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インタビュー

2023年3月24日

農業を理論的に進める?
研究者が導くアグリテックの新ビジネス

欧州の加工用トマトをはじめとして様々な農産物の生産で採用が進む、農業向けICTプラットフォーム「CropScope」。この開発・提供を手掛けるAgriTechグループで働く、研究畑出身の菊池さんと山田さんは揃って「研究と事業開発は似ている」と話します。この二人が、日々の業務や研究だけでは得られないモチベーション、目指す将来について語りました。

欧州で採用が進む農業ICT

―AgriTechグループは、どのような業務を担っていますか。

菊池 農業向けICTプラットフォームの「CropScope」(クロップスコープ)の開発から提供までを手掛けています。IoTセンサーなどで農地のデータを集めて、農家や農協などの適切な意思決定に役立ててもらうためのソリューションであり、収集したデータの分析を通じて、「どの畑で問題が起こっているか」「どのような対処を行うべきか」などをわかりやすく提示することで、価値を提供しています。特にスペインやポルトガルなど欧州において加工用トマトの生産で「CropScope」の採用が進んでいて、これはカゴメさんとの共同のプロジェクトによるものです。加工用トマト以外の作物については、日本国内のほか、インド、タイ、ブラジルに向けても提供しています。

―AgriTechグループで仕事をするようになるまでの経歴を教えてください。

菊池 大学では農学領域の研究をしていました。植物と微生物の共生に関わる因子を遺伝子ビッグデータの分析を通じて特定することが研究テーマで、博士号も取得しました。その後、NECに入社して中央研究所(当時)に配属され、異種混合学習という技術をビジネスに応用するための研究をしていたところ、カゴメさんとNECが農業ICT事業を立ち上げるための取り組みを始めるということを聞きました。私自身とても興味がありましたし、農業にもデータ分析にも精通しているということでそのプロジェクトに参画させてもらえることになりました。

山田 菊池さんとは、AgriTechグループのR&D班で「CropScope」の開発をしています。私は現在入社2年目で、入社当初からこのチームに配属されました。学生時代は農学を専攻しリンゴを対象にした遺伝子解析などをしていました。修士課程在学中に、NECで農業ICT分野のインターンシップがあることを知り、手を挙げて参加させてもらいました。私はコロナ渦の入社でしたが、インターシップの1か月間を今のチームで過ごし、皆さんにサポートしていただいていたこともあり、正式に配属された後もスムーズに参画することができました。

思っていたより「理論的」だった新事業開発の取り組み

―お二人とも研究畑の出身です。新事業開発に抱いていたイメージと、実際に配属されてからの印象に違いはありましたか。

菊池 新事業開発や営業というのは未知の世界でした。力で押すとか、コネを作って売り込むとか、そういった泥臭いやり方がメインなのかなというイメージだったのです。でもいざ入ってみると、想像以上に論理的な仕事でした。チームの皆さんがさまざまな手法やフレームワークを使ってロジカルに情報を整理し、仮説検証しながらビジネスを進めている姿を見て、理論がある世界なのだと実感しました。また、研究も新規事業も仮説を立てて、検証するプロセスが同じです。研究だと論文ですが、新事業開発ではレポートやお客さまの声などをリサーチして、まず仮説を立てます。そして、仮説が正しいかどうかを検証していきます。研究なら理論が、新事業開発では事業が、それぞれうまくいくかどうか評価手段を考えて評価していくわけです。

山田 私は大学院から現部署に配属されましたが菊池さんと同意見で、研究と事業開発は似ているなと感じました。大学時代に行っていた植物が相手の研究だと、1つの実験に1年かかることも多く、なかなか検証が進みません。でも新事業開発では繰り返し実証ができるため、面白さが高まっていきました。

―AgriTechグループでの働き方はどのように感じていますか。

山田 新事業開発は派手に不確実なことに取り組むというイメージを持っていましたが、実際には皆さん緻密に考えています。そして、考えるだけにとどまらず動いている人ばかりです。私もデータの扱いや事業開発の考え方などでわからないことが多いですが、皆さんの動く姿勢を見習って、まずは動くことを意識しています。

菊池 山田さんの働き方は、入社からずっとコロナ禍ということもありリモートで見てきました。感じているのは、7か8を伝えたら10を超えて13ぐらいはやってくれること。もっともそのうち2ぐらいは間違っているのですが(笑)。でも、これはすごく良いことですね。新事業開発で必要な姿勢は「まずやってみる」ことで、間違っていたら修正すれば良いだけですから。

ユーザーと触れ合って得られるワクワク感

―業務を通じて感じる仕事の面白さ、醍醐味などを聞かせてください。

山田 これまで感じてきたことでは、新しい技術にいち早く触れられることと、それを曲がりなりにも形に仕上げてユーザーに使ってもらえることです。「これいいね」とユーザーに言ってもらえると、使える技術を創れたのだとワクワクしてきます。R&Dは一般的に直接お客様の声を拾いにくい立場に思いますが、AgriTechグループではどの立場であっても実際に現地に行く機会が与えられ、農家の方に困りごとや必要なことをヒアリングしています。こうした機会をもつことで、こういう人に向けて創りたいと思う刺激を受けモチベーションにもなっています。

菊池 研究者は、自分がつくった技術で世の中に価値を届けたいと根源では考えていますが、なかなか現場には出られません。新事業開発のR&Dならば、直接お客さまと話ができますし、実際にプロトタイプを使ってもらってお客様が盛り上がってくれるとうれしいですね。自分の技術で価値をどう提供できるかを直接考えられるのは、他の部署とは異なる醍醐味です。

―チャレンジだと感じる点はありますか。

山田 まだ全部がチャレンジなのですが、例えばセンサーから得たデータをただ見せるだけではなく、農家の人に納得してもらう見せ方や精度を提供していくことに難しさを感じています。植物のことをわかり一番近くで見ている農家の方に、私たちは数値などの情報から価値を提供しなければならないので、さまざまな工夫をしているところです。

菊池 利益率の高い事業にするためには、いかにSI(システムインテグレーション)にならず、1つのプロダクトで大きな価値を提供していくかが課題です。SIのように個別カスタムになるとどうしてもコストが高くなってしまう、機能どう絞って、どういうUI/UXで提供するべきかの差配が難しいところです。もう1つは事業拡大の観点から、グローバルでビジネスすることの大変さです。文化や慣習が違う現地法人などに一緒に動いてもらいながら、情報を集めて日本からコントロールしなくてはいけません。

―今後の目標を教えてください。

山田 まずは農業データ分析や事業開発のスキルを身に着け「CropScope」の進化に貢献できるアグリデータサイエンティストになることです。また、「CropScope」が世界で使われる商品に育ったのち、私自身がそれを使って農業ビジネスをするという、秘めた野望も持っています。

菊池 直近ではこれまで培ってきた技術をプロダクトに実装して売上増に貢献したいです。その先の野望としては、研究者が開発する技術を適切に世の中に送り出すための仕組みを創りたいと思っています。単純なマーケットインと研究開発は相性が良くないと感じていて、あえてプロダクトアウト的な手法も取り入れながら技術開発の方向性を社会の要望に合わせて修正していけるような方法論を確立したいと思います。

大学院博士課程修了後、NECに研究職として新卒入社。現テーマ従事のため新規事業開発部門に異動。座右の銘は「二兎を追うたくましさ」。

事業開発統括部 AgriTechグループ
菊池 裕介さん

大学院修士課程修了後、NECに新卒入社。以来、AgriTechグループでのR&Dを担当。趣味はソフトテニス。周囲の体力が落ちるシニア大会で日本一になることが目標。

事業開発統括部 AgriTechグループ
山田 真子さん

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