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秘書の大改革 ─ 受け身から脱却する「プロ」育成 NEC独自の専門組織で経営貢献
2024年4月24日

「秘書の日」と言われてピンとくる人は少ないかもしれませんが、米国では4月第4週の水曜日が「Administrative Professionals Day」とされており、日本では「秘書の日」と呼ばれています。秘書といえば「偉い人」の一歩後ろでスケジュール管理、といったイメージに留まりがちかもしれませんが、実は経営戦略にも資する重要な専門職です。NECは、専門職としての秘書の役割を強化する改革を進め、成果も現れ始めています。全てはNECの社会価値創造=Purpose(存在意義)実現に向けた戦略のため──。NECの「秘書改革」とは。


幹部のパフォーマンスを最大限引き出す役割 健康管理や案件の前さばきも
「なんとしても秘書の地位を向上したかった」と話すのは、この改革を主導した秘書室の鈴木尊丸です。鈴木は秘書業務の重要性と可能性を痛感する一方で、その専門性に応じた正しい評価と育成が不足していると問題意識を持っていました。そもそも、秘書の仕事は、どのように経営に貢献しているのでしょうか。

本松 佳苗

根本 則子

鈴木 尊丸
10年以上にわたり多くの役員をサポートしてきた本松佳苗は、「単に会議や出張のスケジュールを調整するだけの受け身の仕事をしていては秘書の役割は果たせない。本質的な仕事は幹部のパフォーマンスを最大限引き出す環境をつくること」と力を込めます。
例えば、「前さばき」。全ての依頼を受けていたら、幹部は忙殺されてしまいます。案件のプライオリティを考え「そもそも会議が必要なのか」「資料をもらって必要ならば連絡するだけで良いのでは」「リアルでなくオンラインで」などと提案し、時間の有効活用を考えます。重要な会議と判断すれば、開始前に資料を読み込むための時間や、アイデアを整理する時間をつくります。こうした判断を行うためには、幹部の業務内容に対する深い洞察が必要です。そのため「関係部門とのタイムリーな情報交換ができるよう、日頃から良好な関係作りを心掛けています」と本松は言います。


健康管理も仕事のうちです。業務のバランスをとって予定を入れない日をつくり、休暇の提案を行うこともあります。このようにしてパフォーマンスを引き出すために「最適化されたスケジュール」は、さながら作品とよべるほど経験とスキルが凝縮されています。
しかし、こうした仕事の進め方やノウハウが個人の中に留まったままでは、組織としての発展につながりません。個人の知見を企業の資産にするという意味でも改革が必要でした。
ジョブ型本格導入も追い風 業務やスキルを明文化し育成加速
秘書改革のきっかけの一つは、「ワークライフバランスがとりづらい」という秘書の働き方を見ていた鈴木が業務改革を考え始めたことです。他方、秘書経験の長い根本則子も「秘書のキャリアパスを構築したい」「秘書を魅力あるポジションにしたい」という思いから、改革の道を模索していました。この二人が議論を重ねる中でアイデアが具体化し、今回の改革に発展しました。
もともとNECでは、多くの企業と同じように部門ごとに秘書がいたため、秘書のリソース管理や教育を行うことができない、上司も専門的な視点で秘書の評価ができない、などの課題がありました。また、秘書同士の横のつながりが少なく孤立する場合もあり、経験も属人化しがちでした。
当初鈴木は、複数の企業にヒアリングを行いましたが、NECと同様な悩みを抱えている企業は多いものの、参考となるような取り組みは見つかりませんでした。そこで、NEC独自に検討を進めて組織改編を実行、各部門の秘書を秘書室配下に集約しました。2023年4月には総勢62名の新体制を発足、個人がバラバラに働くのではなくチームでサポートするための取り組みを開始しました。


NECがジョブ型移行するタイミングと重なったことも追い風になりました。秘書のジョブを明文化するだけでなく、キャリアアップのために秘書業務に特化した35項目にわたるコンピテンシー(能力・適性)をNEC独自に設定。問題解決のための「コンセプチュアルスキル」、人間関係をつくるための「ヒューマンスキル」、そして「テクニカルスキル」の項目で、5段階で自己評価し、成長への努力をしやすい環境を整えました。業務に必要な情報を集めたポータルサイトの立ち上げなど、業務効率化のための施策を自主的に提案・実現する、といった好循環も生まれてきました。
多様なキャリアパスも視野に 日本の秘書の在り方に一石
秘書の仕事は、様々な幹部をサポートすることで会社全体を俯瞰し、高い視座を獲得できるのも魅力です。NECはキャリアアップの一環として担当幹部の定期的なローテーションも計画しています。鈴木は「改革の推進により、秘書の業務を追求するだけでなく、経営企画やコミュニケーション、人事総務の道も含めた多様な可能性が広がると考えています」と話します。それが秘書の人材力底上げとなり、地位向上にもつながると言います。
当初は他社にロールモデルを探していたNEC、最近では「NECの改革を参考にしたい」と逆に他社からヒアリングを受けるまでになっています。
NECの改革が一つの職種全体の改革につながるかもしれない。そして何より、NEC自体のPurpose実現にもつながります。本松が担当するNEC執行役 Corporate SEVP 兼 Co-COO(共同最高執行責任者)の山品正勝は、本松ら秘書の働きぶりについて「秘書は僕にとって大事なパートナー。彼らがいなかったら自分のパフォーマンスは半分以下もしれない」と話します。山品は「経営への貢献もとても大きいので、今以上に評価されるべきだと思います。この仕事のやりがいや重要性の理解がさらに進み、秘書になりたいという人が増えるといいですね」と今回の改革に大きな期待を寄せています。