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新開発の8量子ビット量子アニーリングマシンを利用して東北大学とNECが将来のコンピュータシステムに関する共同研究を開始
2023年6月28日
国立大学法人東北大学
日本電気株式会社
国立大学法人 東北大学(注1、以下 東北大学)と日本電気株式会社(注2、以下 NEC)は、NECと国立研究開発法人 産業技術総合研究所(注3、以下 産総研)が新たに開発した国産8量子ビット量子アニーリングマシンを利用し、将来のコンピュータシステムに関する共同研究を開始しました。
今回活用する8量子ビット量子アニーリングマシンは超伝導技術を利用し、ノイズに強く、量子重ね合わせ状態を長く維持したまま多量子ビット化が可能な構成を採用した新開発のマシンとなります。
なお、インターネットを介して外部利用可能な国産量子アニーリングマシンは本マシンが国内初となります。また、それを活用した共同研究も今回が初となります。
今回活用する国産量子アニーリングマシンについて
複雑な社会課題の解決には、膨大な選択肢から最適な組合せの導出(組合せ最適化問題の解決)が重要です。この組合せ最適化問題を高速・高精度に解くため、NECは産総研と共同で超伝導パラメトロン素子(注4)を用いた量子アニーリングマシンの開発を進めています(注5)。
本量子アニーリングマシンは、超伝導パラメトロン素子を用いることでノイズに強く、量子重ね合わせ状態を保つ時間(コヒーレンス時間)が長いという特長を有します(注6)。一般的に、多量子ビット化するとコヒーレンス時間が短くなりますが、ノイズに強いという超伝導パラメトロン素子自身の特長に加え、本素子と親和性の高い量子ビット間結合技術である「ParityQCアーキテクチャ」(注7)の採用により、多量子ビット化時でも長いコヒーレンス時間を保持可能です。その結果、実社会における組合せ最適化問題を高速・高精度に演算することができるようになります。
これら2つの技術に関しては、すでに2022年3月には4量子ビットからなる基本ユニットの動作実証に成功しており(注8)、さらに今回、基本ユニットを並べることで8量子ビットからなる量子アニーリングマシンの開発に成功しました。
東北大学とNECの共同研究について
東北大学とNECは1958年に高性能計算技術の共同研究を開始しました。2014年には東北大学サイバーサイエンスセンター内に「高性能計算技術開発(NEC)共同研究部門」を設置し(注9)、様々な科学的・社会的課題を解決するための研究活動を行ってきました。今回、東北大学とNECは津波浸水による人的被害軽減に向けた最適避難経路導出など実社会に数多く存在する組合せ最適化問題への本量子アニーリングマシンの適用を検討していきます。
本共同研究に先立ち東北大学とNECは、2018年から文科省次世代領域研究開発事業の支援をうけて、「量子アニーリングアシスト型次世代スーパーコンピューティング基盤の開発」(注10)に取り組んできました。この取り組みは、多くの実用アプリケーションで高い処理能力を示してきたベクトル型スーパーコンピュータのさらなる高性能化・高度化を目指すとともに、組合せ最適化問題に特化した量子および疑似量子アニーリングをベクトル型スーパーコンピュータと相補的に機能させることにより、新たなスーパーコンピューティング基盤を実現し、本基盤を活用する新たなアプリケーションのあり方を明らかにしようとするものです。これら量子アニーリングに関する取り組みが評価された結果、東北大学は「量子ソリューション拠点」として内閣府の認定を受けています(注11)。
本共同研究では、NECと産総研が開発した超伝導パラメトロン素子による8量子ビット量子アニーリングマシンを、インターネットを介して東北大学から利用できるようにします。東北大学とNECは本共同研究の中で、本量子アニーリングマシンと東北大学に設置したベクトル型スーパーコンピュータ「SX Aurora TSUBASA」(注12)上で動作する疑似量子アニーリング(NEC Vector Annealing)マシンの双方を利用することにより、量子アニーリングマシン、および疑似量子アニーリングマシン(注13)それぞれの特長を活かし、複雑な社会課題を解くための、コンピューティングシステムアーキテクチャの研究を共同で実施します。さらに、高速演算が期待される量子アニーリングならではのユースケース探索も行います。
東北大学とNECは、東北大学に設置された疑似量子アニーリングマシンに加え、産総研に設置された量子アニーリングマシンをインターネット経由で利用することで、通信遅延の影響なども加味した上での両マシンを含む全体構成がどうあるべきかを検討し、その結果を今後の量子アニーリング、および疑似量子アニーリングの両マシン開発にフィードバックします。さらに、実社会での問題を量子アニーリングならではの速度と精度で解くための、両マシンへの最適な計算の割り当て方を検討し、実用性向上に努めます。
東北大学およびNECは、今回の共同研究を契機に、量子コンピューティング技術の社会実装活動をさらに加速していきます。
以上
- (注1)
- (注2)
- (注3)
- (注4)超伝導パラメトロン素子は、超伝導のコイルとコンデンサで構成される量子力学的共振回路であり、日本電気株式会社と理化学研究所が2014年に世界で初めて実現。回路を共振周波数の2倍の周波数で変調することにより、0またはπの位相を持つ2つの自励発振状態の1つとなる。これらの発振状態の重ね合わせを量子ビットとして使用可能。
- (注5)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業として開発中。
事業名:高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発
プロジェクト名:量子計算及びイジング計算システムの統合型研究開発事業ページのURL:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100123.html
プロジェクトページのURL:
https://nedo-quantum.aist.go.jp/ - (注6)コヒーレンス時間が長い方が解精度と演算速度が向上する傾向にあり、米国および欧州の研究機関でもコヒーレンス時間の長い量子ビットを用いた量子アニーリングの研究開発が進められている。
- (注7)Parity Quantum Computing社が開発したアーキテクチャ。
Parity Quantum Computing社のURL:(英文)
https://parityqc.com/
2021年2月10日プレスリリース
NECとParity Quantum Computing社、量子コンピュータの開発に向けた協業を開始
https://jpn.nec.com/press/202102/20210210_01.html - (注8)2022年3月17日プレスリリース
NEC、高精度で実用的な量子アニーリングマシンの実現に向け、
多ビット化のための基本ユニット動作に世界で初めて成功
https://jpn.nec.com/press/202203/20220317_01.html - (注9)2014年6月27日プレスリリース
東北大学とNEC、次世代スーパーコンピュータ技術の共同研究部門を開設
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20140627_03web.pdf - (注10)文科省高性能汎用計算機高度利用事業費補助金
研究期間2018年度〜2022年度。
研究代表者:東北大学 小林広明 - (注11)国の量子技術イノベーション戦略(2020年1月21日 統合イノベーション戦略推進会議)に基づき、量子技術分野の国際競争力の確保と強化を目的として、2021年2月に発足。現在、10の研究機関・大学が認定を受けている。
量子技術イノベーション拠点のURL:
https://qih.riken.jp/ - (注12)次世代イノベーションプラットフォーム「SX-Aurora TSUBASA」シリーズ製品ページのURL:
https://jpn.nec.com/hpc/sxauroratsubasa/index.html - (注13)量子性を利用していないものの、従来コンピュータ技術によって量子の振る舞いを模倣したアニーリングマシン。
NEC 量子コンピュータ研究について
本件に関するお客様からのお問い合わせ先
東北大学大学院情報科学研究科 教授 小林広明
TEL:022-795-7010
E-Mail:koba@tohoku.ac.jp
NECグローバルイノベーション戦略統括部
NECは、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、
誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します。
https://jpn.nec.com/brand/