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1年かけて集中的にAI人材を育成ー組織としての戦略と覚悟
NECアカデミーfor AIでは1年間にわたる実践と研修を通してAI人材としての独り立ちを目指す「入学コース」を提供している。金融業界のソリューション開発に長く関わってきたNECの林直也は業務の中でAI人材育成の必要性を痛感し、2017年から社内のAI専門部隊に働きかけ、育成の場づくりに尽力してきた。現在ではNEC社内の各事業部でも「入学コース」プログラムを活用して、社員のAIスキルを高めている。
林 直也
NEC デジタルビジネス基盤本部本部長代理 兼 金融システム本部上席主幹
金融顧客を中心に、ミッションクリティカルなシステム基盤開発に従事。
2016年よりFintechへの取り組みとしてAIやブロックチェーンを活用したイノベーティブなソリューション企画/開発、デジタルトランスフォーメーションに必要とされるDX人材育成も推進。
丸1年間AIプロジェクト漬けにするのが育成の近道
―― 林さんは金融のシステムやソリューション開発に長らく携わっておられますが、なぜ、AI人材の育成が必要だと思われたのでしょうか。
金融ソリューションを手がける中で、AIやブロックチェーンなどの先端技術を取り込む必要があり、私自身が2016年頃からAIについて勉強を始めました。当時はまだAIを活用できる人材が自部門におらず、人材育成が急務となったのです。
金融機関のお客さまは先端技術に敏感ですから、AIを使っていろいろなことができないかというニーズが高まっていきました。しかし、私の部門では育成するのに十分な環境がない。そこで、NEC社内のAIの専門部隊に人材育成をお願いできないかと相談しました。2017年のことです。
幸い、快く受け入れてもらい、まずはOJT形式で自部門のメンバーを送り出して育成してもらう、「AI-OJT」を始めました。その後は相談しながら育成プログラム自体も改善されていき、現在のNECアカデミーfor AI 入学コース(以下、入学コース)に体系化されたのです。プログラムのベースを協力し合いながら作れて、全社貢献できよかったと思っています。
―― この「入学コース」のメリットとはいったい何でしょうか。
当社の各事業部では、お客さまごとに担当するチームで仕事を進めています。そうすると、当然ながらいつもAIプロジェクトがあるとは限りません。AIを学んでも継続的にプロジェクトが発生しないと、なかなか能力が身につかないのです。
ところが、入学コースは送り出したメンバーを丸1年間AIプロジェクト漬けにしますから育成が速いのです。しかも、さまざまな業種の仕事に対応しますので、金融に限らず流通や公共システムなどいろいろな分野のAIプロジェクトの実戦経験を積むことができます。
さらに、入学コースの非常に重要なポイントとして「メンター制」があります。1人ひとりの入学生にメンターが付き、アドバイスや、教育のプランニングをしてもらうことができるので、さらに育成スピードが速まります。
なお、気になる育成状況は定期的に評価レポートを受け取ることができます。
AIプロジェクトが日常化し卒業生が活躍
―― 入学コースで学ぶことで、どのような成長が見られましたか。
私の所属する金融システム本部では、毎年4~5人の修了生が戻ってきます。分析ができるようになるだけではなく、コーディネート力やレポートを作成してお客さまにご説明するような力も身につきます。AIプロジェクトではお客さまへの対応力が必要ですからね。彼らはモチベーションも高く、当然、AIプロジェクトではリーダー役を担っています。
―― AI人材育成を始められた当初から現在まで、どのような変化を感じられますか。
2017年頃はまだAIプロジェクトの数は少なかったのですが、2020年以降は急に増えてきました。いまはAIを活用できることが常識であり、NEC社内でも金融に限らずさまざまな事業部から入学コースにメンバーが送り込まれています。最前線でAI人材がどんどん必要になってきているのです。
もし数年前からAI人材育成に取り組んでいなかったら、AIプロジェクトは回らなくなっていたことでしょう。あの時期にAI人材育成に取り組み始めることができて非常に良かったと思っています。
さらにいまでは、入学コースで学ぶ予備軍を育てるために、メンバーを5~10人集めてAI技術書の輪講会も定期的に開催しています。技術書を読んで、お互いに発表し議論し合う。AI人材育成のためにこうした新しい取り組みも試行しています。
メンバーを送り出す側に覚悟が必要
―― 入学コースへ1年間、メンバーを送り出す側の課題はありますか。
戦力である中核メンバーを、既存業務との兼ね合いを調整し入学コースへ1年も送り出すのですから、相当な覚悟が必要です。担当していたプロジェクトの緊急対応時に連れ戻されてしまうなど、最初はなかなかうまくいきませんでした。
本気でAI人材を育成したいのであれば、「ちょっと研修に行ってこい」というレベルではなく、部門の幹部が人材育成に対する明確な思いと戦略を描き、各チームのリーダー・メンバーに至るまで充分腹落ちしていないとうまく進みません。私の部門でも理解を得るまでには時間がかかりました。
周りの理解を得られるようになったのは、入学コースから戻ってきたメンバーが活躍し始めたからです。部門の中核メンバーを1年間送り出すには相当な覚悟が必要ですが、期待以上に育った姿を見てスムーズに人選が進むようになりました。
現在私たちは、AI人材の中でも分析業務を担う「データサイエンティスト」を中心に育てていますが、ゆくゆくはプロジェクト全体を通して対応できる人材に育てていきたいと考えています。その足固めとしても、入学コースは価値のあるものでした。
入学コースは、NEC社内だけでなく、社外からも入学生を受け入れて人材育成をしています。将来的にはたくさんのAI人材がNECアカデミー for AI から輩出されることを期待しています。