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世界が挑戦するアルミの「アップグレードリサイクル」 富山大とNECの共同研究が始動

富山県の名産というと「ホタルイカ」「銅器」「ガラス」などが思い浮かびますが、実は「アルミ」もその一つです。富山では、黒部の水力発電による豊富な電力を背景としてアルミの精錬が始まり、現代でも全国のアルミ押出し製品の30%が富山から出荷されています。その富山県高岡市にある富山大学の研究室で今、世界で誰も実用化に成功していない最新のアルミリサイクルの研究が進められています。「アップグレードリサイクル」と呼ばれるこの取り組みに大きな貢献をしようとしているのがNECのデータサイエンスやAIの力です。

脱炭素の推進へ 日本屈指のアルミリサイクル研究設備で挑戦

2024年2月、NECが富山大学に提供したシステムが稼働し、最新のアルミリサイクル研究への一歩を踏み出しました。舞台は富山大高岡キャンパス内に2023年10月に開設した軽金属材料共同研究棟。産学官民が連携するこの研究棟では溶解精錬システムや押出機、電子顕微鏡など、大学としては国内最高レベルの機器が導入されており、NECが提供したマテリアズインフォマティクスのシステムによって、各機器から得られるデータを一括して集め分析することができます。目指すのは「アップグレードリサイクル」です。

アルミと言えば空き缶のリサイクルを思いつきます。アルミ缶からアルミ缶といった同じカテゴリー内の再生を「水平リサイクル」と呼び、この技術は成熟しています。日本ではアルミ缶のリサイクル率は約90数%(注)にのぼります。一方で、別の製品カテゴリーから不純物の含有量が厳しく管理される自動車のボディなどに使われる「アルミ展伸材」などにリサイクルすることはアップグレードリサイクルと呼ばれ、非常に困難とされています。

アップグレードリサイクルが重要な理由の一つに経済安全保障の観点があります。軽量化が求められるEV(電気自動車)の普及などで、軽いアルミ展伸材の需要が高まっています。しかし、アルミの原材料のボーキサイト産出は海外が主で、アルミ新地金は輸入に依存しているのが現状です。もう一つの理由は環境。ボーキサイトからアルミを作る場合は膨大な電力を消費し、アルミ1トンの生成に約10トンものCO2が排出される計算です。一方、リサイクルなら新たにボーキサイトからつくる場合のわずか3%の電力消費ですみます。経済安全保障と省エネルギー・脱炭素の面からアップグレードリサイクルの早期実現が求められています。

「変わったキャラのアルミ」 NECのデータサイエンスの力に着目

アップグレードリサイクルは、実は鉄など他の金属では既に行われています。アルミでは特に難易度が高い理由について、先進アルミニウム国際研究センター長も務める富山大学の柴柳敏哉教授は「金属はそれぞれ全部キャラクターが違うんです。アルミは変わった金属で、一旦不純物を取り込むとなかなか手放してくれない」と説明します。つまり、他の金属で行われているようなプロセスでは不純物は取り出せません。

富山大学 柴柳敏哉教授

この課題に、富山大学とNECはどのようなアプローチで挑戦しているのでしょうか。様々な不純物を含むアルミスクラップをアップグレードするために着目したのが「データサイエンス」と呼ばれる手法です。

集団としての性質をたくさん持っている材料の中から、重要な性質を統計的に見つけるのが材料学におけるデータサイエンスです。アルミスクラップはどう作られたか分からず、鉄やシリコンなど不純物の含有率もバラバラです。これをリサイクルしたらどうなる? そこを早い段階から予測するのがポイントで、予測を基にリサイクルプロセスを最適化します。工程の設計は人間では限界があり、「目の前のスクラップの限られた情報から最適なリサイクルの工程を設計するのにデータサイエンスが必要になるんです」と柴柳教授は力を込めます。

日本のためだけじゃない、世界に先駆け世界のために

もともとNECは2021年に富山大学にデータサイエンスの講座を開設していました。この縁で、柴柳教授たちがNECのデータサイエンスの知見とAI、特に機械学習の技術に着目。今回の共同研究のきっかけとなりました。柴柳教授は「アップグレードリサイクルを実現できれば、日本のためにもなるし、技術がなくて困っている国の人たちに技術を提供することもできる。研究のための研究ではなく、社会が求めているものを生み出せる」と期待を込めます。

「ICTの印象が強いNECには、アルミリサイクルのイメージは薄いかも知れません」。NEC側から共同研究を支えるクロスインダストリービジネスユニットGXアジェンダリーダーの池田敏之は言います。しかし、AIなどNECの技術を使ってそのリサイクルの工程や不純物を可視化していくことで、「世界の環境問題を解決に貢献することができる」と意義を語ります。このアップグレードリサイクルは世界中の研究者が挑戦しつつも、まだ実現していません。「だからこそ私たちが挑む意義がある」と池田は語ります。

クロスインダストリービジネスユニット
GXアジェンダリーダー 池田敏之

その志はNECがPurpose(存在意義)に掲げる「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会」の実現へとつながっています。

注:2022年度のアルミ缶のリサイクル率は93.9%、缶から缶へのリサイクルは70.9%(アルミ缶リサイクル協会 調べ)