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リアルタイムなIoTの無線通信を実現 適応ネットワーク制御技術

NECの最先端技術

2019年2月21日

無線ネットワークに接続するIoTデバイスの種類や状況から優先度を判定して無線帯域を割り当て、安定的な通信環境を築く適応ネットワーク制御技術。その詳細と可能性について、開発者に話を聞きました。

通信遅延のデッドラインと社会の安全を守る

システムプラットフォーム研究所 主任研究員 岩井 孝法
システムプラットフォーム研究所
主任研究員
岩井 孝法

― 適応ネットワーク制御技術とは、どのような技術なのでしょうか?

同じ無線ネットワークに接続する端末の種類や状況を把握して優先順位を判定し、ネットワークの無線帯域をリアルタイムに分配・制御する技術です。
無線を使った通信は、電波をみんなで共有して使っているわけですが、無線通信に使って良い電波の帯域(無線帯域)には限りがあります。そのため、無線へ接続する端末が集中すると、無線帯域の奪い合いが生じてしまいます。従来技術では、このような際には公平に無線帯域を割り当てようというポリシーのもと、アクセスしてきた順に通信を割り当てるという制御を行っていました。インターネットなどで、ふだん皆さんがいつもよりも遅いなと感じるときには、こうした順番待ちが起こっているわけですね。
しかし、IoTや自動運転が普及していくこれからの社会では、そういうわけにはいきません。たとえば、自動運転車を考えてみてください。交差点には、スマートデバイスを持ったたくさんの人やネットワークと通信を行いながら走行する自動車が多く集まります。このような場所で、たった1台でも自動車と無線基地局の通信に大きな遅延が生じてしまった場合、その自動車には他の車と衝突してしまうリスクが生まれます。
このようなシーンでは、従来追求されてきた最大通信速度という品質はそれほど重要ではありません。むしろ、最大通信速度は遅かったとしても、事故が出ないだけの通信速度を全てのデバイスへ安定的に割り当てることの方がはるかに重要です。最大速度を確保するのではなく、通信遅延のデッドラインを守るという考え方ですね。各端末の優先度を判断しながら適切に帯域を割り当てることで、通信遅延のデッドラインを守ることに成功したのが、私たちが開発した適応ネットワーク制御技術です。
じつは、こうした考え方自体は昔から存在していました。しかし、ここで問題となっていたのが「予測」です。デッドラインを守るためには、ときに通信遅延が生じないだろうと予測できたデバイスの優先度は逆に下げて、他の優先度の高いデバイスへ割り当てることも必要になります。つまり、この遅延の予測が高精度にできなければ、従来型の手法よりも全体的に性能が落ちる可能性があったからです。
本技術の肝は、この「予測」を高精度に実現できたことです。機械学習によって通信端末の推定を行うほか、通信状況をリアルタイムに分析して予測・制御し、安定的な無線通信を構築することに成功しています。おかげさまで、国際学会でも高い評価をいただいており、本技術についての論文はIEEE ComSoc International Communications Quality and Reliability Workshop(CQR) 2017でBest Paper Awardを受賞しました。また、国内の電子情報通信学会のネットワークシステム研究会の優秀論文賞の受賞も決定しました。

モビリティや監視カメラでの応用を想定

―どのような応用を想定していますか?

まず考えているのは、先ほどもお話しした自動車などのモビリティ領域です。自動車向け通信の国際標準では、通信遅延が100ミリ秒以内、成功率95%以上という値が安全運転のための基準として設定(*1)されていますが、2018年2月には私たちが行ったシミュレーションでは既に、100ミリ秒以内の通信成功率95%(*2)をクリアしています。これは従来手法の約5倍(*3)に相当する成功率で、世界的に見てもイノベーティブなものでした。最近では試作機も完成し、実機のもとでの検証にも成功しています。
また、自動運転と関連して応用を考えているのは工場や物流での搬送ロボット(AGV)ですね。数百台規模のマシンが施設内を動き回るなかで、いかにAGVの搬送効率を上げていくかというのは業界内の重要な課題です。スピードを上げても、衝突せず効率的に動き回れるようにネットワークをリアルタイムに制御するという意味では、基本的に自動運転と変わりませんから、すぐにでも応用ができる分野だと考えています。

適応ネットワーク制御技術の概要
適応ネットワーク制御技術の概要

さらに、現在アイデアとして考えているのは監視カメラへの応用です。監視カメラのトラフィックというのは、時間ごとにデータ量が大きく変動するんですね。近年はH.264などの圧縮技術が進み、コマごとに差分を送っていくものが主流になったため、人がいる時といない時などの違いによってトラフィック量には大きな差が生じるのです。
この点に注目して機械学習を活用すると、人がいるときやいないとき、複数いるときなどに応じたトラフィックの特徴がわかるようになります。つまり、映像そのものに注目するまでもなく、注目すべきインシデントが起きているかどうかを判断できるようになるわけです。複数のカメラで警備・監視を行うような大規模な施設では、これによってカメラの優先度を判断してネットワークの帯域を有効利用することもできるのではないかと考えています。
  • *1 モバイルネットワークの要件や仕様を検討する団体:
    第3世代(3G)をはじめ 4G、5Gのモバイルネットワークの標準化団体である3GPP(3rd Generation Partnership Project)。また、欧州の5G関連研究推進団体であるThe 5G Infrastructure Public Private Partnershipでも、自動車向けネットワークの要件は同様の数字を掲げている。
  • *2 通信成功率:
    単位時間あたり端末が送信したデータの中で100ミリ秒以内に届いたデータの割合。
  • *3 従来比:
    Proportional Fairness法。無線基地局の無線リソース割り当てにおける広く知られた手法。(通信遅延100ミリ秒以内での通信成功率は18%)

スマートシティのネットワーク構築を見据えて

― さらに先を見据えると、どんな展開を考えていますか?

5Gを見据えた展開や、強化学習を用いて自律的に学んでいくシステムには、現在取り組んでいるところです。環境が変わっても十分に適応して、パラメータを最適にチューニングできるということは本技術の一つのテーマですから、その精度の向上を引き続き進めていきます。
また、これまでさまざまなアプリケーションの話をしてきましたが、最近は結局のところ、この技術の出口は「スマートシティ」に行き着くのではないかと考えています。交差点や工場での活用というのは一つひとつ非常に重要なアプリケーションではありますが、総合的に技術を組み合わせたときに生まれてくるものは、私たちの生活を支えるネットワークそのものです。一人ひとりの生活を支える都市全体のネットワークをつくるためにも、この技術をさらに進化させていくことは重要だと考えています。
そもそも、IoTというのは複数サービスが合体して一つのソリューションに発展することが多いものです。技術分野や事業領域を横断しながら研究を進めることこそが、新しい社会価値の創造につながると考えています。一つの技術だけに注目するのでは足りません。
そういう意味では、NECの総合力というのは非常に強い武器です。今回の技術も、AIの技術だけではつくれなかったと思いますし、通信の知識だけでも決してつくりあげることができなかったと思います。具体的に言えば、ネットワーク通信の分野では、機械学習でよく用いられる時系列的予測はうまく機能しません。通信では時間ごとのデータにムラやロスがあることが多く、すべての時系列データをそのまま信用して活用することができないからです。今回の技術は、ここに私たちのネットワーク研究者のノウハウを融合することで生み出すことができました。
NECには、AIや通信も含めた幅広い事業領域をもち、幅広いお客様がいます。また、それぞれの専門を極めた多彩な研究チームが連携できるという強みもあります。このNECの総合力を活かして、今後もお客様と協力しながらさらに新しいソリューションをご提供していきたいと考えています。