Japan
サイト内の現在位置
高岡 敦史さん
キーパーソンインタビュー岡山大学大学院教育学研究科准教授2021年3月、都道府県民パラスポーツ大会の岡山大会第1回が開催された。会場となったのは、JR岡山駅に直結する岡山コンベンションセンター。完全バリアフリーで、誰もが駅から雨に濡れずにアクセスできる絶好のロケーションにある。
岡山県民パラスポーツ大会開催にあたり、尽力したキーパーソンの1人が岡山大学准教授の高岡 敦史さんだ。スポーツと地方創生を研究テーマとし、県内の経済界、行政、教育機関、報道機関、スポーツ界関係者らが集う『おかやまスポーツプロモーション研究会』の副代表を務める。
「都道府県民パラスポーツ大会の開催には、その開催地域のキーパーソンの力が非常に大きい」と、大会企画発案者の上原大祐は言う。
「岡山大学の高岡先生が開催すると決めてからのスピードある実行手腕は素晴らしいものがありました。また、大学生の参加者が多いことは岡山大会の特徴の一つです」
上原は「する・見る・支える」をキーワードに、都道府県民パラスポーツ大会を企画運営する。
「学生たちは単にボッチャの試合に参加するだけでなく、事前に審判講習会を受講して、ボッチャの勉強と実務の両方を兼ねてくれました。大学生がパラスポーツに興味を持ち、勉強してくれる。将来が楽しみですよ」
7月には第2回大会が開催されたが、第1回大会の経験をもとに、学生たちは審判や運営をサポートした。ボッチャの試合では、障がい者とともに、学生、会社員、地元のプロスポーツクラブ関係者らが真剣勝負を繰り広げ、白熱したゲームでは、応援の人だかりができるほどだったという。まさに「する・見る・支える」大会が、人々の関わり方にも発展をもたらしたのだった。
シリーズ2回目は、岡山大会キーパーソンの高岡 敦史さん。パラスポーツが持つ街づくりの可能性について、熱く語ってもらった。
スポーツで街が元気になる

――スポーツまちづくり、スポーツを軸にした地方創生について研究されていますが、街とスポーツに着目されたきっかけは、どのようなことですか。
高岡 敦史(以下、高岡)●岡山には、サッカーの<ファジアーノ岡山>、バレーボールの<岡山シーガルズ>、卓球の<岡山リベッツ>、バスケットボールの<トライフープ岡山>などクラブチームがあり、地元の人から応援されています。1つの大企業ではなく、いくつもの地元企業とサポーターが一緒になってチームを支える形ですね。クラブが元気であること、活躍することは、地域を活性化することとセットになっています。地元の街を元気にするためにクラブはどうあるべきか。2014年に『おかやまスポーツプロモーション研究会(以下、研究会)』立ち上げに携わり、「スポーツまちづくり」をテーマにして、研究と活動を進めています。
――パラスポーツとの関わるようになったきっかけについて、教えてください。
高岡●きっかけは、地元ロータリークラブの60周年記念事業でした。ちょうど東京オリンピック・パラリンピック開催が決定した直後で、何かスポーツを軸にした事業にしたいという話になりました。そこで、私は、「パラリンピック」を支援しましょうと提案したんです。とはいえ、障がい者が障がいを乗り越えて頑張っているという図式には、絶対にしたくなかった。パラアスリートを他の競技と同様、トップアスリートとして応援したい。この事業からパラスポーツとの関わりが本格的に始まりました。
――研究会が発足した頃と時期的には重なりますね。
高岡●東京オリンピック・パラリンピック開催が決定したことで、パラスポーツの状況は劇的に変化しましたよね。岡山では、車いす陸上競技の松永仁志選手が活躍しています。<桃太郎夢クラブ>という陸上競技クラブで車いす陸上のコーチを兼任していた、松永選手と知り合い、2016年には県内に車いす陸上専門のクラブ<WORLD-AC>を設立しました。今では全国からトップアスリートが集まって練習しています。このように、彼との出会いもロータリークラブ事業のベースになりました。
パラスポーツはスポーツインフラ
――コロナ禍の今年3月に、岡山県民パラスポーツ大会の第1回が開催されました。
高岡●上原さんからお話を聞いて、ぜひ岡山でやりたいと動き出しました。研究会で声をかければすぐに実現できると確信していたんです。会場には180人を超える参加者が集まりました。
――大会を通じて目指されているゴールはどのようなものですか。
高岡●スポーツまちづくりの考え方には、3つの条件があります。
1つ目は、スポーツを軸に街を元気にしようという人同士が繋がること。
2つ目は、スポーツによる地域創生が行政の補助金などに依存せず、持続可能であること。
3つ目は、スポーツそのものが地域活性化に活用できる状態であること。これを「スポーツインフラ」と呼んでいます。単にスポーツがあれば街が活性化するわけではありません。活性化しようという目的を持ってスポーツマネジメントが展開される必要があるんです。さらにスポーツ施設も、誰もが使いやすく、足を運びやすい状況をつくり、帰り道に仲間と乾杯できる店が周辺に点在するなどの経済波及効果も必要です。そういう街全体のデザインも含めて考えなくてはいけないと感じています。
――その中で、パラスポーツはどんな存在なのでしょうか。
高岡●パラスポーツは、そのものがスポーツインフラになれる存在だと思っています。障がいのあるなし、年齢、性別、競技歴などに左右されず、同じルールのもとで一緒に競い合える。このことが、人間観や障がいに対する考え方を根底から変える可能性があります。特にボッチャはその日初めてプレーするという人も気軽に楽しめますが、同時に競技として奥が深く、やればやるだけ面白くなっていきますよね。
パラスポーツを体験することで生き方や考え方が変わる。そうすると街もどんどん変化して、バリアフリーやユニバーサルデザインが自然と浸透していきます。岡山県民パラスポーツ大会は、そこを目指してさまざまな人の協力で行われているんです。
持続可能な大会へ

――岡山大会では、地元の企業が参加されていることも特徴ですが、そのメリットはどのようなことですか。
高岡●そもそも、岡山県民パラスポーツ大会を、1回限りのイベントにするつもりはなく、毎年開催したいと思って始めました。そのためにも地元企業の支援はとても大切ですし、それがなければ大会は持続可能にはなりません。
同時に、今後パラスポーツを軸にして、各社の経営課題解決の道を探ることにも繋げていきたいんです。毎年開催する中でパラスポーツをこんな風に活用してはどうか、というアイデアを提案していく。そうなれば、企業にとっても大きな価値が生まれます。
――すでに、今年だけで2回、大会を実施されていますが、来年以降長期的なスパンでイメージされているビジョンを教えてください。
高岡●さらに企業参加のメリットを追求していきたいですね。例えば、大学生がボランティアで多数参加してくれていますが、県内のパラスポーツに理解ある企業がどんな活動をしているかなどの説明会を同時開催するとか。また、参加してくれる企業同士を繋ぐプラットフォームを構築して、パラスポーツが企業課題をどう解決したのかというような情報を共有する。そこから人との繋がりや広がりが生まれると思います。
――改めて、パラスポーツが地域に与える価値・意義について、どのように感じていらっしゃいますか。
高岡●よく「スポーツの力」という言葉を耳にします。夢や希望を与えるといった抽象的な意味で使われることが多い。スポーツで社会を変えることを考えるためには、スポーツがどう機能すれば社会がどう変化するのか、具体的で明確なビジョンとロードマップが必要です。
パラスポーツには、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括性)が含まれています。ともにパラスポーツを体験することで、健常者と障がい者は、一緒に生きていく仲間、友人になる。そのためのツールとして、都道府県民パラスポーツ大会があります。価値観や考え方が変わることで街が変わる。そういう力をパラスポーツは持っているのだと思います。
――NECのパラスポーツへの取り組みについて、どのような印象をお持ちでしょうか。
高岡●行政の補助金依存と、大企業の経済支援はある意味同じです。岡山大会では、資金面に関しては将来的に自立できる状態を作っていきたいと考えています。とはいえ、NECのアイデアや取り組みがあってこそ、この大会が誕生しました。パラスポーツに関する新しいサービスの開発なども進められているとお聞きしています。そういうイノベーションをどんどん世の中に発信してほしいと思っています。
第1回大会が成功裡に終了した後、参加していた企業から「次回大会のためにボッチャの練習会を始めた」という声が高岡さんのもとに届けられたという。
「私が仕掛けたわけではありません。自然に発生したんです。これこそが、ボッチャの持つ“包容力”だと実感しています」
パラスポーツ大会で実施されるボッチャの魅力が、人を引きつける原動力になっているのだという。
「“ゆるスポーツ”といって、誰もが参加しやすいスポーツレクリエーションを開発する動きがありますが、それは逆に言うと、開発しないとそういうものがないということ。でも、ボッチャはすでにパラリンピック競技の一つとして存在しています。トップスポーツであるにもかかわらず、誰もが対戦相手や競技歴に関係なく楽しめる。それがボッチャの包容力です」
岡山県内にあるスポーツ関連用品のメーカーでは、岡山名産のデニムを材料にしたボッチャのボールを作りたいという動きまであるとか。
「上原さんが実施を目指す全国大会が実現した時には、岡山県はきっと強豪県に成長しているはず」
高岡さんとともに岡山県民パラスポーツ大会を体験した人々は、すでに新しい可能性、未来に向かって走り始めている。
シリーズ3回目は、長野県にある公益財団法人「身体教育医学研究所」総務主任であり、「みんなの健康 X スポーツ実行委員会」スタッフとして地域のスポーツ推進に携わる岡田佳澄さんです。

高岡 敦史(たかおか・あつし)
1978年広島県生まれ、島根県育ち。筑波大学から同大大学院人間総合科学研究科博士課程を経て、2009年に岡山大学、2014年より同大大学院教育学研究科准教授。研究テーマは主にスポーツまちづくり、スポーツ経営。合同会社Sports Drive社長。2014年10月に設立された「おかやまスポーツプロモーション研究会」立ち上げメンバーの1人であり、現在は副代表を務める。高校・大学時代にはボート部に所属していたスポーツマン。