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学生のみなさんへ2025インタビュー:宇佐見 正志
2025年3月19日
顔映像から健康状態や内面状態を推定

バイオメトリクス研究所
研究員
宇佐見 正志
素粒子実験物理学の研究で博士課程を経て、2021年にNECへ入社。顔画像解析や機械学習の公平性に関する研究に携わり、2023年には画像解析領域の難関国際学会ICIP2023で論文が採択される。2023年からは顔から得られる情報をヘルスケアなどの分野でより積極的に活用する研究チームの立ち上げに参加。スマートフォンから健康状態や内面状態を推定し、社会全体の健康寿命をのばすための研究に取り組んでいる。

自分の研究に主体的に取り組む環境に惹かれた
私は大学院で素粒子実験物理学を専攻していたので、もともとはかなり基礎研究に近いことをしていました。しかし、将来にやりたいことを考えたとき、ここで学んだことを使って、もっと社会の役に立てる道があるのではないかと考えるようになったんです。基礎研究の内容をそのまますぐに社会に役立てることはできないかもしれないけれども、基礎研究で学んできた知識を使って社会の役に立てるようなことはもっと他にもあるのではないかと思うようになりました。自分の知的好奇心に従って真理を追究するというのは、今でもとても良いことだと考えていますが、それだけを一生かけて続けるのは、自分のやりたいこととは少し違うのかなと。何か他の道も探ってみたいと思ったのが、企業研究に興味を持ったきっかけです。
NECを志望する決め手となったのは、研究所の見学会などの交流イベントでした。学生とNECの研究者が互いに研究内容を紹介して議論するという場だったのですが、ここでお話した研究者の方々がすごくのびのびとしていて、雰囲気がいいなと思ったんです。自分たちの研究をとても楽しそうに語ってくれて「自分はこの研究をやりたいんだ」という気持ちがひしひしと伝わってきました。そういう主体的に楽しく研究に取り組む姿勢が、とても良いなと。
面接のときも面白くて、「来たいと思えたなら来てくれればいいよ」みたいなことを言われたんです。私はそれがすごく気に入りました。「自分は君と一緒に仕事をしたいと思っているから、君がやりたいと思ってくれたら来てくれればいいよ。当然他のところに行っても応援するし、来たいなら一緒にやろうよ」と言ってくれたんです。他の企業の面接ではありがたいことに「是非うちに来てほしい」とおっしゃっていただくこともあって、もちろんそれはそれでとても嬉しかったのですが、NECのようなスタンスで言葉をかけてくれる企業はありませんでした。研究者の皆さんが一人ひとり自立していて、互いを尊重し、自分のやりたい研究に取り組んでいるからこそ出てくる言葉だなということを実感して、NECを選びました。

顔画像解析の公平性という難題に挑戦
入社後は顔画像解析のチームに配属されました。もともと面接時に、NECの強みである生体認証に関わりたいという希望を伝えていたので、それを考慮していただけたのかもしれません。素粒子物理学からいきなり画像解析に移行して大丈夫だったのかと思われるかもしれませんが、私としては大きなギャップを感じることはありませんでした。AIであろうと、物理であろうと、基本となるのは教養課程で習うような数学等の知識です。もちろん、新しいことを学ぶ必要はありますが、それは何か新しいことに取り組むときには当然のことでしょう。分野を変えるというのは、研究室を変えるくらいの気持ちで考えていいと思います。それに、新入社員には上司やメンターによるサポートがあります。私は最初の半年間、みっちり教育に当てていただけました。
私が最初に取り組んだのは、顔画像解析における公平性の確保です。例えば顔画像からその人の属性(人種や性別、表情など)の推定を行う場合、用いるAIモデルによっては、男性だけ、もしくは女性だけ推定の性能が下がるなど、予期しないバイアスが生じる可能性があります。このようなバイアスは、誤った社会実装によっては差別を生み出しかねない克服すべき課題であり、生体認証に取り組むNECが真正面から向かい合わなくてはいけないテーマです。ただ、公平性の確保は非常に難しく、現実の多くの問題では「こうすれば絶対公平だ」という基準があるものではありません。基盤研究に近いこのテーマに、メンターの先輩と一緒にチャレンジしていきました。
私が着目したのは、バイアスの元となる学習データの統計的な偏りでした。例えば先ほどの、性別によって推定性能が異なってしまう原因としては、学習元となる膨大なデータ中に性別の偏りがあったり、性別ごとに特定の顔属性を持った人が多く含まれていたりすることなどが、大きく関与しています。そこで、データ量の差に頑強で、より公平な顔属性の推定ができるようなアルゴリズムを考えました。メンターにアイデアを伝えたところ、「面白いから論文を書いてみようか」と言っていただけたので論文にまとめ、画像処理領域の難関国際学会ICIP2023に投稿し、採択されました。
企業研究者が論文を書くことは、ともすると会社のプロモーションの一部みたいな受け取り方をされてしまいますが、私としては論文を書くことはその分野の知見が深められる重要な機会だと思います。私はこの論文を書いたことで、初めて顔属性研究の研究者だと名乗る自信をつけることができました。

顔情報を毎日のヘルスケアに活かす
入社後3年目からは、顔の情報を積極的に用いることで健康状態や内面状態について理解するための研究を始めました。上司から「宇佐見くんは顔認証そのものではなくて、顔の情報や属性を使う研究をやっているから、その情報を使ってヘルスケアだとか、もっと情報をアクティブで使う研究の方が相性いいんじゃないか」とアドバイスされたことがきっかけです。私ももっともだと思いましたので、同じ研究所の梅松さんが立ち上げた新たなチームに加わりました。
このチームでは、企業研究寄りのこともやっていて、チームメンバー全員で事業部のメンバーとも連携しながら、展示会にデモを出すなどの取り組みも行っています。こちらはこちらで、また別の面白さがありますね。
いま開発しているデモは、スマートフォンで顔の映像を撮って、そこから脈拍や呼吸、血中酸素、自律神経や内面状態の指標などを推定するものです。こうした指標に加えて、将来的には大学や大学病院と進めている共同研究の知見も生かしながら、健康状態の異変を自身で気づくことができるようなアプリケーションにつなげていけたらと思っています。普段使っているスマートフォンを通じて社会全体の健康寿命をのばすことが、私たちの大きなミッションです。
NECの研究所には、さまざまな専門性やバックグラウンドをもつ方が集まっています。私が取り組む生体認証やヘルスケア以外にも、自然言語モデルや通信技術や量子コンピュータなど、NECは大学に負けないくらいに多様な研究トピックを手掛けています。私はいま自分の研究テーマに楽しく取り組んでいますが、もし万が一、何か合わないテーマに出会ってしまっていたとしても、何か一つは自分に合った研究を見つけて、主体的に取り組めていたと思います。
NECでは基本的に上司から「このテーマをこういうやり方でやりなさい」と細かく指示されることはあまりないので、自分のやりたいトピックや進め方を見つけて、主体的に取り組むことが大切です。もちろん、そのような自由があるということは当然責任もついてまわるものです。そこはしっかり認識したうえで取り組めるのであれば、NECは最高の環境なのではないかなと思います。
だからこそ、学生の皆さんには、企業研究/学術研究ということに囚われすぎず、自分がその研究をやりたいことかどうかという軸で進路を考えていただければいいかなと思います。自分にその研究ができるか、そしてそれを楽しめるかどうかと考えると、良い研究生活が送れるのではないでしょうか。
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休日何してる?
ヘルスケアに関わる研究を始めてから自分の健康状態に注意が向くようになり、栄養バランスを考えた自炊に取り組むようになりました。調理器具を揃えて煮物やロールキャベツを作ってみたり、週末には自分へのご褒美を兼ねて美味しいお肉を買ってきて焼いたりしています。今年に入ってからは、運動面でも生活の見直しを行っていて、例えばNECの健康管理アプリ(WoLN※)をインストールして歩数を測ったり、ジムに入会してトレーナーさんについてもらったりしながら、楽しく運動を頑張っています!

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