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専門家の「知」を取り入れ、
業務改善と自立支援をサポートする「リモート機能訓練支援サービス」

NECが理学療法士と共同開発した「リモート機能訓練支援サービス」は、介護現場の負担を減らし、ご利用者様の自立を強力に支援することが高く評価され、利用の場を広げている。今回、開発に参画いただいた田中一秀氏、木村佳晶氏に開発の経緯、サービスの特長、利用者のメリットなどについてお話をうかがった。

人材不足と自立支援の強化が喫緊の課題

—介護業界に身を置かれている先生方に伺います。普段感じられている介護業界の課題をお聞かせください。

木村氏:1つは人材不足の問題です。介護保険制度がスタートし、介護される側は右肩上がりで増えているのに対し、介護する側の人材不足が続いています。介護保険料収入の上限が決まっているため優秀な人材が集まりにくく、その一方、業務で身体を傷めたり、人間関係が原因で離職したりする方々への有効な対策は見出せていません。その解決策の1つとして、最近はICTの活用により業務を簡素化し、負担を減らす動きが求められてきています。
もう1つの課題は、リハビリテーションの位置づけです。介護保険法には自立支援が盛り込まれていますが、目の前のケアが必要な人への介護に重きが置かれ、介護予防の施策や状態悪化を防ぐ機能底上げに十分に取り組めていないのが現状です。そこには、専門家を確保するための費用や場所の問題があります。通所介護がその場所に位置づけられますが、機能訓練が適切に行われているかというと、まだまだ足りないところがあります。
このような状況を背景に、業務改善と自立支援のサポートという両面を兼ね備えたサービスが求められているのです。

木村 佳晶 氏
理学療法士
一般社団法人ICTリハビリテーション研究会 理事
合同会社アグリハート 代表社員

田中氏:私は当初、セラピストが機能訓練の設計書を書き、自ら実施すべきだと考えていました。計画を立てる、治療を施す、生活の管理をする。そこに専門家の視点や介入が必要と思っていたからです。しかし、今では考えが変わってきました。病院ではセラピストがそれらすべてを担いますが、何十年とお付き合いする介護では、1人のセラピストではすべてを把握できないのです。
介護施設では、理学療法士をはじめ看護師や作業療法士、鍼灸師などが機能訓練指導員として機能訓練を担いますが、運動のコアな部分に関しては理学療法士が中心的な役割を果たします。
私の経営する通所介護施設では、私が機能訓練プログラムを立て、スタッフが実施し、難しいことがあれば、私が対応するという方法でやっています。こうした分業を支援してくれるサービスが必要でした。
さらに残念なことには、木村さんも述べていますが、現状そもそも通所介護に理学療法士のような専門家が在籍している割合が少なく、現場の看護師が一人でその役割を代わりに担っているケースも多いのです。

田中 一秀 氏
理学療法士
株式会社AwesomeLife 代表取締役
一般社団法人 テクノケア代表理事
運動特化型デイサービス・フィジオルーム見附町 管理者
「RemoteTherapist®」認定事業も開講

「映像を見れば分かる」の一言から共同開発がスタート

—今回のサービスは先生方とNECの共同開発ですが、どのような経緯でプロジェクトが進んだのですか。

新井:新事業立ち上げの2017年には、NECに介護系のソリューションが少なく、いろいろアイデアを出しました。その中で、機能訓練型デイサービスはどうだろうと、コンサルタントに相談し、木村先生を紹介されたのです。

木村氏:新井さんからお話をいただいたとき、「我々は、歩く姿を見れば "腰痛がありそうだな""この辺が悪そうだな"と推論ができるんですよ」と説明しました。

田中氏:私は、最初AI利用のサービスかと思い"これは大変だ"と。理学療法士の仕事は、専門職同士だから分かり合える「暗黙知」が多く、言語で論理的に説明するのは難しく、果てしない作業になると思ったからです。

木村氏:専門家の共通言語を一般化しつつ、AIに落とし込むロジックを組む作業が必要なので、NECと組めたら面白いと思いました。また、一般の方はリハビリ= 病院と考えがちですが、地域や社会の中でもリハビリができるように、AIが身体をモニタリングしてアラートを出してくれるサービスがあればいいと思い、参画することにしました。

新井:木村先生の話をうかがい、歩く姿の映像を見て機能訓練計画が立てられるのなら、優れたサービスが実現できると思いました。さらに田中先生を紹介いただき、現場での実証実験の協力を経て、2019年、本格的に開発をスタートしたのです。

新井 良和
NEC
AIプラットフォーム事業部
シニアマネージャー

様々な工夫を盛り込んだサービスを開発

—開発中の苦労、実現した機能、運用の工夫、品質などについてご紹介ください。

田中氏:養成学校では病院での実習後、学生が書いた文字情報を見て指導します。今回のシステムは動画なので文字よりも情報量が多く、機能訓練プログラムづくりの大変さはありませんでしたが、2つの問題がありました。
1つは、ご利用者様のどのような情報をどこまで収集するかです。病院では患者さんの情報がほぼすべて入っていますが、介護現場ではすべての情報を把握できません。どのような情報があれば効果的な機能訓練プログラムがつくれるかを考えるのに苦心しました。もう1つは、セラピストが施設に提出する評価レポートです。専門用語ではなく分かりやすい言葉で提供する必要があります。「個別機能訓練計画書」にご利用者様の同意のサインをもらいますから、ご利用者様に対しても然りです。この点にも細かく気を配りました。

新井:田中先生にアイデアを出してもらい、セラピストがより効果的な機能訓練プログラムや評価レポートを作成できるようにすること、介護現場が使いやすいインタフェースにすることを工夫しました。
具体的には、セラピストがご利用者の身体の状態を把握できるように、介護現場で撮影してもらうご利用者様の動画は、歩行動画だけでなく肩回りなど上肢の動きも撮影するようにしています。運動プログラムもご利用者様の身体状態にあわせた提案ができるように体の部位ごとに体系立てて管理しています。セラピストが操作する画面デザインも、パソコンだけでなく、仕事帰りにスマホで簡単に作れるようにするなど、操作のしやすさにこだわりました。また、将来のAI化を意識し、選択式の項目を増やすなどのデータ設計を行う工夫も施しました。
介護現場向けとしては、機能訓練に必ずしも詳しくない現場のスタッフの方でも理学療法士の意図する運動を正確に提供できるようタブレットをつかった動画での運動提供の仕組みを用意しました。ITに不慣れなスタッフの方でも操作できるようインタフェースも工夫しています。

—品質を担保する工夫はどうしましたか。

木村氏:理学療法士がレポートを作成する際、世界標準のICF(国際生活機能分類)に基づいて評価し、国内のデータ・国際的なデータと齟齬がないようにしました。田中先生とは最初から「ICF準拠にしよう」と話し、このサービスには最初から取り入れましたが、ようやく介護保険制度においても令和3年度介護報酬改定でICFに準拠して評価することになりました。

ご利用者様にも好評、経営面でも大きなプラスに

—実際にサービスを利用された感想を教えてください。

田中氏:対面のケースでは理学療法士が、それぞれのご利用者様に対し、何が必要で、どの項目を、どれくらい行い、何に気を付けるか、を頭に入れて機能訓練を行いますが、今回のサービスでは、ご利用者様一人ひとりに合わせた運動プログラムを、タブレットの動画を見て行いますから、機能訓練指導員は、ご利用者様が危険なく訓練を実施することに集中できます。
例えば機能訓練指導員が大勢の前に立って手足を動かし、ご利用者様がそれに合わせて動く機能訓練では、万一ご利用者様が危険な状況になっても機能訓練指導員はすぐに手が出せません。今回のサービスではタブレットの動画が機能訓練指導員の役割を担ってくれるので、我々はご利用者様の安全確保に専念できるのです。

—ご利用者様からはどのような声をいただいていますか?

田中氏:最新のサービスをモニターとして実施されたご利用者様からは「社会貢献できた」という声をいただきます。自分の意見が生かされる機会を得たことが、自己肯定感を強めることにつながるようです。タブレットを見て運動することにも抵抗感や疑問・不安はなく、積極的にやっていく姿勢を見せてくださっています。

—施設経営の視点からはいかがでしょうか

田中氏:2021年4月から、個別機能訓練計画書データを厚生労働省のLIFEデータベースにアップロードすることが加算要件になりました。これがかなり大変な作業なのですが、今回のサービスは、このLIFEデータベースとも連携が取れるように対応していただけました。
運動指導のプログラミング作成、実際の業務量の削減、安全性の確保、さらにLIFEデータベースへのアップロードと、経営的に非常に魅力的なサービスです。
私の事業所でも機能訓練を行っていますが、このサービスが雇用の安定や離職率の低下につながれば、経営上大きなプラスになります。

プラスαのサービス・ビジネス展開に大いに期待

—NECには今後どんなことを期待していますか。

木村氏:理学療法士の立場からは、介護認定される前の方、要支援の方、自宅でトレーニングしたい方などに、どうサービスを届けるかが重要です。コロナ禍の現状ではなおさらです。
介護事業所へのサービス強化という意味では、機能訓練にプラスαのサポートができると、より高評価につながり、滞在型の介護施設にも同じことがトレースできれば、さらに幅が広がるでしょう。

田中氏:施設で過ごす以外の時間については、誰も管理できていません。そこで、我々の目が届かない時間帯をモニタリングできる仕組みが必要になります。ご家族もご本人も"管理してもらっている"という信頼があれば、生活改変も起きやすくなります。
NECの技術力と発想力があれば、生活のモニタリングができるはずです。介護保険でカバーできないところのフォローアップに期待しています。

理学療法士の基本である対面評価と対面施術を遠隔で実現

—日本理学療法士協会から受託した大規模臨床研究について教えてください。

田中氏:この研究では、施設のセラピストが対面でプログラミングして運動指導するケースと、リモート機能訓練支援サービスを使って遠隔で運動プログラムを立てるケースに差があるかを見ています。
対面の運動指導と遠隔の運動指導の結果に差がなければ、セラピストを雇わなくても、このサービスを使うことで、同じ効果が得られることになります。

—利用されている事業所の評価はどうでしょうか。

中村:サービスを実際に利用いただくと、リモートでここまでできることに驚かれます。
田中先生と一緒につくった教育/研修制度「Remote Therapist」によりリモートで評価できるスキルを持ったセラピストの方々も増えていますので、本サービスをさらに多くのお客様にご利用いただきたいと考えています。

新井:今回のサービスは、これまで理学療法士の基本とされていた対面評価と対面施術を遠隔に転換しています。これは先生方にとっても、我々にとっても大きな挑戦でした。
日本理学療法士協会の理事の方々も、AIやリモートを重要視されています。また厚生労働省も、遠隔で理学療法士のスキルを提供することを評価するようになってきました。
その点でも、リモート機能訓練支援サービスの方向性は世の中の流れに合っていると思いますし、今後介護業界をリードしていくサービスだと考えています。

中村 剛
NEC
AIプラットフォーム事業部
エキスパート

—本日は、ありがとうございました。

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