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学生のみなさんへ2025インタビュー:松本 健太

2025年3月19日

量子センシングの未来を切り開く

松本 健太

セキュアシステムプラットフォーム研究所
主任
松本 健太

物質科学の研究で博士課程修了後、2020年にNECへ入社。茨城県つくば市にある産業技術総合研究所(産総研)拠点内に構えられた「NEC-産総研量子活用テクノロジー連携研究ラボ」に所属し、社外機関と連携しつつ研究を実施している。小型原子時計や量子センシングをテーマとした研究開発に取り組み、研究内容をまとめた2つの論文は難関論文誌で採択されている。

産総研と連携し、ナショナルプロジェクトに従事

私は学生時代、物質科学を専攻していました。このままアカデミアに進んでも面白いことができるかなとも思ってはいたのですが、社会の中で自分の研究を生かしてみたいという思いや経済的な安定性のことを考えて、企業研究の道を選びました。数ある企業の中からNECを選ぶ決め手となったのは、採用プロセスの中でお会いした上層部の方々の考え方でした。現場レベルの細かい技術にも興味を持っていらっしゃって、基礎的な技術も会社として大切に育てていく文化があるんだなと実感したからです。自分が取り組んできた研究の知識も活かせそうなことがわかったので志望したところ、ご縁があって入社することができました。

入社後は、ちょうどその頃に発足した量子センシングチームに参加することになりました。つくば市にある産業技術総合研究所(産総研)との連携研究室に所属し、研究を続けています。産総研の方と日々顔を合わせてディスカッションができるという環境は刺激的で、研究をスピーディに進めるための力になっています。

私たちのチームの研究の根幹にあるのは、気体状態の原子の量子効果を活用したセンシングです。入社後は、時間の測定をテーマとした超高精度な原子時計の研究開発に携わりました。官公庁がクライアントとなるナショナルプロジェクトで、手乗りサイズの小型原子時計の開発を目指した研究でした。原子時計は1カ月で1マイクロ秒程度以下しかズレることのない高精度な時計で、GPSでの位置推定や大容量通信時の同期を行うために不可欠なものです。この精度を保ったまま小型化して身近なデバイスにも積めるようになれば、通信技術の進化に大きく貢献することができます。私は本試作機の作製や安定的な動作条件を追求するための評価に携わりました。

従来技術を凌駕する高感度センサに挑戦

小型原子時計のプロジェクトに取り組んだ後は、この技術を横展開するかたちで量子センシングデバイスの研究に携わっています。量子効果を活用して時間を測定するのが原子時計でしたが、今度は磁気や電磁波などを測定するデバイスの開発を目指しています。量子効果をうまく利用すれば、従来技術を凌駕する高感度なセンサを生み出せるはずです。より小さな変化も敏感に捉えられることができるようになるでしょう。宇宙分野や通信インフラへの活用はもちろん、自動運転における移動体間の高精度な通信などにも役立てることができると考えています。

量子センシングの研究をするきっかけとなったのは、NECの研究者からの声でした。原子時計に取り組む前から量子センシングに興味を持っていたメンバーがいて、声を挙げるかたちで研究が立ち上がったのです。このように、ボトムアップでテーマに取り組むことができるなど、新しいことに取り組むハードルが低いこともNECの研究所の良い点かもしれません。応用研究においては、社会実装するまでにやらなくてはならないことも多々ありますが、自分たちがやりたいことと上手く両立していくことが大事だと思っています。常に楽しんで研究できるようにしたいですね。

これらの研究活動をもとに学会活動も行っていて、難関論文誌に筆頭著者として2本採択されました。

自由と緊張感が両立した環境

つくばには、本社や玉川事業場とは一風変わった文化があるようで、実験設備などを見学に来られるお客様や学生さんなどからは、よく「大学みたいな雰囲気ですね」と言われます。いま着ている法被(はっぴ)も、つくばで代々受け継がれてきたもので、社内のお祭りや飲み会で使われてきました。現在も産総研の方を巻き込みながらその文化が息づいています。

そのくらい自由で風通しのよい環境ですが、基礎寄りの中長期的な研究に取り組んでいるチームが多いこともあり、一定の成果を常に出し続けていかなければならないという緊張感も持って取り組んでいます。そのぶん、皆さん非常にレスポンスが早く、わからないことを聞きに行けばすぐに応えてくれるというスピード感があることも特徴です。もし壁にぶつかりそうになっても周囲に相談することで、すぐに次のステップに進めたということが、この5年間で何度もありました。

また、同じ研究所内には量子センシングだけでなく、ナノマテリアルの研究者など、多様なバックグラウンドの方がいます。全体のミーティング時に現在の研究課題を話すと、思いがけない分野の方から「こんな方法があるよ」とヒントをいただくこともあります。こうした環境もNECの研究所の良いところだと思います。

学生の皆さんにアドバイスを送るとすれば、気になることがあったら何にでも手を出しておいた方がいいということでしょうか。自分がやりたいことを何か一つ芯に持つということも大事ですが、世の中の流行はすぐに変わっていくものです。幅広く興味をもっておくことで変化にも対応できますし、やりたいことをやるときにも、回りまわって役に立つようになるはずですから。

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昨年子どもが産まれて以降は、育児に没頭しています。離乳食づくりや救急対応の仕方を学ぶために親子教室に出かけたり、発育に関して勉強したり、子どもの安全のために家の環境を整えたりするなど忙しく過ごしています。ただ、計画的に業務を進めればまとまった休暇を取れる環境なので、1週間くらいの旅行に出かけることもしばしばです。子どもが生まれてからも二度、温泉旅行に出かけました。

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