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第33回 人工知能学会全国大会(JSAI)
2019年9月10日
第33回 人工知能学会全国大会(JSAI)
2019年6月4日 - 6月7日
朱鷺メッセ
新潟コンベンションセンター
第33回 人工知能学会全国大会(JSAI)レポート
2019年6月4日から7日の4日間、朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンターにおいて第33回 人工知能学会全国大会(JSAI)が開催されました。本学会は、いま参加者が年々増えて続けている注目の学会です。今回は日本全国のさまざまな教育機関はもちろん、IT・製造・物流・広告・人材など幅広い業界から90の企業がスポンサーとして参加し、4日間でのべ2,905人もの研究者が出席。会場では連日、複数のステージで研究成果発表が開催され、産学や企業間の垣根を超えた情報交換が活発に行われました。
NECは本学会にプラチナスポンサーとして参加し、ブースを設けて研究成果を展示するほか、ランチョンセミナー、インダストリアルセッション含め合計12件の研究発表を実施しました。本レポートでは、その一部の様子をご紹介します。
NEC ランチョンセミナー①
顔認証技術の最前線
NECフェロー 今岡 仁
ランチョンセミナーの前半には、5月にNEC フェロー(注1)に就任した今岡 仁が登壇しました。今岡はNECにおいて15年以上顔認証技術の研究開発を続けてきた本研究の第一人者です。今岡が中心となって開発した顔認証技術は、米国国立標準技術研究所(NIST)が主催するベンチマークテストにおいて2009年以降4回連続でNo.1を獲得しています(注2)。本セミナーでは、NECが世界に誇る顔認証技術の特長や最新トレンドについて紹介しました。
さらなる顔認証技術進化への期待
セミナーは、顔認証の特長についての解説から開始されました。「非接触認証が可能」「専用機器が不要(普通のカメラなどを利用できる)」「照合結果を人間が確認できる」という3つの特長をもつ顔認証技術は、他の生体認証と比べても極めて高い利便性を誇ると説明。しかし一方で、顔には表情の変化や年齢による変化、撮影環境による見え方の違いなど、さまざまな変動要素があるため認証が難しいと解説します。今岡は「だからこそ精度の向上こそが、最重要課題だった」とこれまでの研究を振り返りました。
続いて、顔認証アルゴリズムのベースとなる技術は10年ごとに変わってきたことを紹介。「2010年代は深層学習によって一気に精度を上げることができたが、2020年代にはまた新しい技術が生まれるかもしれない。これからさらに、どんな進化を遂げられるか楽しみだ」と期待を語りました。
人の目以上に正確に認証できるNECの顔認証
セミナーの中盤からは、さまざまな人種・性別・年齢の人物写真を使用したクイズを実施。少年の顔写真3枚を並べて、どれが今岡本人の少年時代であるかを選んでいただくという問題を皮切りに、全8問を出題しました。暗い中に浮かび上がる横向きの顔との照合や、眼鏡をかけた成人女性の少女時代の写真との照合など、会場からどよめきが起こるほどの難問がつづき、全問正解者は一人もいないという結果に。その一方で、NECの顔認証はすべてを正確に判定できることを示し、NECの顔認証技術がいかに高い精度で同一人物の顔を認証できるかを実証しました。
空港での本人確認はもちろん、すでにコンサート会場での本人確認などの場面で活用いただいているNECの顔認証技術。今岡は「プライバシーの議論も非常に重要で、積極的に取り組みたい。そのうえで、今後も社会に役立てられるような研究を続けていきたい」と語り、講演を結びました。
- (注1)執行役員級の研究者 今岡はNECにおいて最年少で就任
- (注2)MBGC 2009 (Multiple Biometric Grand Challenge)
MBE 2010 (Multiple Biometrics Evaluation)
FRVT 2013 (Face Recognition Vendor Test)
FIVE 2017 (Face In Video Evaluation)
NEC ランチョンセミナー②
AI間連携の取り組み
データサイエンス研究所 主任研究員 中台 慎二
ランチョンセミナーの後半には、データサイエンス研究所の中台 慎二が登壇。これからの社会で間違いなく重要となる「AI間連携」についての研究を紹介し、国家プロジェクトとして進めるバリューチェーン最適化やドローン管制などを事例として交えながら話を展開しました。
AI社会で重要になるAI間の自動交渉を推進
中台は冒頭で、AIが浸透する今後の社会では「見える化」「予測分析」「意思決定」を経た「交渉・協調・連携」こそが重要になるというビジョンを示し、AI同士の連携が必要不可欠となることを強調。「AI同士の連携がうまくいくことで1+1が3になり、AIの本当の力が発揮できるはず」と意気込みを語りました。
さらに、NECでは自動交渉技術をベースとしたAI連携研究を展開していることを紹介。チェスや囲碁のように勝ち負けを争うゼロサム型のゲームではなく、お互いのWin-Winをめざす交渉技術の構築をめざしていることを説明し、「いま世界中のコンピュータを結びつけているTCP/IPのように、AIとAIを結ぶプロトコルとして社会実装していきたい」と目標を語りました。
バリューチェーン最適化とドローン管制
後半では、本技術に関連して取り組まれている2つのプロジェクトを紹介。1つは、内閣府主導の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で行われている「サイバー空間基盤技術」のAI間連携システムです。本システムでは、発注側とベンダー側、物流側それぞれのAIが交渉しながら、自動で納期や価格を調整し、最適化することができます。中台は「最適化することはもちろん、その最適値がより最適になるように、交渉相手と受注条件の調整を行います」と解説し、ただマッチングするだけでなく内部システムまで調整できることを強調しました。
2つ目に提示されたのは「NEDOが主導するロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト(DRESSプロジェクト)」です。ドローンが空を飛び回る社会では、機体同士がぶつからないように、互いに交渉して軌道調整できるシステムを構築する必要があります。NECでは本システムのアーキテクチャ設計を担当しており、現在では10機同時飛行の実証実験にも成功したという成果が紹介されました。
しかし、こうしたインフラは一部の企業だけで構築できるものではありません。中台は「AIとAIを結ぶネットワークを、会場にいらっしゃる研究者の方々みなさんといっしょにつくりあげて、世の中に広めていきたい」と語り、講演を終えました。
インダストリアルセッション
NECのAI技術による社会価値創造
データサイエンス研究所 亀田 義男
AIによる社会ソリューション
企業が自社の取り組みを紹介して学生や他企業と意見交換を交わす「インダストリアルセッション」では、データサイエンス研究所の亀田が登壇。NECのAI開発のビジョンである社会価値創造について発表を行いました。発表の前半ではAI技術群「NEC the WISE」について触れながら、「街中映像監視」や「日配品需要予測」などのソリューションを紹介。複数の技術を組み合わせながら、セキュリティや発注効率化など、実社会で役立つ価値をつくり出していることを解説しました。
つづけて、AI研究においてはゴールが定まった問題に取り組むAIと、ゴールが一つに定まらない問題に取り組むAIという二つの方向性で研究開発を進めていることを紹介。ゴールが定まった問題には「圧倒的な効率化」の実現をめざしていることを示し、圧倒的な精度とスピードを誇る「顔認証」を中心に大きな成果を出していることを紹介しました。
一方、ゴールが定まらない問題に対しては「人への示唆の高度化」をめざしていると解説。「論理思考AI」を例示しながら、ただ解を導き出すだけでなく、その「根拠」まで示すことで、プラント運用など重大な判断を伴うシーンでも役立つ、高度な示唆ができることを紹介しました。
参加した研究者の声
本学会に参加したNECの研究者のなかから、4名に感想を聞きました。
人工知能技術・倫理を絡めた深い論議ができる場に
バイオメトリクス研究所 主幹研究員 越仲 孝文
全国大会実行委員長
今回の学会で人気の高いセッションの一つとして挙げられるのは、ディープラーニングのホワイトボックス化に関わるものでした。ディープラーニングはブラックボックス型の技術で、私たち人間には導き出した答えの根拠をたどることができません。その根拠を示せるような「解釈性」を担保する技術が、いま注目を集めています。実際に人工知能を活用する際には、導き出された答えの根拠や理由が明確でないとユーザは納得することができないというのが大きな理由でしょう。
去年、今年と全国大会の実行に直接携わっていますが、本学会への参加者数は年々増えてきています。特に、ここ数年ではアカデミアだけでなく大企業やベンチャーなどのインダストリー分野も含めてさまざまな方が参加するようになりました。さらに、AIに関わる倫理やプライバシーの専門家の方々も参加されるので、幅広い議論ができる場として非常に有意義な学会になってきていると思います。
幅広い業界の方との交流が研究の刺激に
NEC フェロー 今岡 仁
ランチョンセミナーで発表
いま世界では研究論文のオープン化が進んでいるため、どこの学会でも参加人数は減少傾向にあります。しかし、この学会は「人工知能」という言葉を冠していることも手伝って、大学だけでなく産業界からも注目を浴び、年々規模も大きくなってきました。今回も、人材やリサーチ、広告などさまざまな業界の方が参加しています。普段お会いしないような分野の方と実際にお会いし、情報交換できる場というのは非常に貴重です。そういう意味でも、この学会には非常に大きな意義があると思っています。
新しい気づきやヒントが得られる
セキュリティ研究所 田中 友紀子
インタラクティブセッションにて発表「決定木とCross-Entropy法を用いた解釈可能な制御方策の学習」
研究を進めていると、どうしても他の方と議論を交わして内容を膨らませたいという段階に至るものです。そんなとき、ふだんは会社のみなさんと議論をしていますが、やはり学会でさまざまな方からの意見を聞けることには大きな意義があると思っています。特に人工知能学会は幅広い分野のプロフェッショナルが集まるので、考えてもいなかった視点から意見をいただけることがあります。今回も、セッション終了時間を過ぎてまで多くの方が質疑をしてくださったのですが、「昔、似た研究をしていたのでこんなアルゴリズムも使えるんじゃないか」というアドバイスですとか、「うちの企業にはこういった課題があるので、活用できないか」というお話をいただくことができました。今回のセッションで得たことを、これからの研究に生かせそうです。
産学の壁を越えて有意義な情報交換ができる
データサイエンス研究所 比嘉 亮太
発表「動的報酬クラスタリング」
今回の発表のために昨晩スライドを練り直して準備していたのですが、結果として会場は満員で立ち見が出るほどでしたし、たくさんの質問もいただけました。非常に良かったなと思っています。
私は強化学習を中心とした研究を進めていますが、数年前はその有効性について懐疑的な方も多かったと記憶しています。しかし、今回の学会では強化学習や自動化技術に関わるセミナーはどこも立ち見が出るほど盛況でした。人工知能技術の進化スピードの速さを実感しています。
こうした速度で進化する技術ですから、もう自社だけで技術を完成させるという姿勢では時流についていけません。実際、最近では機械学習と他の領域を融合するような学際的な取り組みが増えていますし、オープンイノベーションやコラボレーションへの意識というのは、ますます重要になっていると思います。そういった意味でも、こういった学会の存在は非常に重要だと考えています。今回の発表でも、他社で研究をしている方と有意義な情報交換することができました。これからも、こうした広がりのある場を活用して研究につなげていきたいと思っています。
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