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ハンス=ピーター・グラフ

2018年9月28日

ハンス=ピーター・グラフ
博士(物理学)
NEC 北米研究所
機械学習研究部門長

人間社会を大きく変革する機械学習

私はNEC北米研究所の機械学習研究部の部長を務め、機械学習のアルゴリズム開発やAIのさまざまな応用、データ分析に取り組んでいます。機械学習の研究については25年以上のキャリアがあります。専門は、機械学習のアルゴリズムと技術の実装です。機械学習を現実世界の問題を解決できる段階にまで導くことが一つの目的ですね。実際、この技術は人間社会に多大な影響を与える可能性があると考えています。
私たちの研究を応用したアプリケーションの1つは、皆さんもよく知っている自動運転です。人工知能と機械学習は、自動運転の背後にある主要技術として機能しています。
製造業では、人工知能は製造工程の自動化に役立ちます。これによって、エネルギーや資源の使用量を低減できるだけでなく、より高い品質の製品を製造することさえも可能です。世界的な人口増加に伴って、環境への負荷を抑え、効率的に商品を製造することは非常に重要ですが、人工知能はこうした世界的な目標達成にも役立ちます。
私たちの研究における目下の問題は、まだ機械学習は人の考え方とは大きく異なっているという点です。人間の脳は高度な推論や情報の組み合わせを行うことに非常に優れていますが、機械はまだ、これらの作業を適切に行うことができません。私たち研究者は、まず人間の脳がどのようにこれらの作業を行っているかをより深く理解し、そこで得たノウハウを機械へ応用しようとしています。

機械学習のパイオニアとして、学会でも積極的に活動

NECは機械学習分野のパイオニアであり、この分野の研究に多大な貢献をしてきた企業です。最近の人工知能ブームのはるか前から、15年以上も研究をつづけてきました。事実、私たちの部署は研究の黎明期から機械学習開発環境をいくつか開発しており、特にTorchは、現在も広く利用されている機械学習プラットフォームです。2006年にオープンソースとして公開しましたが、数年間は私たちの部署が主体となって、本システムに寄与していました。
いま機械学習分野で最も成果を出している有名な研究者のなかには、かつて私たちの部署に所属していた仲間もいます。たとえば、Yann LeCunは現在ニューヨーク大学の教授で、FacebookでもAI研究を進めています。サポートベクタマシンの発明者であるVladimir Vapnikも、長年私たちの部署に所属していました。
また、私たちはトップクラスのさまざまな大学と密接な関係を構築しているので、研究の最新情報や開発情報は常にアップデートすることができています。インターンも定期的に受け入れており、PhDプログラムを2~3年受けた大学院生がインターンとして来るため、大学とより緊密な関係を保つことができています。大学との密接なつながりは、重要なカンファレンスや一流のジャーナルで受け入れられる出版物をつくるためにも役立っています。
私たちNECの研究者にとって、数学や統計学を含む技術知識の確実な理解は不可欠です。しかし、それと同時に、技術や機械学習が実際のソリューションにどのように貢献できるかを理解するためには、異なる応用分野を学んで、そこで起きている問題を理解していくこともまた、等しく重要です。社会に役立つ技術をつくり出すためには、専門知識と同じく、狭い視野に囚われないオープンマインドや鋭い洞察眼も非常に大切だと考えています。

人間の脳へ近づく機械学習

人間の脳は、この地球上で最も奇跡的な器官です。これには疑いの余地がありません。しかも、脳に対する私たちの理解は、未だに初歩的なものにとどまっています。私は25年以上をかけて機械学習の研究をつづけ、脳が行う機能を再現しようとしてきましたが、まだ基本的なレベルのことしかできていません。脳の働きをより深く理解し、異なる技術でどのように実装できるかを解明するには、さらに多くの研究が必要です。
脳は非常に遅い器官である生体ニューロンによって機能しますが、機械学習ではそれよりもはるかに速いトランジスタによって機能しています。このように脳と機械学習は大きく異なる処理を行っているのです。現在の私たちの課題は、脳の機能を機械が実行できるようなかたちに変換することです。
人間の脳は非常に再現が難しいですが、物体認識などいくつかの機能については再現に成功しています。顔認証システムでは、顔写真を撮影し多数の他の顔と比較することで、人物を見分け、認識することができるようになりました。
この技術は、製品の検品にも活用できます。たとえば、生産ライン上のスパークプラグを考えてみましょう。現在の製造現場では作業員がすべての製品を検査し、欠陥のある製品を選別しています。しかし、私たちの技術を実装すれば、機械がカメラのデータから製品の外観を学習し、欠陥品かどうかを識別することができるようになるのです。
機械学習によって脳の機能を再現するというのは、非常に魅力的です。この問題を解明するまでにはさらに10年を超える年月がかかるでしょう。しかし、機械学習を人々の問題を解決できる実用的な製品にすることが現在の私の目標であり、近い将来魅力的な研究テーマになると信じています。

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ハンス=ピーター・グラフ

プリンストンにあるNEC北米研究所機械学習研究部門の部門長。当部門では機械学習のアルゴリズムの開発のほか、セマンティックテキスト分析や認知動画解釈、バイオ医学分析のアプリケーション開発を行っている。同氏は、各事業部門への技術移転や研究結果の事業化等を担当。一例として、発売されたばかりのe-Pathologistがある。これは組織標本の解釈において病理学者を支援するシステムで、当部門で開発した主要なアルゴリズムを実装したものである。

NECの研究所に入社する前は、ベル研究所とAT∓T研究所の両社に主幹技師として勤務し、ニューラルネットモデルや機械学習アプリケーションの開発に携わる。同氏が設計した大規模並列ニューラルネットプロセッサは、高速アドレスリーダーやチェック処理システムの主要部品になっていた。

同氏は、学士号と博士号をともにスイス、チューリッヒにあるスイス連邦工科大学チューリッヒ校から取得。100本以上の査読論文の原著者・共著者であり、登録特許約40本の作成者でもある。IEEEフェローであり、アメリカ物理学会の会員でもある。

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