつまずかないために

自分の責任でクラウド化を推進するキーパーソンが重要

クラウドを導入する際、組織の中では、「クラウド推進派」と「クラウド慎重派」との間で意見が時折対立します。こうした状況にどのように取り組むのがいいのでしょうか。日本の官公庁や企業の現場では、クラウドの利便性や安全性に対して懐疑的な見方は少なくありません。このような状況の中でも、NECのスペシャリストたちが現場で経験した「スムーズに進むパターン」は2つあります。1つは、クラウドを推進する立場のお客さまがご自身の管轄の範囲で実績を出していくことです。
クラウド化への慎重論や反対意見として挙がるのは、オンプレミスで問題なく稼働しているのに移行する意味があるのか、目の前に実在するものでないと管理していると言えないのではないか、などです。もっとも目立つのは「問題が起きても自分たちは責任を負えない」というものでしょう。この意見を持つ方を説得するのは時間を要します。一方、自分で責任を取る立場の担当者が自分の管轄でクラウド化を進める場合、積極的な反対意見は出にくいものです。クラウド化を自分の責任で推進するキーパーソンがいるかどうか。ここが最初の大きな分かれ目となります。

進む行政機関のクラウド活用
クラウド・バイ・デフォルト原則

日本政府は、2018年6月に「クラウド・バイ・デフォルト原則」を打ち出しました(図1)。これは政府が情報システムの構築などを行う際にはクラウドの利用を第一に考えるという方針です。今や「クラウドで行わない理由」を探さなければいけない時代になったといっても過言ではありません。

小さくつくって大きく育てる

もう一方のクラウド導入が「スムーズに進むパターン」は、まず現場で「手を動かす」ことです。

「業務でパーソナルコンピュータを活用することに懐疑的な見方がされていた時代があったように、クラウドで得られるメリットを多くの方が理解している訳ではありません。そこで、クラウドの導入の際は、いきなり基幹業務に適用するのではなく、実際に使ってみて便利だな、と思えるような小さな成功体験を積み上げていくことが重要です」
(サービス&プラットフォームSI事業部 マネージャ 古殿隆之)

サービス&プラットフォームSI事業部 マネージャ 古殿隆之

小さな成功体験を積み上げるためには、プロジェクトを検証フェーズと実証フェーズに分けて段階的に進めていく手法も有効です。検証フェーズを設けることは、想定外のリスクを最小限に抑える意味でも効果的です。
現代的なシステム開発では、マイクロサービスのコンセプトが注目されています(図2)。規模が小さく明確なインターフェースを持つシステム、つまりマイクロサービスを複数集める形の情報システムを設計、構築していきます。一つ一つのマイクロサービスは規模が小さく仕様が明確なので、すばやい変更に対応しやすく、アジリティ(俊敏性)を高められる特色があります。通信事業者のシステムへのクラウド導入を手がけるスペシャリストは次のように語ります。

「既存システムに追加するWeb系を拡充するためにクラウドを活用していますが、そこで求められるのはクラウドならではのアジリティです。オンプレミスの従来システムは、切り分けが難しい、いわば一枚岩でした。それを小さな塊に切り出し、マイクロサービスの集まりとして構築していきます。それら一つ一つのアジリティを上げていくことで、クラウドならではのメリットが出てきます。CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリ)により、継続的な改善が容易な仕組みもつくることができました」
(OMCS事業部 プロジェクトマネージャ 窪田竜太)

OMCS事業部 プロジェクトマネージャ 窪田竜太
図2 マイクロサービスのメリット

情報システム構築に携わる方たちは、多くの場合「実際に手を動かさないとわからないし、技術が身につかない」と考えています。スペシャリストたちも、これまでの技術と同じく、手を動かさないとクラウドの利点も技術も本質を掴めないと口を揃えます。クラウドに実際に触れてスキルを習得できる場は重要です。後述する「クラウド・センター・オブ・エクセレンス」もクラウドスキルを組織内で普及させる上で重要な役割を果たします。

進む行政機関のクラウド活用
なぜ検証期間を設けなくてはいけない?

政府や自治体の情報システム構築に向けては、ある年度内で検証を行い、その結果に基づいて翌年度に本格的なシステム構築を計画することを勧めています。

「政府向けプロジェクトでは、始めから本番システムの調達をかけるのではなく、その前の年度で3カ月ほどの期間で検証するよう提案します。実際にクラウドを使ってみることで、できること、できないことを把握できるようになるからです。そうすることで、本番プロジェクトにおいて、どこにクラウドを使うべきかが明確になります」
(ガバメント・クラウド推進本部・マネージャ 諸藤洋明)

ガバメント・クラウド推進本部・マネージャ 諸藤洋明

コストメリットを引き出すために

お客さまがクラウドに期待するものは多種多様ですが、もっとも多い問い合わせはコスト削減です。実際にクラウド化を推進してコストメリットを得る上では、目先の移行や導入、運用コストだけでなく、緻密な計画が必要となります。また、ビジネスが加速することに対してなど、見えないコストも勘定する必要があるでしょう。
NECが提供する簡易アセスメントサービス「AWSクラウドエコノミクス」は、コスト削減にとどまらないクラウドの価値を確認することができるサービスです。お客さまの現在のシステム環境に関する情報を一部提供いただき、クラウドサービスのAmazon Web Services(AWS)を活用した場合の効果を試算して報告するもので、コスト削減効果をより具体的にイメージしていただくとともに、継続的に利用した場合に得られるメリットを導入実績に基づき紹介。クラウド導入の足掛かりとして効果的です。

参考:NECが提供する「AWSクラウドエコノミクス」

2.クラウド化を加速するために組織の見直しを

なぜCloud CoEは必要なのか

クラウド化を加速させるには、それに適した組織が必要です。単なる情報システムの導入という側面にとどまらず、クラウド推進には従来の組織のあり方から変えていかなければいけません。そのためには、いったいどのような取り組みをすればいいのでしょうか。 クラウドを推進する組織機能として注目したいのが、前述したクラウド・センター・オブ・エクセレンス(Cloud CoE)です。Cloud CoEは、組織のガバナンス、知識・ノウハウの共有、組織内のコンサルティングの役割を持っています。
NECにも、Cloud CoEに相当する「デジタルHub」と呼ぶ社内コミュニティがあります(図3)。4000名に近いメンバーがさまざまな課題に対応した活発な情報交換を日々行っています。

「クラウドにまだ慣れていない開発が、初期段階でつまずくことはよくあります。そのとき、誰かに支援してもらうなど、横の連携がないとクラウド推進は加速しません。組織で横断的に助け合う仕組みとしては、CoEがその役割を果たせる場合もあるでしょう。まず少数精鋭のチームをつくって情報共有を進め、組織全体に裾野を広げていく取り組みが必要です」
(デジタルビジネス基盤本部 シニアエキスパート 北川泰平)

デジタルビジネス基盤本部 シニアエキスパート 北川泰平

クラウドは常に変化を続けるので、情報を随時共有できる環境は欠かせないものです。技術情報や課題解決の取り組みなどの情報を組織全体で共有できれば、クラウド推進に対して多大なメリットがあります。

図3 NECのCloud CoE デジタルHub(クラウド)

組織に横串を通して情報共有を

スペシャリストたちも、組織内の隅々まで同じ意識を持つためにも横のつながりは必要だといいます。大企業や政府機関、自治体など、上から下へ情報や指令が流れる組織と比較すると、CoEは普段は影に隠れており、必要なときに組織を横断した情報共有の役割を果たします。多くの組織では縦型組織の仕組みはすでに構築されているでしょうから、横断的な情報共有を役割とするCoEのような体制の整備が喫緊の課題といえるでしょう。