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世界初・次世代型光ファイバーの試作に成功
大容量マルチコア光伝送システム
NECの最先端技術 2022年7月15日
いまや社会に広く浸透した光ファイバーネットワーク。NECではその光ファイバーのさらなる大容量化を実現する「マルチコアファイバー」の試作に世界で初めて成功しました。しかし、そもそもなぜ、さらなる大容量化が必要なのか。そして、マルチコアとは、どのような技術なのか。研究者に詳しく話を聞きました。
現在の光ファイバーでは近い将来、社会を支えられなくなる
― 光伝送システムの大容量化が急がれる理由は何でしょうか?
ドゥ・ガボリ:インターネット上のトラフィックは、およそ3年ごとのタームで倍増を繰り返して急速に増え続けています。私が学生の頃には、光ファイバーの帯域は無限大だと言われていましたが、それももう昔の話です。今ではもう、上限が見え始めています。
5Gのモバイルトラフィックが増えれば、当然それを束ねる光ファイバーが必要になりますし、今後自動運転やメタバースなどが社会に浸透すれば、さらにトラフィックは跳ね上がっていくことでしょう。光伝送システムの大容量化は、いまや差し迫ったテーマになりつつあるのです。
では、どのようにして光伝送システムの大容量化を実現するのか。先ほど申し上げたように、現在の光ファイバーが伝送できる容量には限界が見えつつあります。1本で伝送可能な容量は約100Tbpsが限度と言われていますから、今後の社会で必要とされるペタビット級のトラフィックには対応することができません。新しいブレークスルーが不可欠です。
そこで生まれたのが「マルチコア」というアイデアでした。従来の光ファイバーには、中心部に光を屈折させて伝搬する「コア」という部分が1本芯のように通っています。このコアを1本の光ファイバーの中に複数本通すことができれば、光ファイバーの外径はそのままにトラフィックを大きく向上させることができます。
特に、このマルチコアファイバーは、海底ケーブルの領域で非常に大きな需要があります。海底ケーブルは、船にケーブルを積み込んで海底に敷設していくのですが、ケーブルの外径が太くなってしまうと船に搭載できる量が減り、港と海洋を何往復もしなければならなくなります。これでは非効率ですよね。NECは海底ケーブルにおいて世界のTOP3に数えられる企業ですから、独自のノウハウを活かしてこの研究にいち早く取り組み、世界をリードしてきました。
1本の光ファイバーの中に複数の「コア」をつくるマルチコア
― NECでは、具体的にどのようなマルチコアファイバーの研究を進めているのでしょうか?
竹下:マルチコアファイバーには「非結合型」と、その進化型である「結合型」の二つの方式がありますが、NECでは双方の研究に取り組んでいます。
非結合型は、光ファイバーの中に通信の交錯(クロストーク)が生じない程度のピッチでコアを設ける方法です。現在、世界では4コアで標準化を進めようと取り組んでいます。直径125ミクロンの光ファイバーのなかに、4本のコアを通すという非常に微細な加工が求められる世界です。NECでは、株式会社OCC、住友電気工業株式会社と共同研究を進めた総務省のプロジェクトにおいて、世界で初めて非結合型マルチコアファイバーを収容した海底ケーブルのプロトタイプ開発に成功しました。この成果は、当時NHK地上波のニュースでも報道されるなど大きな話題になりました。また、この結果をまとめた論文は光通信領域で世界最難関といわれる国際学会OFCにおいて2022年に「注目論文」として選出されたほか、双璧をなす国際学会ECOCでも「招待講演」の依頼をいただきました。
非結合型のメリットは、既存のシステムをそのまま利用できるという点です。1本のファイバーの中に埋め込まれた4本のコアを1本×4にバラせば、送受信器や中継器などのシステムを流用することが可能です。こうした意味でも、結合型へ至るまでのステップとして、非常に有効なアプローチであると考えています。
光ファイバ断面図
(住友電気工業株式会社様ご提供)
実際の伝送実験で用いた
マルチコア海底試作ケーブル(約15km)の様子
本ケーブルは、総務省の「ICT重点技術の研究開発プロジェクト」における研究開発課題
「新たな社会インフラを担う革新的光ネットワーク技術の研究開発」の技術課題
「マルチコア大容量光伝送システム技術」(JPMI00316)の取り組みの一部として開発したものです。
立野:ただし、既存のシステムを利用できるといっても問題はあります。これまで1本であったコアが4倍になるわけですから、システムを動かすために必要な電力も相応に上昇します。とりわけ大洋を結ぶ海底ケーブルでは中継器に供給する電力を陸上から送りつづけなくてはならないため、非常に高い電圧が必要になります。そのため、その消費電力は従来のシングルコアファイバーでさえも課題になっていました。
そこで、私たちNECではファイバー内でのコアの配置を工夫したり、中継器で放出されていたエネルギーをリサイクルする独自技術などを用いたりするなどして消費電力を抑制し、トータルにシステムのデザインを行っています。消費電力の抑制と効果の最大化を図り、システム全体の最適化まで設計できることが私たちの強みと言えるかもしれません。
加えて、先日難関国際学会ECOCに投稿し、採択された論文では、マルチコアにおける伝送方向をコアごとに逆向きにする双方向伝送を利用した光海底ケーブルシステムを提案しました。これによって、非結合型でもさらに効率的な伝送が可能になると考えています。
竹下:現在、マルチコア光伝送技術の研究では日本が世界をリードしています。これは、国が主導してプロジェクトを立ち上げて光ファイバーに関わる国内のエコシステムをいち早く形成してきたことが大きく寄与していると思います。NECは各企業や研究機関と連携してこれからも研究を続けていきたいと考えています。
無線通信の知見を活かしてめざすさらなる大容量化
― 結合型については、どのような研究を進めていますか?
細川:結合型については2030年頃の製品化をめざしているため、まだ少しだけ先を見据えた研究に取り組んでいる段階です。というのも、結合型は1本のファイバーに非結合型マルチコアよりもさらに多いコア数を通す方式であり、クロストークの発生を前提としたものです。海底ケーブルであれば、1万kmにおよぶ長距離を経て複雑に交錯した信号を、受信側で復号しなくてはなりません。そのため、現在使われているシングルコアファイバよりも高度な信号処理が必要となります。また、半導体が実現できる回路規模や電力、設置スペースの制限があるなかで、現実的に社会実装できる回路を設計することも、まだまだ難しい問題です。現在、さまざまなパートナーとコラボレートしながら研究に取り組んでいます。
ただ、一つ私たちが注目しているのは無線通信で活用している「MIMO(Multi Input Multi Output)」技術です。複数のアンテナでトラフィックを分割して通信するこの無線技術が、光ファイバーにおける通信の復号にも応用できるのではないかと考えて研究を進めています。NECには、光ファイバーだけでなくBeyond 5Gなどの無線通信に関わる研究者もいますから、そうした知見を集めてこの問題に取り組んでいるところです。
― 今後の展開や目標についてはいかがでしょうか?
ドゥ・ガボリ:まずは、非結合型マルチコア光伝送システムの社会実装をめざしていきます。昨年度作成した世界初のプロトタイプをもとに製品化を進め、これまでNECが実装してきたシステムと組み合わせて実装を進めていきます。
もちろん、中長期的な目標として、並行して結合型の研究にも取り組んでいきます。特に、いまネックとなっているLSIに入るような高度な信号処理については、細川も言った通り注力して研究を進めていきます。
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