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カーボンニュートラルのためのマルチエージェントシミュレータ

NECの最先端技術

2024年4月23日

現在、多くの国、政府、企業は気候変動への対策を迫られていますが、有効な手段はまだ見つかっていません。サプライチェーン全体の炭素排出量(スコープ3)を正確に計算する方法さえも確立されていないのが現状です。NEC北米研究所が開発中のマルチエージェントシミュレータは、この世界的な課題解決における重要な一歩になろうとしています。この技術の詳細について、研究者にインタビューしました。

測定が難しい「スコープ3炭素排出量」

NEC北米研究所
President
Chris White

― 「カーボンニュートラルのためのマルチエージェントシミュレータ」とは、どのような技術ですか?

Haifeng: 開発の主な目的はカーボンニュートラルを実現し、地球環境を持続可能にするサプライチェーンを構築することです。シミュレーションを通じて、サプライチェーン全体の炭素排出「スコープ3*」を算定します。

現在、市場では業界平均値を使用して排出量を計算していますが、正確ではなく、詳細も不明です。本技術では、製品、企業、サプライヤごとに、またはサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を、より詳細かつ正確に把握することを目指しています。どの業種やビジネスでも使える柔軟でユーザフレンドリな機能も忘れていません。


Chris:  私たちは世界規模の問題に取り組んでおり、これにはグローバルサプライチェーン全体での大規模な協調的最適化が必要不可欠です。しかし、多くの情報や、高い精度を得るための詳細なモデルが必要となるような定量的なデジタルツインを目指しているわけではありません。そのモデルの開発に膨大な時間がかかるからです。私たちは代表的な情報だけを使用し、「もしも」の質問に対して、信頼できる根拠とともに定量的な結果に準ずる回答が得られるような仕組みを目指しました。また、必要に応じてより多くのデータを追加したり、モデルを精緻化させたりできるように取り組んできました。


Haifeng:  このシミュレータを有効利用できるユーザは3つのカテゴリに分かれます。

第1のカテゴリは企業です。いまやビジネスにとって炭素排出量削減は大きな命題ですが、本シミュレータを活用すればCDP(カーボン・ディスクロージャ・プロジェクト)に準じて、調達部門は価格と製品の性能に加え、温室効果ガス排出量をサプライヤ選択の際の基準とすることができます。キャップ・アンド・トレード制度(国内排出量取引制度)に参加している製造業者は、排出量が制限値を超えると罰金を課されますが、このシミュレータを使用することで対策の選択肢が広がります。制限値以下であれば生産量を増やして収益を上げたり、生産量を抑えてカーボンクレジットをためたり、または他の製造業者に転売したりできるようになります。

第2のカテゴリは政府で、エビデンスに基づく政策や法律を作成できるようになります。

第3のカテゴリはコンサルティング会社です。シミュレータの活用によって、顧客に効果的なアドバイスを提供できるようになります。

差異化の特徴

NEC北米研究所
Researcher
Haoyu Wang

― 「マルチエージェントシミュレータ」はどのように構成されていますか?

Haoyu:  このシミュレータは、エージェント、リソース、トポロジという3つの核となる要素で構成されています。

エージェントとは意思決定をするモノや人を指します。サプライチェーンにおいては、工場、倉庫、サプライヤ、消費者などの組織や個人が、目標に向かって独自に決定を行います。リソースはエージェントが交換するもの、例えば、お金や製品です。トポロジは、エージェント同士がリソースを交換する際の接続性や配置を表します。

リソースとトポロジの複雑性を変更することで、シミュレータが提供する回答の詳細レベルを調整できます。単純なモデルから始めて複雑な質問を投げかけるようにしていくと、より洗練されたモデルに変化していきます。世の中のあらゆるシステムはいくら複雑であっても、これら3つの要素に分解できるため、忠実度と複雑度の調整が容易になります。このツールと方法論は、他の分野に応用することもできると期待しているところです。

また、本シミュレータの最大の利点は、さまざまな「もしも」のシナリオに回答できることです。例えば、「もし、ある製品のサプライヤをA社からB社に変更するとどうなる?」というシミュレーションができます。これにより、ユーザは質問するだけで、現実世界で変更を実施する前に、制御された安全な仮想環境で試すことができるのです。従来のExcelシートでは専門家でさえ計算が難しかった複数の組織の行動を、我々のシミュレータを使えばシミュレーションすることができます。ユーザからのより多くの質問を通じて、我々はシミュレータをより洗練させ、精度を高めていくことが可能です。

顧客の課題がNECのパワー

NEC北米研究所
Department Head
Haifeng Chen

― なぜNECがこの技術を開発できたのですか?

Chris:  NECはグローバル企業であり、多様な顧客がそれぞれ異なる課題を抱えています。世界中に設立されたNEC研究所では、グローバル規模のサプライチェーンの課題を日々解決しています。これらの顧客から着想を得た「もしも」の質問に答えるには、今回の技術のようなエージェントベースのシミュレータが必要だったのです。

私たちは特定の顧客の課題に限られた解決方法を提供するのではなく、異なる顧客に何度でも応用できる一般的な解決策を提示することを目標としています。これが他社と当社の違いかもしれません。


Haoyu: サプライチェーンを模擬するシミュレータは他にもありますが、この技術は、炭素排出量をシームレスにフレームワークに組み込んだ点がポイントです。

定量的根拠に基づく回答を提供しますが、ただひたすらに定量的に正しい回答ではなく、ユーザが求めるレベルの精度で回答します。外出する際にコートが必要かどうかだけを知りたい場合、過度に詳細な天気予報は必要ありません。時間とエネルギーの無駄になるデジタルツインは必要ないのです。

しかし、より複雑なエージェント、トポロジ、リソースを作成することで、シミュレータを進化させ、時間の経過とともに詳細かつ洗練されたものに変化させることも可能です。


Haifeng:  シミュレーションのためのツールは、はコアモジュールとたくさんのテンプレートを備えているので、顧客の要求やビジネスシナリオに柔軟に対応できます。会話型の言語モデルや視覚的なインタフェースによる、ユーザフレンドリな操作性も実現しています。現在、人工知能(AI)をシミュレータに組み込み、さらなる性能向上を目指しているところです。

共に進化するツールと方法論

― 将来応用できる分野と開発の方向性を教えてください

Haifeng:  将来応用できる分野は物流や交通で、ボトルネックの特定やそれにかかるコストの算定が可能です。プロセスと組織を最適化し、効率を高め、リスクを軽減することができます。また、現在のスコープ3のシミュレーションをスコープ1と2に拡張し、炭素排出量計算の完全なポートフォリオを作成することも考えています。


Chris:  ツールと方法論は同時に向上させることができます。シミュレータにAIを統合して性能と機能性を向上させていますが、NECはAIに強く、AI自体も日々進化しています。AIがデータを生成し、生成された信頼性の高いデータに基づいてシミュレータは答えを出すことができます。

AIを通じてシミュレータはデータを蓄積し改善し続けていきます。このように、ツールと方法論は大きなパワーを持っているのです。現在、小規模な商業利用から商品化することを目指して準備を進めています。

スコープ3炭素排出量管理のために開発されたマルチエージェントシミュレータは、忠実度と複雑度がバランスよく調整されています。スコープ3排出量の計算は難しく、従来の方法では膨大な年数がかかることが知られています。この技術はカーボンニュートラルが必須な経済活動や政策決定プロセスに解決策を与えようとしています。

シミュレータには、エージェント、リソース、トポロジの3つのコアコンポーネントがあり、任意の産業分野における数多くの複雑系へ適用できます。シンプルな質問はもちろん、より詳細で複雑な「もしも」の質問にも答え、ユーザが質問するほどにシミュレータは進化していくのです。

また、豊富なテンプレート、AIによる強化、ユーザフレンドリなインタフェースは柔軟で賢く、シームレスなユーザ体験を提供します。

  • (*)
    スコープ1は燃料の燃焼によって直接的に排出される温室効果ガス。スコープ2は、電気または冷却などの購入に関連した間接的に排出される温室効果ガス。スコープ3は、サプライチェーン全体における1および2以外から排出される温室効果ガス。
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