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人口動態データから地域特性を読みターゲティングに活用 ― アイデアコンテスト 優秀賞受賞アイデア
NECは、KDDIの協力のもと人口動態データを用いた分析コンテスト「NEC Analytics Challenge Cup 2020」を開催。アイデアコンテスト部門では、提示された人口動態データ(移動滞在データ)を分析し、そこから導き出したビジネスアイデアを競った。
最終審査会において特別審査員を務めたKDDI 若井幸夫氏から高い評価を受けたのが、NEC 飛田尚洋によるアイデア「山手線沿線区の人口動態データから読む 地元密着型ビジネスターゲティング」だ。このアイデアの概要と評価ポイントについて、二人の対話を交えて紹介する。
優秀賞受賞者
飛田尚洋 NEC 第一ネットワークソリューション事業部
分析コンテスト 特別審査員
若井幸夫 氏 KDDI パーソナル事業本部 サービス統括本部 パートナービジネス開発部
膨大なデータをいかに取り扱うか
―― 優秀賞おめでとうございます。飛田さんは2019年度の分析コンテストに引き続いての受賞になりますが、あらためて自己紹介をお願いします。
飛田:
私が所属するNEC 第一ネットワークソリューション事業部は、通信事業者様向けの装置の開発を手掛けています。私自身は、通信事業者様やその先のお客様における業務改善に向けて、データ分析やIoTを活用したソリューションの提供に携わっています。
―― 分析対象は人口動態データでしたが、どのような印象を持ちましたか。
飛田:
今回の分析対象データは、東京都23区のうちJR山手線沿線にある12区の毎時人口データ(期間:2019年3~6月および2020年3~6月)でしたが、まずはデータサイズが膨大だと思いました。人口動態データを取り扱うのは初めての経験でしたし、分析環境への負荷も考慮すると、なんらかの形で扱うデータを絞る必要があるだろうという印象を持ちました。
また、私は関西拠点にいるため、東京の地理についてあまり明るくありません。12区の500mメッシュのデータと聞いても、どれくらいの数になるのか想像がつかなくて、実際のデータを触りながら探り探りで取り組んでいましたね。
若井:
分析対象のデータには、エリアの「滞在人口」と「移動人口」が含まれています。その両方を分析に利用したチームが多かったなかで、飛田さんは滞在人口に絞って分析を進めていました。分析目的にあわせてデータをうまく選んでいると感じたのですが、滞在人口だけを使うことは早い段階で決めていたのですか?
飛田:
はじめから確信を持ってデータを限定していたわけではないですね。地域の特性をデータから探ろうとしたときに、「移動」データは出入方向を特定できないこともあってその意味が定義しづらく、「滞在」データだけを利用した方がうまくいきそうだと、分析を進める過程で決めていきました。
特定地域に注目して人口動態データを活用
―― 今回のアイデアについて、概要とその着想について教えてください。
飛田:
私が取り組んだのは、人口動態データのなかでも滞在人口データから人の移動量を概算し、そこから特定エリアの地域特性をつかみビジネスに援用できないか検討するものです。報告書では、具体例として「地元密着志向」の特性を持つ区を特定し、それぞれにビジネスや地域活性化のアプローチ例を提案しました。
アイデアの着想は、人口動態データを観察するなかで区ごとに特徴があることが見えてきて、それに興味を持ったことにあります。私はこれまでに東京への通勤経験はあっても住んだことはないので、「東京都区内での暮らし」や「区ごとの特徴」については、実感が湧かず想像がつきません。そうしたなか、区ごとの人口動態の比較や、同じ区内における人の移動量の比較をするうちに、「このエリアは昼間より夜間の人口が多い」「同じ区内でも思わぬ人の動きがある」といった地域特性が読めることに気づきました。
そこからいろいろな観点で分析を進めるなかで、日中の人口移動量が少ない、つまり居住者が地域に根付いている「地元密着志向」の区が特定できました。その区のなかでも人の動きが顕著なエリアに対して人口動態を見ることで、地域活性化や地元密着型ビジネスを検討するヒントが得られると考えたのです。
―― 若井さんは審査員としてどのような点を高く評価したのでしょうか。
若井:
評価ポイントとしては大きく2つあります。まず1つめが、分析対象のデータについて特徴を把握して、わかりやすく論理構成を立てながら分析を進める、そのプロセスの丁寧さです。移動滞在データについては、分析における「移動」と「滞在」の意味づけを明確にしないまま、先走って利用してしまうことがよく見受けられます。その点、飛田さんは分析を進めるなかで、目的に合ったデータを選び取っており、丁寧な印象を持ちました。
2つめのポイントは、特定の地域に注目して人口動態データを活用するという着眼点です。今回提出されたアイデアの多くが、課題やビジネスモデルが先にあり、それに対して人口動態データがどう利活用できるかを検討するアプローチでした。飛田さんは、特定地域の人口動態データからどのような情報が読み取れるかを分析し、読み取れた情報をビジネスへ活用する方法を検討していて、ユニークだと感じました。
飛田:
ありがとうございます。私は業務でデータ分析に携わっているので、データ分析のプロセスを正面から評価していただいたことがうれしいです。思い込みや主観に流されず、丁寧かつ着実にデータを取り扱い分析することは、普段の業務でも心掛けていることです。それが、今回の分析コンテストでも活かされているのだと思います。
若井:
さらに分析の観点から興味深いと思ったのが、移動量に関する情報がない滞在人口データから、毎時人口の分散を用いて全体の人口の変動幅で移動量を表現している点です。必要に応じて新しい指標を独自に作成する試みも、今回の評価につながっています。
人口動態データの適正な活用に向けて
―― 最後に、コンテスト参加を振り返っての感想や今後の展望についてお願いします。
飛田:
入賞したほかのアイデアをみると、苦境に立つ飲食店を支援するものや、近年注目を浴びるダイナミックプライシングへの応用など、テーマ設定に重点を置いたものが多い印象です。それに比べると、私の取り組みは「このデータからどんなことができるだろうか」という、データを起点としたもので、テーマに対する熱量について少し引け目を感じていました。そうしたなか、特別審査員である若井さんには、最終審査会の場で私の取り組みについて言及いただき、さらに今回あらためてデータの取り扱いや分析プロセスに対する評価をいただけたことをうれしく思います。
人口動態データを本格的に扱ったのは今回が初めてでしたが、業務ではIoTやウェアラブルデバイスの活用に関わっているので、人や群集の流れを示す人口動態データを活用する機会がこれから出てきそうだと感じています。また、今回にかぎらず分析コンテストは新しい技法や考え方を試すよい機会となっています。この経験を、今後の実業務へ反映していきたいです。
若井:
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあり、人口動態データに対する注目がますます高まっていると感じます。注目を浴びている今だからこそ、人口動態データの安全かつ適正な活用をサポートすることが重要だと考えます。今回の分析コンテストへの参画のように、人口動態データやその活用に対する理解を促進する取り組みをこれからも進めていきたいと思います。