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「管理職になりたくない」人にも伝えたい 自分の軸をクリアにして多様性楽しんで

NECデジタルトラスト推進部 上席プロフェッショナル 永沼美保

女性管理職やダイバーシティの数値目標は「挑戦する意思のある人が挑戦できる社会」のための通過点──。多様な人材が活躍するインクルージョン&ダイバーシティについて、NECデジタルトラスト推進部 上席プロフェッショナルの永沼美保に尋ねました。サイバーセキュリティを軸に国内外でキャリアを重ね、今NECに在籍していることで見えてくるものは。

専門家として個人として 一歩一歩の積み重ねから

──セキュリティの専門職としてキャリアを重ねてきました。

イギリスの大学院を修了した後、日本ヒューレット・パッカード(当時、以下HP)に入社してセキュリティのコンサルタントとしての道を歩み始めました。

セキュリティという言葉一つとっても、ネットワークセキュリティ、情報セキュリティ、サイバーセキュリティ、と時代やフォーカスする要素によって、主流となる言い方が変化しています。HPの後、日系セキュリティベンダーを経て2015年にNECに入社しましたが、リスクの拡大とセキュリティの進化にともない、新しい場所で挑戦する機会に恵まれました。NECでは、AI事業における人権やプライバシー対応など、最先端のデジタルトラスト分野に携わっています。社会貢献の意味でも自身のキャリアを広げる意味でも、大きなやりがいを感じています。

──キャリアの中心は専門職です。業界で女性は少数派でした。

HPに入社した当初は、お客様から「担当者が女性?」など、ネガティブな反応がなかったわけではありません。しかし、目の前にあることを一つ一つ積み重ねれば、必ず誰かが見てくれている。専門家としての信頼が得られれば、個人の仕事として認識されます。私も、男女などジェンダーの区別は意識せず、先輩たちから一個人としてのプロフェッショナルの仕事を学びながら、キャリアを積み重ねてきました。

ただ、管理職となると話は少し違うかもしれません。私が駆け出しの頃も、「女性管理職のロールモデルがいない」という声をよく耳にしました。体力的にもきつい職種なので「先が見えない」とやめていく人もいました。

マネジメント職は予想外 経験したから語れること

──NECにはプロフェッショナル職として入社しました。今はレギュレーション調査室ディレクターというマネジメント職にも就いています。

NEC入社から3年ほどで、当時の上司にマネジメント職のポストを打診されました。予想もしていませんでした。これまでもグループのリーダーなどの経験はありましたが、マネジメントを本格的にやってみると、脳の使う場所がまったく違っていました。昼の業務、夜のグローバル会議…1日の中でも仕事がくるくる入り乱れ、脳をスイッチする。マルチタスクの度合いが非常に高い。

また、組織のメンバーがどんな意見やプライドを持っているかを聞き取り、マインドを変化させることも興味深い経験でした。マネジメント職になると組織全体に今まで以上に興味がわき、会社の一員という意識が高まりました。これも新しい発見でした。

──管理職になりたくない、という人もいます。

「あんなに頑張れない」「頑張りたくない」。女性管理職って面白いよ、という話を若手にした後に、こんな反応があったことがあります。

本当にやりたくない人に無理やりやらせるわけにはいかない。ただ、チャンスをつかみに自分から動かなかったとしても、コツコツと頑張っていればチャンスが降ってくることがある。そのときにどう対応するか準備をしておいてほしい。もう一つは、私自身の経験から言えることですが、何ごとも経験してみないとわからない。自身の経験に基づいて紡ぎだすメッセージほど力強いものはありません。

──周囲はどのようなサポートができますか。

今も「ロールモデルがいない」とよく聞きます。しかしロールモデルがいなくても、助言や指導をしてくれるメンターがいれば、背中を押してあげることはできるはずです。これは、ジェンダーは関係なく、私も男性のメンターに励まされ導かれてきました。「私はできたからあなたも」ではなく、寄り添うことが必要だと思います。

数値目標は通過点 プロセスに透明性を

──NECの2025中期経営計画の目標は、女性管理職20%、女性・外国人役員20%です。

数値目標は重要ですが、一つの通過点です。最終的な目標は「多様なタレント人材の活躍」です。私たちが求めているのは、挑戦したい意思のある人が、挑戦する機会を平等に与えられること。ジェンダーや国籍でスクリーニングされず、透明性のあるプロセスを経て、選ばれることです。世界標準で戦うには、固定化した価値観や組織では受け入れられない。誰もが活躍できる魅力のある会社にならないといけません。

──7月の国内最大規模のダイバーシティカンファレンス「国際女性ビジネス会議」(NECはゴールドパートナー)に登壇するなど、メッセージ発信の機会が増えています。

私は今、AIを含めたデジタルトラスト分野の確立や、将来の技術・規制領域で、国際標準やルール作りをしています。これは、非常にタフで、エゴむき出しの議論です。ここで必要なのは、自分の軸をしっかり持つこと。それがないと、受け入れられないものを拒むことも、意志を通すこともできません。

多様性はただ受け入れるだけのものではなく、その中で「自分がどう思うか」を論理的かつシンプルに伝えてこそ、多様性が意味を持ちます。そのためには訓練が必要。ジェンダーの議論は一つのステップです。アイデンティティをもって、多様性を受け入れ、楽しみ、リーダーシップをとる人が増えてほしいと願っています。

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