2023年8月4日

インド国民13億人が利用する世界最大の大規模生体認証システム「アドハー」を実現するほか、政府・空港等を中心に生体認証向けAIプラットフォームを世界40カ国へと展開。機械学習の研究リーダーを経て、現在は国内企業で最大規模となる「NECのAI研究用スーパーコンピュータ」の企画・設計・開発・運用を統括している。AI技術の研究開発・環境構築から事業化まで、一貫してAIの競争力強化に携わる。

NECを世界トップレベルのAIテックカンパニーへ

― NECが保有するAIスパコンについて教えてください

NECは、NVIDIAのA100　GPUを928基搭載した国内企業で最大（※）のAIスパコンを独自に構築し、2023年3月に全面稼働を開始しました。本AIスパコンは、機械学習の研究リーダーを務めた際に今後のAIには計算能力が極めて重要であることを予期し、生成AIのブームが来るずっと前から計画していたものです。

ChatGPT等に代表される大規模言語モデル「GPT-3」では、GPU1基でAIの学習をしようすると、およそ350年以上もの時間が必要になります。いまや生成AIのような大規模な先進AIの研究開発を行うためには、AIスパコンが必要不可欠なものになっているのです。

NECでは先日、自社開発の大規模言語モデル（LLM）を発表しましたが、これはNECのAIスパコンの928基のGPUをフル活用して学習を行っています。このような大規模なAIスパコンを開発・保有しているからこそ、NECは自社で生成AIの基盤モデルを作ることができるのです。国内企業で最大規模のAIスパコンをNECが保有するということは、NECが先進のAIをつくり続けられるということです。これはお客様・パートナーの方々にとって大きな価値があり、社会的にも非常に意義のあることだと考えています。

― なぜ、国内企業で最大規模のAIスパコンを開発したのでしょうか？

理由は2つあります。

第一の理由は、社会からの要請に応えること。すなわち、さまざまな分野に生じている高度な社会課題を迅速に解決するためです。AIへのニーズは拡大の一途を辿っており、ありとあらゆる事業領域に適用範囲が拡大しています。また、いま世界はVUCA時代を迎えており、社会の変化も急激に進んでいる状態です。従って、変化し続ける社会を捉え続け、高度な社会課題を迅速に解決するためには、多様で多数のAIを生み出すだけの計算能力が必要となります。NECが社会価値創造型企業として社会全体に貢献していくためには、国内企業で最大規模のAIスパコンの開発は必然であったということです。

第二の理由は、NECが先進AIをつくり出せる企業であり続けるためです。AIは1年で劇的に技術が進化していきます。ですから、AIスパコンを開発するための高度な開発・運用能力を保有し、AIの進化に合わせてAIスパコンそのものを進化させることが必要不可欠なのです。社会に革新的な価値を提供し続けるために、NECが先進AIを創り続けるための高度な学習インフラを進化し続けられることが極めて重要であると考えています。

NECは半世紀も前からAIの技術開発を行っており、機械学習関連の論文では難関学会の採択数で世界10位を誇ります。また、生体認証を始めとして世界トップレベルの先進AI技術を数多く保有しています。世界有数のAIの技術開発能力をAIスパコンによってさらに強化することで、革新的な社会価値の創造を行い、NECを世界トップレベルのAIテックカンパニーへと導きたいと考えています。

神は細部に宿る、プロダクトに妥協をせず魂を込める

― AIスパコンの技術的な特長について教えてください

NECのAIスパコンでは、先進サーバのコンピュータアーキテクチャと先端のネットワークアーキテクチャから構成される「計算機基盤」と、Kubernetesを中心とした先端の「ソフトウェア基盤」を高次元で融合しています。

計算機基盤にはNVIDIAのA100　GPU928基を活用し、AIの学習を高速で行うことが可能になっています。また、GPUサーバーと各種高速スイッチをSpine/Leaf型のネットワークアーキテクチャによってEnd-to-Endで統合することにより、高速・広帯域の通信を実現しています。各GPUサーバからはDDNの16PB超の超大規模ストレージへの接続が可能で、学習で必要となる大量データを高速に取得して活用することができます。

ソフトウェア基盤に関しては、複雑な環境を構築しなくても先端のAIの学習を行えるようにするために、Kubernetesをソフトウェアの中核に据えた分散学習環境を独自開発しています。これにより、利用する研究者は最新の深層学習フレームワークのコンテナを用いて、複雑な環境構築をすることなく容易に分散学習を行うことができます。

さらにKubernetesのジョブスケジューラを独自開発しており、ネットワークトポロジなどの物理構成に最適化した効率的なスケジューリングをすることによって、より多くの研究者が同時に並行して利用できるような環境を提供しています。MPI/NCCLなどの通信ライブラリやOSなどもNEC独自の最適化を行うことで、RoCEv2を用いたGPUDirect RDMAで高速な分散学習を行うことが可能となっています。

これらの仕組みにより、高性能かつ利便性の高い世界でも有数のAIスパコンを実現しています。高度なレベルでコンピュータアーキテクチャ・ネットワークアーキテクチャ・ソフトウェアアーキテクチャを融合し、高信頼・高性能なAIスーパーコンピュータをつくりあげました。

私は「神は細部に宿る」と言葉が好きで、技術・事業に一切の妥協をせず、プロダクトに魂を込めてモノづくりをしています。それが本当の優れたプロダクトにつながり、プロダクトにこだわる執念は、必ずお客様にも届くと考えています。

計算能力はAI時代の競争力の源泉、先進AIで世界の未来をつくる

― AIスパコン開発の今後の方針を教えてください。

デジタル革命の中心はAIであり、大規模な計算能力はAI時代の競争力の源泉です。だからこそ、今後もさらに計算能力を拡大させる方針です。人間の高度な意思決定を支える先進的な生成AIをはじめとして、NECにおける全ての先進AIの技術開発をより強力に推進していきます。

人間は、言語に加えて、画像や音声も使って実世界で起こるさまざまな事象をモデル化し、さらには未来予測に基づいて最適なアクション・解決策を考えるという意思決定を行うことができます。これは、私たちがふだん意識せずに行っている非常に高度なアクションですが、その裏には生まれて数十年かけて学んだ知識が存在しています。

このような高度な意思決定を行う人間の判断を支えるAIをつくるためには、人間と同様に大量の知識を学ばせなくてはなりません。しかし、言語能力にあたる一つのAIの構築でさえ長期間の学習がかかるわけですから、画像や音声なども統合されたマルチモーダルな生成AIを構築するためには、さらに膨大な計算能力が必要となります。

NECは、大規模言語モデルだけでなく、画像認識・音声認識・最適計画・制御など、人間の高度な判断を支える全てのAIの技術開発を行っており、AI研究者数百名がAIスパコンを用いて技術開発を行っています。このように、多様な先進AIを開発する研究所と大規模な計算機資源を併せ持つ企業は、世界的にも非常に稀です。ですから、さらに計算能力を拡大していくことで、人間の高度な意思決定を支えるような世界最先端の生成AIであっても、NECであればつくり出すことが可能です。

世界でもトップレベルにあるNECの優れたAI研究者の能力を、AIスパコンで大きくスケールし、NECが先進的な生成AIの基盤モデルをつくりつづけることで、AIによる新たな社会価値の創造を飛躍的に加速させていきます。是非、今後のNECの先進AIにご期待ください。


― AIスパコンの将来的なビジョンについて教えてください

私はこのAIスパコンをフル活用することで、NECを世界に誇れるAIのテックカンパニーへと導き、社会に広く革新的な価値を提供できる社会価値創造型企業として知られる存在にしたいと思っています。これは、国内企業で最高のAIの研究開発環境を保有しているNECだからこそできることです。

もちろん、世の中を変えるようなイノベーションというものはNECだけで生み出せるものではありません。NECが目指しているのは社会価値を共創するAIのセンター・オブ・エクセレンスです。国内企業で最高の環境にお客様や優れた研究者が集い、新たな社会価値を共創する。このような役割をNECが担うことによって、イノベーションを生み出し、社会価値の創造を加速していきたい。これがビジョンです。

AIは、技術の可能性から考えれば、インターネットの発明に次ぐほどの大発明です。広く普及しつつありますが、AIがもたらす革命はまだ始まったばかりであると言えます。AIスパコンをフル活用することで、世界に誇れる先進AIを数多く生み出し、先進AIで世界の未来をつくっていきたいと考えています。