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”Microsoft is the Copilot Company”、 マイクロソフトの向かう先は

「Microsoft Ignite 2023 Recap」セミナーレポート

Ignite Recap:全体概要

日本マイクロソフト株式会社
パートナーテクノロジーストラテジスト 
渡部 正人 氏

全体概要

今回のIgniteではCopilotが強調されたイベントとなった。Microsoft CEOSatya Nadella氏の“Microsoft is the Copilot Company.”という発言は、これからのMicrosoft社はCopilotへ注力していく姿勢が感じ取れる。これらのきっかけとなったOpenAI社のChat-GPTが公開されたのは2022年の11月であり、今回のIgnite開催で1年経過したところである。

この1年でMicrosoft製品の中にCopilotが実装され、顧客の課題解決や生産性の向上、安全性について具体的にわかってきた段階である。Copilotのアシスタント機能により全体としてみるとかなりの生産性の向上が見られたというのがこの1年の結果となっている。今後Copilotの活用範囲はもっと広がっていくと考えられる。

また、2023年のBuildInspireのイベントではそれぞれ50前後のアップデートであったがIgniteでは約2倍の100を超えるアップデートが紹介された。今回もCopilot Stackのフレームワークが紹介されたがBuild発表時よりも具体的な製品実装を考慮したものになっている。主要なアップデートを6つに分けて紹介する。

Ignite Keynote Session

Ignite Keynote Session

サステナビリティに関する取り組み

現在Microsoft Azureは全世界で60以上のリージョン、300を超えるデータセンターを運営している。2013年から再生可能エネルギーを利用して19GWの電力を使用している。2025年までに100%ゼロカーボンソースのエネルギーで運営することを目指し、順調に進んでいる。これはMicrosoft Azure上でシステムを動かすだけで脱炭素に貢献できるという大きな訴求ポイントになる。

インフラストラクチャー

今回はMicrosoft社自身がハードウェアを開発しているという発表があった。チップセットではAzure CobaltAzure Maiaが発表された。Azure Cobaltは独自開発したARMベースのチップ、Azure MaiaOpenAI社のFeedbackも得ながら開発したものでLLMに特化したチップである。

また、NVIDIAH100に対応したConfidential Computingが可能なシリーズが発表され、今後もConfidential Computingに対応したシリーズが出てくるとのこと。加えてNVIDIAH200に対応した製品も発表された。これにより今まで機密性の高いデータをパブリッククラウドで扱うことに躊躇していた顧客に対しても有効なオプションとなってくるだろう。

更にAzure Boostという専用ハードウェアにオフロードさせることにより高速計算できるハードウェアが発表された。こちらに搭載している仮想マシンは現在20弱だが、今後全ての仮想マシンが対応する。

AIモデルとAIツール

Azure OpenAI Serviceでは新しく出てきたGPT4-TurboGPT4-Turbo with VisionDALL-E 3が利用可能というアップデートがあった。以前発表されたAzure AI Studioは各ツールが強化され、モデル開発からコンテンツフィルターができるようになっている。Model CatalogについてはStable Diffusionのような新しいモデルが利用できるようになった。Model as a Serviceという新機能が発表され、こちらは従来のようにAIモデルをデプロイして使うのではなく、APIとして利用できるようにする機能であるとのこと。

データ

PreviewだったMicrosoft Fabricが一般提供された。Microsoft FabricMirroring機能の発表があり、この機能は社内に分散してしまうデータウェアハウスにあるデータをMicrosoft FabricOneLakeへ統合できるようにしたものである。

アプリケーション

TeamsMeshというメタバース空間の機能が使えるようになり、Copilotによりメタバース空間内で様々な操作ができるようになる。

Copilot

元々Microsoft 365 Copilotと呼ばれていたものが名称変更されCopilot for Microsoft 365が正式名称になり、他の製品も名前が変更されGitHub CopilotMicrosoft Copilot for SalesMicrosoft Copilot for SecurityMicrosoft Copilot for Serviceと変更になった。

Copilot Studioというより具体的な開発ツールセットが発表された。具体的にはローコード、ノーコードプラットフォームを使用して独自のCopilotを作成できる、というものである。

 

全体的なアップデートを見るとやはりCopilotがかなり強く打ち出されていたが、ハードウェアのチップなども今回発表されており、Copilotを支えるインフラであるMicrosoft Azure自身をMicrosoftが作成したハードウェアから最適化していくというAIのためのインフラ作りの面も強調されたイベントであった。

 

Ignite Recap:AIアップデート

日本マイクロソフト株式会社
パートナーソリューションアーキテクト
松崎 剛 氏

インフラストラクチャー

Chat-GPTChat-GPT4は数千規模のGPUを仮想マシンに分散連携させてMicrosoft Azureで学習している。GPUを連携できるNVIDIA Quantum-2 InfiniBandネットワークアーキテクチャーを使用できるのが3大パブリッククラウドの中でMicrosoft Azureだけである。

ここでMicrosoft Azureの実績を裏付けるベンチマークテストMLPerf Training v3.1 Recordsの結果について紹介する。学習時間はNVIDIAのベアメタルが3.92分、Azure4.01分と約2%程度しか変わらない結果となっている。通常であればMicrosoft Azureの仮想化が入ることによりもう少し遅くなることが想定されるが、それを上回るスピードで学習が完了している。他にもHPC Top 500というスーパーコンピューターランキングがあり、Microsoft Azureがクラウドシステムでは初めて3位に入っている。また、NVIDIAGPUであるH100H200、そしてAMDMI300Xを搭載した仮想マシンのシリーズが今後様々なリージョンで使用できるようになると発表された。

AIモデルとAIツール

Azure OpenAI Serviceがアップデートされ、最新のGPT3-TurboGPT4-Turboが一部リージョンにて使用可能である。DALL-E3も一部リージョンで使用できるようになり、DALL-E2よりも正確に指示に従って描画する。そしてGPT4-Turbo with Visionというテキストと画像を受け付けられるようになるモデルも使用できるようになった。例を出すと画像からの文字推定や数学の問題を解かせる、といった今までAIがミスしやすい問題にも対応可能になっている。プロンプト手法も新しいものが出てきており、Microsoft ResearchからSet-of-Mark Promptingというものが発表され、これは画像認識させる際に画像の対象物に番号を振ることにより間違いを減らすものである。

また今企業で最も導入されているRAGRetriaval Augmented Genaration)アーキテクチャーについて今後イメージ検索も必要になってくると考えられ、Microsoft AzureではAzure AI Visionで使用できるFlorenceというエンジンを用いて同じベクトル空間にテキストと画像がマッピングされ、入力テキストのベクトルと近いベクトルを持つ画像が抽出される。

そしてビデオの解釈も今後AIが解釈できる時代になるとも考えられる。Microsoft AzureにはVideo Retrieval APIというAPIがある。こちらを使用するとビデオの中で何を話しているのかテキスト生成や、ビデオのストーリーのテキスト生成が可能である。

DALL-E2とDALL-E3の比較

DALL-E2とDALL-E3の比較

Responsible AI

AIが暴力的な表現などを含む回答をしようとしたときに出力されないようにブロックする仕組みがある。この仕組みは4つのレイヤーから構成されている。最初のModelレイヤーでは我々が使用しているモデルの学習の際にチューニングが行われ、ブロックされないような答えを返すようにモデルを調整している。ただ、それでもブロックされるような回答が行われてしまうことがある。そこで2番目のSafety Systemレイヤーでは、Azure AI Content SafetyというMicrosoft Azureの仕組みでブロックするようになっている。3番目はMetapromptGroundingレイヤーと呼ばれ、プロンプトを用いて回答を指示することによりブロックされる回答をさせないようにする。4番目のUser Experienceレイヤーでは、アプリケーションによりブロック機能を働かせることで最終的なAIの回答を安全なものにしている。

モデルとAzure AI Content SafetyについてはMicrosoft社とOpenAI社が実装しており、MetapromptGroundingUser Experienceレイヤーではユーザー側が実装するものとなっている。

今回はSafety SystemMetapromptGroundingレイヤーについてアップデートが発表された。Safety SystemレイヤーではAzure AI Content Safetyが一般提供され、Jailbreaking の保護、著作権関連の保護機能が追加された。MetapromptGroundingレイヤーでは良いプロンプトを書いてもらうためのメタテンプレートの提供が発表された。

Azure AI Studio

これまでPlaygroundAzure OpenAI StudioPrompt flowModel CatalogAzure Machine Learning StudioとバラバラだったUIが、Prompt flowの中にあったEvaluationも含めてAzure AI StudioUIに統合され、プロジェクト毎でモデルを扱う形になった。更にモデルベンチマークという機能が追加され、モデル比較をするとそれぞれのベンチマーク結果が出てくる機能も追加されている。

Prompt flow

Prompt flowが一般提供開始された。ただし、Azure AI StudioAzure Machine Learning Studioの両方でPrompt flowが使用できるが、今回一般提供となったのはAzure Machine Learning Studioのみである。

Prompt flowでコードとの連携が可能になった。Prompt flowが作成したフローはフロー定義のyamlファイル、プロンプトの内容はjinjaテンプレート、カスタマー処理はPythonコードになる。全てモジュール化されてコードが作成されるため、バージョン管理、プロジェクト移行も可能になっている。またVisual Studio Codeを用いてローカルで作成してクラウドにアップロードすることも可能である。

Model as a Service

今まではOpenAIAIモデルはAPIで使用できたが、他のAIモデルは事前にGPUのインスタンスを作成しなければデプロイできなかった。しかし、このModel as a Serviceの発表により今後他のAIモデルもAPIで使用できるようになる予定である。まずはLlama2からスタートし、Mistralなどのモデルが順次追加される予定となっている。加えて課金もトークンベースへと変更され、更にファインチューニングの機能も実装予定である。

Copilot

Microsoft 365WindowsMicrosoft Azure、そしてセキュリティ製品などMicrosoftのほぼ全てのサービスで生産性や効率アップを目的としてCopilotが備わっている。2023/11/1Copilot for Microsoft 365の一般提供が開始された。それに伴いCopilotのプラグインなどの開発系についても機能開発が始まってきている。

同時にCopilot Studioというローコードの開発ツールが発表された。こちらはCopilot for Microsoft 365のカスタムと拡張、カスタマイズしたCopilotの作成ができるようになっている。

Azure AI Search

Azure AI Search(旧Azure Cognitive Search)にて追加機能が発表された。追加されたのはIntegrated Vectorizationという機能で、これまでベクトル検索をする際に逐一構成しなければならなかったものを統合する機能が追加され、更にベクトル検索とセマンティックRankerが一般提供された。

Azure AI Vision

Azure AI VisionではFace Liveness検出が使用可能になった。これまでFaceAPIで認証の機能を利用したいという声が多かったが、顔ではなく写真でも認証できてしまうためセキュリティ上不可能となっていた。今回発表されたFace Liveness検出では人間の顔かどうかを判別する機能がついているため、Face APIの代わりに認証機能として使用可能となっている。

Azure AI Speech

Azure AI Speechでは8つの機能が発表された。1つ目はAzure OpenAI StudioChatプレイグラウンドでのAI Speech連携である。この機能により、話して入力する、逆に出力結果をしゃべってもらう、という双方向入出力が可能になった。2つ目はTTS AvatarというAvatar機能であり、Avatarが口を動かしてしゃべる、音声だけでなく動きも一緒に出力可能となる。3つ目はPersonal Voice、こちらは今まで学習が必要だったボイスの音声機能が、ユーザーが1分程度の音声入力をすることで学習なしでそのまま音声出力ができる機能である。4つ目はSpeech Analytics Try-outというAI Studioからビデオ、オーディオをアップロードして分析ができる機能である。PIIPersonal Identifiable Information:個人情報)、センチメント、キートピックス検出、そしてサマライズなど多種多様なことが利用可能となっている。5つ目はWhisper modelのカスタマイズがサポートされるようになった。6つ目は多言語モデルの一般提供であり、話者同士が違う言語を使用している会議に通訳機能などで使用できるものとなっている。7つ目はEmbedded Speech(旧:コンテナ)であり、Connectedコンテナ、Disconnectedコンテナ双方が利用可能となっている。8つ目はPronunciation Assessmentの言語サポート追加と機能拡張が一般提供となり、こちらは言語習得者向けにその話し方を評価してくれる機能である。

Azure Machine Learning

Azure Machine Learning5つのアップデートが発表された。1つ目はMicrosoft Fabric OneLakeのデータストア作成であり、フォルダ、ファイル、そしてAmazon S33つがサポートされる。2つ目はModel CatalogFeature Storeの一般提供が開始された。3つ目はサーバーレスコンピューティングが一般提供開始、ただしFunctionsのようなサーバーレスではなく、コンピュータークラスターを予め作成しなくてよい、という意味のサーバーレスである。4つ目はパイプラインのBatch Endpointへの展開が一般提供となった。5つ目はNVIDIA AI Registryの有効化である。こちらはAzure Machine Learning Registryの中に新たにNVIDIA AIというレジストリが追加された。これによりNVIDIAが用意した環境を使えるようになった。

AI in Windows

例えばGPU上でCUDAのドライバーを構成してAIの学習などを行う場合、Linux上で動作させることが多い。しかし、今後は機械学習のモデル作成などを毎回Linux上で動作させるのではなく、Windows上で動作させよう、という試みがAI in Windowsである。現在出てきているものとしてはPyTorchベースのOliveVisual Studio CodeのエクステンションとしてWindows上で機械学習の処理を行えるようにするWindows AI Studioなどが発表されている。

BuildInspire共にAI関連のアップデートが多かった。今回のIgniteではCopilotにとどまるだけでなく、AzureでよりAIを使えるように、というインフラストラクチャーからソフトウェアの領域までのアップデートも多かった。AIに携わる人がまずAzureを使用してみるという動きはもっと加速していくのかもしれないと感じられた。

 

Ignite Recap:マイクロソフト人材育成支援プログラムアップデート

日本マイクロソフト株式会社
トレーニングプログラムマネージャー 
畠中 俊巳 氏

Igniteのタイミングで新たに発表された新資格Microsoft Applied Skillsが新たに発表された。今回はこちらの新資格に対して説明していく。

従来資格

Microsoft社はMicrosoft認定資格を約30年にわたって提供してきた。今まで提供されてきた従来資格は認定資格と呼ばれ、特定の職種(ロール)に対して必要なスキルを持っているかを評価して認定するものであった。(例えばAzure Administrator Associateの認定資格を持っている場合は、Azureのシステム管理業務を遂行するためのスキルを保持していることをMicrosoftが認定することになる。)

このような性質を持つことから、今までの認定資格は組織やチーム全体の技術力の指標や人材強化、キャリアの証明という人事的な目線で語られることが多くなっている。

新資格

目の前にあるクラウド関係の業務やプロジェクトにおいて、あなたは「システム管理者ですか? 」、「データサイエンティストですか?」という職種そのものに関する会話をすることはあまりないと考えられる。それよりも、「オンプレミスのSQL ServerAzure SQL Databaseへ移行できますか?」、「オンプレミスのアプリケーションをコンテナ上で開発したのち、そのアプリケーションをKubernetesでデプロイして運用できますか?」といった具体的なシナリオでのスキルや経験を聞かれることが多いことが想像される。

上記の例のようにITにおける業務やプロジェクトにおいて必要な具体的スキルを所有しているかを証明するのが新資格のMicrosoft Applied Skillsである。このような性質から新資格は現場目線で、今の業務やプロジェクトに適用できる具体的なスキルを持つことを測定し評価するものになっている。

新資格の取得方法

これまでと同様にMicrosoft Learnや今後開催予定の集合研修で知識とスキルを磨き、試験を受ける準備ができたらオンラインの「アセスメント」という試験を受ける。これは従来の認定試験の選択式や並べ替えのようなコンピュータ試験ではなく、ラボと呼ばれる仕組みで現実に近い課題が与えられ、実際にAzureを操作しながら与えられた要件を満たすシステムを構築できるかどうかを試すものである。知識を評価するだけではなく、実際に手を動かしてその結果を評価するところが従来資格と異なる。

このアセスメントを一定水準以上で合格すると、そのスキルを証明するデジタルバッジが与えられる。このデジタルバッジをLinkedInなどのSNSや個人のブログ、社内の人事システムなどに登録できるという点では従来資格と変わらない。

現時点では新資格は13種類用意されており、学習コンテンツはすでに日本語で提供されている。今後も新しい資格が続々とリリースされる予定である。アセスメントのラボ環境はまだ英語環境のみであるが、これも順次日本語化されていく予定である。また、従来資格は有料であり、予め日時を予約して受験する形であったが、新資格は当面は無料であり、Microsoft Learnにてオンデマンドで受験できるようになっている。従来資格はアソシエイト、エキスパートレベルでは有効期限が1年で更新をする必要があったが、新資格には有効期限は設定されない。

従来資格と新資格の比較

従来資格と新資格の比較

上の図は従来資格と新資格の比較である。これらの違いを踏まえ、どちらを取得すればいいのか、という疑問が生まれる。

まとまった知識の学びやキャリアなど中長期的な観点で見ると従来の資格、目の前の業務に必要な具体的なスキルを保有していることをアピールしたい場合には新資格が適しているのではないかというのが1つの意見である。今後日本語化が進み、無料である面を考慮して、まずは興味のある分野で新資格を取得してみるのがよいのではないだろうか。

Ignite Recap:AI新時代にどうあるべきか

NECソリューションイノベータ株式会社
主任 亀川 和史

現在の業務で自動化しづらい非定型業務がある。例としては、大量の資料分析、未知の探求(新知識の習得)、コールセンター業務などがあげられる。大規模言語モデルの登場により、これらの非定型業務も効率化されるかと期待されたが、結果としては大規模言語モデルのみでは効率化に至らなかった。これを解決するために生成AIの標準的な実装パターンになっているRAGアーキテクチャーが使用されている。RAGとは既存の組織内の情報を参照しつつ、大規模言語モデルに情報を与えて結果を生成させる方法である。

RAGを使用することにより、社内情報に対するスムーズな応答が可能になった。次に効率や生産性をアップさせるために登場したのがCopilotである。MicrosoftはこのCopilotが全てのシーンで中心にあるという世界を描いている。Copilot StackBuildから何度か発表されているが、少しずつ変化し、具体的になってきている。ここからはトピック別にアップデートを紹介する。

Copilot Studio

Power Virtual Agentと呼ばれていた機能が名称変更され、ライセンス料金は25000/M($200/M)となっている。以前との変更点はセッション数からメッセージ数へ変更(2000セッションから25000メッセージ)となったので使用時には注意が必要である。

Enterprise向けCopilot

Bing Chat Enterpriseが改名されたが、ライセンスと機能共に変更はなし。注意点はこのサービス単体ではアクセス管理履歴が現時点ではない。そのため、Defender for XDRAI Hubで生成AIサイトアクセスをチェックするか、Azureでシステムを構築する必要がある。また、ファイルのVer管理が非常に重要になる。ファイルのVer管理(命名規則)をしっかりしないとCopilotもどのファイルを使用してよいかわからない状態になってしまうためである。(例:資料A_20231201_完成.pptx、と、資料A_最終版_20231201.pptx

生成AIとコンプライアンス、セキュリティ

Chat-GPTに機密情報をアップロードしてしまった、という事件もあり、生成AIにおけるコンプライアンスとセキュリティはより重要になってくる。このような問題に対してはPurview AI Hubにて機密情報をアップロードしていないか、許可していないサイトを使用していないか、などをチェックする機能が実装され、対応できるようになる予定である。

SharePoint

SharePoint SyntexからSharePoint Premiumという形へ変更された。加えて従量課金でAdobe SignDocuSignと同等のPDF署名がサポートされるようになった。また、Streamで画像を保存すると文字起こしが作成されるが今までは発話言語と同じもの、つまり日本語なら日本語で、英語なら英語の文字起こしが作成されていた。この機能に翻訳機能が加わり英語で話している人の発話が翻訳されて日本語で文字起こしがされるという機能が加わった。

画像作成、動画編集もAIに

オンライン動画編集のClipchampMicrosoft 365ライセンスに追加された。Office 365ユーザーにも別ライセンスで購入可能になっている。また、DesignerDALL-E3が統合され、Edgeではすぐに利用可能となっている。Teamsアナウンスの画像も北米では既にDALL-E3による画像生成が行われており、WordPowerPointWhiteboardには2023年末には機能追加が予定されている。

新グローバルコミュニケーションスペースLoop

Loopが一般提供開始された。注意点としてはSharePointと同じクォーターを使用している、という点である。SharePointで既に一杯という状況の場合はLoopを使用すると更に使用されてストレージがない、というエラーが出てしまうので、使用する前に容量チェックが必須である点が注意すべきポイントである。

コラボレーションは多数あるが大まかな使い分けとしては、個人作成資料を組織内に公開→OneDriveSway、目的を持った集団作業→TeamsSharePoint、組織内への全通達→Viva Engage(旧:Yammer)、アイデアなどのまとめ先→OneNote、部品単位で共有した情報を整理して統合・公開→Loopとなる。

作業の中心はTeams

先ほど紹介したLoopコンポーネント、ワークスペースのアクセスもTeamsからアクセス可能になっている。加えてCopilotTeams Channelに追加される。他にもAIによる会議の要約やTo Doの作成機能(Premium版)が追加され、AIにより発話者以外の人の音声分離を行ってくれるようになるとのこと。また、新しいTeams Clientも一般提供されている。

生成AI時代のデータストア

SQL Database Hyperscale Computeが最大で35%値下げ、Azure SQL Managed Instance12か月無償(4 or 8 Core720vCore時間無料→4Coreであれば180時間)、更に64GBストレージとバックアップストレージがつく、と利用者にとっては非常に嬉しいものとなっている。そしていつでも停止・開始機能が追加されたことにより更に課金時間を節約できるようになっている(通常版Managed Instanceも対象)。Azure AI用のPostgreSQL拡張機能としてベクトル検索の機能も追加されている。

Oracle DB

AzureにてOracleExadataが提供されることになった。2023/12US Eastから開始され2024年以降順次拡大されるとのこと。契約自体はあくまでもOracleと結び、Azureリソースは通常課金されるところは注意すべきポイントとなる。

Azure App Service

Linux版WebJobsがリリースされ、複数のApp Serviceでサブネット共有が可能となった。前者は軽いバッチ処理の新たな選択肢が増え、後者はIPv4アドレスの大幅な節約が可能となるアップデートである。

Azure Functions

Azure Functions自体でいくつかのアップデートがされたが、一番の注目はFlex Consumptionが登場したことである。こちらは従来のAzure Functionよりもスケール、高速起動、リクエスト課金でVNetの統合可能となっている。まだPrivate Preview段階だが一般提供されると将来的にはこちらに移っていくのではないかと考えられる。

開発環境もクラウドへ

Platform engineeringという考え方を支援するAzure Developer Environmentが発表され、開発環境をサブスクリプション内で分けたい、というような時に便利なものである。こちらには有効期限切れのリソース自動削除の機能もついており、課金とセキュリティの面でもよいものとなっている。また、Azure Developer CLIの統合、IaCARMテンプレートのみだったものがBicepもサポートされるようになっている。

Azure Computeの強化

Databricks、Red Hat Enterprise Linux 9.3NVIDIA H100 Tensor Core GPUAzure上で機密コンピューティングを行えるように強化された。機密アプリケーションを扱うためのフレームワークも必要となるためAzure Managed Computing Consortium FrameworkというOSSのフレームワーク、そして暗号化されたディスクであるための証明であるDisk Integrity Tool for Intel TDX confidential VMsIntelがツールで出しているとのこと。

生成AIを扱うVMやチップ

バランス型、機密コンピューティング、GPU搭載の新シリーズVMが発表された。今まではパートナーが作成していたARMプロセッサーを使用していたが、Microsoftが設計に関わったAI設計に最適化されたMaia、汎用向けのCobaltが発表され、順次置き換えていくものと考えられる。

Copilot Stack対応まとめ

Copilot Stack対応まとめ

発表された割合で見ていくとどうしてもAI関連やAIを応用したものが多く、そちらに目が行ってしまいがちだが、AI以外のIaaSPaaSの重要な発表がいくつも出ている。AIの話題が多い中、AI関連の発表に目が行ってしまうのは自然な流れだが、それ以外のMicrosoft Azure全体のアップデートを把握することがより重要である。

執筆者プロフィール

安倍 幸大(あべ ゆきひろ)
サービスビジネス統括部セールスイネーブルメントグループ所属

今年からMicrosoft Azureのプロモーションと技術を担当。
まずは上級資格を取得しつつ、技術磨きに邁進中。