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搬送ロボットの安全性と効率を両立
リスクセンシティブ確率制御技術

NECの最先端技術

2022年1月27日

近年の物流量の増加や労働人口の減少を受け、現在物流業界では作業の効率化が期待されています。そのようななか、NECは倉庫内の搬送ロボットなどに活用できる「リスクセンシティブ確率制御技術」を発表しました。安全性と効率を高いレベルで両立させる本技術について、研究者に詳しく話を聞きました。

安全性を確保しながら、スループットを2倍に

システムプラットフォーム研究所
主幹研究員
吉田 裕志

― 「リスクセンシティブ確率制御技術」とは、どのような技術なのでしょうか?

吉田:ロボット制御において、安全性と効率を高レベルで両立させることのできる技術です。たとえば開発を進めている倉庫内の搬送ロボット(AGV)では、人やモノへ接触しないように安全を確保することが現場導入するうえでの大前提となります。しかし、安全性を確保するためにAGVが低速であったり、あまりに一時停止を繰り返たりしてしまうようでは効率が落ちてしまいますし、ロボットとして使い物になりません。物流倉庫は時間あたりに何個運搬できたかという数が利益につながるシビアな世界ですから、スループットの追求も非常に重要です。リスクセンシティブ確率制御は、このようなシーンで役立つ技術として開発しました。本技術を搭載したAGVは、従来型のAGVと比較すると、安全性を損なうことなく平均速度を約2倍に向上できます。つまり、効率が約2倍になるということです。

一方、危険な狭い道では、速度を落としてぶつからないように走行することができます。私たちの実験では、従来型のAGVは10回中9回周囲の壁に衝突してしまったのに対して、新技術を搭載したAGVは一度もぶつかることなく狭いクランクを通り抜けることができました。周囲の人やモノへの衝突や接触を高いレベルで回避できることが実感いただけると思います。ロボット専用の搬送通路を用意しなくてもよいので、導入時のコストも抑えることができます。

実は、「リスクセンシティブ確率制御」という技術自体は以前から存在していました。数理ファイナンスの世界で活用されてきたものです。資産運用において“破産”は絶対的に忌避されるべきものですから、ハイリスクな運用を避けながら利潤を最大化するための手段として活用されていました。これをリアルタイムロボット制御という領域に応用し、“衝突”という最悪のリスクを避けながら効率を最大化する技術として実装まで実現できたというところが、今回の私たちの研究開発における大きなポイントになっています。

私が専門としてきた機械・ロボティクスに加え、量子統計力学をやっていた安田君にはソフトウェアを担当してもらい、ネットワークの専門家である熊谷君にはロボットの実装やハードウェアを担当してもらいました。それぞれの専門性が活かされて開発できた技術だと思っています。

吉田が過去にネットワークの確率的な動きに興味をもって読んでいた「確率論ハンドブック」。AGVの研究を進める際、このなかに「リスク鋭敏型確率制御」という記載があったことを思い出し、今回の技術開発につながった。

複数パターンの予測結果を瞬時に計算し、最善の行動を選択

システムプラットフォーム研究所
主任
熊谷 太一

― なぜ従来型と比べて約2倍もの性能差が出てくるのでしょうか?

安田:従来型のAGVは主に微分方程式を使って制御入力を決定していました。ただし、微分方程式は解が一つしかありません。その制御入力がハイリスクになる場合もあり得ます。それに、実世界のロボット制御では、不安定な変動要素がたくさんあります。例えば、測定の誤差、センサの誤差、制御動力の誤差があります。今回の技術では、こうした実世界の不安定要素に対応するために、微分方程式に確率変動の要素を加えました。この確率微分方程式は解くたびに解が異なるので、ロボットのさまざま挙動を想定することができます。ここに、ロボットの一つひとつの未来の挙動に対してリスク評価を行って、最も良い制御入力を選択していくのです。このときのリスク評価の基軸となるのが、本技術の核となるリスクセンシティブ評価関数です。障害物衝突などのリスクを悪く評価するので、結果的に過剰なリスクを避けて安定的に稼働できるようになります。 

また、本技術が回避するリスクは、衝突や接触などの安全面での要素だけではありません。経路逸脱や作業時間超過などの効率に関わる項目もリスクとして評価していきます。だからこそ、安全と効率、双方のリスクを鑑みながら高いレベルで両立を図ることができるのです。こうしたさまざまな要素を判断しながら、低リスク下ではスピ―ドを上げて走行し、高リスク下ではスピードを下げて走行するなどの判断を自動で行い、リアルタイムに制御していきます。

適応遠隔制御により、複雑な処理もリアルタイムに実現

システムプラットフォーム研究所
主任
安田 真也

― 高次な処理をリアルタイムに行うためには、かなりの計算資源が必要とされるのではないでしょうか?

熊谷:たしかにリスクセンシティブ確率制御はかなり処理が重い技術です。しかし、今回の技術は以前私たちが開発した適応遠隔制御をベースにしているので、その心配をする必要はありませんでした。

通常、こうしたロボットの制御では機体内にセンサやコンピュータを搭載して制御していきますが、適応遠隔制御を使ったソリューションでは、天井につけたカメラでロボットをセンシングし、計算処理も管制室のコンピュータで行います。ロボット内にはセンサや高性能なCPUは搭載していないのです。これにより、ロボットの消費電力や計算資源といった問題から解放されるので、リスクセンシティブ確率制御のような重たい計算処理であっても自由に使うことができます。

特に、NECのAGVはさまざまな現場のカゴ車に対応できるように、2台で挟み込む協調搬送という独自の方式を採っています。2台で動かすぶん、制御の誤差には厳しすぎるくらいに慎重であっても良いはずです。適応遠隔制御を開発してからハードウェア面でのバージョンアップを続けてきて、よりパワーもスピードも出るようになっていたところだったので、安全面が一層強化される今回の技術は非常に良い要素になったと思います。ハードウェアとソフトウェアの良い相乗効果が生まれました。

― 今後の展開はどのように考えていますか?

吉田:まずは現在開発しているAGVの製品化をめざしていきたいと思っています。また、本技術は安全と効率が求められる環境において幅広く応用できる技術です。AGVとの類似点も多いフォークリフトへの応用や、油圧ショベルなどの建設機械などへの応用も考えながら、これからも研究をつづけていきたいと考えています。

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