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世界初・大容量12コア光ファイバー
大洋横断級の長距離伝送実験に成功

NECの最先端技術

2024年3月21日

世界中で急速に増え続けているインターネット上のトラフィック。今後5Gや自動運転、メタバースなどが浸透すれば、現在の光ファイバーでまかなえる容量はいよいよ限界を迎えるとも言われています。そのようななかで注目されているのが、マルチコア光ファイバーというアイデアです。従来の光ファイバーには、中心部に光の伝送路である「コア」が1本芯のように通っていました。これに対し、マルチコア光ファイバーは光ファイバーの外径はそのままに、複数のコアを通すことでトラフィックを飛躍的に向上させようとするものです。

なかでもマルチコア光ファイバーが有効であると考えられているのが、海底ケーブルです。数千kmに及ぶ長さのケーブルを何本も船に載せて敷設していくよりも、1本のケーブルでまとめて敷設した方が圧倒的に効率的であるからです。海底ケーブル市場で世界トップ3社の一角をなすNECでは、2022年7月に4コアのマルチコア光ファイバー海底ケーブルの試作に世界で初めて成功していますが、今回は12コアのマルチコア光ファイバーで大洋横断級7280kmの長距離伝送実験に世界で初めて成功しました。今回の成功にはどのような目的や意味があるのか、また、どのような技術を使って実現されたのか。研究者に詳しく話を聞きました。

アドバンストネットワーク研究所
ディレクター
ル・タヤンディエ・ドゥ・ガボリ エマニュエル

アドバンストネットワーク研究所
主任研究員
有川 学

アドバンストネットワーク研究所
リードリサーチエンジニア
中西 広典

アドバンストネットワーク研究所
リサーチャー
小田川 高大

光海底ケーブルのさらなる大容量化が視野に

ル・タヤンディエ・ドゥ・ガボリ エマニュエル

― 今回の12コア光ファイバーによる長距離伝送実験成功には、どのような意味があるのでしょうか。

ドゥ・ガボリ:NECではこれまでに4コアのマルチコア光ファイバーの試作に成功していました。ただし、前回の4コアと今回の12コアでは決定的な違いがあります。というのも、4コアまでは非結合型と呼ばれる仕組みで実現できるもので、コア同士の通信の干渉や混信(クロストーク)が深刻化しないものだったからです。そのため、従来型の端局装置もそのまま使用することができました。しかし、4コア以上ともなるとクロストークは生じるものとして設計する必要が生じます。これが結合型の空間多重という仕組みです。コア同士の干渉や混信が前提となるので、最終的に受信した信号をコアごとに分離して復調するという処理も必要です。そのため、端局装置も新しいものが必要となります。12コアの光ファイバーと同時に、伝送・復号に関わる新しい技術も必要となったのです。

今回の研究はNTTがプロジェクトリーダ(幹事会社)としてすすめる国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究プロジェクトのなかで、NECとNTTの2社が連携しながら取り組んできました。本プロジェクトではNECとNTTを含む複数者で将来の大容量光伝送基盤の実現技術を提案・推進しており、本成果は、当プロジェクトのスコープの一部である、NECが担当する空間多重技術の海底システム応用の取り組みにおいて創出した成果です。今回、NTTが伝搬遅延や特性の不均一性の影響を12多重の光信号の大洋横断級伝送を実現可能なレベルまで低減した、入出力デバイスを含めた結合型マルチコア光ファイバー伝送路を開発してくださったことが成功につながりました。さらに、NECではこの光ファイバーを活用するための画期的な伝送・復号技術を開発し、両社の技術がコラボレートしたことで今回の成果が生まれたのです。


有川:これまでもアカデミアの研究レベルでは、10コアを超えた空間多重が発表されていましたが、どれも長距離伝送には対応することができませんでした。長くても1000km程度です。そのようななかで、12コアのマルチコア光ファイバーが、海底ケーブルとして大洋横断ができるような7280kmの伝送実験に成功したことには大きな意味があります。

世界では光伝送システムの大容量化をめざすさまざまなアプローチが試みられてきましたが、マルチコア光ファイバーによる海底ケーブルの敷設が現実味を帯びたことで、世界中にこのアプローチでの研究開発の道筋を示すことができたと思います。

光通信分野で世界最大の国際学会で極めて高い注目

有川 学

― 実験成功のためには、どのような技術のブレークスルーがあったのでしょうか?

ドゥ・ガボリ:「MIMO (Multi Input Multi Output)」技術によって混線した信号を復号するアルゴリズムを開発しました。MIMOは複数のアンテナでトラフィックを分割して通信する技術で、5G無線通信などで注目されています。


有川:もともとMIMO処理による復調は光ファイバー通信でも一般的に使われてきました。偏波多重と呼ばれるもので、二つの偏波で信号を送信して、受信時に混ざってしまった二つをもとに戻すという技術です。ただ、これはコアが一つのときに使われていたものですから、12コアともなると24×24ものMIMOが必要になります。これほどまでの規模になっているので、今回のMIMOでは無線のようなことをやっていると解釈することもできるかもしれません。とはいえ、光ファイバー通信で想定される信号速度は5G無線通信と比べて桁違いに高速です。しかも無線であればせいぜい数kmの通信ですが、7000km超の伝送路となるとその影響をさらに考慮していく必要があります。そこで、5G無線のMIMOとも一線を画すアルゴリズムを開発していきました。


ドゥ・ガボリ:ここには有川さんが10年以上この研究で培ってきたノウハウが活かされていますね。


有川:大規模な通信になっても安定して動くようなアルゴリズムの検討は、これまでずっと続けてきました。今回の実験でうまくそれが結実したと言えるのかもしれません。


ドゥ・ガボリ:今回実証した長距離伝送実験はアカデミアでも高く評価されています。光通信の業界で世界最大の学会「OFC 2024」が3月24日から開催されるのですが、そこで上位数%に相当する高スコア論文として口頭発表する予定です。また、それだけでなく、まだ会期前にもかかわらず既に本論文の概要がOFCからプレスリリースされています。このようなことは年間でわずか数件しかない稀有なことです。世界的にも注目度が極めて高い成果であることを実感しています。

リアルタイムな処理の実装に向けて研究を加速

中西 広典

― 今後、本技術の研究はどのように進んでいくのでしょうか?

ドゥ・ガボリ:今回の実験はまだオフラインでの結果です。受信波形を取得後パソコンを使って復号するというやり方ですね。実際のシステムで動かしていくためにはLSI(大規模集積回路)を使ってリアルタイムに処理する必要があるので、まだそこに至るまでにはギャップがあります。ですから、今後はどのように回路を構成し、いかにシステムを実現していくかというステップに進むことになるでしょう。ここでは、中西さんの力が重要になってきます。中西さんは昨年5月に入社してくれた新戦力で、回路設計やハードディスクのLSIの設計に長く携わってきた専門家です。


中西:そうですね。今回の技術では高度な信号処理が入っているので、ともすれば回路規模や消費電力が膨大なものになってしまいます。しかし、それでは全体的にコストが肥大化してしまいますし、製品として売ることも難しくなってしまいますから、できるだけ回路規模も消費電力も抑えて商用的に理に適うようなかたちでASIC(Application Specific Integrated Circuit:特定用途向け集積回路)をつくり込んでいくことをめざしているところです。まずはFPGA(Field Programmable Gate Array:現場で書き換え可能な論理回路)にMIMOを実装して課題を見つけて、ASICにつなげていくという道筋を立てて取り組んでいます。


ドゥ・ガボリ:さらに、チームには昨年4月に入社した新入社員も加わって体制が強化されています。実際、小田川さんは本技術の研究にあたってMIMO処理を効率化させる方法を検討してくれています。

小田川 高大

小田川:はい。MIMOの前段階で、準備するための処理があるのですが、そこでより効率化できる工夫ができないかと考えて、信号処理の方法を検討していきました。学生時代は素粒子実験に取り組んでいたので、信号処理は新しい領域への挑戦となりましたが、アルゴリズムを考えたり装置を実際に開発したりすることなど、共通することも多く存在しています。そのあたりの経験を活かすことができればと考えて研究に取り組んできました。通信は私たちの生活に密接に絡んでいる業界です。そういった身の回りの暮らしに関わる研究・仕事ができるのは、とても面白いと感じています。


ドゥ・ガボリ:チーム一人ひとりの力があり、結合型のマルチコア光ファイバーの研究開発をいよいよ軌道に乗せることができました。今後は実証に向けて、さらに研究を加速させていきたいと考えています。

マルチコア光ファイバーは世界中で研究開発が進められている分野ですが、NECでは2022年7月に4コアのマルチコア光ファイバー海底ケーブルの試作に世界で初めて成功しています。さらに、現在では実際に2コアの長距離光海底ケーブルシステムの敷設プロジェクトも手掛けるなど、常に世界をリードしつづけてきました。

今回の実験では世界で初めて12コアのマルチコア光ファイバーで大洋横断級7280kmの長距離伝送実験に成功しています。10以上のコア数で、これほどまでに長距離の伝送実験に成功した例は世界になく、海底ケーブルへのマルチコア光ファイバー適用の現実性を高めるものとなりました。

  • 本成果は国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究(JPJ012368C01001)により、NTTとの連携によって得られました。
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