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森永 聡

2018年9月28日

森永 聡
博士(工学)
NEC データサイエンス研究所
主席研究員

「相談する人工知能」をつくりあげる

いま私が取り組んでいる研究は、人工知能同士での相談や交渉を実現する次世代の人工知能技術です。現在では私たちの社会でも画像認識や天気予報など、さまざまな場面で人工知能が活用されるようになりました。これからは、自動運転やドローンなど、人工知能が活躍するフィールドはさらに広がっていくことでしょう。
しかし、こうした自動制御デバイスが社会に広がっていくと、人工知能同士が出会い、利害が衝突するという事態が必ず生じてきます。たとえば、自動運転車を考えてみてください。二つの車が交差点に向かって近づいているとしたらどうでしょう。相手の動きが完全に予測できない場合、スピードを落として相手の様子をみるという動きが正しい対応になります。しかし、相手側の人工知能も同じことを考えているので、お互いが近づくごとにゆっくりと減速し、二つの自動運転車は結局、交差点でピタリと止まってしまいます。これではとても非効率ですから、お互いの人工知能同士が通信して、相談・調整することが必要になります。
私が研究を進めているのは、こうした状況にあっても、お互いの車が「少し止まって待ってあげるから、先に行っていいですよ」というように相談して、効率化する技術です。こうした自動交渉技術が整備されれば、自動運転車は今後さらに普及していくでしょうし、自動運転を活かした新しい移動サービスも生まれてくるかもしれません。渋滞といった問題も解決し、より豊かな社会づくりにも貢献できるかもしれませんね。

人工知能の社会活用を加速させる

人工知能同士の調整が必要になるシーンは、自動運転車だけではありません。近い領域でいえば、ドローンについても同じことが言えるでしょう。空中を行き交うドローン同士が衝突を回避するためには、お互いが相談して進路を調整する必要があります。これが実現すれば近い将来、ラスト1マイルの配達ではドローンが活用されることも当たり前になるかもしれません。
移動デバイス以外にも、活用シーンはたくさんあります。たとえば、モノの売買や働き方においても、人工知能同士の調整は重要な役割を果たすことができるでしょう。
人工知能同士の自動調整は、人工知能という技術を広く社会で活用するために必要不可欠な要素です。人工知能で得られる利益を世の中全体で享受し、生活をさらに便利で豊かなものに変えていくために、私はいまこの技術の研究に全力で取り組んでいます。

人工知能同士の共通言語をつくる

自動調整技術を完成させるために必要なものは、高度なアルゴリズム開発だけではありません。人工知能同士が交わす言葉の策定も、重要なミッションです。人工知能同士が相談するときにお互いの言葉が通じなかったら、せっかくの自動調整技術も意味がありません。
ただ、さまざまな人工知能が使う共通言語の策定となると、私一人で進めるわけにはいきません。幅広い企業や研究機関といっしょになって研究を進める必要があります。そのために私はいま、COCN(産業競争力懇談会)という企業横断型のプロジェクトにおいて本テーマのリーダーとなって活動を推進しています。また、日本を代表する人工知能研究機関である理研や産総研においても本テーマの研究を目的とした連携研究所をつくり、サブリーダーを務めながら研究を進めているところです。
人工知能による自動交渉や挙動調整という分野は、これまでに存在しなかった全く新しい研究領域です。参照できるような過去の研究実績が存在しない領域です。ですから、数学や物理学といった基礎的で科学的な考え方をきちんと踏まえたうえで、新しい研究を切り拓いて創りあげていくという姿勢こそが、研究者にとって最も重要だと考えています。