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CAREER STORY

最先端の研究開発にかける想い。
自分らしい仕事と働き方を求め選んだ理系専門職という道

山口 愛子

プロフィール

山口 愛子
研究開発職
グローバルイノベーションユニット
セキュアシステムプラットフォーム研究所
量子コンピューティング研究グループ主任として、超伝導量子コンピュータの研究開発に携わる山口愛子。社外研究所で研究専門員も務めるなど、幅広く活躍しています。
「NECには大学を凌ぐ研究環境があり、女性と理系専門職の相性の良さも感じる」と話す山口。研究職として、女性としての立場から職場の魅力を語ります。

※2022年8月公開。所属・役職名等は取材当時のものです。

キャリアストーリー

学生時代に抱いた関心を育みながら、培った専門性を活かせる研究職の道へ

物理に興味をもったのは高校生のとき。ものの成り立ちへの関心から原子に意識が向くようになり、さらに小さな構造があること、またそれが広い宇宙のような巨視的な現象ともつながっていることを知るにつれて、だんだんと心を惹かれるようになっていきました。
大学では物理一般について勉強した後、研究室に入って“対称性の破れ”の研究に携わりました。対称性の破れが存在するというのは、ある変換を行う前と後で物理法則に差が生じてくることを指します。一般的に物理法則は極めて対称的なので、対称性の破れを探索することは、一般に信じられている法則が成立しないところ、物理法則のほころびを見つけるようなことに相当します。当時、日系の研究者がその分野でノーベル物理学賞を受賞したことに刺激されて興味をもちました。
研究室では、途中まで進めた研究を卒業時に後輩に引き継ぐことも多いのですが、最後まで自分でやり遂げたいという思いで大学院に進学しました。苦しい場面もありましたが、自身のアイディアで実験を進められるようになってからは、楽しいと感じながら研究活動に専念できました。
博士号を取得後は、ポスドクとして研究機関に入ったり、海外に出たりする選択肢もありましたが、その後の就職難に直面するリスク、女性としてのキャリアの歩み方などを考えあわせた結果、身を置く場所をアカデミアに限定することはないのでは、との答えにたどりついたんです。
というのも、私は物理が好きなのはもちろんですが、同時に研究の過程そのものが好きだと気が付いたのです。達成したい目標に向かって研究を進めていく過程にある、課題は何かを整理し、疑問を検証する方法を検討し、実際に自分の手で準備してそれに対しての解を導く、というある種の謎解きのような要素に惹かれていたので、企業に所属しながらでも、研究者としての達成感を味わうことができると考えていました。
NECを選んだ理由はふたつあります。ひとつめの理由は、就活の中で出会った方の人間性に惹かれたこと。採用面接で大学での研究について説明すると、「もう少しわかりやすく説明してください」と反応が返ってくることが多いのですが、NECの担当者には、理解しようとする気持ちが感じられたんです。研究領域やバックグラウンドは違っても、おもしろがって聞いてくださることに好印象を受けました。また、終始やさしい雰囲気があって、飾るところがまるでなく、率直で誠実な方が多いことにも魅力を感じました。
ふたつめの理由は、充実した研究設備があったこと。就活当時、ある研究所の実験設備を見学させてもらったのですが、その内容に驚きました。大学のそれとはレベルがまるで違う充実した環境があり、強く惹かれたのを覚えています。

未経験で挑んだ量子アニーリングマシン研究開発。
右も左もわからない中、一歩ずつ成長


入社後は、現セキュアシステムプラットフォーム研究所に配属され、量子アニーリングマシンの研究開発業務に携わりました。
量子アニーリングマシンは量子力学を利用した技術を使ったコンピュータで、組合せ最適化問題を高速に解くことを目的として開発されています。組合せ最適化問題とは、たくさんある選択肢の中から最良の選択肢を選ぶ問題のことを指していています。量子アニーリングマシンにより組み合わせ最適化問題を高速に解くことができれば、お客様の貴重な資源や時間を効果的に分配する方法を提案することできます。
量子アニーリングマシンの研究開発は、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が主導するプロジェクトをベースとしています。そのプロジェクトが始まったのが、私が入社するちょうど半年前。配属直後の職場ではようやく必要なものが揃った状況で、実験装置を組み上げるところから仕事が始まりました。
当研究グループが最終的に目指しているのは、マシンを完成させること。チップを作るだけでなく、マイクロ波の入出力制御や、全体的なパッケージングなども研究課題になっていて、そのうちチップの改良に向けた動作評価が私の主な業務になっています。
2019年の10月からは、つくば市にある産業技術総合研究所(以後、産総研)の特定集中研究専門員を兼務するようになりました。“NEC-産総研 量子活用テクノロジー連携研究ラボ”という、NECと産総研の連携研究室のかたちで、量子性に基づいた先端技術領域の研究開発の強化に取り組んでいます。
2022年7月現在は主任を務めていますが、入社してすぐのころは知らないことばかり。大学で研究していたことと比較的近い分野だと思っていましたが、実際にはそれまでに培ってきた常識がまったく通用せず、とても苦労しました。仮説を立てて検証するという実験のプロセスは同じでも、使用する機器は見慣れないものばかり。何が大事なのか、なぜそれをするのかもわからないまま、先輩の見よう見まねでひとつずつ学んでいきました。
そんな状況が変わってきたのは2年目に入ったころ。産総研の研究者の方と議論する機会が増えていくにしたがい、少しずつ理論的なところがわかるようになっていったんです。また、研究グループの技術リーダーにも助けられました。入社以来、量子技術の研究に携わってきた方で、疑問があるときにはとことん議論してもらい、ほとんどつきっきりでサポートしてもらったのを覚えています。
期せずして未経験からの挑戦となりましたが、周囲の支えを得ながら、少しずつ仕事の内容がつかめるようになり、仕事の楽しさがわかるようになっていきました。

世界最先端の研究に取り組めること、社会の役に立てることがやりがい

これまでの仕事の中でとくに印象に残っていることがあります。入社して2年目に、これまで評価してきたものとは構造が異なるチップを設計したことがありました。評価測定の結果、まったく信号が見えず、動作を評価することすらできなかったんです。構造がやや複雑だったこともあり、チームのメンバーからは、「無理もない」と慰められましたが、自分の設計したものだけうまくいかず、また何も信号が見えない以上、改良のしようもなく、かなり落ち込みました。
デバイスの製作をしてくれている方、産総研の研究者の方らと議論を重ね、特定の構造にあたりをつけて検証したところ、思ったとおりそこに問題があることがわかったんです。翌年、同じ設計デザインのまま、従来とは違う作り方をして動かしてみると、信号を確認することができました。何も見えないとこから始まった謎解き。量子アニーリング動作のような複雑なものではありませんが、回路として正しく動作しているとわかったときは、犯人を特定したときのような達成感がありました。
同じ2年目には、こんなことも。超伝導パラメトロン*を用いた量子アニーリングマシンを構築するときの肝とされる技術があるのですが、当時は理論の域を超えていなくて、実際に基本ユニットが動作するところを見た人はまだいないという難しさがありました。その構造が動作しなければ、それ以上先に進めないというプレッシャーの中、チームで力を合わせて取り組みましたが、うまくいかなかったんです。
そこで、どのパラメータをどのような条件で動かすか、またその効果をどう評価するかなどを、チームで1つずつ検証して評価法に関する知見を集積していった結果、基本ユニットでの動作を確認することができました。チームでアイディアを出し合い議論した結果、ブレイクスルーを経験できたことがとてもうれしかったです。
まだ誰もやったことがないことに挑戦している実感があり、世界の最先端をいく研究ができているところに、この仕事の魅力を感じています。また、研究が成功すれば、それが製品やサービスというかたちで世に出され、社会の役に立てるはずです。社会的貢献度が高い技術に携われていることにも、やりがいを感じます。これは、社会にインパクトを与えられるNECのような大きな企業で研究しているからこそかもしれません。

*2個のジョセフソン接合からなる超伝導量子干渉計と、コンデンサーと組み合わせた超伝導共振回路。ある閾値以上に信号を入力すると、入力周波数の半分の出力周波数で発振(パラメトリック発振)する。

周囲から頼られる研究者、組織の意思決定に貢献できる研究者に~My Favorite Code of Values

量子アニーリングマシンを実現するためには、チップ、マイクロ波の装置、配線といったハードウェアの開発だけでなく、理論的な研究や製品やサービスとしてお客様に届けるための戦略なども必要です。スーパーマンがひとりいれば完成するというものではなく、さまざまな分野の人との関わり合いが欠かせません。NECでは社員が大切する行動基準を “Code of Values“として、5つ掲げていますが、その中でも私は、「組織はオープン、全員が成長できるように」というものを大事にしています。自分自身の成長はもちろんですが、チームで成果を出していくためには、全員が成長できる環境が重要であると思っています。私自身もそうした環境の中で少しずつ専門性を高めてきた実感はありますし、これからは、「量子のことなら、山口さんを頼ろう」と思ってもらえて、誰かの成長にも貢献できるような、頼りがいのある研究者になりたいと思っています。
また、女性の研究者として、組織の意思決定に貢献できるようになりたいと思っています。現在、研究グループには30名ほど在籍していますが、女性の管理職はいません。意思決定の場に多様性があることの大切さを感じているので、いずれ自分がその役割を果たせる日が来ればと考えています。
大学院修了後の進路を考えるにあたり、当初は「研究をするならアカデミア」という考えがありました。ところが、フタをあけてみると、NECには想像していたよりずっと良い研究環境があり、現在にいたるまで、意欲的に研究に取り組むことができています。大学生や大学院生の中には、研究者を目指している方も多いと思いますが、アカデミアにはこだわらず、企業で働くことも柔軟に考えてみてほしいですね。
とくに研究職を目指す女性に伝えたいのは、女性と理系専門職の相性が良いこと。まだ私は出産を経験していませんが、今後いろいろな節目、いろいろな事情で、現場から離れなければならないこともあるでしょう。そんなとき、専門的な技術があれば、復職がしやすい上、育休を取得したり時短勤務を取り入れたりと、さまざまな働き方がしやすいのではないかと思います。ワークライフバランスの観点からも、どんどん専門性を高めていってもらいたいですね。

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