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高精度な本人確認を手軽に実現
軽量・高速な顔・虹彩マルチモーダル生体認証

NECの最先端技術

2025年2月12日

決済やスマートフォンの認証などで広がりを見せている生体認証。しかし、よりセキュアな運用が求められるシーンでは、ワンタイムパスワードの入力などの他の認証手段と組み合わせることがほとんどです。これに対し、顔・虹彩マルチモーダル生体認証は、顔と左右の虹彩を同時に認証できるメリットがあります。今回NECが開発した技術は、この認証をより手軽にすることができるものだと言います。技術の詳細について、研究者に話を聞きました。

数千万~1億ユーザに対応する認証を高速に実現

バイオメトリクス研究所
ディレクター
伊藤 厚史

― 今回発表した顔・虹彩マルチモーダル生体認証の進化点やメリットについて教えてください。

伊藤:NECでは世界No.1(注)の精度を誇る顔認証と虹彩認証を組み合わせた顔・虹彩マルチモーダル生体認証を開発し、2023年3月から実際にサービスとして展開してきました。顔・虹彩マルチモーダル生体認証の最大のメリットは、その高い精度です。顔認証と右目、左目それぞれの虹彩認証という三つの要素を掛け合わせることで、100億ユーザにも対応する超高精度な認証を実現することができます。顔認証では、より高い精度を担保するためにIDカードやPINコードなどの他要素と掛け合わせて運用することがありますが、顔・虹彩マルチモーダル生体認証では、顔の中から3つの情報(顔・左右の虹彩)を取得してスムーズに多要素認証を実現できます。

一方で、顔・虹彩マルチモーダル生体認証の課題は装置が大型化してしまうことにありました。顔認証と虹彩認証それぞれのカメラが必要となるほか、虹彩周辺をピンポイントで高精細に撮像するためにはレンズの向きを上下に動かすチルト機構などが必要となるため装置がかさみ、置き場所や用途が限定されてしまうのです。そのため、これまでは出入国審査や国民IDでの運用など、非常に高い精度が要求されるとともに大型の装置も配置できるような、限られたシーンでの活用が進められていました。

これに対し、装置を小型化し、幅広い用途に展開可能にしたことが今回新たに開発した方式における最大のポイントです。お客様がお持ちのPCやタブレットなどの既存のシステムに繋ぐことも可能で、数千万~1億ユーザに対応する顔・虹彩マルチモーダル生体認証を高速に実現することができます。ATMやPOSレジへの組み込み、屋外にある高いセキュリティが求められるゲートでの本人確認など、設置場所を限定せずにさまざまなシーンで活用可能になると考えています。

  • NISTによる評価結果は米国政府による特定のシステム、製品、サービス、企業を推奨するものではありません

カメラを1台に統合することで、小型化を実現

バイオメトリクス研究所
主幹研究員
戸泉 貴裕

― どのようにして小型化を実現したのでしょうか?

伊藤:顔認証と虹彩認証それぞれで必要だったカメラを1台に集約しました。顔認証で使用する画像から虹彩部分を切り出して認証するようにしています。


戸泉:これまで虹彩認証の世界では、わずか1センチ程度の虹彩を160~200画素で撮影する必要があるとされてきました。そのため専用のカメラや虹彩だけをうまく撮影する機構を設置するなど、サイズやコストが膨らむ傾向がありました。これに対し、私たちのチームでは、もっと粗い低解像度の虹彩画像でも認証できる方法があるのではないかと考え、模索を始めたというのが最初のアプローチでした。

バイオメトリクス研究所
研究員
庄司 悠歩

庄司:はじめは、顔認証用の画像から切り出した低品質な虹彩画像の信号をAIで処理して、高品質なものに近づけるという方法から探っていきました。高画質化は、私たちが取り組むテーマ外でも広く研究されている技術だったからです。まずまずの性能が出そうだというところまでは確認できたのですが、問題となったのは画像処理にかかる時間です。今回私たちが目指していたのは、より軽量で手軽に使える認証でしたから、この高画質化の方法は実用的ではないということで、他の方法を探すことにしました。そこで目をつけたのが「蒸留」という方法です。


戸泉:一般的に蒸留というのは、遅いけれども性能の良い大規模な学習モデルから、より速くて軽量な学習モデルを作るために用いられる深層学習の技術です。この方法を低解像度での虹彩認証に応用しました。


庄司:画像そのものを高品質化しようとすると、数秒以上の処理時間がかかってしまいます。しかし、私たちが実現しようとしている認証では、処理が重くなる原因である高品質な画像信号そのものは必要ではないのです。認証に必要な特徴の品質だけが確保されていればいい。そこに気がついて、特徴だけ高品質なものを抽出しようとして、今回のアプローチにたどり着きました。


戸泉:この方法を採ったことにより、利用者に認証時間を感じさせない高速処理が可能になりました。また、低品質への頑健性を高めると、高品質側の精度が落ちてしまうことが一般的ですが、今回の蒸留ではその課題を解決していて、高品質側でも性能が落ちないようになっています。高品質な画像では、世界No.1の虹彩認証エンジンをそのまま活用できるスケーラブルな仕組みになりました。


庄司:今年の9月には、本技術のアルゴリズムを生体認証における世界最大の国際学会IJCBで発表し、大きな反響をいただきました。

技術の概要

必要十分なデータのみ活用することで処理を軽量化

バイオメトリクス研究所
研究員
佐々木 政人

― 他にも技術的なポイントはありますか?

戸泉:いまお話した認証エンジンだけでなく、マルチモーダル認証のカメラシステム全体で最適化を図っていることもポイントです。


佐々木:エンジン側でおおよそどのくらいの解像度があれば認証できるかわかってきた段階で、認証に最適なセンサーやレンズを組み合わせてシステムの試作を重ねていきました。特に問題となったのは、画像のデータ量です。虹彩認証に必要な解像度がいくら小さくなったとはいえ、顔認証に比べると顔を大きく映す必要があるため、カメラ画像のデータは大きくなってしまいます。データ全てを使用すると処理が遅くなってしまうので、認証に必要十分なデータだけに絞って伝送し、処理を行うことでさらなる高速化を実現していきました。より具体的には、画像の中から注目すべき箇所をいち早く正確に見つけ、必要なデータだけを世界No.1を誇るNECの認証エンジンに送ります。この処理をカメラに搭載することで、負荷を大きく軽減することができました。この結果、一般的な部品だけで高速かつ高精度な認証ができるアーキテクチャを構成しました。


伊藤:加えて、画質も認証に最適なものになるようにカメラをコントロールする仕組みも搭載しました。この結果、外光下でもより頑健に機能するようになっています。軽量化に加え、画質としても認証に最適化することで高速かつ高精度な認証を可能にしています。

虹彩認証の常識を打破し、生体認証のミッシングピース補完をめざす

― 今後の展開や目標を教えてください。

佐々木:今回、技術として形にはなりましたが、個人的にはまだ製品化に向けた課題があると感じています。例えば、ユーザの方々には「虹彩は撮影しづらいのでは」とか「登録が難しいのでは」など、不安を持つ方も多いのではないかと思います。こうした懸念を払拭するには、デモをつくって実際に体験してもらうことが一番効果的です。私としては、チームで作った技術を正しく効率的に伝えられるような試作品やデモを開発できるように、これからも取り組んでいきたいと考えています。


庄司:私としては、認証における制約をもっと緩和して、たくさんの人に使っていただけるような技術にしたいと考えています。今回は「虹彩認証には高品質な画像が必要」という制約を打破することができましたが、この他にもたくさんの制約は存在しています。これらの制約を緩和していくことによって、より幅広いシーンで高精度に認証できるようにするための技術をめざして研究をつづけていきたいですね。


戸泉:私はNECが開発する虹彩認証エンジンのコアに関わっている立場ですので、今回の技術をもとに世界No.1のエンジンの性能をさらに高めていきたいと考えています。今回、低品質画像での性能を伸ばせるように技術をつくり込めたことは大きな成果でした。

先ほどから繰り返し言及があったとおり、虹彩認証は高品質画像という条件下でのみ機能すると言われてきた技術です。左右で異なることや経年変化も極めて少ないという特性もあり、精度面ではかなり大きなポテンシャルを持っていた領域ですが、今回前提条件となっていた高品質画像が必ずしも必要ではなくなったことで、さらなる性能改善や活用シーンの拡大が期待できると考えています。


伊藤:そのとおりで、虹彩認証は他の生体認証技術に比べて、普及の面でやや後れを取ってきました。専門家が作る星取表を見ても、いつも精度は「◎」なのですが、コスト「×」、手軽さ「×」とつけられてしまう。こうした状況下から、私たちは虹彩認証の民主化をめざして研究に取り組んできた経緯があります。今回の技術によってコストの手頃さや導入しやすさが飛躍的にアップしたことで、大きな進歩を果たせたと思います。

また、このように虹彩認証が進化したことで、生体認証全体が抱える課題を解くミッシングピースを埋める存在にもなり得るとも期待しています。佐々木さんが言ってくれたように、今後のDXの肝になっていく可能性をどんどんプロトタイプして、社会に役立つ姿を次々に提示していきたいと思っています。

マルチモーダル生体認証とは、複数の部位の認証を組み合わせることで精度を飛躍的に高める生体認証です。なかでも顔と虹彩は同じ位置にあることもあって親和性の高い組み合わせであり、NECでは2023年から製品化を実現していました。しかし、顔認証用の広角カメラと虹彩認証用の赤外線カメラを同じデバイスに搭載する必要があることから筐体が大型化する傾向があり、自ずと利用シーンは限定されていました。これに対し、今回の技術では2台のカメラを1台に統合することに成功。顔画像から虹彩を切り出して認証する技術を開発しています。切り出しによって解像度が下がるものの、蒸留という手法を使って高解像画像における特徴を低解像時にも上手く活用することでこの課題を解決。さらに、システム内でのデータサイズを最適化することで、スピーディな認証を叶えました。これまで虹彩認証では高解像な虹彩画像が必要とされてきましたが、本技術はこの常識を打破。虹彩認証、ひいては生体認証全体の可能性を大きく広げました。

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