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都市部における複数の道路・ビル等の老朽化検査を可能にする衛星レーダを活用した2次元微小変位解析技術
NECの最先端技術更新日:2022年7月6日

背景
昨今、ビル、道路等のインフラ構造物の老朽化対策として、その危険個所を検知して事故やトラブルを未然に防ぐ、予防保全への要求が高まっています。都市部のような膨大な数のインフラ構造物の状況を効率的に把握するために、広範囲を網羅的に把握可能な費用負担が軽い一次検査として、スクリーニング検査の実施が望まれています。
こうした中で、衛星レーダ(合成開口レーダ:SAR、注1)を用いた微小変位解析技術がスクリーニング検査手法として開発・実用化されています(注2)。この技術を2つの衛星レーダのデータに用いて解析結果を統合・合成する2次元変位解析技術は、一つの衛星レーダによる1方向からの解析ではなく、垂直と水平の詳細な解析が可能な技術として期待されていますが、構造物に当てたレーダの反射点が、ビルなどの密集した場所においては、どの構造物のものか判別しづらく、統合のために必要な反射点の対応付けが難しいという問題があります。これを、無理やり対応付けをすると、統合・合成された2次元変位解析結果の誤差が大きくなってしまう場合があり、ニーズの高い都市部のスクリーニング検査としては適用が困難であるという課題がありました。

新技術の特長
今回新たに開発した「2次元微小変位解析技術」は、NEC独自の反射点クラスタリング技術を用いて反射点の対応付けを行うことにより、都市部においてもミリ単位という高精度な微小変位解析を実現します。この手法では、インフラ構造物を剛体(例 コンクリートの塊など)の集合体と見なして同じ剛体に属するレーダ反射点をクラスタリングすることによって、都市部のスクリーニング検査に求められるインフラ構造物ごとの2次元微小変位解析を可能にします。これにより、例えば、地盤沈下の多い埋立地などにおいて、その影響がビルにどのように表れているかといった、構造物の保全の観点から非常に重要な変位を検知することが可能になります。
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インフラ構造物ごとの変位解析を可能にする反射点クラスタリング
同じ剛体に属するレーダ反射点をクラスタリングするために、反射点の位置と、変化の類似度の性質を利用します。同一の剛体であれば、レーダ反射点は近い位置にあることが期待できます。また構造物に重大な変位がある場合だけでなく、構造物内の加重変化などの影響で、剛体全体が動くので、その上にある反射点の変化も類似していることが期待できます。これら2つの性質を同時に満たすように反射点をクラスタリングすることにより、抽出された反射点を剛体ごとに対応付けて分離します。図2:剛体に対応した反射点を分離する反射点クラスタリング -
2次元変位解析に適した、地図情報に基づく正しい対応付け
剛体ごとに分離された反射点クラスタの形や位置を利用すれば、地図情報と照合することが可能になります。これにより、実際のインフラ構造物との対応付けを行い、2つの異なる方向から観測した反射点解析結果の対応付けも正しく行うことが可能になります。正しく対応付けに基づく2次元変位解析からは、誤差の少ない変位計測結果が得られます。 本技術を、都市部埋立地において評価した結果(図4)において、従来の山間部向け対応付け手法によって反射点を無理に対応付けた場合、一部の反射点が周囲と異なる上昇方向に変位しているように見えるため、この検証のために詳細検査をするかどうかの検討作業が必要となり、検査期間やコストが増加してしまいます。これに対して新手法では、正しい対応付けが行われた結果、全体が均一に沈下し、異常な変位が無いことから詳細検査は不要と容易に判断でき、検査期間やコストの抑制に寄与します。図3:反射点クラスタリングを利用した2次元変位解析
この他、都市部における水準点(注3)について沈下隆起を比較した結果では、人手による測量を正解とした誤差が、従来の山間部向け対応付け技術と比較して、約40%低減されることが確認できました。図4:新手法により都市部埋立地の変位を解析した例
(暗い領域が海で明るい灰の領域が埋立地。運河を隔てて2つの埋立地がある。)
以上のように、本技術による変位解析の精度向上は、スクリーニング検査の信頼度を高め、老朽化する都市インフラの予防保全を効率化するために大きく貢献します。
NECは本技術を、インフラの老朽化診断だけでなく、工事による地盤沈下の監視、大規模プラントの監視など、様々な領域の変位解析に応用するために実用化を進めます。
NECは今回の成果に関して、リモートセンシング関連の国際学会「IGARSS(International Geoscience and Remote Sensing Symposium)」(会期:7/22(日)~7/27(金)、会場:スペイン バレンシア)にて発表を実施。
URL: https://igarss2018.org/
- (注1)合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar):
地球を周回移動する衛星の動きを用いて、レーダアンテナの大きさ(開口長)を実質的に巨大化することにより、高解像度なレーダ画像を得る技術。例えば、NECの小型レーダ衛星ASNARO2では地上数百キロの高さから解像度1m程度の高精細な画像を得ることができる。ただしレーダでは距離のみを計測するため、得られるレーダ画像は光学カメラによる画像と比較すると歪んでいるように見える。 - (注2)SARによる微小変位解析技術:
定期周回するレーダで地上をレーダ観測した際に得られる、地盤や道路などの構造物にある反射点(散乱点ともいう)からなるレーダ画像を利用した変位解析技術。定期的に観測した数十枚のレーダ画像における安定な反射点を単一構造物に由来すると見なし、時系列解析することにより、地盤や道路について一年あたりミリ程度の微小な変位を計測することが可能。1つの衛星による変位解析技術は、内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」開発技術チームにおいて「高精度かつ高効率で人工構造物の経年変位をモニタリングする技術の研究開発」として研究開発され、実用化が進んでいる。 - (注3)水準点:国土地理院、地方公共団体が設置・管理する、標高観測点
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公開日:2018年7月20日
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